35 海の卵
「金竜と入れ替わって戦ったんだ。ダケドおいらは一つ目の化け物に八つに切り刻まれて森に散ってしまった。身体が小さくなって、力も八百分の一になって仕舞った。魔力も少ししか吸えなくなった。地中深くに潜って生き延びてきたんだ。でも地中は閑だ。魔力も同じ味だと飽きてくるんだ。偶に地上の魔力を吸いたくなる」
「金竜はその後どうした?」
「今でも、普通に生きているだろう。入れ替わりは解けた」
「金竜には影響は無かったのだな」
「入れ替わりは、能力を入れ替える。形は真似るだけだ。今のおいらに残ったのはこの能力だけだ」
「お前を倒した魔法は多分、闇だと思うが、 闇の何という魔法だ?」
「……これ以上小さくなりたくない! 絶対教えないぞ! お願いだ見逃してくれ、何も悪いことはしていないダロウ」
「そんなことはしないさ。お前のお陰でリックを救うことが出来る。ありがとう、ライア」
「……よかったぁ」
話を聞いていたメグは、泣き出したライアを抱きしめて慰めている。ここはライアに任せて、レオンは再びダンジョンへ転移した。
今度は普通に転移出来た。多分、今のダンジョンはリックがコアとなったため転移が出来なかったのだろう。そして魔物も居なくなった。
リックのことを解放する方法が分かったのだ。闇の魔法で切るとは、どんな魔法だ? それが問題だった。
「サラに分かるだろうか?」
「闇の魔法で切れば良いのね! 闇の……何の魔法かしら」
「ライアは、以前骨の魔物に足を切られたと言っていたから、何となく闇かとは思うのだが、教えて貰えなかった」
「一つ目の化け物とは、巫女のことだな」
ゴードンが、巫女に聞きに行こうとしたが、
「待て、ゴードン。多分今の巫女は知らないと思う。太古の巫女にはあった知識が今は散逸している。転移すら出来なくなっているのだ巫女達は」
「そう言えばそうだったな。大魔法を使うのを見たことが無い。太古の巫女は全属性だったのだろうか?」
「多分そうだろう。だが、それは一部の巫女だけだったのでは無いか? この大陸で消されてしまって、生き残った巫女には力が殆ど無くなってしまった」
「海の卵は巫女と戦いにならなかったはずだ。巫女とは生活圏が違うから」
「海の卵は今まで傷つけられたことが無いはずだ。だからあの大きさのまま何万年も生きてきたのでは無いか?」
レオン達は話し合って海の魔物に脅しを掛けて見ることにした。
「こいつを切り刻めばリックは解放されるんだな」
「本当に、闇の魔法だったのかしら。切り刻むのは風のように感じる。複合魔法……じゃないかしら! そうだわ、闇と風の複合かも知れない! やったことは無いけど、試してみましょうか」
「分からんぞ異空間魔法かもしれん。異空間で切り刻んで塵のように細かくしてやるか」
「土の槍に闇を纏わせればどうだ? 簡単に切れそうじゃあないか?」
「僕だったらこの剣で切り刻むんだけどな」
ダルまでどう切り刻むかを魔剣を撫でながら話始めた。「兎に角、総て試してみるしか無いな」
側で、おどおどしながら皆の話を聞いていた海の卵が騒ぎ出した。
「やめろ! 切り刻むのはやめてくれ。何でもするから」
レオン達は互いに目を合わせて、笑いを堪えた。
「ではリックを解放しろ! そうすればお前は今まで通りダンジョンで静かに暮らせるぞ」
「……儂は地上に行きタイ……ここは飽きた」
「地上には行けないぞ。そもそもお前の身体は人魚だ。歩けもしない」
「そうなんだよ、何でコンナ姿に……この人間は人魚なのか?」
「リックの変身した姿だとは思うが。お前がリックを解放してくれたのなら、お前にゴーレムを作ってやろう。そうすれば、お前の分身を地上に行かせることが出来る。入れ替わりよりも良いぞ。お前の能力が地上でも使えるかも知れないからな。然もお前本体はここにいて安全に過ごせる。僕が創った空蝉の魔法を行使すれば人型になれるはずだ」
「分かった解放するから、早く作ってくれ」
「……良いのか? お前の身体の一部を貰うことになるが」
「か、身体の一部。何処を?」
「小指の先でどうだ?」
そう言ってレオンは、ゴードンに獣人のゴーレムを作り出してもらった。ネズミの獣人だ。一メートル弱の小さい獣人。
「こんなのは嫌だ。もっと、強くておおきなのが良い!」
「では、腕の一本も貰わないとな」
「……それで我慢する」
そう言って、小指を噛みきりレオンに差し出した。
「先に、リックを解放してくれ。そうすればこのゴーレムに命を吹き込んでやろう」
リックを包んでいた光は消え、彼は解放された。
人魚姿のリックは消え、光の球になった。入れ替わりは解除されたのだ。
レオンはゴーレムに魔宝石をくっつけ、それに小指を埋め込んだ。小指と言っても魔力の塊だ。
はじめての試みながら、何とかなったようだ。
光の球はそのまま船長室に収まったが、話す事は出来なかった。代わりにネズミの獣人が話始めた。
「これで、地上へ行ける!」
小さな獣人姿をじっと見てサラが言った。
「ねえ、貴方名前が欲しくない?」
「ナマエ? 何だ、食い物か?」
「チュウタくん。貴方の名前はチュウタくん、よ」
ネズミ獣人になった海の卵の分身は、やや不満そうな顔をしたが、諦めたようだ。
「チュウタ、ダンジョンはこのままなのか? 魔物がいなくなったが」
「暫くしたら元に戻る。だが、以前よりは魔物が弱くなるかもな。何となく力が減った気がするから」
たかが小指一つでも影響が大きいようだ。
そう言えば、コアの海の卵は少し縮んだように見える。
ゴーレムは魔力さえあれば長く持ちこたえることが出来る。チュウタは飽きるまで地上で暮らせるだろう。
一行は、まだ気を失っているリックを連れて王の棟まで転移をした。
リックは目を覚まして、ぼんやりしていた。
「ここは……王の棟……自分の部屋か……」
何があったかは、覚えている。卵に捕らわれていたが、意識はあったのだ。
捕らわれていた間、リックは素晴らしい全能感を味わっていた。自分は総ての上に立つ神にもなった気分だった。
「あの時間は、何でも出来る。何でも創造できるような気分だった」
ダンジョンの中は、自分の世界だった。ダンジョンの中なら総て見通せた。レオンとダルがダンジョンに入ってきたのも知っていた。
危険が無いように魔力を船の周りに集めて固定し、ダンジョンの総てを解放してここにたどり着けるようにもしたのだ。
絶対に魔物を作ってはいけないとも思っていた。ゴードン達がいる。彼等に危険が及ぼすようなことになってはいけない。そう考えていたのだ。
だが、作り出そうと思えば、どんな物でも作り出せただろう。
船を浜辺に漕ぎ出したのはリックだった。浜辺にダルと父がいるのが分かったのだ。
今はあの全能感は消えて仕舞った。何となく自分が小さく縮んだような錯覚を覚える。
「でも、魔力器が大きくなっているような気がする。不思議だ、成長したと言うことか?」
「儂の力がお前に残ったからな」
突然ベッドの足下から声がした。リックは起き上がってみると、足下にネズミの獣人がいた。
「ああ、君は海の卵の分身か。だが何故ここにいる? 街でもどこへでも行けば良いのに」
「お前に魔力を貰わないとダメらしい。一日一回」
「そうか、ゴーレムだものな、でも、誰の魔力でも良いはずだぞ」
「いや、お前の魔力は一番儂に合っている、だから儂に分けてくれ」
「良いよ。ほらこっちに来いよ」
リックは魔宝石に魔力を少し流してやった。
「では、過去に海の卵が、入れ替わった事がある魔物が、ダンジョンの魔物だったと言うことか」
「いえ、総てではありません。海賊は違うと思います。只、海賊がダンジョンに来てから、海の卵は人間に興味を持ったのは確かです」
レオンにリックがコアだった時の記憶を話して聞かせている。
海には陸には無い沢山の鉱物が眠って居ることも、この世界にはまだ知られていない陸地があったこともだ。
そこは遠く離れた陸地だ。そこへ辿り着くには、人が作る船では時間が掛かるだろう。
「この大陸の反対側だと思います」
「行こうとは思わないが、そこにも人が住んでいるのだろうか?」
「さあ、それは分からないけど。確かに陸地がありました。海竜になった海の卵が遠くから見ていたのです」
「リック、魔力器が大きくなったというのは本当か?」
「デパーズ老にも見て貰いました。確かです。コアになって居た間コアの一部を吸収したのかも知れません」
「身体に影響は無いか?」
「実は……僕にもダンジョンが作れそうな予感があります」
「ッ! まさか、また、自分からコアになりたいのか!」
「いえ、違います。心配はしないで下さい。大きな魔宝石をコアにすれば出来そうな気がするのです」
「それは……凄いな。本当に自分でダンジョンが作れるのなら、面白いことになる」
「父上、魔宝石に魔法陣を書き込めば人工的に作れてしまいそうです」
「だが、魔宝石を多く使うとなれば、また地力が枯渇する。その様なことはやってはいけないことだ」
「魔力は、海から取り込めば良いのです。初めだけ魔宝石を使いますが維持するのは海からの魔力を取り込めます。陸地より、何倍も海は広いのですから。それに海底からは大量に魔力が噴き出す場所もあるのです」
「それなら、ヤーガイにも作れると言うことか?」
「ええ、海辺に作れば。正し、規模は小さくします。吸収出来る魔力の量によってはドロップアイテムは少なくなるでしょうが」
「ドロップアイテムなどは無くても良いんだ。ダンジョンで魔力器が成長出来るなら、魔の森よりも効率が良い」
しかし、魔物もドロップアイテムも、総て魔力で出来ているとは。今まで全く知らなかった」
「コアになって、分かったことですが、この世に存在する物は同じもので出来ていると言うことです。その組み合わせで物質が出来上がり、生きものが分化されている。その総ての源が魔素、魔力の元になるもののようです」
「そうなのか……それは凄い真実なのだろうが、私には理解できない。リックは私と一緒に研究をしたくは無いか?」
「僕は、今考えている途中です。冒険者という仕事に魅力を感じなくなりました。だからといって、次は何をやりたいかが全く分からないんです」
「まずはダンジョンだな」
「作りますか?」
「ああ、作ってみようでは無いか」




