19 ヤーガイの貴族達
南の森の獣人国は「ドス獣人共和国」と名付けられるようだ。様々な種族が集まり、それぞれが族長を立て、国を作っていくのだそうだ。要するに、国王は置かないと言うことだろう。基本はウーノ獣人国と同じだ。
獣人の不思議な特性として、親からは必ずしも同じ種属が生れるわけでは無いと言う事がある。だから種族同士で纏ったとしても、他種属の中に親戚が多く混じり合っていくのだ。
そのお陰で、喧嘩は滅多にないだろう。と思いたい。
西の玄関とかつて呼ばれていた、南西に位置する湾はウエストベイと名付けられた。多分セントラルベイに関連付けたのだろう。
エルドラドの南端は、寒冷地なのだそうだ。そこは七月頃から流氷が被い、船が行き来するには困難になるという。
大きな鯨や、見たこともない奇っ怪な海獣がいると言う。流氷に乗ってやってくるのだそうだ。
そこには昔から国は無いそうだ。南の国と言っていたのはエルドラドの中心から見て南寄りだと言うことだった。エルドラドの南三分の一は高い山脈で分断されているそうだ。人は住んでいないのだろうか?
サラは、一度行ってみたいと言っている。
「南北に長いとは思っていたが、これほどとは思わなかった。この地図ではよく分からないことが多いな」
「正確な地図を作る為にも、見に行かなければね」
北の大陸とエルドラドの間の海流や位置はかなり正確だったが、後は大雑把な地図だったようだ。
もし、北の大陸からくる船が、西回りでセントラルベイへ来ようとしても無理なのでは無いだろうか。半年以上の船旅になるだろう。若しくは、ウエストベイに停泊して、徒歩でセントラルベイにくるしかない。それは現実的では無いだろう。
巫女はウエストベイに認識阻害を掛けると言っていたから、それも出来ない。
当面は東回りの船しか来る事は無いはずだ。 レオンは、南の森の獣人達は、ゆっくり国造りが出来ると思いほっとした。
「リックはまたダンジョンか」
「ええ、新しい通路が出現したんですって。そこを抜けるのが困難だと言っていた」
「通路が? 魔魚しか出ないだろう。影渡りで進めばいいだけじゃ無いのか?」
「そうなんだけど、新しい通路には今まで出てきた階層ボスの小型版が出てきて、倒せばレベルが上がるし、素材も落すそうよ」
「そうか、それは見過ごせないな。と言うことは、そこを抜ければ新しい階層が出現すると言うことか?」
「多分そうなるでしょうね。だからリックは毎日入り浸っているようなの」
「ニルと二人で危険は無いのか?」
「彼等より強い冒険者は今のところいない。返って足手纏いになると言っていた」
――獣人のニルも力を付けてきている。ダンジョンは奇跡が起きる場所なのだろうか。
数ヶ月そんな日々を過ごしていたセントラルベイに、ヤーガイの貴族達が乗り出してきた。資金力のある貴族が寄り集まって船をチャーターして、セントラルベイにやってきたのだろう。
「全く面倒な奴らが来て仕舞った」
「多分何処からか、ダンジョン素材のことを聞きつけたのね。彼等ったら、国王がいると思って神殿に乗り込んだみたいよ。竜人を見て度肝を潰していたそうよ」
「もう直ぐここへやってくるな」
「レオン様、ゴルドー伯爵とその御一行がお見えになりました」
「ああ、通してくれ」
「これはこれはレオパルド国王様。お久しぶりで御座います。パルメザール・ゴルドーです。お小さいとき以来の再会ですから、覚えておられないでしょうな」
貴族達は総勢十人居た。男爵から伯爵まで、ゾロゾロとやってきたのだ。百人は乗船できるガレー船でやってきた。
多分、兵士や冒険者を大勢雇ってきたのだろう。
食糧はレオンが作った最新式の魔法鞄が普及しているため問題は無いだろうが、水属性の魔法使いも当然いるだろう。海図を手に入れ、複雑な海流を抜けてきたのだ。
貴族にしては気概はある方だろう。
彼は、コトンとテーブルに魔物素材を置いた。それはダンカンに預けた、アダマンタイトの歯だった。
「私達は、私財を投げ売ってここに臨んでおります。決して興味本位でここに来たわけではありません。新大陸が発見されたとき、私の心は震えました。だがゴードン様はそれをひた隠しにされた。多分、この街にいる獣人達のためでしょう。それは重々分かっておるつもりです。私は正直に申せば、欲に目がくらんだのです。この素材を見て私の心は決まりました。どうか、レオパルド王。私にこれの在処を教えていただけ無いでしょうか?」
レオンはこの正直な告白に好感を持った。彼は四十代だろう。この年齢で賭に出るとは、若しかすると資金力は無く、本当に私財を投げ売ったのかも知れない。
ダンジョンのことはもう明かすことにしている。只、危険なためどういう風に公開するか悩んでいただけだ。
洞窟の上にある村はもう整備され、冒険者ギルドの支店も出来上がっているのだ。
「ここは魔力が無い一般人には入る事は出来ないだろう。それでも行くと言うのか?」
「魔力ですと! そうか、魔の森のような場所があるのですな」
レオンは笑いそうになった。この大陸の総ての森が魔の森だからだ。
「いえ、迷宮、ダンジョンというか、今まで見たこともない場所です」
「……凄い。来て良かった。レオパルド王! 是非とも連れて行って下され」
案内役はリックとニルに任せることにした。彼等は今一級冒険者となって活躍している。
大型船を誘導して小さな入り江に向かわせた。
「この中に魔力持ちは何人居ますか?」
「五十人は居ます。魔力がある物を集めてきたのです」
「では光の属性持ちは? 闇は?」
「光は・・・・五人か。闇は三人おります。後は水と風と火ですな」
「ではチームを作りましょう。五十人でゾロゾロ入って行っても邪魔になるだけです。五チームに分かれて下さい。必ず光は一人入れて下さい僕は案内人ですが今回限りです。一チームについて案内いたしますから、しっかり覚えて下さい。魔物はランダムで出てきます。お渡しした書類に、魔物の特徴と大雑把な攻略法が載っています。読んでいて下さい」
「……」
「この崖を登ったところに、冒険者ギルドが設置してあるので、そこで書類を受け取り契約書にサインしてからダンジョンへはいること」
「ギルドがもう出来ているのか?」
「はい、村には宿泊施設もあります。そこを利用して下さっても良いです。だが、村には獣人がいます。くれぐれも無体なことは控えて下さい」
「勿論だ」
ダンジョンに入るためには料金を貰うことにしている。
一日、大金貨一枚。大金のように思われるが、実はかなり安い。第一の部屋、海賊のエリアを周回するだけで大金貨の元は取れるのだから。奥へ行くほど儲けが出る。
ダンジョンから出る素材は、それほど希少なのだ。例えヤドカリだとしても大きな利益に繋がる。
伯爵はそれをよく分かっていた。快く払っている。
リック達はデモンストレーションをしてみせる。たった二人で、魔物を倒して見せる。リック達が倒した魔物のドロップは勿論リック達の物だ。案内役は、ボランティアなのだから。
彼等には手出ししないように言ってある。下手に手を出されれば、万が一彼等に何かあれば、リック達の責任になってしまうからだ。
その後、自分達でダンジョンに入って生きようが死のうが後は自己責任と言うことになる。
初めの部屋で、ヒールで海賊を倒す。魚人はニルが倒した。時間にすれば十分もかからない。
通路に入り、魔魚をある程度倒し、先を急ぐ。その間見学者には結界を張っていて貰った。
2番目の部屋に入り、遠くから、エビに雷撃を当て、ニルが仕留める。
ニルの斧はダンジョン素材で作ったハルバードだ。丈夫で堅く強力だ。アダマンタイトはかなりの重量があるためニルのような力持ちで無ければ使いこなせないだろう。
その武器で、ニルはエビの身体を真っ二つにする。ドロップ品はエビのハサミ。
「このエビは素早く雷撃を当てないと、衝撃波を出します。それにあたると気絶しますから、気を付けて下さい」
「あの……雷属性が無い場合は?」
「火魔法でも良いですが、威力が無ければ無理ですね。魔魚を倒してレベルを上げて下さい」
次の部屋にも連れて行く。今回はクラーケンだった。
これも雷撃を五発当てて簡単に動きを止める。ニルが斧でクラーケンの眉間に一撃を当てて呆気なく終わった。
「クラーケンはオリハルコンをドロップします」
「何ですとおおおーっ!!1」
大きなクラーケンの嘴が落ちている。二メートルはあろうかという金色に輝くオリハルコンだ。
それをリックは収納に収めて、案内役は終わる。
「ではこれで終わりです。この先もありますが、ドロップアイテムは苦労の割りには大した事は無いです。だから行っても無駄死にするだけでしょう。多分、今の皆さんでは全滅します。死んでも良いのならどうぞ」
素っ気なくそう言って、リックは皆を転移させ洞窟の入り口に戻ってきた。その後ニルと一緒に、どこかへ転移してしまった。
「全くとんでもない力だな。あの二人は」
「兎に角今日はこれで終わろう。帰って攻略本をもう一度読み直すぞ」
次の日から、洞窟へ入り、海賊の部屋を抜けようとした。しかし海賊はヒールで倒せても、魚人が手強い。
「凄いぞ、真珠の首飾りが落ちている!」
「こっちは、……なんだ、銛か」
「だが、この銛の素材は変わっているな。取り敢えず冒険者ギルドに持ち込んで査定して貰おう」
通路へ出ると、湧いてきた三体の魔魚を十人でやっと倒した。
「やはり、雷を獲得しなければ、効率が悪いな」
「もう戻ろう、ここにいれば次々と魔魚が出てきて切りが無い。入場料の元は取った。明日にもう一度リベンジだ」
彼等は、ボロボロになった身体や防具を見て、先行きに不安を覚えた。
リックはヤーガイからダンジョンにやってきた彼等が、このダンジョンの本当の素晴らしさをそのうち知ることになるだろうと思った。
「ダンジョンの素材は凄い。だけど本当に凄いのはレベルが際限なく上がると言うことだ」
彼等がここを発つ頃、大きな力を獲得していることだろう。無事に生きて帰る事が出来れば。
リックは今、全属性になっている。たった数ヶ月、ダンジョンアタックしただけで全属性になってしまったのだ。
だけどまだレベルが上がる余地は残っている。
ニルも技能が増えた。ここは普通では適わないことも適う場所なのだ。
元々獣人は技能を持っているが滅多に増える事は無いそうだ。だがニルは増えた。身体強化と早駆けだ。元々速く走れていたのに更に早くなったのだ。まるで突風のような走りだ。
「彼等がいる間は、獣人達がダンジョンアタックできない。早く帰って欲シイナ」
ニルは渋い顔でそう言った。
ニルの成長を驚きの目で見ていた獣人の冒険者達は、ダンジョンに押しかけて、とうとう死人が出てしまった。
獣人では、魔法が使えないため、初めの部屋が突破できないのだ。
獣人達は街の治療院へ行って、光属性持ちの人間に頼み込み、最初の部屋にいる海賊を倒して貰う。そうやって獣人達はダンジョンで力を付け始めたのだ。
魔魚を倒してもドロップアイテムは落さないが、力は付くのだから。
レオパルド王は獣人達の過熱ぶりに危機感を覚えた。力の無い者を排除するため、大金貨を貰うことにして、取り敢えずは落ち着いてきたが、ダンジョンは獣人達にとっても、魅力的で人気の場所だった。




