24 リックの精神魔法
父から、特大の精神魔法を撃てと言われたが、実はリックには精神魔法がなんなのか分からなかった。リックには指輪が嵌められている。父から、「これは精神魔法を防御する」そう言われているだけだった。
「母上、僕は実は精神魔法の勉強はしていないのです。どうすれば良いのか困っております」
「まあ、そうだったの? そう言えば、子ども達には森の魔女の本を読ませていなかったわね。あれは他人には知らせてはいけいない魔法だし。レオンったら、すっかり教えたものと勘違いしていたのね」
「母上は?」
「幻惑や、認識阻害、魅了、支配、拘束、忌避感・・・など似たような物が様々あるけど、私もレオンほどは知らないの。本はレオンが管理しているし。でも、初歩の催眠と隷属魔法と解除は出来るわ。それをやってみる?」
「……はい、お願いします」
母に教えて貰い、覚えることは出来たが、本当にこれでいいのだろうか?
こんなに簡単に出来てしまう魔法。他人の思考を操作出来てしまう恐ろしい魔法が、こんなに簡単で良いのだろうか。少し魔力を多く乗せ、言葉にするだけで様々に変化する魔法だった。確かに世間に知られてはいけない魔法だ。
「怖いわよね。この魔法。初めは私も嫌で覚えたいとは思えなかったけど、知らなければ対処が出来ないと思い直して勉強したの。これを使うには人間性が問われる。人を従えたいと思う人に使わせてはダメな危険な物よ」
人を従える魔法が、人を従わせたいと思う者には教えられない魔法。禅問答のようなサラの言葉だ。
だけどリックには凄くよく分かった。
これを使う巫女やマーラのことは許容しよう。彼女等には使わなければならない理由があったのだろう。だが、やはり嫌な気持ちになる。自分の意思では無いのに、無理矢理従わせるなど、あってはならないのだ。
リックは、精神魔法は使わない方法を模索した。
「やはり、痺れさせるのが一番か。怪我をさせず戦力を奪うしか無さそうだ」
リックの方法を成功させるには、協力者が大勢必要だ。冒険者の皆に頼み込んだ。
「オオ、分かった。船に乗り込んで縛り上げれば良いんだな。動けない奴を縛るのは簡単さ」
「船の中だから、取りこぼしがある。強く打てば死んでしまう魔法だ。弱い出力で掛けるから、気を付けて」
町の住民は皆家の中に隠れて貰った。サラは「私も一緒に戦う」と言ったが、何とか説得して、棟にいる皆の面倒を見て貰うことにした。
港の町人は皆中央へ避難して閑散としている。
岸壁に小舟を舫い、そこで待機して貰って、船をじっと待つ。一千人はいる冒険者や、三百人の大型獣人達はそれぞれの持ち場についた。後の大型獣人達は万が一のために街の要所を守って貰って居る。
「湾内に五艘、入ってきます!」
遠目の技能持ちが叫ぶ。
「いよいよだな、父上ごめんなさい。セントラルベイは僕のやり方で守って見せます」
先頭にいる船が近づいてきた。
「魔法を放ったら、敵の船に乗り込んでくれ」
「「「「おおー!!!」」」
「雷撃!」
小舟を一生懸命漕いで第一団の小舟が中型の商船に近づき大勢の冒険者達がわらわらと乗り込んでいく。まるで海賊のようだ。身体能力の高い獣人達はあっという間に船を制圧した。制圧したと言う合図が送られてきた。
次の船に更に次と魔法を打ち込み、同じ事が何度か繰り返され、五艘の船は制圧された。ゆっくりと、制圧された船が接岸されていくが、まだまだ敵の船は湾内に入ってきている。どの船も同じような動きをして、捕らえられている獣人の仲間を見ても、一向に止ろうとしないのだ。
その度に雷撃を放ち冒険者達は船に乗り込んでいった。
接岸された船からは、敵の獣人を降ろして港の家に順次運び込まれている。
半日以上そんなことを繰り返してやっと終わりが見えてきた。岸壁は船で一杯になった。海は真っ暗になっている。町の明かりで辛うじて見える程度だ。
「良かった、総てやり遂げることが出来た」
総勢、三千人の獣人が縄に掛けられて連れて行かれた。余りにも人数が多かったため冒険者達は大わらわだ。予め用意した、投獄するために空けて置いた港町の家も、もう直ぐ満杯になってしまいそうだった。
「もう一艘こちらに来ます! 大きい船です!」
ここにはもう人がいなくなっている。岸壁にに無人の船が整然と並んでいるだけだ。
「獣人が乗っている船か?」
遠目が効く獣人が、
「暗くてよく分かりませんが、多分そうです。操縦士が獣人です」
辺りは暗く、リックには船の位置が分からない。リックは大きな船が近づくのをじっと待つほか無かった。
船がやっと見えてきた、あと少しで船が接岸しそうだ。
リックは雷撃を撃とうとしたが、相手に先を越されてしまった。
【獣人どもよ我に従え! 人間を排除しろ】
――不味い、ここにいた獣人は、作業に追われていたため、幸い少ないが、それでも数十人はいる。獣人達の目が変わっていくのがハッキリ分った。
「クソ、先手を取られてしまった【隷属解除!】」
リックは急いで、習ったばかりの隷属解除を特大で放った。
威力が大きすぎたかも知れない。焦っていたせいで、持っている魔力を最大限乗せてしまったのだ。
近くにいた獣人達は青い顔で、バタバタと倒れてしまった。
そして船がおかしな動きをし出した。無理な舵取りで岸壁に激突して、片側に傾きだしたのだ。
甲板にいた獣人達が、次々と海へ身を投げ出されてしまった。
違う。気を失って立っていられなくなって海に落ちているのだ。このままでは僕のせいで、皆死んでしまう。
リックは急いで、闇の投網で、落ちた獣人達を捕らえて、岸壁に引き上げていった。
魔力が底をつきかけても、何度も何度も獣人達を岸壁にすくい上げたリックは、そのうちに気を失ってしまった。
一人の獣人が、船から岸壁に降り立った。
「どう言う状況なのだ? 獣人達が皆気を失ってしまった」
動けるのは自分だけだ。船の中にいた獣人も皆意識がなくなっていた。
周りには、びしょ濡れになった獣人達が大勢横たわっている。中の一人をたたき起こすと、気が付いたようだ。
「何故こんな有様なのだ!」
「あっしにもさっぱりです。ところで、あんたは、誰です?」
「貴様! オレを知らないと言うのか! オレは獣人王だぞ馬鹿もんが」
獣人をぶん殴ると、もう一度獣人は気絶してしまった。
――オレの力が解けたのか? 何故だ。
ゆっくりと岸壁を歩き町の方を見ると。煌々と明かりが灯っている。随分と発展している街だった。今まで見たこともないような明かりだ。松明とも違う不思議な青い明かりだった。
足下を見ると、人間が横たわっている。
――憎い人間!
過去に人間にされた仕打ちが、カブの脳裏にフラッシュバックしてくる。
彼は足下の人間を思いっきり蹴り上げて、岸壁から落としてやった。人間はだらりとしていて死んでいるように見えた。ザボンッと音がして人間が海に落ちた。
暫くすると街の家々から、獣人達が出てきた。
「貴様が、獣人王か!」
「ああそうだ【我に従え!】」
目の前の獣人はだらりと手を下ろして獣人王カブを見ている。指示がくるのを待っているのだ。
――ナンだ、力はちゃんと効いているでは無いか。
だが、次の瞬間、突然目の前に人間が現れた。カブはビックリして、その後、意識がなくなった。
何があったのか全く分からない。カブはいつの間にか王宮の中に連れてこられて、尋問を受けることになった。
今は、部屋に監禁されている。食事を与えられ、ベッドもある立派な部屋にだ。
目の前には竜人が立っている。試しにもう一度力を使ってみたが竜人には効いていないようだった。
「獣人王と名乗っているのはお前ダナ。」
「ああ、ソウダ、お前は竜人か。始めて見るな」
「私達は竜火山にしかいないからナ。何故、獣人達をけしかけて人間を殺しまくってイル?」
「人間が憎いからダ。人間なんてこの世からいなくなった方が獣人達のタメダ」
「だが、お前が殺して廻っている人間は、獣人を産み、イズレ獣人がここに溢れていくのだぞ。その事は知ってイルノカ? お前が人間を殺すほど、その時期が遅くナル。お前は獣人を殺していることになるノダ」
「……?」
「分かラぬか? この地の人間と獣人は同じ種属だと言うことを!」
岸壁でレオンは焦っていた。獣人王を捕らえて神殿へ連れて行ったまでは良かったが、リックが見当たらない。一体何処へ行ったのか。気を失っていた獣人を総て収容し終わったが、リックはその中にもいなかったのだ。暗い海を見渡し、
「まさか、獣人王に殺された? リィーックー!」
「父上……」
岸壁の下からリックが返事をした。
「!リック、生きていたか。良かった」
「何とか、溺れ死ぬ前に気が付きましたが、魔力が尽きて力が入りません」
海にぷかぷか浮かびながら、リックは情けない声を出していた。レオンに海から引き上げられて、そのまま気を失いそうになった。
「一体何があった……いや、後で良い、兎に角今は棟でゆっくりしろ」
リックを抱き上げ、レオンは棟へ転移した。




