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獣人の国  作者: チャロ吉
31/37

30 ダンジョンの呪縛?

 リックは、仕方なく母親の言うことを聞いたが、まだ納得はしていない。

 サラが、リックをダンジョンから遠ざけたがっているのが見え見えだからだ。

――何故行ってはいけない? 自分の命だ、好きにさせて欲しい。

 行こうと思えば何時でも転移で行けるのだ。只、あの四番目の部屋には、大きな魔物が十体いる。一人で全部を倒すのは無理なのだ。暫くは攻略は出来そうに無い。 

 ダルを連れて行くと言ったのが、不味かったのかも知れない。

 ダルを誘ったのは、彼のレベル上げを手助けしようとしただけだった。危険な階層へ連れて行く気は更々無かったのだ。

 ライアはメグが行かないと行けないのだそうだ。どう言う関係なのかよく分からないが、ライアなら連れて行っても良いと密かに思っていたのだが。

 ライアの怪力は、ニルと似ている。

 リックは、ニルとは、良いコンビだったのだ。リックが魔法を放ちニルが倒す。理想的な組み合わせだった。

「ニルに匹敵する冒険者はいない。誰も第三の部屋にたどり着けても居ない。母上が言っていたような、代わりの人が見付かるはずが無い」

 レベルは頭打ちになっていた。いくら倒しても魔力器が硬化しなくなった。益々イライラが募る。

 僕は一体何の為にダンジョンへ行っているのか分からなくなってきた。魔物の素材は金にはなるが、これ以上金を持って何になる? 一生使っても、使い切れないほどあるのだから。

 だが街にいれば落ち着かない。ダンジョンにいれば、息が出来る様な気がするのだ。

 人間の冒険者は、魔力が無いとダンジョンへは行くことが出来ない。魔力に当って気絶してしまうからだ。

 獣人達は大丈夫だが、リックの眼鏡に適う獣人はニル以外にいないのだ。

 魔力がある人間はいるが、全く話にならないほどレベルが低い。ダルやライアの方が何倍も増しだ。

 多分ライアもニルと同じような戦い方をするはずだ。リックとの相性は良いはずなのだ。然もライアは生命力の塊の生物だという。身体が欠けても全く問題は無いと言うのだ。

 ――このイライラは、一体何なのだろう。ダンジョンにいればこんな気持ちにはならない。僕は可笑しいのだろうか?

 この頃リックは、ダンジョンの空気が気持ちよく感じられる。濃い魔力に浸っていると安心するようになった。

 反対に街へ戻ると気が滅入るようになっていた。

 恋人といても愉しくなくなった。彼女はヤーガイからの移住者で、魔力が無い人だ。

 初めは話が弾み、それなりに愉しかったのだが、近頃は毎日喧嘩だった。そして、彼女は一緒に住んでいた屋敷を出ていった。

 この間、別の男と一緒にいるのを見かけた。それを見ても、リックは別段ショックは受けなかった。潮時だったのかも知れない。 もう終わったのだ、二人の関係は。


「リックお兄様、塩はこれくらいで良いの?」

「ああ、十分だ。そのまま二,三日寝かせておけば良い」

 巫女の屋敷で、魔獣の肉の加工を今している。

 ダル達が取ってきた魔獣を加工するのが今日の仕事だ。

「明日は、僕も森へ一緒に行くか。魔導師の塔の修理が終わったそうだから、獣人達に魔獣の加工肉を差し入れしてこよう」

 獣人達は今、他の住居も作り始めていた。この遺跡に移住できるようにするためだ。

 この近くに住む大型獣人の部落から要望があって彼等と一緒に住居を造っているようだ。そのうち移住して来るだろう。

 ここは、獣人だけの街になるだろうか? 

 一緒に肉の塩漬けを手伝っていたダルが不満を漏らした。

「メグ、ライアを何とかしろよ」

「ライアが喜んでいるんだから、そのままにしておいてあげて」

「ライアはなにをしている? ダル」

「ライアが、湖に入ったまま出てこないんだ。仕事がしたくなくて怠けているんだ、あいつは!」

「そうか、僕が言ってきてやろう」


 ライアは湖の中に沈んでいた。だが心配はしていない。ライアは普通の生きものとは違うからだ。

「ライア、仕事をさぼってなにをしている?」

 水から顔を出してライアは、

「ここの湖、魔力が一杯で気持ちが良いんだ。リックも入って見ろよ」

「魔力が濃くて気持ちが良い? そう言えば、母上が言っていた。ここから魔力が湧いているって」

 ここの湖の魔力を薄めるために魔道具が必要なのだ。魔力を薄めれば、人間もここに住むことが出来る様になるし、毒の少ない作物も作ることが出来るだろう。獣人達にとっても、住み易くなるはずなのだ。

「リックもおいらと同じ身体になりつつあるもんな、きっと気に入るはずだ」

「……! それは、どう言う意味だ!」

「え、自覚が無いのか? お前はこのままだと魔力の塊になるって言うことさ。おいらと似ているだろう?」

 リックは愕然とした。「父上に聞かなくては」リックはダルにここを任せて、王の棟へ転移した。


「ライアがそう言ったというのか?」

「はい、このままでは、僕は魔力の塊になると。どう言うことだと思いますか、父上」

「デパーズ老に見て貰うか」

 デパーズ老を呼びだしてリックを見て貰った。

「魔力器が大きい他は問題ないように思いますが。只、魔力の密度が濃いようですな」

「ライアが言ったことは間違いでは無いのか? リック、何か他に気になることがあるのか?」

「……魔力が濃い場所だと安心するようになりました。薄い場所にいるとイライラしてしまいます。それに食欲もなくなりました」

「……ダンジョンに長くいた弊害かも知れないな。魔力器の中の魔力が濃いせいかもしれない。以前、魔力を極限まで放出した事があったな。あの時は如何だった?」

「そう言えば、あれから暫くはダンジョンへ行きたいとは思わなかった……」

「リック、魔力器が限界まで成長したのでは無いのか? これ以上大きくならないから密度が濃くなったのでは無いかと思う……普通は魔力が溢れて、新たな魔力器の膜が出来ていくのだが」


 レオンは、ライアが言ったことは間違いだとは思ったが、魔力が濃くなり過ぎる弊害が、この様な形で現れることを初めて知ることが出来た。

 ――これからは注意が必要だ。

 レオンの子ども達は皆魔力が大きい。バスティアンは、ここにいないので心配は無いだろうが、ダルもメグにも気を付けさせなければならない。勿論、自分もサラも。

「では、僕はどうすれば良いのですか?」

「魔力を放出するしかあるまい」

「それだけ? で良いのですか……」

「ああ、魔法使いにとっては贅沢な悩みだな。ライアの言ったようにはならない。安心しなさい。そもそも人間が魔力の塊にはなれないだろう」

「よく考えれば当然でした……良かったぁ」

「ですが、硬化症に似た症状とも言えますな。楽観してはダメですぞ。定期的に魔力を放出するのが良いでしょうな」

「デパーズ老、分かりました気を付けます」

「実は、サラと二人で危惧していたのだ。お前がダンジョンに魅了を掛けられているのでは無いかと。だが、違ったようで安心した」

「ご心配おかけして申し訳ありませんでした」

「いや、原因が分かったのだ。私からサラに言っておこう。で、第四の部屋はどう言う問題がある?」

「ダンジョンの第四の部屋には魔物が十体纏っています。一人では難しい。だけどパーティーを組めば攻略は出来ると思っています」

「そうか、メンバーがいないと厳しいのだな? 私が付いていきたいが暫くは時間が取れないな……」

「父上、第四の部屋には当分行きません。暫くダルを鍛えたいと思っています。良いですか?」


「エエーッ! ダンジョンへ行っても良いって言ったの? リック兄」

「ああ、父上から許可が下りた。ここの仕事を終わらせてからだけどな」

「ウン頑張って探索してくる!」

「僕も一緒に行く。手分けすれば、早く見付かるかも知れないしな」

 リックは魔法を使いまくった。

 魔力が枯渇して苦しんだ経験が、普段の生活では魔力を使わないようにしていたのだ。間違った認識のせいで、魔力が濃くなり過ぎていた。

 これからは普段でもどんどん魔法を使うことにする。無駄に転移をしたり空歩で飛び回ったりしたのだ。上空から見ると街の形がなんとなく分かる。

 数週間後、王宮の跡地だと思われる、土台が見付かった。

「ここの地下に、宝物庫が埋まっているかも知れないな。みんな離れて居ろ」

 リックの土魔法で掘り起こしていく。表面を優しく掘り起こしていくと、硬い石が出てきた。

「この下に入り口がありそうだ!」

 十メートル四方の四角い石の壁だ。掘り下げて行くと扉が現れた。扉には魔法陣が施されていた。リック達には扉に施された魔法陣を解除出来ない。

「父上に来て貰おう」

 連絡を受けたレオンが転移してきた。レオンは古い本を片手にブツブツ言いながら、魔宝石を魔法陣に嵌め、扉を開けた。

「これを解ける為の魔宝石がなくなったせいで、宝物庫がそのまま残されていたのだな」

 そこには魔武器や魔道具、隷属の首輪や古代の金貨。そして書籍が保存されていた。

「凄いや! 一杯本がある」

「状態は良いみたいだ。保存の魔法は切れているが、空気に触れていなかったお陰で保たれていたのだろう。ここにも魔道具が見付かるとは……僕が今作っているが、必要なくなったな」

 レオンはそのまま巫女の屋敷へ行って魔道具を設置して帰っていった。

「僕らも、ここを片付けて引き払おう」


 リック達は仕事をやり終えた。これからはダンジョンへ行ける。ダルとリックは、綿密な計画を練り、準備をしている最中だった。

 その姿を見ながらライアはソワソワしている。

「おいらも行きたい、ダンジョン。メグも一緒に行こう」

「嫌よ……危険だわ。それにまだ私は9歳だから、行けないと思う」

「大丈夫だって! おいらが付いているカラサ」

「ライアが行きたければ、行ってきて良いわよ。私はお留守番しているから」

「チェ!……我慢するよ」

「ライアは行かないのか?」

「行きたい。だけどメグが行けないのなら無理だ」

「何故?」

「おいらはメグと繋がって仕舞った。余りにも長くメグの中にいたせいで、長く離れて居ると力が出なくなってしまう。こんな事は初めてだ」

「そうだったのか。君達の種属は、皆そうなのかと思っていた」

「何時もは違う。似ている生命力を持っている動物にくっ付くけど、直ぐに形を真似て離れるんだ。……今回はちょっと違う」

「そうか、災難だったな。メグが13歳になったら、一緒にダンジョンアタック出来るさ」

「……」



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