33 次の階層
メグのレベル上げは暫く休むことになった。
ライアやサラの手助けがあっても、いくら魔物に弱体化を掛けても魔物は堅い。自分に強化を掛けてなんとか魔物を仕留めることが出来る程度だった。メグの素の膂力では突き刺すことが難しのだ。
「メグの武器を作らないとね」
サラは、街の鍛冶屋へ行って、メグに合う武器を作って貰うことにした。
「お母様、私は別に、これ以上レベルを上げなくても良いのだけど」
「でも、メグ、もう少しだけ頑張りましょうよ。もう一回だけ魔器硬化して見たくない? 何か新しい発見があるかも知れないでしょう」
「そうですね……」
メグの周りは皆、戦うことに対して前向きだ。メグは、戦いたいとは一度も思ったことが無かった。ただ、皆と一緒に居れるから、付いていくだけなのだ。
この頃は、これで十分だと思うようになっている。サラの押しの強さが重荷だ。
「サラに言えばイイじゃ無いか。もうダンジョンへ行きたくなイッテ。おいらはもう行かなくても良いんだ。どうせ、いくらやっても、おいらはレベルが上がらなイッテ分かったったし」
ライアがダンジョンアタックをしたかったのは、何万年も生きていてもダンジョンと言うのを見たことが無かったからだと言った。そしてそこに行けば自分は成長するのではと考えたのだろう。
「でも、お母様が一生懸命なのに、悪い気がして……」
「まあ、当分はゆっくり出来そうだな。武器は直ぐには出来ないソウダし」
「ええ、暫くぶりに刺繍でもしようかしら」
サラは何とかメグにもう一歩先に行かせてあげたいと思う。
兄達とは違う特性を持って生れた彼女に、自信を付けて貰いたいのだ。メグの属性は素晴らしい物なのに、彼女は一段劣っていると考えている節があった。
「あと一回だけ、魔力器が大きくなれば、自身が付くかも知れない」
このままでも十分素晴らしいのだが、メグは自分の生かし方が見えていないようだ。パーティーを組めば、メグの良さが活かせるが、まだメグは幼すぎて、メンバーとしては加えて貰えないだろう。
鍛冶屋に持ち込んだ素材は、オリハルコンとミスリル、それにアダマンタイトだ。
「これを合金しろってか? 無理だな」
「何故? 解かして纏めてしまえばいいだけでは無いの?」
「そんな無茶な。簡単にいわんでくれ。それぞれが素晴らしい物だが、一緒にしたからって良い物が出来るとは限らん。寧ろ良いところが消えて仕舞うかもしれん」
「……そうなの? じゃあ、非力な女の子に会う武器の素材は?」
「ミスリルでいいんじゃ無いか? 軽いし魔伝率がいい。アダマンタイトに比べれば柔いがな」
「オリハルコンは?」
「王妃様。こいつは武器には向かねぇ。可塑性が大きすぎる。綺麗だから装飾にはイイがな、柔すぎるんだ。コンナ高価な物は、もっと繊細な装身具にしたらいいじゃ無イカ?」
「そうなの……じゃぁ良いわ」
サラはレオンに相談することにした。物知りなレオンならきっと何か良い方法を知っているに違いない。
「メグに合う武器か。軽くて、丈夫で切れ味が良い、それで魔伝率がある武器。難しいな」
「そうなのね、やはり」
「サラ、メグは本当にダンジョンアタックがしたいのか?」
「本人はもう良いと言っているわ。でも、もう一回だけ頑張って欲しくて」
「それは良いが、メグがもう少し成長してからにしないか?
ダルもバルもリックでさえ十三歳になってからだったろう? メグはまだ九歳だぞ。君は何を焦っているんだい?」
「……焦っている? 私が? そうかしら」
「そうだ。テルセーロのことを心配していたゴードンと同じだ」
サラは、先を急ぎすぎているのでは無いか? テルセーロのことをメグに置き換えて考えられないのは、やはり我が子のことが心配なせいなのだ。
「心配するのは当然でしょう!」
「そうだが、サラ。君が言えばメグはその通りにするだろう。君の事が大好きなメグだ。だが重荷になってはいないか?」
「……」
「まあ、少し僕も考えてみるよ。遺跡から出てきた魔剣製作用の魔法陣を解析中だ。もしかすればメグに合う剣が作れるかも知れない」
「え! 魔剣ですって!」
「ああ、剣に魔法陣と魔宝石が組み込んで作るようだ。普通では持ち上げられないほど重いもののようだが、重さを軽減できる魔法陣が描かれている。ライアの重力魔法の研究になると思っていたが。祭事に使われていたと記述があるから、実戦には向かないものなのだろう。素材は金を使うと記していたが、これを利用すればメグに作ってやれそうだな。素材を魔物素材に変えて、魔法陣を工夫すればどうにかなる気がするんだ」
「レオンありがとう。私も、もう少し冷静になって見るわ」
「ああ、剣は直ぐには出来ないから。ゆっくりすると良い」
サラが出て行った後、ゴードンが入ってきた。
テルセーロに合う武器を作る相談に来たようだ。レオンは
――今日は皆武器に悩んでいる奴ばかりだな。
と、面白く思っていた。
「テセロは身体が年の割に大きい。成長が早くて、今まで使っていた剣が小さくなった。今度はもっといい武器を作ってやりたいんだ。何か無いか?」
「ああ、魔剣なんかどうだ?」
「何! 魔剣だと。おとぎ話のあの魔剣か?」
「あの成長する剣の話か? そんな物只のお話……そうか!」
「何だ? 何か思い付いたのか?」
「まあな。少し待ってくれ。良いアイディアがある」
サラもゴードンも手持ち無沙汰だ。子ども達のダンジョンアタックが一時棚上げになったからだ。
「王の棟に誰も来なくなったし、やることが無くなったわ」
「そうだな、武器が出来るまで待つしか無いしな」
「そうだわ、リックも閑なはず! リックに連れて行って貰いたいわ、新しい階層」
「そうか、まだ私も行ったことがないな。自分達だけだと少し不安だ。リックに頼んでみるか」
リックの屋敷は中区にあったが、大きな敷地に立派な建物が建っていた。まるで、中央区に立っている建物のようだ。
ここを建てるとき、大勢のニーノの難民達を雇ったのだ。難民達はその仕事をして暫く食いつなぐことが出来た。
レオンは難民に施しはしないと決め、初めから仕事を与える方針だった。それを聞いたリックは
「でも公共事業は今は、殆ど無いでしょう? 僕の家を建てさせてください。使わない金がたんまりあるんでね」
そう言ったのだ。
難民達はその仕事を通して、このセントラルベイに住民として受入れられ、馴染んでいくことが出来た。難民だった彼等は、今は街に仕事を見付け、街の住民として溶け込んでいるのだ。
彼等の中からは獣人が生れる。獣人の子どもは本来なら獣人達の集落に預けられるが、自分で育てるという人達も出てきているのだ。
それほど、獣人と人間の垣根が無くなってきたと言うことだろう。
リックの屋敷に行くと、彼も閑そうにしていた。
「今、ダルの休養期間にしたんだ。だから良いよ、閑だし」
リックの屋敷には二十人ほどの使用人が忙しそうにしている。リック一人の面倒を見るには多い使用人だが、彼等は年取った人ばかりだ。然も、ニーノからのからの難民ばかりだった。
こんな優しさがリックにはある。人知れず、困った人に手を差し伸べるそんな優しさだ。
彼等の働き口を探すのは大変だ。若ければ、新しい仕事に就くことは出来るだろうが、年齢が嵩むとそれは難しくなる。
今まで、サラやレオンがウーノ獣人国に尽くしてきたつもりだったが、リックもこの国の為に尽くしていたのだ。
レオン達の手からこぼれ落ちた人達に、リックは手を差し伸べてくれていた。
忙しさにかまけてリックのことも見ていなかったのだと、サラは申し訳ない気持ちで一杯になった。
「ここが新しい階層に通じる通路だけど、どうする? 影渡りで一気に抜ける?」
「いや、正攻法で倒していこう。その方が身になるだろう」
「そうね、メグ達の為にまずは自分達が経験した方が良いわ」
リックは只の案内人だ。ゴードンとサラなら問題は無いだろう。
彼等は危なげ無く先に進んでいく。かなりの数の魔物を倒し、いよいよ始めて見る階層、第四の部屋へ入った。
「ここには十体纏めて出る。今まででの魔物全部の親玉ばかりだ」
海賊や魚人までいるが、海賊や魚人三体は一番の雑魚だ。直ぐにサラのヒールと剣で消える。
その後は乱戦状態だった。サラが二人に結界を張り、ゴードンとリックが魔物を倒していくのだ。雷撃を撃ったり、火を放ったりと忙しい。
偶にサラに闇の投網に絡め取られる魔物がいる。それをゴードンが、難なく魔法で倒し、やっと終わりが見えた。
「こんな処に、リックとニルの二人で来たの!」
「これは無理だろう二人だなんて」
「ウン、だから逃げた、転移で」
「何! ここから抜け出せるのか?」
「ああ、一か八かでやったら抜けることが出来たんだ。身体はボロボロだった。ニルは片足を失った。パーフェクトヒールで直ぐに治したが、その後、ニルが、辞めたいと言ったんだ。彼には家庭があるから」
「そうだったの、なんて危険な事をしていたの!」
「だが、これだけ大きな魔物を倒しても、遠距離からの魔法だとレベルが上がらないな」
「そうね、でも、お宝はたんまりね」
そう言いながら、大きなミスリルの歯やアダマンタイトの歯、オリハルコンの嘴、ヤドカリの殻などを収納に収めていくサラ。
「母上達のお陰で、やっと攻略できた。ありがとう。僕はこれでダンジョンから卒業できる。吹っ切れた気がするんだ」
「何、こんなのは肩慣らしだ。卒業なんてことは言うな、お前はまだやれるさ。もう一回やるぞ。今度は剣で倒してみる。レベルがどれくらい上がるかだな」
今度はリックが守りに回り、サラとゴードンが、剣で倒そうと躍起になる。やっと一体倒す事が出来たサラの魔力が硬化し始めた。
サラは慌てて自分に結界を張り、「無限収納」と唱えたのだ。リックは不審に思ったが、考える閑など無かった。今度はゴードンが硬化し始めたのだから。
ゴードンは闇の収斂と唱えたので闇のレベルを上げたようだ。
リックは残った魔物を雷撃で次々に痺れさせて、火魔法と剣でとどめを刺していった。
――魔力が濃くなり出した。だが、硬化はしないな、僕は。
やっと回復したサラが加勢して何とか全部を倒す事が出来たのだ。
「母上、何故、収納をまた?」
「巫女の家は、彼女達が収納に入れて引っ越していたようなの。私の時空間収納の入り口では無理だったから、私にも出来ないかなと思って。無限に広がるイメージでやったら出来たみたい。流石空属性ね。イメージ力が大事だって、言っていたとおりだわ」
無限収納は入り口が見えない。手を翳すだけで大きな物も収納されてしまうようだ。
「時空間収納にまだ先があったのか」
リックは、自分にはその先を見ることは出来ないだろうと暗い顔をする。
「リック、魔力器が成長しないと言ったけど、魔力は濃くなるのでしょう?」
「はい、濃くなれば、街に住むのが辛くなります。だから今は魔力を吸収しないように離れて倒しています」
「そうでしょうけど、濃くなること自体が硬化と考えられられない?」
「え? 意味が分からないのですが……」
「だから、魔法の練度のあげ方よ! 魔力が濃くなったら、大魔法を放つの。今までと何も変わらないでしょう? 寧ろ苦しくなくなって素晴らしいと思わない?」
「そうか! 僕はこれからは成長出来ないとばかり考えていました」
「いいえ、私もリックを目指そうと考えているの」
「何故ですか?」
「この頃私、考えるのよ。貴方は魔法使いの完成形では無いかしらって。リックのようになって初めて自由に魔法が使えるようになるのでは無いのかと思うのよ」
「母上……」
リックはサラの言葉に救われたような気がした。成長が止ったのでは無い。完成したのだと思い直すことが出来たのだ。
濃くなった魔力を只放出するのでは無く、ゴードンが獲得した「異空間魔法」をリックも試してみた。見事獲得できたのだ。
――まだ成長出来るんだ!
今まで沈みがちだった気持ちが、一気に上向きになったリックだ。
次の日もまた次の日もリック達は、第四の部屋に行った。そして、
「通路が……開いている!」
「やはり、次があったんだ」
「どうする? ちょっとだけ行く?」
「行ってみよう!」
通路には魚人が犇めいている。弱い魔物だが数が多すぎる。倒しても倒しても次から次へと湧いてくるのだ。
「埒が開かん! 影渡りで抜けるぞ」
ゴードンがそう言うと、三人とも影渡りで通路を駆け抜けた。
「第五の部屋だ!」
「入りましょう」
部屋に入ると、海原が広がっていた。
「あれは幽霊船?」
「ボロボロだな、海賊の亡霊がいるかもな」
「ここは旨みの無い部屋と言うことか!」
「魚人といい、海賊船といい、第一の部屋の焼き回しみたいね」
空歩で船に向かうと、海中から大きな竜が顔を出し、水の魔法を放ってきた。
「あ、危なかった! 雷撃!」
三人から、雷撃の集中放火を受け、海竜は呆気なく痺れて動けなくなってしまった。
「どうする? ゴードンがやる?」
「リック、お前がやってみろ。魔力がどれほど濃くなるか試せば良い」
「ありがとう、ゴードン叔父さん」
リックは海竜の上に降り立ち、海竜の首を空間魔法で切り取ることにした。記念になる。海竜など滅多にお目に掛かる事が無いのだ。ダルに見せてやりたい。
ゴードンから聞いた異空間魔法は優れものだった。リックの場合魔力が大きいお陰で十メートルほどの部屋が出来上がることが分かったのだ。
異空間に海竜の首が収められた途端、リックに大量の魔力が入ってきた。だが苦しくは無い。
「無限収納!」
「リックも無限収納を獲得したのね」
「さあ、あの幽霊船へ行って見よう」
「何が出てくるか楽しみだわ!」
サラは 海竜が落した竜の革や、目玉、牙、爪、、極大の魔宝石を収納に収めながらホクホク顔でそう言った。




