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獣人の国  作者: チャロ吉
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3 サラの憂鬱

 サラは、今王宮の東宮を訪れている。レオンに、南の大陸へ行くことを拒否されてしまって、不安になっていた。

――レオンは、私を嫌いになった? それとも何か理由があるの?

「どうしたの? サラ。塞ぎ込んでしまって」

「レオンが来てはいけないと言ったの。南の大陸に」

「危険だからでしょう? あそこには魔獣が沢山居ると聞いたわ」

「そんな物、簡単に蹴散らせてしまえるわ。私の実力はレオンだって知っているのに。私、嫌われて仕舞ったのかしら」

「……」

 レオンの第四子であるメグライアとダンカンの第一子トールスが遊び疲れて眠って居る様子を、悲しそうな顔をして見て居る。  

 そんなサラを見て、マリーナは何と声を掛ければいいか分からなくなってしまった。

 以前マリーナは、レオンに憧れを抱いていた。ダンカンに結婚を申し込まれ、レオンにそっくりなダンカンとの結婚を承諾したのは、レオンへの適わぬ思いがそうさせたのかも知れない。

 今ではダンカンをレオンと似ているとは全く考えてはいない。ダンカンは大切なマリーナの伴侶なのだ。

 ――サラをあれほど大事にしていたレオンが、サラを嫌いになる? 考えられないわ。

「サラ、レオンはなにをしたくて南の大陸へ行ったの?」

「多分、呪いの研究だと思う。レオンの昔からの研究のテーマだもの」

「だったら、呪いが危険な物だと分かったのでしょうね。だから、サラを遠ざけたのでは無いかしら。子どもにも来るなと言ってのでしょう?」

「ッ! だったら、レオンだって危険だわ。どうしよう、レオンに万が一の事があったら……」

「来るなと言われたのなら、素直に従うべきよ。心配なのは分かるけれど、待つことも妻の役目の筈よ」

「……私、そういうのは苦手だわ。落ち着きが無いと良くマンナにも言われた。今更性格を変えられないし。私はレオンの側に居て助けたい」

 マリーナとは全く性格が反対だ。サラは行動的で、後先を考えない無謀なところがある。

 ――こんな生き生きとして、可愛らしいサラをレオンは好きなのね。

「サラ、だったら期限を決めて待つことにしましょう。後一ヶ月だけ待って。それでも連絡が無かったら、行けば良いわ。貴方は転移が使えるのですもの。何時でもいけるのでしょう」

「……マリーナの言っている事は凄く分かるの。ああっ、何故私はこうなのかしら。貴方のように、デンと構えることが出来たらどんなにいいか……」

 ――私にとって人ごとだから、落ち着いて言えるのよ。サラ。

 ダンカンが同じ立場にあったら、マリーナは今のようにしていられるだろうか? 

 ダンカンに押し切られて結婚したが、今では愛情を感じている。素直で優しく、少し頑固なダンカンを、弟のような気持ちで見ていたが、もし彼に危険が迫ったら、マリーナは命に代えても助けに行くだろう。と今更ながら思った。

 サラの気持ちは痛いほど分かる。だからこそ、ここに大人しく居て欲しい。レオンやダンカン、ゴードンが危惧しているのは、サラが無謀な行いをすることだ。サラをここに止めておくことがマリーナの仕事だ。

 サラには言っていないが、レオンは偶にこちらへ来ている。そしてゴードンやダンカンと何やら深刻な顔で話しているのだ。

 詳しい事は知らされてはいないが、余程南の大陸には危険な事があるのだ。マリーナは、サラをどうしてもここに留まって欲しいと思っている。

 サラの武勇伝には、隠れて逃げていった話が度々出てくるのだから。子ども達に不安な思いはさせないで欲しい。

「サラ、貴方には四人も大事な子どもが居るのよ。子ども達のために、どうか早まった真似だけはしないで」

「……そうね。私には大事な子どもが居るのよね……マリーナの言う通り一ヶ月待つことにする。でも一ヶ月したら、私は行くわ!」


「ダンカン、サラは一ヶ月してもレオンが何も言ってこなければ、南の大陸へ行くと言ったわ」

「そうか、レオンに話しておくよ。レオンも心配しすぎだと思うんだ。一年くらいあそこに居ても呪いの影響は無いと思うんだが……」

「呪いの影響ですって! 呪いがレオン達にまた掛かると言うの?」

「ああ、レオンが今まで研究した結果では、魔力自体が汚染されているのでは無いかと言うことだった。だが百年単位の話だ。影響は薄いと僕は考えているんだ」

「でも、子どもに影響があるんでしょう? レオンには帰ってきて貰えないの? 王の権限で」

「それは無理なんだ。ゴードンが、レオンには援助しないと決めたお陰で、レオン個人の研究となっている。だから王の権限は使えない」

「何故? 国から援助しなかったの」

「ゴードンが前回航海から帰ってきたとき、貴族達に吊し上げられたんだ。国庫を使い成果がなかったと。それを覆すためにゴードンは私財を総て国庫へ出した。僕のためにそうしたんだ。だから、それを踏まえた結果、レオンには表向きは援助はしないことにした」

 マリーナは、お金はレオンにとっては問題ないだろうと思っている。レオンやサラは、魔宝石を作り出せる。それがあればお金の心配はしなくてもいいだろうが、呪いの研究のために自身を犠牲にしても構わないとは。

「折角呪いが解けたのに、また呪いに罹ってしまうかも知れないのよ。どうにかならないの?」

「レオンにとっては、生涯を掛けた研究だと思う。じっくり研究させてやりたい。万が一の事があっても、死ぬわけでは無い。魔法が使えなくなるとか、獣になってしまうとかそんな影響があるだけだ」

「……」

――また、あの見た目に戻るなどと。私には絶対まね出来ない!


 サラは一ヶ月待ち続けた。

「明日、私は南の大陸へ行く。レオンがどうしているか見てくる」

 レオンは、何故何も言わないのか。それは言えないことがありすぎるのか。それともサラが邪魔になったのか、本当の事を知りたい。

 そう思っているところへレオンが帰ってきた。

「レオン! お帰りなさい」

 サラはレオンに抱き付いて、レオンの匂いを思いっきり吸い込んだ。だが、レオンはサラをソッと引き離して、

「ああ、だが直ぐに南へ戻る。サラ、彼方へ来てはいけない。魔力が汚染されていることが分かった。君や子どもに影響がある」

「それなら! レオンにも影響があるはずよ! 貴方はまだ研究を続けるというの?」

「ああ、解明したい。呪いの本質を。ダンカン王に今、公爵の代替わりを申請してきた。公爵はバスティアンに譲る」

「そうなの。分かったわ。でも、私も行くわ。止めても無駄よ!」

「サラ! 危険なんだ。もし魔力器が変化したら、転移は使えなくなるかも知れない。そうなれば帰れなくなる」

「だから、一緒に居たいの。何があっても私は貴方について行く!」

「サラ、子ども達はどうする? お願いだ。僕の我が儘を聞いてくれないか? 子ども達の世話を押し付ける形になって済まないと思っているが、これはやり遂げたいんだ」

「そう……分かったわ」

 サラは、渋々了承した。このまま何ヶ月もレオンは帰られないと言った。

 研究した結果の予測も話して、未だ未だやらなければならないことが沢山あるのだという。

「呪いの呪文を魔女に聞いて見たいし、獣人との接触もしなくてはならない。彼等の生態を調べて何か掴めるかも知れないんだ。セントラルベイにいる領民をこちらへ帰そうと思ってもいるんだ。そうなれば、あそこで生活するには困難になる。世話をしてくれる者がいなくなる。僕一人なら何とか出来るが、君が来ればそうはいかないだろう? 誰か側近を連れてくることになる。そうなれば側近にも危険が及ぶかも知れない」

 そう言われれば、サラには何も言えなくなるのだ。一人でも大丈夫だと反論しそうになったが、ここまで拒否されるのは、レオンにとって自分は足手纏いだと言うことなのだろう。

 レオンは暫くはヤーガイと南を行ったり来たりする。領民を国へ帰すためだ。彼等にはこれまでの対価として相応な物を与えることにした。折角土地が手に入ると意気込んでいたが適わなかった彼等に報いるためだ。

 総ての手配を終え、レオンは南へ転移してそれきりになった。

「領民には口止めはしたそうだけど、多分噂は広がるでしょうね」

 ダンカンとゴードンに、サラはこれからの相談をしている。

「まあ、南へ行きたいという気概がある奴がいたら、行けば良いさ。海図も無ければ無理だろうけどね」

「いけたとしても、あそこには欲しいものなど無いのだ。森と魔獣だけは豊富だが、そこに住めば誰でも呪いの影響は出るらしい」

 南の大陸は、獣人達が住むにはいい場所なのだ。人には適さない土地だけれど。

 レオンにサラは、闇の収斂はどうするのかと聞いた時、彼は、自分が出来る。と言った。

「レベルが低くても、頻繁にやれば、大丈夫さ。偶に魔宝石を持ってくるから。心配しないで」

 レオンはそう言ったが、あれから彼は一度も帰ってきては居なかった。

「魔女の呪い……人が獣の形になる。レオン達に掛かったのと似ているのね」

 だけど、魔力器がなくなるところが違う。一体どんな呪いなのか。

 サラはもう忘れてしまった魔女の呪文を一生懸命思い出そうとしていた。

 ――随分昔のことだし、あの時は苦しくて、ただただ解放されたいと言うことだけを覚えていた。魔女は何を私に言わせていた?


『王子の子々孫々、総てをこの呪いで苦しめてやる。魔に侵された獣は森から溢れ、国は荒れ、作物は穢れ、子どもは奇形で生れる。卑怯で嘘つきな裏切り者め! 思い知るが良い*******』

 その後に何か呪文を唱えた記憶があるが、それが思い出せない。例え、思い出したとしても意味をなさない言葉の羅列だったから、今のサラには、正確には言えないだろう。

 ――子々孫々、総てを呪いで苦しめる……か。確かに苦しんだものねレオン達は。

 だが、サラは考えた。王族には呪いが在ったが、森は本来の姿に戻っただけでは無かったか? 魔力が濃い場所に危険な魔獣が育つのは当たり前のことではないのか?

 魔女の呪いとは言っても、誰も死んでいない。寧ろ異形で生れた物は力が強く生れていたでは無いか。

「本当に不思議な呪い。私だったら、裏切り者を呪いころして終わりにする。子どもまでは呪わないだろう」

 そう言えば魔女は北の大陸を「トーゲン」と呼んで居た。

 転生したとき、この世界の人達は誰もそう呼んで居なかったから忘れて居たけど、魔女達の間だけの呼び名だったのだろうか? 

 では、南の大陸にも別の呼び名があるとすれば、何か呪文に関係があるのだろうか?

 いくら考えてもサラには結論が出なかった。

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