14 ダンジョンの魔物
「黙ってダンジョンに来るとは。リック! 何て危険な事をするんだ」
「そうよ。ダンジョンに来たかったら、私に言えば良かったのに」
「でも、母上は何時も忙しいじゃぁ無いか。そんなことは頼めないよ。父上だって忙しいし……」
「そんな……そうね。確かに貴方を放っていたわね。何年もダンジョンへ行きたがっていたのに。ごめんねリック」
「あの……・私が付いてイマスカラ。心配はいりませんよ」
「ああ、巫女様。こんな馬鹿な考え無しの面倒を見て貰った。礼を言う」
「いえ、コチラコソ、ゴードン様に助けて頂いたのです。ささやかな恩返しデス」
巫女と暫く話をして、レオンはやはり忙しい身だ。「祭りの準備がある」と言って、王の棟へ帰っていった。しかしサラは残った。
「じゃあ、転移が使える様になれば帰れるのね。私が協力するわ」
サラは巫女の赤ん坊を抱き上げ、リックが名付け親だというと喜んでいた。可愛らしい名だと言って何度もルーナの名前を呼んでいた。
赤ん坊なのにもう言葉が話せるのを見てびっくり仰天もした。
「実は、私も以前からダンジョンへ来たかったの。ゴードンが倒したクラーケンを倒したかったのよ。ゴードンったらドロップアイテムを取ってこなかったんですって。勿体ないでしょう?」
「私もご一緒してもイイですか?」
「勿論。でも、ルーナはどうするの?」
「一緒に連れて行きます。この子のためでもアリマスから」
リック達は、まず、蟹の魔物を周回して何度も倒した。巫女や、ルーナのために。
ドロップした物は、蟹の甲羅だ。サラは
「これをどうすれば良いの?」
と困った顔をして居る。
「母上、ゴードン叔父さんが持ってきたエビのハサミは防具になったそうです。これも防具に加工できるのでは?」
「そうかもね。取り敢えず取れるだけ取っていきましょう。ゴードンの異空間が使えれば良かったのに。そうすれば蟹の美味しい身が手に入ったかも知れないわ」
「イクウカン? 何でしょう、ソレハ」
「空間を切り取る魔法だそうよ。時空間収納とは違うらしいけれど、私には出来なかった。リック試してみて」
「……はい」
転移が欲しかったリックだが、母の勢いには逆らえない。だが、何度か試してはみたが無理だった。全くイメージが出来ないせいだ。もう諦めた方が良いだろう。
まず巫女が一メートル転移が出来る様になった。その後暫くしてからリックも転移が出来た。
「じゃあ先に進みましょう。これからは大変な討伐になるわ。皆で力を合わせて遣り切りましょう!」
サラが気炎を吐く。ルーナも、
「ガンバリュ!」
と可愛らしく拳を突き出した。だが、ルーナは見ているだけにして貰う。これ以上は危険だ。もう少し大きくなってからだ。
途中で出てくる魔魚は無視をする。皆、影渡りをして次の大きな部屋に辿り着いた。
「ゴードンが言ったとおりだわ。凄く大きい空間!」
「母上! 何ですかあれは?」
「クラーケンでは無さそうね。まるで頭でっかちの鮫のようだわ」
大きな魚? 二十メートルはあろうかという魔物が、広い空間の中を悠々と泳ぎ回っている。水も無いのに、ダンジョンとは不思議な空間だ。魚にしてはバランスが可笑しい。頭が身体の三分の一を占めている。
サラが言った鮫に似た魔物は素早くリック達めがけて突進してきた。口の中には鋭い銀色の歯がビッシリと生えて居る。三角形の歯は剣のように鋭く、ギラリと輝いていた。
しかしサラの張った結界に阻まれて、途中で引き返していく。
「巫女様、今度こっちへ来たら雷を試してみて」
「はい」
魔物がグルリと空間を回りまたこちらにやってきた。巫女の放った雷魔法に当って、一瞬動きが止ったが、効いてはいないようだった。そのまま突進してきた。
リックは土の槍を出して、魔物の口めがけて放った。
だが、丈夫な歯に阻まれてしまった。
「確か、鮫は、動いていないと死んで仕舞うという特性があったように思う。闇の投網を試してみましょう。動きが止ったら、リック、鮫の鰓に土の槍を突き刺して!」
鮫がこちらに向かって来たと同時に、特大の闇の投網がサラから放たれた。
魔物は暫くジタバタとしていたがその内に投網に絡め取られて動けなくなって地面に落ちてきた。
鮫に影渡りで近寄り、鰓めがけて大きな土の槍を突き刺すと、魔物はキラキラとし始め、消えて仕舞った。
それと同時にリックに大量の魔力が押し寄せてきた。魔力器が硬直し始めたリックは、転移をした。何度も何度も転移をしてやっと硬直が収まった。気付けばリックは王の棟に来ていた。
「リック! 転移してきたのか。サラはどうした?」
だが父の言葉に応えることが出来ないほどフラフラになって、リックはまた気絶してしまった。
残されたサラは、
「何処へ転移したのかしら。まあ、大丈夫でしょう。巫女様、今度は貴方のレベル上げを手伝うわ」
「……いいえ、私はゆっくりレベルを上げることにシマス。とてもでは無いけど、ココは今の私には無理です」
「そう? それなら、私は息子を探しにいったん帰ります。じゃぁ、またね」
そう言ってサラはレオンの待つ王の棟へ転移した。
サラが帰るとレオンはリックがここへ転移してきたことを話した。
「良かった。ゴードンみたいにヤーガイへは行かなくて。リックは?」
「魔力切れで気絶してしまった。今は部屋で休んでいる」
「そうなの。で、レオンこれがドロップした物だけど、こんな物、役に立つかしら? ゴードンみたいな宝箱で無くてがっかりだわ」
「なんだ? 三角の剣か?」
「魔物の歯よ。ステンレスに似ているわね」
「すてん・・・何だって?」
「あっちの世界の金属の合金よ。さびにくくて丈夫なの」
「サラ、もしかして……これは、滅多に無いミスリルでは無いか!」
「え? ミスリルって珍しいものなの? 魔法世界には普通にある物では無かったの?」
「滅多に見付から無い希少な金属だ。ほんの少しでも凄い金額になる。それがこんなに……」
レオンの目の前には大小様々な魔物の歯が二百本ほど無造作に積み上がっていた。
魔物の歯は鋭く、そのまま刃物として使えそうだ。レオンは早速街の鍛冶屋へ一番小さな歯を持ち込んでみた。三十センチほどの大きさだ。
「王様、これは……!」
「ああ、我が王族に伝わるミスリルだ。これを短剣にして貰いたい。息子にプレゼントしようと思っている。残りは持ち帰るから」
「へい、任しといて下さい。鍛冶屋冥利に尽きますぜ。こんな貴重な物を扱えるなんて、夢のようだ」
鍛冶屋はレオンの見ている前で重量を量って見せた。不正などしないという意思表示だろう。
レオンはこのほかにも大量にあるなどとおくびにも出さない。万が一この事が知られれば、ダンジョンは注目を浴びてしまうだろう。そうなれば、巫女やマーラが居場所を無くす。
「困ったな。残りの魔物素材をどうやって剣に加工しようか。ヤーガイへ持って言った方が良いか?」
ヤーガイ王室にもミスリルの短剣がある。代々伝わる国宝だ。今はダンカンが持っているはずだ。ダンカンに言って何とかして貰えれば良いが。
マーラは、待てど暮らせど帰ってこないリックのことを心配していた。
「魔物にやられてしまったノカ?」
自分は洞窟の奥へは入って行くことが出来ない。何度か魚人を行かせてみたが、魚人達も帰ってこなかった。
「折角見付かった番が、死んでシマッタ」
仕方なくセントラルベイへ行ってみることにした。ニルが何か知っているかも知れない。だがそれは望み薄だろう。
ニルには知らせていなかったし、洞窟にずっといて見張っていたのはマーラだ。あれからリックを見ていないのだ。
湾には大きな船が何艘か停泊している。近づけば見付かってしまいそうだ。
獣人に慣れている人間でも、マーラを見れば騒ぎになるかも知れない。誰か獣人が居ないかとみていたが、知っている獣人が見つからない。祭りの時期で余りにも人や獣人が多すぎる。一人寂しく、また洞窟に戻るしかなかった。
洞窟に帰って、暫く鬱々としていた。すると洞窟の奥の方から、誰かがやってくる気配があった。
「ッ! リック?」
「こんにちは。貴方がマーラさん?」
「ああ、そうだが、お前は? 変わった獣人だな。始めて見る顔だ」
「私は獣人では無いわ、巫女よ。マーラさん、リックはここへはもう来ないわ」
「リックは生きているのか! 良かった……」
「貴方はリックのことをどうしたいの?」
「リックに番になって貰いたいと思っている」
「何故? リックは嫌がっているわよ」
「嘘だ! リックはアタイに優しくしてくれる。番にだってなってくれるはずだ」
「リックは、言っていた、貴方は大切な友人だけれど、身体に触られるのはいやだったそうよ」
「……それは。いくら誘ってもリックが気付かないから……つい」
「マーラさんには他に似たような種属はいないの?」
「居ない。アタイだけなんだ、こんなのは」
「そう、寂しかったのね。私も同じで種属が少ないの。私で良かったら、友達になるわ。だからリックのことは放って置いて欲しいの。如何かしら」
「……それでも良いけど。でも、リックのことは好きだ。リックとも友達で居たい……」
「友達で居たかったら、身体に触ったり、おかしな事を要求はしないで。そうすればリックはまたここへ来るはずよ」
「本当か? リックがまたここへ来てくれる?」
「ええ、私から言って置いてあげましょう。リックから貴方のことを聞いてもしかしてと思ったの。貴方は子どもが欲しかっただけでは無いかと。でも、人間には魅了を掛けないと、私達は避けられてしまうわよね」
「アタイは魅了が使える。でもリックには効かない」
「人間と番いたいだけなら、私の島にいる人間は如何かしら。ここからは随分離れて居るけれど、あそこには私の村人がいる。行って見る? 彼等は私達に危害を加えないから」
「……そうする。ここは暫く留守にする。リックに伝えてくれ」
「ええ、同じ種属が生れれば良いわね」
「……」
「これを貴方に授けます。この球は、夜だけ人の姿になることが出来ます。ほんの少しの間だけ」
「! こんな物があるのか。ありがとう」
マーラは小さな虹色に輝く球を大事に抱え、洞窟から去って行った。
可哀想な人魚を見て、巫女は、秘伝の術を施した哲学者の石をマーラに与えた。呪いと似ている術だが、効果が限定されている。だがそれを作るには、やはり生命力を吸い取られるのだ。
光と闇の融合術。呪いの本質。生命の改竄。
「どうせあと少し、子どもが大きくなるまで生きられれば良いのだ。私の一族の使命は意味が無くなってしまった。後はルーナがここで幸せに暮らしてくれればそれで良い」
ゴードン達のお陰で生き延びることが出来たのだ。これで恩を返せただろうか。




