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獣人の国  作者: チャロ吉
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22 独りぼっちのメグ

 ――また、母上とダル兄様はパルと一緒にダンジョンへ行ってしまった。

 この頃メグは独りぼっちになることが多い。一ヶ月以上もだ。

 サラはダンジョンから帰ると、仕事へ出かけてしまう。ダルとパルもダンジョンから帰ってすぐに森へ行ってしまう。 この頃は、メグのことは放って置かれているのだ。

「私も森へ行く!」

 そうだだをこねても、

「メグには無理だ。行きたかったら剣術をもっと上達させないとダメだ」

 と言われてしまうのだ。剣術は嫌いだ。運動神経が悪いのか、何度やっても旨くならない。物怖じする性格も災いしているのかも知れない。

 仕方なくメグは家庭教師と一緒に、刺繍をしたり、本を読んだりするしか無かった。偶に保育園へ行って、獣人の子と遊ぶ事もあるが。

 もう八歳になるメグにとって、保育園児は物足りない。 引っ込み思案のメグは同年齢の友達に声を掛けられない。

 園児には兄弟が居て、ここへ子ども達を迎えに来ているのに、話しかけることが出来ないのだ。

 うじうじしている自分が溜まらなくイヤだ。小さな子には平気で接することが出来ても、同じ年頃の子どもには気後れしてしまう。

 大人ばかりの中で育ち、自分より小さな王子、ダンカン王の子としか遊んだ経験が無かったせいなのか。

「母上や父上は、凄く忙しいし。誰も私の事を見てくれていない。つまらないわ」

「その様なことはございませんよ。必ずお食事は一緒になさっておられますでしょう? 王やお妃様はメグライア様をきちんと見ていらっしゃいますよ」

 家庭教師のダイアンはそう言うが、メグは寂しいのだ。

 幼い時は母がいつも一緒にいてくれたのに、この国へ来てからは少ししか相手を為てもらえなくなってしまった。


 そんなある日、北の森から逃れてきた人間の集団がセントラルベイへやってきた。

 少しずつのグループに分かれ次から次へと逃れてくるのだ。その対応に追われ父と母は食事さえも一緒に出来なくなってしまった。人間は、無事なものは殆ど居ない。皆、毒にやられたり怪我をしている。ここに辿り着いた途端に亡くなってしまうものも少なくなかった。

 始め、人間達はここに街があると聞いてきたのだが、着いてみると獣人の街だったことに気が付き絶望していた。

 だが、ここの獣人達は人間にも優しい。段々と気を許し始めている。

 何でも、北は大変な事になっているという。

 人間と獣人が戦争しているというのだ。諍いに破れた人間達は獣人に追われここへ救いを求めて来たのだという。

 暫くぶりに両親と食事をしていたメグは、父の話を聞いて戦慄した。

「北では、獣人王が戴冠し人間を駆逐すると言っているようだ。狼の獣人だ。彼等は陣形を組んで人間を狩り、どんどん森へ追い込んだのだという。森へ入った人間達は無力だ。魔獣にやられて殆どが死んでしまったようだ」

 ここへ逃れて来れたのは奇跡と言って良いと、父は言うのだ。メグは口を挟まずじっと話を聞く。

「レオン、では北には人間は一人も居なくなったの?」

「奴隷にされた人間はいるようだが、実際に見てみないことには、何とも言えないな」

「過去に自分達がされたことの仕返しですかな……」

 パルが神妙な声でそう言った。ここには珍しくデパーズ老もいた。

「人間達を鑑定しましたが、彼等の中に獣人の素養がない者がおりました。これはもしや?」

「多分、昔、交流があった北からの移住者なのかも知れないな。彼等には魔法の素養はあったのか?」

「一人だけですな。後は全くありませんでした」

「一人でも居れば、証明になる。巫女が言っていたことは本当の事だという証明だな」

「と言うことは、我が国にも獣人の素養があるものが居ると言う事になりますな」

「ああ、だが、問題あるまい。獣人として生れることは北では無いであろうからな。呪いでも無い限り……」

 メグは父親達の話は半分も分からなかった。だが、大変な事態になっていることだけは伝わった。


 食事が終わりメグやダルは部屋へ帰るように言われてしまった。

「ちぇ! もっと詳しく話を聞きたかったな」

「ダルお兄様、獣人が人間を殺したって本当の事なの?」

「ああ、本当らしい。このセントラルベイではそんなことは起きないさ。安心しろ」

「リックお兄様はまだ帰ってこないの?」

「新しい階層の攻略が大変らしいからな。早く僕もレベルを上げて、リックと行きたい。ダンジョンの新しい階層へ」

 それを聞いたメグは、自分は絶対にイヤだと思った。兄達は怖くないのだろうか? 

 兄達はダンジョンに夢中だ。長男のバスティアンでさえ、時間が出来ればこっちへ来てダンジョンへ行くのだ。ダンカン王をエスコートしてくるときもある。

 バスティアンは、王の側近に取り立てられて、この頃は忙しくしているらしい。婚約者を紹介はされたがそれ一度きりだった。もう直ぐ結婚するのでその時にまた会えるだろうけど……。

 誰も、メグのことは相手にしてくれない。

「つまんない」


 メグは屋敷から出ることを禁止された。街には人間が増えただけでは無いのか?

 何故、いつも通りにしてはいけないのか。北の獣人は人間を襲っているが、ここは違う。

 ――どうして? ダルはいつも通りなのに。

 サラの案内役は必要なくなって、今ではパルと二人でダンジョンアタックをしているようだ。パルは凄くレベルが上がり、雷も光も使える様になったという。ダルはもとより闇が使えていた。雷と空属性を獲得し、今は転移を使える様になる為頑張っている。

「転移が使えれば次は光だ。そうなれば僕はリックと一緒に行けるようになる」

 そう言っているが、どうだろうか? この間ニルの妹さんに話を聞いたが、とても危険なのだと言って心配していたのだ。

 ニルの妹さんに貰った螺鈿のペンダントをみて、

「綺麗だわ、私もこの仕事をして見たい」

 そう思うようになっていた。

「ダイアン、これの作り方を知りたいわ。貴方は出来る?」

「私には無理ですね。今度聞いて見ては如何です?」

「そうしたいのだけれど、外出してはいけないって言われた。ねえ、どうしてだと思う?」

「逃れてくる人々がまだ時折います。その中には悪感情を持っている方も居るそうです。獣人との間に諍いがあったようですよ。今街の中はピリピリしているようです」

 ――助けて貰ったのに、随分酷い人間もいるのね。


 レオンは、余りの問題の多さに頭を抱えていた。

「困ったな、このままでは街にいる人間にも影響が出てくるかも知れない」

 折角上手くいっていたのに、振り出しに戻ってしまいそうで怖くなってきたのだ。

 大変な手間を賭けた国造りが、水泡に帰すことになるのでは無いか? そう危惧しているのだ。

「何かいい手はないものか……」

「本当に不味いことになりましたな。人間の選民意識が抜けない限り、長引くことになりそうです」

 北から逃れてきた難民の多くは、裕福な商人や、元貴族や王族まで居た。彼等は仕事をすることも無く文句ばかり言っている。

「獣人に使われるなど、馬鹿も休み休み言え! 奴隷ごときに頭は下げられるか」

 そう言うのだ。だが、ここでは働かなければ食べていくことは出来ない。彼等には何も残っていないのだから。

 人間が多い中区へ連れて行き、そこの仕事を紹介したが、彼等はやはり働くことはしなかった。

 ごく一部の者達だが、その一部の人間達が問題を大きくするのだ。考え込んでいたサラが、

「その方達を、ヤーガイへ行って貰うことは出来ないかしら」

「何故? あっちへ行っても仕事をしなければダメなのだ。ここと同じでは無いのか?」

「彼方は人間だけの世界です。人間が大好きなようですし、追い出してしまいましょう」

「……追い出すって。過激だな。だが彼等はいずれ獣人になる素養を持っている。その問題はどうする?」

「獣人になれば良いじゃぁ無いですか。自分達の子どもがそうなれば、考えも変わるでしょう。ここに居られて問題を多くされても困ります。ダンカンにその事を言って隔離した場所にいて貰えば良いのでは? 我がルーベンス領地でも良いですし。ここを出るとき、ミスリルをくれてやれば喜んで出て行くはずよ」

「そうですな、もし獣人が生れて困るようでしたら、こちらに戻せば良いですな。獣人だけを」

「そうだな、彼等を追い出した後、皆には国外追放になったと言えば、残った人間の移民も恐れて、この国の法律に従うようになるかも知れないな」


 ダンカンに相談したところ、東の開拓地で人を募集しているからそこの村へ寄越せば良いと言ってくれた。

 早速問題の王族や貴族、商人を連れて行くことにした。

 その他にも、「獣人がいない人間だけの国」へ行きたい者を募ると数十人が手を上げた。移住者は百人を超す人数となった。リックを呼び戻しレオンと二人で一気に転移することにしたのだ。

 転移で行くので彼等は何処へ来たのかは、今のところ全く知らない。

 分かったところで、エルドラドへは帰ってくるのは困難だろう。ここはヤーガイ国と言っても、東の外れ、殆ど未開の開拓地なのだから。

「さあ、ここは獣人が居ない土地です。安心して王国でも何でも作れば良い。この地は開拓地ですので、やればやるだけあなた方の利益になる。これを支度金として使って下さい」

「何だ、コレハ」

「ミスリルという伝説の金属です。これを売れば小国なら起こせるでしょう。丁度商人もいるのだその人に任せればどうだ?」

「……国を起こすだと!」

「おお、レオパルド王。ヤット我らのことを支援する気になられたか。では、其方の気持ちに応えるとシヨウ」

 元王族は偉そうにそう言った。彼等は全部で百二十人は居る。小さな村なら何とかなりそうな人数だ。

 これから、彼等は自ら働くことを学ぶはずだ。そうしなければここで生きてはいけないのだから。

 問題が片づいてほっと一安心のレオンだった。

「後は定期的にこっそり様子を見に来れば良いか」


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