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獣人の国  作者: チャロ吉
16/37

15  バスティアンの結婚?

「これ……こんなに?」

ダンカンの部屋の床に山盛りになったミスリルを見て、ダンカンは呆れている。

「ああ、ダンジョンの魔物のドロップだそうだ。以前ゴードンは持ってこなかったから分からなかったが、あそこの魔物はミスリルを落すようだ」

「これがそんなにあるなら、ミスリルの価値は下がるだろうな。でも、どうすれば良いの? 総て剣にしたとして、買える人は限られるだろうし」

「兎に角これはダンカンに預ける。国の為に使っても良いし。家宝として残しておいてもいい。こちらでは対処出来ないんだ。万が一ダンジョンのことが知れ渡れば、エルドラドは沢山の国から攻め込まれてしまう。ウーノ獣人国はやっと国として形が出来上がったところだ」

「分かった、これは宝物庫に保管しておく。でも一本だけ大剣を作るかな」

「好きにしてくれ。全部売ってしまってもいい。何処で取れたか分からなければそれで良い」

「もしかして、海の魔物がミスリルの出所なのかも。だから滅多に手に入らないのじゃぁ無いのかな。ヤーガイの国宝も魔物から採れたと聞いたことがあるし」

「知らないな。誰から聞いた情報だ?」

「マリーナが言っていた。古書に書いてあったそうだ」

「そうか、海の魔物が死んで、流れ着いて採れた……ありそうだな」

「その情報を流せばいいんじゃ無いかな。そうすれば、海に捕りに行く人は居るかもだけど……危険か」

「ああ、辞めておいた方が良い。無駄死にさせるだけだ。人間は欲に目がくらむと、馬鹿なことをする物だ」

「ところでバスティアンから聞いていないか? 婚約者候補が何人かいるのだけれど」

「バスティアンの結婚? まだ早いだろう」

「そんなことは無い。バスはもう十七歳もう直ぐ十八歳だよ。そろそろ決めておいた方が良い」

「……そうだったかな」

 ウーノ国にかかりきりになって長男のことは頭になかったレオンだ。ずっと魔法大学校で勉強しているものだと思っていたが、もう直ぐ卒業の時期に差し掛かっていた。

「サラと話し合って、一旦こっちへ帰って来るよ」

「忙しいだろうけど。バスだって放って置けないよね」

「ああ、当然だ」


 サラを連れてヤーガイの王都へ戻ったレオン達は、王都の公爵邸にいた。そこでバスティアンが寛いでいるところに出くわした。

「父上! 母上まで。何かあったのですか?」

「お前の婚約の件で帰ってきた。候補者がいるそうだな。何故知らせてこなかった? ゴーレムに言えばこちらに伝わったはずだが」

「それは、まだ決めていなくて。まだ良いかなと思っていました。僕はまだ学校で勉強したいのです。もう二年、残りたいと思って居ります。ダメでしょうか?」

「お前がそうしたいのなら構わんが、婚約者を決めたくないと言うことか?」

「……」

「もしかして好きな人でも居るの? お相手は貴族では無いとか?」

「ッ! 母上、何故それを……」

「そう言うことか。どんな人だ? バスが好きになるんだから、きっと素晴らしいんだろう?」

「実は、魔力が無い人です。反対されると思って言えませんでした」

「そうね、平民で魔力が無いと言う事は大学の人では無いわね。もしかして娼婦?」

「母上!……違います。ですが似たような物かも知れません。彼女は、食事何処の女給です」

「……それは。難しいな。もう手を付けてしまったか」

「父上、僕はそんなことはしません」

「別に貴方がそれで良いのなら、私は反対しませんよ。でも、その方に務まるかしら? 公爵の正妻となれば大変な仕事よ。その方が単なる貴族への憧れを抱いているだけなら、後で苦労するわ」

「……そうですね。彼女は側室か、愛妾で良いと言っています」

 レオンとサラは、取り敢えず、バスの恋人という女性に会ってみることにした。


「レオン、どう思う?」

「ああ、まだ若いからな、バスは。それに苦労知らずだ。公爵の妾狙いの身持ちの悪い女に目を付けられたのでは無いか?」

「私もそう思うわ。親から暫く離れて、羽目を外したバスが、フラフラと引っかかってしまったようね」

「妾になれば、贅沢が出来ると思ったのだろう。まあ、見て見ないことには何とも言えんが……」

「妾や側室を持つのはそんなに悪いとは思わないけど、まずは普通に結婚してからにして貰いたいわ」

「サラ、君がそんな風に考えるとは、驚いたよ。僕に側室がいても良いと言うことかい?」

「あら、それはいや。でも、レオンが私を嫌になったのなら、仕方が無いことだと諦めるかしら」

「そんなことにはならないさ。僕は今でも君が一番好きだ」「レオンったら。でも、エルドラドに行っていたときは、私、もしかしてって考えていたのよ」

「あの時は悪かったと思っている。だが、そんなことは無かった」

「ええ、分かっているわ。バスにも、素敵な伴侶が出来たら良いのにね」

「貴族には難しいな」

 バスティアンに聞いた食事何処は、大学校の近くに在った。学生がひしめき合う中、レオンとサラは冒険者の格好で現れた。

 勿論、目立つレオンの髪色は隠して居る。黄緑色はヤーガイ王家特有のものだからだ。

 お目当ての女給は確かに美しかった。二十一歳だという彼女は、平民ならとっくに結婚してもいい年齢だ。

「あ、お客さん、何にする? 今日のお勧めはウーノ国から仕入れた魔物肉の煮込みだよ!」

「じゃぁそれを頼む」

「あい、親父さーん、魔物肉の煮込みふたっつ!」

 女給は忙しそうにくるくると動き回っている。働き者のようだ。

「レオン、元気の良いお嬢さんね。平民なら人気なはず。何故今まで結婚しなかったのかしら」

「さて、僕には良く分からないな。威勢が良いのはまあ、良いとして、バスは彼女の何が良かったのか? 彼奴の好みが分からん」

 二人でゴソゴソ話していると、前にいた冒険者が、女給の彼女にちょっかいを出した。通り過ぎる間際に彼女のお尻を触ったのだ。彼女は、にっこりと笑って、

「あ、と、で、ね!」

 そう言って去って行った。

「きみ、彼女の良い人かい?」

 レオンがその冒険者に聞いて見る

「ああ、モナーザはみんなの良い人さ、なあ、みんな!」

 と言って、げぴた笑い顔をしている。隣にいた冒険者達も一緒になって笑った。

「これは……決定だな」

「そうね、バスには可哀想だけど、現実を知らせてあげた方が良いかもね」

 後日バスティアンは影渡りで女給の真実を確かめたようだ。がっかりして帰ってきた。

「僕には人を見る目がなかった」

 そう言って気落ちしている。

「王から紹介された、婚約者を見繕ってみるか?」

「父上にお任せします。僕にはよく分からない……」

 候補は三人居た。侯爵の第一子、公爵の第二子、そして北の国ノースランドの姫だ。

 北の国とは山を隔てた隣国だった。殆ど交流が無かったが、この度ヤーガイに縁組みをしたいと申し込んできたそうだ。北国のせいで、食糧事情が悪く、このところヤーガイの農産物を大量に買っていっている。

 以前はサラの実家マルス領から仕入れていたようだ。ヤーガイの方が値段も安く、直ぐ隣だと言うことで急速に交流が出来てきた国だった。

 五人居る子の内、一人っきりの姫が、今魔法大学校の初年生として来ているそうだ。

「この方がよさそうよ、バス。隣の国だし、領地からも比較的近いわ。一度お会いしてみたら?」

「この方なら、見たことがあります。とても引っ込み思案な方だったな。凄く背が高くて、何時も猫背になって居る人だ」

 余り乗り気では無さそうな雰囲気だ。バスティアンの眼鏡には適わない人なのだろう。

 生真面目なバスティアンは、どうもサラのような陽気な女性が好みのようだった。

「でも、会うだけ会ってみたら? 案外面白い人かもよ」

 ダンカンも、「家格が合うのはこの人なんだが」と言っている。家格などは気にはしていないが、考えてみれば、公爵と言っても王族なのだレオン一家は。

 ドリュー・ノーズランド。ノーズランド王国の第五子。身長が百八十センチもある。魔力も多そうだ。

 本人は背の高さを気にしているようだ。女性で百八十センチもあればそうだろうが、バスも百九十センチと背が高い。丁度良いのでは無いだろうか。

 お茶会を開いて、バスティアンと顔見せをすることにした。

 眼鏡を掛けたドリュウはにこやかに挨拶してきた。

「私、家族の中で一番背が高くて、恥ずかしかったのですが、ここに居れば気になりません。ホッとしますわ」

 意外と朗らかな女性だ。サラは好感を持ったようだ。

 バスティアンも、最初の印象とは違っていたようだ。直ぐに打ち解け、二人で何やらこそこそ話している。

「これで、決まりそうね」

「ああ、良かったよ。まさかあのバスティアンが、女給と結婚したがるとは思わなかった」

「若気の至り、でしょうね。でも、私、モナーザがもっと違う、普通の方だったら、反対はしなかったわ。バスがそれで良ければ何とかなったはずだもの」

「……」

「レオンたら。自分の若い頃を忘れて居る。私だって本当は貴方と結婚出来るような身分では無かったのよ。国の事情で婚約者になれただけだったの。忘れたの?」

「そうだったかな。だが、私は恵まれていた。面倒な国王にもならなくて済んだし」

「ヘェ、でも、貴方は今国王よ。雑用ばかりの国王だけれど」

「そうだったな……」

 レオンは苦笑いをするしかなかった。

 バスティアンの婚約はトントン拍子に決まり、何とかバスティアンのことは片づいた。

「バス、私達はまたウーノ国へ行くが、何かあったら、きちんと連絡してくれ」

「はい、ありがとうございました。父上も母上も忙しいところ済みませんでした」

「良いのよ、何時でも連絡してね。転移で直ぐに来られるんですもの」



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