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獣人の国  作者: チャロ吉
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23 北の獣人王 カブ

 北の小さな港町ニーノは、今獣人王が支配している。

 過去、ここは人間の国だったが、今は獣人の国に変わった。カブ王の陣頭指揮の下、奴隷達や森に住む獣人達を集めて一気に攻め込んだのだ。

 かつて、カブは、王族の持ち物だった。人間の元に幼い頃買われ、狼に身体が成長すると、王に買われた。

 首輪を付けられ、手足には重い金属の重しを付けられて、犬のように扱われたのだ。時には獣人を食い殺せと言われ従ったこともある。そして人間も。

 命令にはどうしても逆らえなかったのだ。獣だと馬鹿にされ、気味が悪いと言われ続けた。

 だがあるときカブに首輪を付けて命令していた奴が死んだ。同じ王族に殺されて。馬鹿な奴らだ。同族に殺されるなんて。

 その後、彼はある日突然気が付いたのだ。「オレには力が有る」

 カブが力をこめて何かを言うと、人間や獣人が従うことが分かった。馬鹿な人間を従わせ、まんまと逃げおおせることが出来た。

 獣人王は森へ行き仲間を集めて力を蓄えた。獣人王カブに逆らうものは一人もいない。彼の”従わせる力”は強大だ。

 操り人形のような獣人達を見て、カブは

「人間も獣人も皆同じだ。只の木偶人形に成り下がる」

 今は、かつて飼われていた王宮の中に住まいを移して、王の様な生活をしている。これからカブは、人間を総てこの世から駆逐する。その為にはまず、セントラルベイを落す。

 だが、獣人達には船の操作が出来ない。あそこへ行くには船が一番効率が良い。森からも攻めるが、竜火山の森には強力な魔獣がいる。それに対抗できる獣人は限られるのだ。

 小型の獣人達には船で攻め込ませる。

 港には船が沢山停泊している。小型獣人達は人間の奴隷に船の操作法を習いながら、覚えている最中だった。

「船の操縦が出来たら、セントラルベイへ行くぞ。アソコの人間の王を始末スレバ、この世界は獣人族のものになる。あと少しだ」

「カブ王、セントラルベイには少数の人間に、獣人が沢山捕らわれているそうです。私達が行けば、喜んで迎えられることデショウ」

「情けない。少ない数の人間など直ぐに蹴散らせるのに。アソコの獣人はふがいないな。森からの攻撃隊はどうなっている?」

「は。熊の獣人達が総力を挙げて向かってオリマス」


 マーラは久し振りに海へ出てきた。今まで巫女の島で子を育てていたのだ。念願の自分と同じ子どもは三人生れた。だが総て女の子だった。でも良い。これからは寂しくないのだから。

 子は直ぐに話せるようになった。一緒に海へ出て泳いだり、戯れたりする。

「幸せだ、このままこの島にいたい。ここにはアタイの言うことを聞く人間もいる。決して裏切らない人間だ。巫女は許してくれるだろうか」

 夜だけ人間になれるのはマーラだけだが、子はここで、増えていくことが出来るだろう。人間が死なない限り。

 だが、人間は直ぐに年を取る。ここに居る人間も皆年を取っているように見えた。一人だけ若い人間がいて、その人間と番ったのだ。

 人魚は何百年も生きるのだ、直ぐにあの人間も死んでしまうだろう。

 遠くに見える港は人間がいるはずだ。様子を見てくる必要がある。

「母さんはチョット行ってくるから。ココで遊んで居るんだ。分かったか?」

「「「あい」」」

 子等は可愛らしく返事をして海の中に消えていった。

「あの子等にも魅了があるから大丈夫ダロウ」

 それに、ここには魚人が大量にいた。ここの魚人は今、マーラ王国の家来になったのだ。

 マーラの子の面倒を見て居てくれる。安心して偵察に出かけた。魚人の王を従えて。

 この魚人の王は普通の魚人よりも大きい。戦闘力もあるため護衛にするには持って来いだった。

 だがやはり魚人は頭が悪いため、簡単な命令しか理解できないのだ。

「仕方がないな。頭が魚だ」

 マーラが、停泊している船を伺っていると、獣人が海をのぞき込んだ。

「お前! 人間か? 引っ捕らえて王の下へ連れて行く」

「アタイは人間じゃぁ無い。人魚だ、オマエ等と同じ獣人サ」

「嘘だろう。魚の獣人なんて見たことはナイゾ」

「他にもいるよ。お前が無知なだけサ」

「ナンだとう! 頭にきた。お前を殺す!」

 ――何て、馬鹿な獣人だろう。船の上で息巻いているだけでナニモできないくせに。

 よく見ると人間が鎖に繋がれていた。

 ――奴隷にされたのか?

 珍しいこともあるものだ。獣人が人間に指図しているとは。セントラルベイでもあるまいに。それとも、ここもセントラルベイの真似をしてこうなったのだろうか? でも、人間が奴隷に?

 ここに居ても馬鹿な獣人に狙われるだけだ。マーラは水中深く潜っていった。

 そして考えた。ここはどうなっているのか? 人間はいた。だったらそれで良い。子等が、番うことが出来れば良いのだから。だが、何となく胸騒ぎがするのだ。

「♪アタイの子を危険から守れ」

 魚人に指図し、マーラは南を目指して泳ぎだした。

 巫女がいるはずの洞窟へ着き、暫く待ったが巫女は現れなかった。その代わりここには獣人達が出入りするようになっていた。その中の一人に知り合いがいた。

「お! マーラじゃないか。随分見なかったが、元気ダッタか?」

「子が出来て育てて居るんだ。リックは元気でやっている?」

「ああ、ニルとリックは今、一級冒険者になって活躍している。アッテ行くか? 今ここにイルハズダ」

「ウン、会いたい」

「待っていろ、時間が掛かるが、呼んデキテヤル」

 マーラは随分待たされた。二日以上待ったのだ。自分とは会いたくないかも知れないと、思い始めた頃リックとニルがきた。

「マーラ! 本当にいた!」

 リックが駆け寄って水に落ちそうになっている。

「気を付けてよ、リックは今人間の姿だよ」

「分かっているさ、そんなこと。それよりこんなに長くいなくなるなんて。二年か?」

「うん、巫女の島にいるんだ今。子が出来た」

「聞いていたけど、本当だったんだな。良かったな……それで、マーラと……同じか?」

「うん同じ。それで、アタイがいるのはニーノって言う港町の近くなんだけど、リック、アソコもセントラルベイみたいにレオパルド王のものになった?」

「いや、そんなことは聞いたことも無い。第一あそこは今戦争で大変だと聞いたぞ。そんなところで大丈夫なのか。子どもを置いてきたんだろう?」

「戦争? ナンだそれは」

「人間と獣人が戦って、人間が負けたらしい」

「!!!だからなのか」

「どうした?」

「人間が、奴隷になって獣人にこき使われていた。アソコの獣人は気が荒くて怖かった」

「そうか、やはりな。マーラは? 暫くこっちへいるか?」

「……子どもが心配だ。直ぐ帰るけど。獣人が船を操縦していた。コッチへ来るかもな」

「そうか、分かった。知らせてくれて助かった。あ、これを持っていけ。子どもにプレゼントだ」

 そう言ってリックが大きな魔宝石をマーラに投げて寄越した。

「綺麗だけれど、これ貰っても使い方が分からないよ」

「ニールの街が、また平和になったら金になるはずだ。持っておけ」

「……ウン、分かった。じゃぁ帰るね」

 ――この石はリックから貰った大事な者だ。イッショウ大切にもっておこう。 

 海で過ごすマーラにはお金など必要無いのだから。


 リックはマーラから聞いたことを父に話した。

「そうか、船で来るか。だが、獣人が船だけでここへ来るとは思えんな。多分、森からも来て挟み撃ちにしようとしているはずだ」

「何故、北の獣人がここへ攻めてくるのですか?」

「ここの王が人間だからだろう。獣人王は人間を根絶やしにすると言っているらしい」

「過激な獣人ですね」

「獣人の立場に立てば、そうとも言い切れない。今まで酷い扱いをされていたからな。だが、彼等が殺しているのは、いずれ獣人になる同胞だ。それを知らせてやりたい」

「どうやって? 攻めてこられれば戦わざるを得ないはず」

「何、雷撃で痺れさせれば捕まえられるさ。後はゆっくり話してやろう」

「父上、海からの敵は僕に任せて貰えませんか?」

「良いが……あまり威力を上げるなよ。死んでしまうぞ。お前の魔法は桁が違うからな」

「はい、気を付けます」

 それから十日後、森から熊の獣人が攻めてきたと報告があった。

前もって森に警戒網を敷いていたため直ぐに見付かったようだ。北の熊獣人は、セントラルベイの熊獣人よりも身体が小さかったが、六百人いた。

「結構な人数だな。まさか全員できたノカ?」

「そうかも、女もいるから。キットそうだ」

 こちらには熊獣人や豹獣人等、大型の獣人達が一千人待ち構えている。

「やあ、態々出迎えてくれるとは、ヨッポド酷い目にアワサレテイルノカ! 一緒に人間を駆逐しよう」

「何を言っている? オマエ等を迎え撃つためだ。大人しく降参しろ!」

「……!」

 彼等は、まさか獣人に阻まれるとは思っていなかったようだ。きょとんとして訳が分からない様子だった。呆気なく捕まって仕舞った。殺し合いにならなくて良かった。

 まあ、多勢に無勢だ。従うしか無いだろう。こちらの獣人は体格も実力も桁違いなのだから。

 森の村に彼等を集めて、竜人が懇切丁寧に説明をして行く。だが何となく様子がおかしい。鑑定眼で見て見ると隷属されているようだった。

 急いでレオパルド王に知らせに走った。その後隷属を解かれ、竜人達は同じ話を繰り返した。

 初めは半信半疑であった、彼等は、街へ入っても暴れないという約束をして、街に入ることになった。

 デパーズと、ボナンが彼等に鑑定を掛けた結果、

「どうやら技能持ちに操られていたようですな。狼獣人にその様な技能持ちがいたとは……」

「獣人王か?」

「多分そうでしょうが。魔法のような技能を持つとなるとやっかいですな」

 威圧か? だが威圧では一時的な効果しか無いはずだ。では、魅了か? いや、もっと強力な隷属……支配か。

「マーラのような力を持っているのだな」

「そうでしょう。マーラと同じように声にも力を乗せて、従えているのかも知れません」

「僕の、隷属解除は有効だったようだ。彼等の隷属は解けたから。魔法が効くなら問題は無い。僕がニーノへ行って王に直に話を付けてくる。ここはリックに任せる」

「イケマセン、危険です! 王自らナド!」

「ニーノの町は行ったことがある。船に王は乗っていなかったと熊獣人達は言っていた。不意打ちをして混乱させてから、後からゆっくりとくるつもりなのだろう。まだ町にいるはずだ。転移で直ぐに行ってくる」

「デハ私達も連れて行って下サイ」

 竜人達がなんとしても行くと言うので五人ほど見繕って連れて行くことにした。

「リック、ここを任せた。特大の精神魔法を撃ってやれ。頼んだぞ!」

「はい!……え? 精神魔法ですか……あの、父上雷撃では無く?」

 だが、そこにはもうレオンはいない。転移してしまった後だった。


 レオンはニーノの街にいた。竜神達と一緒に。

「レオン様、ココはすっかり獣人の町になってしまっておりマスナ」

 町には人間が見当たらなかった。獣人の親子が所々に座り込んでいる。家の中にも獣人しかいないようだ。 市場は閑散としていて機能していない。

 レオンは獣人に姿を変えた。人間の姿では怪しまれてしまう。そして獣人王の居場所を聞いて廻った。

 だが誰も何も知っている者はいない。主立った獣人は既に船に乗って行ってしまったのだろう。

 一般の獣人達は只ぼーっとしていて、同じ事を繰り返しているように見えた。

「随分強力な隷属、と言うよりは支配を掛けられているようだ」

「力の有る獣人ですな」

 半日探し回り、王宮のある場所まで辿り着く。多分ここにいるはずだ。

 獣人の姿のままでは、魔法は使えない。仕方なく変身を解き、王宮にいた獣人の隷属を解いて、話を聞こうとしたが、術を解くとレオンを見て逃げて行ってしまうのだ。

 王宮の中を自分達で探し回ったが、獣人王はいなかった。「もう出航して仕舞ったノではナイデスカ?」

「そうかもしれん。一応港を見てみよう」

 暗くなった港には、船の影など全く見えない。

「不味いな、王も一緒に行ったと言うことか。リックが何とかしてくれるだろうが、早く帰った方が良さそうだ」

 海の方から、呼びかける声がする。

「レオパルド王! マーラです。助けて下さい!」

 見れば、マーラが海で何かを抱えている。

「マーラ!どうしたんだ」

「この子どもが、海に捨てられて死にそうです。どうか助けてやってください」

 海の中を見ると、沢山の人間が沈んで死んでいるのが見えた。獣人達に沈められた人間の奴隷のようだ。足かせと鉄球を嵌められている。

 レオンは、マーラが必死になって助けようとしている子どもをすくい上げた。この子も足かせをされて沈められたのだ。それを見付けたマーラが懸命に顔を水面に上げさせていたようだ。魚人達も一緒になって他の人間達を救おうと、その手伝いをしていたようだが、魔物にマーラの指示が細かく伝わっていない。それ以上どうにも出来ないようだった。

 治癒魔法を掛けて数人が助かった。

「マーラ、ここの船はいつ頃出航したか分かるか?」

「十日くらい前かな」

 それを聞いたレオンは、竜人達にここを任せて急いで転移した。

 


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