21 パルメザール・ゴルドー伯爵
「オイ、そっちを見ておいてくれ!」
「大丈夫だ、見張りなんかいるはずもねえ。獣人なんか獣だ。そんな頭脳は端っからネェだろうさ」
貧乏貴族のサマル士爵とその取り巻き、そして身を持ち崩したドーン男爵と船長等七人は、獣人の家を伺っていた。
この家には子どもの獣人が纏って面倒見られている。子どもの獣人は直ぐに捕まえることが出来そうだ。十人も捕まえれば、大きい金になる。売りさばけば、投資した金を取り戻せ、更にお釣りが出るだろう。
「ちゃんと首輪も用意してやす。働けなくなった奴隷は始末したし。彼奴らだってあの世で幸せになれるでしょうよ」
この国には隷属の首輪が無かった。レオパルド王は奴隷を容認できないのだ。だから、獣人達はこれがなんなのか分からないはずだ。こんな単純な首輪で、力が強い獣人を拘束出来るのは行幸だ。
簡単に捕まえられる。
船長は、もう直ぐ年期が明けてしまう奴隷を始末した。死体をダンジョンに持ち込んだのだ。ダンジョンでは死体が消えて仕舞うと聞いたためこれは好都合だと考えたのだ。
首輪は死んだ奴隷から外しておいた物だった。丁度10個ある。
――子どもなら、これから何十年も奴隷として働けそうだ。高く売れるだろう。こんな処に纏めておくなんて、馬鹿な奴らだ。お陰で仕事が楽になった。
そっと忍び込み、運良く子ども達が寝ている部屋に入ることが出来た。寝ている子に次々と首輪を嵌めていく。
「これでもう終わりでさぁ」
驚いて声が出せない子どもを連れて、サッサと逃げた。
「は、は、は。簡単に終わった」
「早く船を出してくれ。こんな場所はもう嫌だ」
「伯爵どもはゆっくりここで宝探しでもすれば良いさ」
「そうさ、オレ達を騙してこんな処へつれて来やがって。ここの魔物に殺されて仕舞え! くそったれ」
船は、宿に泊まっている伯爵等を置いて船出した。
やっと沖合に出ることが出来た。ここまで来れば安心だ。奪ったお宝、獣人達の様子を見に船倉へ降りていく一行が見た物は、レオパルド王だった。
「君達は契約に違反した。早速奴隷になって貰う。隷属!」
一体何がどうなっているのかさっぱり分からなかった。
「……く……く」
「ああ、そうだな、何か言いたいことがありそうだな話しても良いぞ」
「れ、レオパルド王。私達はなにも悪くはございません。ここの獣人から是非にと言われて子どもを預かったのです」
「ほほう、そうか。で、本当のところはどうなんだ? 【正直に述べよ】」
「グオッ…… 奴隷として売ろうと連れてきました」
「ダンカン、聞いたか。こう言う事だそうだ」
そこに、ヤーガイ王とその側近がいた。船長達は目を剥いた。まさか一国の王が、こんな場所に来ているとは夢にも思わなかった。
「其方等は、まだウーノ国の領海内にいる。この国の法に則り罰される。そう心得よ。ここには証人もいる。ヤーガイでも大々的に其方達の罪を知らしめようぞ!」
ダンカンは、レオンを見て一つ頷くと転移していった。
船長等は項垂れ、膝を着いた。
伯爵等が、レオパルド王に危惧していることを話した結果、船長等は罠に掛けられたのだ。
予め子どもと見せかけた小型の獣人達に集まってもらいそこで寝泊まりして貰っていたのだ。ネズミ獣人は
「小柄でも役に立つ事があるんでスネェ」
と言って笑っていた。彼等は三十歳を過ぎた長老達だ。
「こんな事を子どもにサセタラ、トラウマになってしまいやす」
彼等は口々に、恐ろしい隷属の首輪の効果を言い合った。 ここの大陸の奴隷は、重い足かせを付けられるという。自由が利かなくされることは同じだが、言葉が出せなくなったのがショックだったようだ。
船長等は今後のために見せしめにされたと言っても良いかもしれない。今後、ウーノ国にくる人々に向かって示すためだ。
船長等は極刑に処された。彼等の白状した内容は、いくら温厚なレオンでも許せる物では無い。年期が明ける間際の奴隷達を十人も殺したのだ。本当は奴隷にするだけの予定だったのだが。
残された奴隷等は本国へ送り返した。リックの転移で。
伯爵は、まだここに居たいというので、今後の取り決めをもう一度交わすことになった。書面にサインして貰う。契約魔法が掛かった、強力な物だ。それでも良いからと伯爵はここに居ることを選んだのだ。
他の無関係な貴族の子息達は帰ることを選んだ。彼等にはミスリルの素材を少し持たせてやった。手ぶらで帰れば親に叱られると泣きついてきたからだ。
折角帰ってきたリックにまたとんぼ返りで、貴族の子息達を送って貰う。
今ではリックが一番魔力が豊富になったからだ。
船とクルー達はウーノ国に賠償金代わりに差し出された。
「こんな物どうすれば良い? 邪魔なだけだ」
「レオン、貴方が考えた魔道具の動力を取り付けて、実験して見ることが出来るじゃ無いの。只で手に入ったのよ。良かったわね」
以前伯爵と一緒に来ていた冒険者達は商船に乗せてもらい殆どが帰ったが、ここに居たいという者もいた。彼等は全部で八人。ここの冒険者ギルドに登録し直し、七級からのスタートになる。ヤーガイ国では一級でも、ここでは通用しない。初めからやり直しだが、彼等のやる気は凄い物があった。
積極的に獣人の冒険者について回り、森の魔獣を倒しまくってレベルを上げている。皆魔法が使える冒険者だ。
「レベルが上がればダンジョンへもう一度挑戦できる!」
そう言って頑張っているようだった。ダンジョンにはお宝がたんまりあるのだ。沢山稼いで、国へ帰るんだとはしゃいでいる。
その姿を見ていた伯爵も、自分でも出来るかもしれないと、冒険者になろうとしている。
「伯爵、私の子ダルタニアンが今度ダンジョンアタックをする予定だ。それに付いていってはどうだ? ダルにはサラが補助で付いていく。伯爵一人くらいなら何とかなるそうだ」
「! 是非お願いします」
パルメザールの目は輝いていた。
「伯爵様と一緒? 僕が教えて上げるよ。一緒に頑張ろう」
「ああ、ダルタニアンくん。よろしく頼む」
「まあ、ダル、伯爵様に何てこと言うのかしら。十三歳にもなって礼儀も知らないなんて。ごめんなさいね、伯爵様」
「ああ、私の爵位は息子に譲ったのだ。気軽にパルと呼んでくれ」
「そうか分かった、パル!」
「もう、ダル失礼よ! 下の子な者で甘やかしてしまって……」
「いや、いや、これでいいんだサラ様。私はダルくんに教えて貰うことが沢山ある。サラ様にもパルと呼んで貰いたい」
「パル、剣術は得意?」
ダルが偉そうな態度でパルに言った。
「まあ、そこそこは出来るが、ここで剣術は必要ないだろう?」
「分かってないなあ、剣術を使ってレベルを上げなければダメなんだよね、母上」
「え? 魔法のレベルを上げるのでは無いのか?」
「まあ、知らなかったの? 変ねぇ。魔法大学校では教えているはずなのに」
「私は、大学に入る年齢を過ぎているから……」
「いえ、魔法のレベル上げの仕方って、そんなに周知されていないのかとビックリしています。生まれが他国の私でさえ知っていることですのよ。魔法が盛んなヤーガイなのに、どうしてかしら」
「指示した教師によってまちまちなのだろう。私の時代は、家庭教師が殆どだった。魔法使いは属性を増やせば器用貧乏になると言われていたな」
「そう言えばそうですわね。私もそうでした。今では常識が変わりました。属性を増やしても良いと言うことになっています。増やすには、魔力器を大きくしなければなりません。魔力を吸収するためには、至近距離で倒さないと魔力が身体に入ってこないのです。だから、剣術が一番効率が良いのよ」
「そうだったのか、道理でみんなのレベルが上がらなかったわけだ」
魔法使いは特に離れた場所から攻撃するため、知らなければ、いつまで経ってもレベルは上がらない。
ウーノ獣人国に残った冒険者達も、リックにその事を教えて貰いやる気が出てきたのかも知れない。
サラが拘束した魔魚を一体倒したパルは瞬く間に硬化し始めた。
「伯爵、じゃなかったパル! 魔法を放って!」
「や、闇の……影……」
パルは余りの苦しさに、もう辞めたくなってしまったが。苦しさを通り越すと、自分が新たな属性を獲得したことに気が付き興奮した。
「なんと! こんなにも早く属性を獲得できるとは!」
「でも、レベルは低いね」
「ダル! いい加減にしないとご飯は無しにしますよ!」
「ごめんなさい……」
何を言われてもうれしさで気にならないパルだ。
サラが闇の投網で魔魚を拘束してくれたお陰で簡単に魔魚を倒せるのだ。素晴らしいでは無いか。
それからはトントン拍子にレベルが上がり本来の属性までもが上がり始めた。
「今日の処はこれくらいにしておきましょう。闇を獲得できれば、魔力の補充が早くなります。また明日来れば良いわ」
「サラ様、本当に助かります」
王の棟にやっかいになっているパルは、ダルの恰好の餌食だ。忙しい両親は食事の後、それぞれの仕事に出かけて行くので、寂しいのだろう。
パルの部屋に、何時ものようにコッソリと入ってきたのは、メグライアとダルタニアンだ。
またメイドの目を盗んできたのだろう。メグはダルに、いつもくっ付いているせいで一緒に来て仕舞ったようだった。
「パル、僕と一緒に勉強しよう。次は何を取る?」
「属性のことか? そうだな光にするかな」
「ばっかだなあ、雷属性に決まっているだろう!」
「でも、光が無ければ初めの部屋が通り抜けられないだろう?」
「そんなの母上に頼めば良いさ。暫くは補助をしてくれるって言ってたもの。それに母上は転移が使えるから、一つ目の部屋を通る必要も無いんだ。雷属性が有れば魔物を簡単に倒せるって、リックが言っていたんだ。僕は雷を取るって決めたんだ」
「そうか、ではそうすると良い。ダルは凄いな。何でも知っている」
「えへへ、まあね魔法は得意なんだ。兄弟の中で僕が一番なんだってさ。バルが教えてくれたんだ」
「ダル兄様、メグは? メグも一番?」
「メグは、わかんないよ。デパーズさんに聞いて見ろよ」
「皆、忙しそうにしている。聞けない……」
「メグはまず、剣術を頑張れよ。魔法はその後だ」
「剣術は嫌い。剣術は女の子がするものでは無いと家庭教師のダイアンが言ったわ!」
「だったら魔法のレベルは上がらないな、メグは一番下手っぴになるぞ」
「いや! そんなこと言うダル、嫌い!」
騒がしく言い合いをしている兄弟をみて、パルは孫の相手をしているようだと感じた。
彼等のことは可愛いと思っている。余り家族とは親しく出来なかった昔を思い出して、寂しく思うパルだった。
お決まりの貴族同士の結婚で妻とは反りが合わず、息子が出来た後は、余り触れあわなかったし、側室もいなかった。パルは何時も自分の趣味にふけっていたし、若い頃から引きこもりだったのだ。パルの孫もそろそろ一歳になる。
この冒険に出るとき総てを処分して、残してきたものは何も無いと思い込んでいた。この地に一生いると自分で決めてきたのだ。その時は家族に未練は無かったのでそう思っていたが、今更ながら自分の、勝手で無責任な行動に気が付いたパルだった。
ダルが得意になって色んな話をしてくれる。それをニコニコしながらじっと聞くパルだった。




