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獣人の国  作者: チャロ吉
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20 貴族達の事情

 パルメザール・ゴルドー伯爵は水属性がある。四十歳になる今まで、領地の管理をして暮らしてきたが、昔から冒険心があった。

 ゴードン王の冒険を聞き、心が騒いでしまった。そしてそれを自分も実行しようと考えたのだ。

 息子に後を継がせ、自分の物を総て売り払って船を借りここへ来た。食料を入れるための魔法鞄や、当面の資金。そして魔法の属性持ちの一級冒険者を雇い入れた。

 自分の金だけでは勿論足りない。同じような野心を持つ、若しくは冒険心を持った有志を募り、共同で資金を出し合って、今回の航海へ乗り出したのだ。船主はこの船の船長だ。彼はクルー十人と奴隷を三十人、ガレー船を持っている。

 国の法律に従って奴隷達を人間として扱っているようだが、船の生活は苛酷だ。中には病気になってしまい、死んでしまう者もいるという。

 今回伯爵達が連れてきた魔法使いには希少な光を持っている者が五人も居たため、船長は喜んだ。

 隷属魔法が掛けられた奴隷は、苦しくてもそのまま働き、ギリギリになって病気が発覚すると言うことが偶にある。病気になる前にケアをすることが肝心なのだ。

 船長は大きな獣人達を物欲しそうに見る。

「あの獣人が奴隷なら、素晴らしい働きをしてくれるのに」

 伯爵は、船長を警戒した。彼が、この地にいる獣人を攫うようなことがあれば、私達は追い出され、二度とここへ来ることは適わなくなる。

 確かに、獣人の身体能力には目を見張る物がある。大型の獣人でなくても、力が強く病気になりにくく毒にも耐性があるという。更に技能を持っているのだ。

 下手な人間よりも何十倍も価値がある。

「彼等の中に魔法使いが生れないのが唯一の救いだな。もし魔法まで使えるとなれば、北の大陸は獣人達に乗っ取られてしまうかもしれん」

「小型の獣人は寿命が短いと聞きます。それも救いでしょうな」

「そうは言い切れん。竜人の長は三百五十歳以上だと聞いた。これは脅威だぞ」

「……そうですな」

「兎に角ここでなんとしても稼がなければ。私達は終わりだ。手ぶらでは帰れない。帰っても、何も残っていないのだから」

「ダンジョンで稼げなければ、彼奴らを連れて帰れば良い」

 サマル士爵がボソッとつぶやいた。


 ダンジョンがある村は、パイレーツ村と呼ばれている。

 昔、海賊が作った村だそうだ。ゴードンが来た頃、ここは極貧の村だったが、ダンジョンのお陰で村は様変わりをした。

 建物は新しくなり、今まで獣人の子が生れれば始末されるか売られるかしていたが、子どもは獣人に引き取られ、更にここに獣人が住み着くようになった。今では半数が獣人だ。

 冒険者ギルドが出来、神殿や宿屋や商店、酒場まで出来、町の様に発展し始めたのだ。

 その神殿に一人の獣人が走ってきた。

「神官様、偵察してきマシタ」

「して、彼等に不穏な動きはアッタか?」

「貴族達はまだ何にも……でも、船長がオレ達を奴隷に欲しいと言っておりマシタ」

「やはりソウカ。レオパルド王に知らせねば。早めに手を打って貰わねバ」

 偵察していた獣人は気配遮断の技能持ちだ。コッソリ船に忍び込み、人間の動向を探っていた。

 船に奴隷の人間がいるのを見て、獣人達に緊張が走ったのだ。獣人達は奴隷というものに敏感だった。

 エルドラドでも人間の奴隷は居るが、獣人ほどでは無い。奴隷イコール獣人というのがこれまでのイメージだった。


 ウーノ獣人国には奴隷はいない。犯罪者はいるが、それなりの期間重い税や、重労働を科せられる。重罪人は奴隷にはされず、処刑される。

 レオンは、それを見て可哀想になった。いくら重罪人でも死ぬよりは奴隷に落ちた方が良いのではと考え、

「一応、罪人達に選ばせたら良いのでは?」

 と提案したが、獣人達は皆死を選ぶ。奴隷には決してなりたくないというのだ。そうなればレオンにはどうすることも出来ない。

 ヤーガイでは、一定期間奴隷として働けば解放されるためそう言ったが、ここでは生涯奴隷から抜けられなかったのだろう。

「レオパルド王、重罪人に情けはいりマセヌ。情けを掛けてもまた罪を犯すのデス。生まれ変わって、善人になり遣り直した方が本人のタメデス」

 獣人の宗教観は独特だった。生まれ変わりを強固に信じて居る。そこは女神信仰とはまた違った倫理や精神性が関わっているようだ。

 サラの事があるから、レオンは生まれ変わりを信じてもいるが、罪人が死ねば善人に変わるというのは眉唾では無いだろうか? 生きている内に罪を改めて心を入れ替えた方が良いのでは無いだろうか? 

 だが、徒人であるレオンには確信が持てない。確かに罪人の殆どが再犯する。真っ当に生きている人にとって、罪人は脅威だ。死んでくれた方が安心だろう。社会のためなのだと、納得するしかなかった。

「サラの世界では、宗教とはどのような物だったのだ?」

「私の国では無神論者が多かったような気がするわ。でも、他国には神を本気で信じているところもあった。神のためだと言って人を殺したり死んでいく者もいたし。宗教が一杯ありすぎてよく分からなかったわ。根本では同じようなことを言っているようだけど、宗教の対立で戦争も起きる。隣人を愛せよ、と言っている宗教同士がよ。あれは何だったのかしら?」

 そうだな。よく分からない物が宗教なのだ。レオンは研究している方が余程実りがあると思い、もう宗教について考える事は辞めにした。

 そこへパイレーツの神官が面会を求めて来た。

「何かあったか?」

「今のところはナニモ。ですが偵察していた者が、船長は奴隷として獣人を欲しがっていると報告がアリマシタ」

「そうか。やはりな、だが行動に移ってはいないのだ。もう暫く様子を見て欲しい。万が一、獣人が捕らえられ連れ去られても、この指輪で解放してやれる」

 そう言って神官に魔道具の指輪を渡した。

「はい、ありがとうございます。これで安心デキマス」

 神官は帰っていった。レオンは、

「奴隷を使って船を動かしているのだからな。動力を魔道具にすれば無くなるのではないのだろうか?」

「そうね、私の世界でも船は動力を使っていたわ」

「! 聞いたことは無かったぞ」

「言ったことが無かったかしら? 魔法が無くても科学が発達していたと教えたはずよ」

「それはそうだが……ではどのような物があったのだ?」

「色々よ、明かりも車も飛行機もあった。何千人も一度に乗れる金属で出来た大型客船。ロケットを飛ばして月や他の惑星まで行っていた。遠く離れた場所の人と気軽に話せる機器もあったし、それで写真も撮れるし、情報も知ることが出来る。引き金を引くだけで殺傷力のある球が飛び出す武器もある。それよりももっと恐ろしい武器もあった。魔法に匹敵するかそれ以上かも……教えたくないような恐ろしい兵器もあった」

「……そんなにか」

「百年くらいの間に急速に発達した物もあるし。でも難しいから原理は分からないわ。ごく一部の天才が考え出すのよ」

 サラはレオンに自分が知っている電化製品や、自動車、電車などを話して聞かせた。

 どのような仕組みかと聞かれれば、答えることは出来ないが、どのように使うかは教える事が出来る。

 レオンはそれからインスピレーションを得て、何やら作業をし始めるのだった。


 サラは今、レオンの邪魔をしないため獣人達の集落を訪ねている。

 獣人達の木の家を見るのが好きなのだ。太い木材を使った味わいのある家々が並んでいる。昔の日本の農家を彷彿とさせるのだ。

「何とも言えない光沢があるのね。この柱」

「はは、これを塗れば、長持ちスンノサ。水にも強くなるしね。森に沢山生えている木から採れる接着剤だ。偶にかぶれてしまう奴もいるケドネ」

「獣人がかぶれるですって! 余程強力な毒性があるのね」

「イヤ、食べる者では無いからな。毒性は気になら無いが・・・・体質に寄るんだろうね。あたしは平気ダガネ」

「かぶれる……! もしかして漆かも。ねえ、その木のある場所へ連れて行ってくれない?」

「良いケドサ、奥さん大丈夫かい? 森だよ」

「平気よ、さあ行きましょう」

 サラが連れてきて貰った森はそんなに深い場所では無かったが、魔獣は沢山居る。サラの結界に守られて鳥獣人の女将さんは目を白黒させていた。

「これですよ。ほら傷付けた後があるデショウ。これを丁寧にとって集めれば良いだけサ」

「漆だわ! これでまた産業が出来る!」

 サラは獣人達に漆を沢山集めさせ、色を付けさせた。顔料を仕入れ、白や黒や赤に色を付けたのだ。

 漆塗りは紫外線とゴミが大敵だ。しっかりした建物を建て他。漆を濾して木の皮を丁寧に取り除いて貰った。小さな木箱に漆を塗り、螺鈿を付ける。何度も試作し、やっと売れそうな物が出来上がった。

「これをここの新しい産業にして行きたいの。興味が有る人を集めて教えてくれない?」

「エエ、任してオくれ。私が先立ちにナッテ教えて行くよ」

 小型獣人達は器用な人が多い。あっという間に彼等なりの美意識で、素晴らしい物が出来上がった。

「値段を付けなければね。希少な素材を使って手間が掛かっている。仕上がりも綺麗で美しい光がある。これは貴族達に受けるわ」

 チェストや宝石箱、大きな家具など沢山の商品が出来、船でやってきたヤーガイの商店主が今までに無かった豪華な家具や宝石箱に目の色を変えて買いあさっていった。

 今のところ、この地でしか採れない素材だ。暫くは真似をされる恐れも無いだろう。獣人達はまた新しい仕事が出来て嬉々として働いた。


 貴族達のダンジョンアタックは中々先に進めない。

 各人のレベルを上げなければ、二番目の部屋には挑戦できないのだ。海賊が落すドロップアイテムはダンジョンの入場料で消えて仕舞う。儲けはゼロだ。通路の魔魚は素材を落さない割りに手強い。もたもたしていると大量に湧き出てきてしまう。冒険者は地道にレベルを上げようと魔魚を倒しているが、レベルの上げ方が悪いのか中々上がらなかった。

「魔力が直ぐに尽きてしまう、撤退だ!」

 それなのに貴族達は冒険者達に、早くあの部屋へ入って、素材を獲ってこいと尻を叩く。自分達はなにもせずに後方で陣取っているだけだった。

 そうして貴重な冒険者の魔法使いが三人、犠牲になってしまったのだ。冒険者達は、二の足を踏み始めた。

「こんな危険だとは聞いていない! あなた方のやり方ではダメだ。俺達はついて行けない! 金は返すから契約は破棄してくれ!」

「船はだせんぞ、帰るなら歩くんだな。森の中を!」

 その様に言われた冒険者達は、皆でセントラルベイへ徒歩で帰ってしまった。ここから森を抜けていくのも危険なのに、それでも冒険者達は帰る方を選んだのだ。

「金を要求しないなら勝手に帰れ!」

 残った人は貴族の十人と兵士五人だけだ。船長は気が気では無い。

――オレの場合、料金は後払いだ。取れ高払いにしてしまった。クソッ!このままではただ働きになってしまう。

 船長は、色々物入りで赤字になってしまうと悩んでいた。


 パルメザールは、苦悩していた。自分の属性ではここでは役に立たない。雷を取ろうにも魔魚でさえ倒せないのだ。介添えをしてもらえなければ今のままでは無理だ。

――私の判断は間違っていたのだ。簡単に鉱山で採れると思っていた希少金属は、魔物由来なのだから。

 貴族の中に若者が二人いた。彼等は父親の援助で来ているため気楽だ。兵士はその貴族が連れてきた護衛のような者だった。

 他の貴族達は皆貧乏貴族の次男やそれ以降の者、家が傾いた男爵等だった。

 これから彼等の考える事が手に取るように分かる。何とか辞めさせなければと焦る伯爵だった。

 


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