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獣人の国  作者: チャロ吉
19/37

18 ダンジョン産の素材

「ダンジョンへ行っていたのか? 私を置いて」

 バスが少し機嫌が悪い。自分が仕事をしている間に、置いてきぼりにされたのが気に触ったのだろう。

「最後の部屋には行っていない。ニルが貝殻を欲しかったから、またあそこへ行ったんだ」

「……そうか、だったら行くぞ、最後の部屋へ!」

 鮫が出る部屋。だが、今回は変わるかも知れない。リックはバスにそう言った。

「ゴードン叔父さんは、クラーケンが出たといっていたな」「今回、もしクラーケンが出たらどうする?」

「リックも雷が使える様になったんだろう? 二人がかりで打ち込めばいいのでは無いか?」

「そうか! 強力なしびれで動けなくなるはずだな」

「ニルはここで待っていて貰った方が良いのでは?」

「オレも行ます! 素材はイラナイカラ、見学したい」

「危険だからな! ずっと気配遮断をして置けよ」

「ああ、ソウスル」

 大きな部屋に入る。直ぐにニルは気配を消して部屋の隅にじっとしている。

 リックとバスが、入り口に立っていると、モヤモヤとした霧が立ちこめそれが固まりだした。そこに現れたのはやはり鮫か?

「なんか、前と違う姿の鮫だ」

「大きいな二十メートルはある」

 巨大なずんぐりした頭。以前の鮫とは違い身体の大きさのの割りに口が小さい。だが、リック達にとっては大きいだろう。口の中には大きな歯が見えた。

「鯨か! リックやるぞ」

「ウン!」

 二人がかりで、雷撃を放つが、鯨には効いていないようだ。悠々と広い空間を泳ぎ回り、こちらに向かって噛みつこうとしてくる。

「投網を試してみる! 闇の投網!」

 大きな投網は一旦鯨を拘束はしたが、直ぐに鯨によって躱されて仕舞った。慌てて二人は影に隠れた。

「どうしよう、魔法が効かない」

「……手強いな。鯨は頭の上に呼吸器官があった筈だ。リック、鯨の上に乗って鼻の中に雷撃を放てるか?」

「……やってみる。転移!」

 リックの雷撃を受けて、鯨の動きが止り、ズズーンという地響きを立てながら鯨が地面に落ちてきた。

 バスは、鯨の頭に剣で切りつけてみたが、奥までは歯が通らない。代わりにどろりとした油が出てきて慌てて飛び退く。

「腹を割けば良いのか」

腹に剣を突き立て、ズザザーッと剣の刃を滑らせて腹を切り開いた。中から内臓がドロンと出てきた。それでもまだ死んでいない。心臓がどくんどくんと脈打っているのがチラリと見えた。そこに剣を突き刺すと。鯨はキラキラと輝いて消えていった。

 後に残ったのは、大きなゴツゴツした汚い石と、濃い灰色の鯨の歯だった。

 バスは硬化した魔力を放出するために転移と唱えた。何度か転移してやっと魔力が収まった。王の棟へ転移して、また帰ってきたのだ。バスはそこでへたり込んでしまった。

 鯨の歯は一つ十キロほどの重さがある円錐形のものだ。大小様々だが五十本以上あった。

「歯は何かに使えるとして、この汚い石、何かの役に立つのか?」

「取り敢えず持っていくしか無いよ」

 石は一抱えもある大きさだ。百キロは超える重さがある。

 リックは魔力切れで動けないバスとニルを連れて、王の棟へ転移した。

「ニル、鯨の歯、何かに使えるかもな。一つやるよ」

「え! 良いのか、アリガトウ。妹が喜ぶ!」

 バスは念願の転移が使え、満足している。まだ遠距離は無理だろうが。パーフェクトヒールも時空間収納も使える様になったのだ。

「ダンジョンに挑戦する事が出来て良かった。後はゆっくりしようかな」


 暫くして出かけていた両親が帰ってきた。

「留守番ご苦労だった。問題は無かったか?」

「お帰りなさい。問題は無いです。父上! 私はこの間ダンジョンへ行ってきました。転移が出来るようになれたんです!」

「ダンジョン? リックが連れて行ったのか……もしかしてドロップアイテムを持ち帰った?」

「それが……変なものばかりで、役に立ちそうもない物ばかりでした」

「……見せてくれ」

 バスは使えるようになった時空間収納を得意になって出して、そこからドロップアイテムを全部出した。

「サラ、これは何だと思う? 汚らしい石だが」

「……これは? どんな魔物だったの?」

「鯨でした。頭が大きな」

「ッ! もしかして竜涎香! こんなに大きな物……凄い価値がある物よ」

「何だそれは」

「鯨のうんち……結石かしら。でも、これは高価な物なの。香水の原料になる」

「で、これは歯だな。素材はなんだ?」

「私が見たことがある物とは違う。私が知っているのは白っぽい象牙のような物だったから。これは黒い色をしている」

「バス、これを預からせて貰っても良いか? 価値が分かったら後で支払うことにする」

「いえ、差し上げます。ここに来れてレベルを上げることが出来ました。私はもう帰っても良いですか?」

「ああ、ではこれから帰るか。僕も用事が出来た」


 公爵邸にバスティアンを送り届け、その足で王宮に来たレオンだった。

「今度は何があったの?」

 何時ものようにダンカンの部屋で、バスから受取った素材を出してみせる。

「何だか、この間とは違って地味な感じのダンジョンの素材だね。で、これが何だか分からないって言うこと?」

「汚い石は、サラによると香水の原料になるそうだ。だがこの黒っぽい歯の素材が問題だ。僕はアダマンタイトでは無いかと思っている」

「アダ……またまた伝説の金属か。ダンジョンとは、とんでもないところだね」

「困った。このままではダンジョンのことが知られて仕舞う。そうすればマーラや巫女の居場所がなくなってしまう」

「んー、これをこっちで捌けと言うこと?」

「そうしてくれると助かる。これはバスが獲ってきた物だ。バスに対価を払ってやって欲しい」

「分かった。何とかしてみるよ」

「多分ゴードンが倒したクラーケンのドロップも希少金属だった可能性が出てきた」

「ふふ、オリハルコンだったりしてね」

「僕はそう思っている」

「まさか……冗談で言ったのに」


 王の棟へ帰ってきたレオンをサラが待っていた。

「どうした、サラ」

「これを見て」

「綺麗だな、キラキラした石? 繊細な石だな。直ぐに割れてしまいそうだ。これがどうした?」

「多分これは、螺鈿よ。貝から捕れる物なのだけれど、これも結構高価なの。ダンジョンのドロップアイテム。これが凄い量があるのよ。これは家具に飾り付けたり、アクセサリーに加工すればこの国の特産になる」

「ダンジョンのことをバラすわけにはいかない」

「そうだけれど、もうこの素材は街に出回っているわ」

「何だって!」

「私が取ってきた蟹の甲羅だってそうよ。防具屋で高く買取って貰えた。今、蟹の甲羅で出来た防具は、ヤーガイで売られているそうよ。希少だからって値段が高いんですって。レオン、巫女をあの西の玄関の屋敷へ移動して貰いましょう。ダンジョンはもうじきバレてしまうでしょう。ゴードンが来た時船員は皆見ているのよ。時間の問題だわ。あの洞窟の側には村だってあったのでしょう?」

「……分かった。説得してみるよ。マーラも。でも、マーラを何処にやれば良い? ここを追い出されてまたすぐにどこかへいってくれだなんて、可哀想だよ」

「そうね。どこか良い場所を探さなければね」


 巫女のところへ来て、今までの経緯を話した。

「そうですか、ここも安住の地にはならないノデスネ……」

「済まない、至らない僕を許してくれ」

「ああ、代わりの地へ行けば良いだけです。心配して下さってアリガトウ。マーラのことは大丈夫です。私の島へいってもらいまシタ」

「巫女の島へ?」

「ええ、マーラは子どもを欲しがっていマシタ。島の住民には強力な支配を掛けております。暫くは持つでしょう。マーラも魅了が使えるそうですし、何とかナルでしょう」

「マーラは納得したのか?」

「はい、あの島で暮らしていくそうです。ここよりは広く、魚人も沢山オリマス。あそこにある魔道具が壊れない限り見付からないでしょうが、万が一壊れても海流が複雑で大きな船は寄りつけません。安心できる場所デス」

「魔道具、それは闇の収斂の魔道具ですか?」

「いえ、あそこの魔力は多くアリマセン。只の認識阻害をさせる物です」

「巫女様、闇の収斂は使えますよね」

「エエ、勿論、私達にとって楽しみなおやつデス。哲学者の石は」

 魔女はそう言って手に中にある小さな魔宝石を見せてくれた。それを子どもに与えている。ルーラはニコニコしながらあめ玉をしゃぶるように食べていた。

「では、イキますか。私を新しい場所へツレテイッテ下さい」

 西の玄関がある森。小高い丘に立つ屋敷を見て、巫女は驚いていた。素晴らしい場所だと言って。

「ココに、本当に住んで良いのですか? これからもずっと」

「ええ、どうぞ住んで下さい。そしてあの湾にこれからできる街のために、闇の収斂をしてやって下さい。ここには獣人達がいて、守ってくれています。貴方を神だと信じている者達です」

「……何から何まで……本当にありがとう。このご恩は生涯忘れません」

「只、人が住めるようになったと噂になれば、北の大陸からも人間が来るようになるかも知れません。そうなれば獣人も巫女にも危険が及ぶかも知れない。彼等には魔法が使える者がいます」

「大丈夫です。認識阻害は大得意です。くるとすれば海からでしょう? ここの魔道具でも魔法が使えますもの」

「そうか、結界を広げるんですね」

「エエ、認識阻害は魔力をそんなに使わないし、知っていれば普通に入ってくることが出来るのです。まあ、知られて仕舞えばそれまでですが、時間稼ぎにはナルでしょう」

「ここから離れた場所にも巫女の屋敷跡がありました。子どもが大きくなったら、貴方がそこに移る事も出来ます。屋敷は建てないとダメでしょうが」

「・・・・何から何まで・・・・本当にアリガトウ」

 巫女は屋敷に入っていった。レオン達は問題が片づいて、ほっと一安心だ。

 

 リックは、バスが自分に何も言わないで返ってしまったことにショックを受けた。

「せめて言って欲しかった。今夜もダンジョンへ行こうと思ったのに」

「だったら、私と行く?」

「また、母上とですか……」

「何よ、不満なの!」

「まあ、まあ、レオンも大人になって親離れしたいのだろう。だが一人で行くのはダメだ。僕が一緒に行こう」

「そうねレオン、貴方も光を取るべきだわ。レベルを上げておかないと、何時何があるか分からないですもの」

「ゴードン叔父さん、ダンジョンアタックしないのかな。僕、異空間魔法を覚えてみたいんだけど」

「まあ、今は無理だろう。もう少ししたら、落ち着くさ」

「ゴードン叔父さん、何かあったの?」

「……そのうちな。ゆっくり教えるよ」




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