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獣人の国  作者: チャロ吉
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4 獣人との交流

 中央棟に今住んで居るのは、レオンの他に十人居た。

 中央棟の周りには領民が住居と決めて修理した建物が五棟寂しく取り残されている。この建物は、魔女を取り囲み逃げ出さないようにして居たものなのだろうか?

 兵士の宿舎のような造りと役所のような大きな建物があり、中央棟の広場を囲んでいた。

――ここに兵士が常駐していたとなれば、一千人は収容できそうなくらいだな。

 魔女の力が有れば、それでも逃げ出せると思うのだが、何故、魔女は大人しく従っていたのだろう?

 他の領民は、総てルーベンス領へ帰って貰った。彼等には総て話して納得して貰ったのだ。

「あっし等にも呪いが、掛かると言うんですかい?」

「ああ、ここに住めば子どもに影響があるかも知れない。もっと研究して大丈夫になったら、またここへ来て貰うよ」

「そうですか……待ってますんで。領主様、無理はしないでくんなせぇ」

「ああ、分かっている」

 それでも残りたいという者が十人いた。彼等はどうしてもレオンと一緒にここに居たいといって帰らないことを選択した。

 騎士のマルボー、鑑定士のデパーズ老、冒険者のパーティー六人に兵士が二人だ。

 彼等には残して来た家族が居ない。そしてこの大陸に魅せられてもいた。

「オレはここで骨を埋める覚悟だ」

「何格好付けているんだか! 獣人に気になる子が居たからだろ?」

「そ、そんなことを領主様にバラすなよ……お前だって、似たような物だろうが!」

 彼等は獣人との交流を何度かしている。森の入り口にある小さな獣人の村だ。

 ここに居る男達は獣人の村の、良く管理された社会に触れ、人間と殆ど変わらないことに驚き、馴染んでいっているようだ。

 冒険者や、兵士達は、獣人の身体能力に感心し、学力が高いことに驚いている。

「人間である必要はあるか? 獣人の方が暮らしやすそうだ」

 レオンに付いてきた領民は、急速に獣人に馴染んではいるが、獣人等と同じ物を食べれば死んでしまう。ここでは人間は最弱の生きものだ。人が生きるのに困難な場所なのだ。レオンは時空間収納に、何年分もの食料を入れて、覚悟を決めてここに居る。

 ――万が一、魔力器が消えればもうおしまいだな。時空間収納も使えなくなる。頼みの綱はゴードンだ。

 ゴードンには定期的に中央棟へ様子を見に来て貰って居る。レオンが転移出来なくなるかもしれないためだ。勿論サラには内緒だった。サラに知られれば、自分が来ると言うはずだからだ。

 獣人達にはレオンが持ってきた食糧が気に入られた。美味しいのだという。

 毒を余り含まないせいで、食物に苦みが無いのだ。以前のヤーガイよりも、ここの食物には毒が多く含まれている。

 毒耐性があるゴードンやレオンでさえ、偶に腹を壊すほどだ。

 何時魔力器が消えて仕舞うかと不安になりながらも、獣人達の研究や観察を続けていた。

 村人と交流して二ヶ月過ぎた頃、以前密航者だった子どもの竜人と年取った竜人が訪ねてきた。

 三百五十歳と言う竜人は身長が二百三十㎝はありそうだ。顔がビッシリ鱗に被われ、頭には二本の角が生えている。顔の造りが人間だから普通に話す事が出来るようだ。

 目は金色だ。瞳孔は縦に割れて居るが、瞼は普通だ。以前のマリーナのような瞬膜では無かった。

「何故君達はここに来るノダ?」

「呪いの研究をするためだ。僕も昔、魔女に呪いを掛けられた一族だった。僕は自分達の呪いを解除出来たんだ。ここの呪いも解きたいと考えている」

「呪い? この見た目のことを言ってイルノカ。女神の恩恵のことを、呪いだというノカ?」

「女神の恩恵?」

「君達は何か勘違いしているヨウダ。私達がこの森で暮らせるのは恩恵があるオカゲダ」

 確かに、竜人の言う通りかも知れない。だが、ここの村人達は、食物に不満を持っている。そこでレオンは、

「僕達が滞在しているセントラルベイは今住み易くなった。耕作地もあるから、ここから移住しないか?」

「セントラルベイ? ドラゴンシティーのことか?」

「多分そうだ。名前は自分達で勝手に付けたから。ドラゴンシティーと言うのが本当の名前なのか」

「ああ、ここは金竜が守る広大な土地だ。昔あそこには女神様がいて、それを金竜が守っていたのだ。女神様は高価な石を沢山作っていた。それなのに人間達は女神を敬わず、迫害したそうだ。女神様はお隠れになってシマッタ」

 竜人は、その事を誰から聞いたのだ? 魔女がその様なことを言ったとはゴードンから聞いていない。彼の想像の産物なのかも知れない。レオンは持っていた魔宝石を彼に見せた。

「これは……女神の……哲学者の石? これを何処でテにイレタノダ?」

「これは魔法で作れる物だ。貴方が女神様と言っているのは、僕の言う魔女だ。彼女等はこの魔宝石のせいで人間に囲われていたのだと思う。そして迫害を受けたのだと思う」

「マホウ……失われたチカラ……か」

 竜人はボナンと言う名だった。ボナンは以前から獣人達が集まって住むことを考えていたようだ。彼は少し考えさせてくれと言って自分の部落へと帰っていった。

 周りでレオンの話を聞いていたウサギの獣人が、

「オレ達をセントラルなんとかと言うところへツレテイッテクレ」

 と言った。耕作地があると聞き、人間と同じような食べ物を作って食べたいというのだ。

 レオンは竜人がここを束ねていると思っていたが、違うようだった。彼等は自由に何処へでも行けるのだと言った。

 ここの村人は四百人ほど居た。皆で移動するには大変な作業だ。取り敢えず百人の村人が先行して、住む場所の確保をすることになった。

 ウサギや、ネズミ、鳥頭に、山羊や羊など様々な見た目の獣人達。

 彼等は獣人の中では最弱だという。

「彼等には皆技能が備わっておりますのぉ」

 デパーズ老は、彼等を鑑定し、一人ずつ何の技能かをレオンに教えてくれている。

「殆どが土や水に関わる技能だ。彼等は農業に適性があるのか」

 獣人達は彼等なりに耕作地を耕していたが、美味しい作物が出来たためしがないという。冒険者達が少し耕していた耕作地を広げて見たいと意気込んでいる。

「まずは住む場所を決めてくれ。そうすれば安心して作業に取りかかれるだろう?」

 中央棟の周りは、殆どが耕作地になっている。実は、名前が中央棟となっているがここは、火山寄りの森の中だった場所だ。街の中央はもっと海寄りになる。レオンがここを拠点に定めたため、領民達が中央棟の周りに住まいを構え、ここを中央と簡易的に言っていただけなのだ。

「レオン様……で良いですか? オイ達がそう呼んでもシカラナイカ?」

「ああ、そう呼んでくれ」

「では、レオン様、オイ達はここを自分の住みかにシテェ。ここはいい場所だ。ココにスム」

 彼等は、以前、領民が仮の住処にしていた大きな役所のような建物に皆で一緒に住みたいと言っている。彼等がそうしたいなら任せるしかない。レオンとしては、街の中にはもっと住み易そうな屋敷があるのにとは思ったが、農業するには離れすぎて不便だと言うことなのだろう。

 蔓延った木々を伐採しなければならない。彼等は直ぐに耕作地を増やし始めた。

 見た目が可愛らしい彼等だが、力がある。普通の人間の五割増しだろう。

 木の伐採に使うための斧などの工具は彼等が持参してきた。

「君達はこれをどうやって手に入れた? 自作したのか?」

 彼等はお互いの目を見て観念したように言った。

「人間の村から、失敬してきた。だけど対価を置いてきている。黙ってモッテキタのは悪かったが、盗んだつもりはネェ」

「そうか、これからは必要な物は、僕に言ってくれ。用意するから。決して人間の村から持ってこないように」

「ワカッタ。泥棒はダメだな」

 レオンは街には、鍛冶屋や、生活雑貨を扱うための場所が必要だと感じたが、どうやってそれらを作ればいいのか皆目分からなかった。

「次にゴードンが来た時に話をしてみるか」

「レオン様、彼等の村には鍛冶屋はありませんでしたが、生活雑貨を取り扱っている処は有りました。それに他の部族には鍛冶屋も有るかも知れません」

 兵士の一人がそう言ったので、レオンは村人達にその事を言い、任せることにした。

 数ヶ月して中央棟の周りは、一つの村のような有様になった。彼等が作る作物が収穫できるようになると、彼等獣人達は他の部族へ持っていくようになった。

 そうしてまた暫くしたら、他部族からも移住したいと申し入れがあった。

「何時でも来てくれ。ただ、住居は自分達で修理や建て替えをして欲しい」

 何百年も経つ建物は劣化が激しい。中には丈夫な建物もあったが、殆どは壊して立て直した方が安全なはずだ。

 セントラルベイは、段々獣人達が集まってくるようになった。彼等は部族ごとに別れ、街の外れのあちこちに纏って住み着くようになった。

「不思議だな。どうしても離れて住みたいようだ。中央の立派な建物には誰も近づかないし」

「森で住んでいたなら、お互いの位置が離れて居た方が安心出来るのでしょうな。パーソナルスペースが広いのでしょう」

「人間とは、やはり少し違う。人は寄り集まる傾向があるのだが……」

 一番海側に住み付くようになったのは、犬や、猫の見た目の獣人達だった。岸壁に行って魚などを捕って暮らすつもりのようだ。

「ここには人魚がいる。彼女と話し合った方がいい」

 レオンが老婆心ながらそう忠告すると、

「ああ、知っている。マーラとは知り合いだ。マーラに言えば海の物を取るときに助けてクレルノサ」

 船などなくても魚をここまで追い込んできてくれるのだという。マーラとは良好な関係のようだ。

 レオン達がここへ来たせいで、美味しい魚を捕る事が出来なくなって困っていたようだ。


 やっと竜人のボナンが来た。

「獣人達はキテイルヨウダナ」

「ああ、ボナンが、皆に話したのか?」

「そうだ、だがココに来たのは獣人の三割ほどだ。殆どの獣人は森に住むとイッテイル」

「ボナン達は、どうする? やはり森にいたいか?」

「私はここに来ようとは思わないが、三十人ここに来る事になった。ココに女神様の神殿を作るタメニ」

「神殿か。僕の国は無神論者ばかりだったから、神殿には重きを置かれていなかったな。他の国は違ったらしいが。何処に作るつもりだ?」

「以前の王宮があった場所がイイダロウ。あそこはこの街の中心にあった筈だ」

 獣人達は態と中心街を避けて住んでいたのか。竜人達のために開けていたようだ。

「竜人は王様という立場になるのだろうか?」

「いや、そう言うワケデはない。竜人達は獣人に知識を与え、教え導く役割があると思ってイル。永の年月を生きる私達はその役目に最適ナノダ」

「そうか……」


 呪いの研究は一時棚上げになりそうだ。

 レオンが知っている呪いは、呪いたい人の髪の毛や皮膚、血液などを手にいれ、それに自分の魔力と一緒に生命力を流し込みながら、呪詛を吐く。呪文など名無かった。

 魔女はどのような呪文を唱えたのか……。

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