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獣人の国  作者: チャロ吉
13/37

12 ゴードンの子ども

 移住者達は数十回に分けて、船でやってきた。

 殆どが元農民や、商人や冒険者だが、中には錬金術師などの希少な力を持った者もいる。希少な力を持っている人々は、ヤーガイ国王から指名されて、来ているのだ。ダンカンはレオンの国を手助けしてくれている。

 農民を続けたい人には、森の近くの土地を与えた。彼等は森の近くに家を建て暮らしている。結界のお陰で魔獣は滅多に出ないが、それでも角があるウサギとかモグラは偶に迷い出る。 獣人達の農民と親しくして対処法を聞いているようだ。獣人達にとって森の近くに出る魔獣などそれほど脅威では無い。

 建国を宣言して、一年になるが、エルドラドの他の国からは反応は無かった。最早、国として機能していないようだ。

 エルドラドにあった、人間の国は末期だったと言うことなのだろう。


 セントラルベイは大きな都市だ。中央の神殿。それを取り囲む獣人議員の屋敷街。

 中央区は、まるで人間達の貴族街のように見える。議員街の外側には、高級宿やマンションが建ち並び、そこには移住してきたヤーガイの大店主の屋敷が軒を並べている。

 商店の外側は、グルリと大きな広場になっていて、そこには以前騎士や男爵などの屋敷が建っていたらしいが、傷みが激しかったため総て取り壊して木々が植えられて、公園のようになっている。

 その広場を抜けた地区が中区と呼ばれている。ここは中央区と違い、途端に庶民的な町並みに変わっていく。以前あった建物は全くない。土台を残して、総て新しく建て替えられていた。

 中区には移住してきた人間が多く住んでいる。殆どが職人やその家族だ。ここにも商店があるが、ここの商店は、外縁に住む獣人達が頻繁に利用している。

 ここはセントラルベイ一番の繁華街だ。軒先に出店を出していたり、呼び込みが居たりと、賑わいを見せている。 

 この街の道路は広く、石畳は滑らかで歩きやすい。そして何と言っても夜の賑わいだ。深夜でも道路は明るい。魔道灯が煌々と惜しげも無く照らしているためだ。

 その為、この頃は、住まいを外縁地区に構える人間達が出てきた。獣人達の住まいは静かだ。彼等は夜目が利くため、魔道灯は必要ないと言って主要な物以外殆ど消している。

 彼等の集落の側に人間達が散らばるように住んでいる。

 小型獣人達と人間の間に確執は無い。寧ろ、お互いリスペクトしあっているようだ。

 人間と獣人達は、家庭を作る者が居るが、彼等の間に生れる子どもは、五割は獣人として生れるようだ。

 レオンは彼等の子どもに鑑定を掛けた。

「デパーズ老、どうですか?」

「不思議なのだが、人間は何も変わらないようだ。獣人もそのまま。彼等が兄弟とは考えられないくらい種属に隔たりがある」

「と言うことは、子が家庭を持っても、人間同士では普通に人間が生れると言うことになりますか?」

「そうなるであろうな。獣人同士では必ず獣人が生れる。どのような仕組みかは全く分からないが」

 レオンは、巫女の子どもとは違う、と思い至った。獣人と番えば、総て獣人になると考えていたレオンだった。

 巫女の子どもは、人間と番っても必ず巫女として生れる。体格や、髪の色という僅かな違いだけが、父親から受け継がれ、大本の性質は巫女なのだ。

 大型獣人に対しては、人間も怖いと思うのか、余り近寄りはしなかった。彼等と人間との子はどうなるか、まだ研究対象がいないので分かっていない。

 冒険者ギルドのギルド長も、獣人と結婚した。彼の子どもは、双子で人間と獣人が生れた。

 レオンにとっては、恰好の研究材料となっている。

 母親は、羊獣人だが、子どもは人間の男の子と、ネズミ獣人の女の子だった。

「この街では人間でも過ごしていけやすが、森には行けないでしょうな。オレの坊主は」

 人間にとって森は苛酷な環境だ。もう一人の子どもは小型獣人だが、それでも人間よりは強い。毒に耐性があり、自己治癒能力も備わっている。だが、リックの例があるため、人間は鍛えれば毒耐性は付くのだとレオンは教えてやった。

 光魔法がその度に必要になるが。その内効果的な毒耐性の取得方法を確立しなければならないだろう。


 獣人達は身体が強いため治癒師や薬師が必要なかった。レオンは人間の住民のため治療院を作ろうと思っている。

 人間にとって必要なものだったが、治癒師や薬師は本国でも希少だ。その為移住者の中には見当たらなかった。

 何かあれば、サラに頼るしかない。サラはその為とても忙しい。人間の病人や怪我人が絶えずサラの元を訪れるからだ。

 レオンはデパーズ老に鑑定して貰って、人間の中に魔力持ちが見付かれば、積極的に光魔法を教え込んでいる。そして錬金術も。薬学も。

 移民達は自分に魔力があるとは思っていなかった。鑑定して貰わなければ、魔力器が有ることは分からない。また、魔法の使い方を習わなければ、魔法は使えないのだ。

 レオン達が住んでいる中央棟は名前が変えられ、王の棟と呼ばれるようになった。

 王の棟では、薬学や、錬金術、光魔法をレオンや、移住してきた錬金術師、鑑定士のデパーズ老が教えている。デパーズ老は魔力は無いが知識は持っているのだ。

 王の棟はサラの治癒院にもなっている。

 セントラルベイではレベル上げが容易に出来る。森には強い魔獣が沢山居る。そして獣人達に護衛を頼めるからだ。

 レベル上げのための護衛は、七級冒険者の良い稼ぎになっている。魔獣を半殺しにして、とどめを刺させる仕事だ。  これは、レベルを上げるには効果的な方法だった。

 初級の冒険者にとっても美味しい仕事だ。仕留めた魔獣は冒険者のものになるし、おまけに護衛料まで出るのだ。

「セントラルベイの人口は十万人くらいですかな?」

「そんなになるか?」

 元々このセントラルベイには百万人が収容できるほど巨大だ。その為ここに居る人達の人口が少なく感じていたのだ。

 人間の移住者は当初四千人くらいだった筈だが、今では一万人に膨れ上がっている。その他が獣人で、人間は十人に一人の割合だと言うことだ。

 二週間後に建国一年祭がある。今後はこの時期に開かれる、国を挙げての恒例の祭りになっていくだろう。

 この時には森に住む獣人達が集まってくるだろう。そうなればこの時期は人口が五倍以上に膨れ上がるかも知れない。


 南の国は崩壊した。今はそこを取り仕切っている王や貴族はいない。銘々勝手な人間の集まりと化し、獣人達は総て南の森に隠れ住むようになっている。

 国が崩壊しても人々の生活は続いていくが、国の機能が失われたため経済が崩壊し、苦しい生活になっているようだ。

 通貨が機能せず、物々交換に戻ってしまったようだ。

 農民が以前と変わらず、比較的安定した暮らしをしているが、そこを狙って野党が頻発しているという。

 南の国とセントラルベイは船で二十日以上掛かるほど離れて居るが、絶えず、獣人達が森を抜けて情報を仕入れてきてくれる。

 人間の集落には依然として獣人の子が一定数生れているが、殆どが始末されているようだ。

 南の森の獣人達が、セントラルベイを真似て、建国しようとしているらしい。

 南の森にも廃墟となった遺跡があるようだ。そこを国の中心にするようだ。

 だがセントラルベイとは違い、あそこは魔力がそのままになっているはずだ。ここほど魔力が濃くは無いとは言え、人間には住むことが出来ない。街の中には魔獣が跋扈しているだろう。

「獣人の国なのだ。問題は無かろう?」

 ゴードンはそう言うが、南の遺跡はどうやら昔は西の玄関と呼ばれていた港湾都市だった場所のようだ。

 西回りで他国の商船が南の大陸エルドラドを目指す事があれば、必ず立ち寄る事になるだろう。

 もし、人間がそこに行けばどうなるか? ここと同じにはならないはずだ。

 南の獣人達は人間を敵視しているらしい。人間を捕まえて奴隷にしてしまうかも知れない。そうなれば、北の大陸の人々は獣人を魔獣や魔物だと言って、忌み嫌うようになるかも知れない。

 一人考え込んでいると、ゴードンが、何となくソワソワして、何か話したそうにしている。

「ゴードン、話があってここに来たのだろう? ヤーガイで何か問題でもあったのか?」

「いや、ヤーガイは問題ない。実は、子が孵った」

「? 孵ったとは……巫女の卵か!」

「ああ、そうだ。それで困っている」

「巫女が育てると言っていたが、ダメになったのか?」

「巫女の卵から、三人生れた。一つの卵は問題なく巫女が生れたのだが、もう一つは双子として生れ、一方は巫女では無い」

「と言うことは人間に?」

「いや、そうとは言い切れない。目は普通にあったが、額にもう一つ目がある。全部で三つ目があると言うことだ。そしてその子は男の子だ。巫女は驚いている。こんな事は初めてだと言って、困惑しているのだ」

 本当に初めてなのだろうか? 巫女は女の子しか生れないと言っていたが、実はごく稀に男の子が生れていたのでは無いのか? そうなれば、生物学的にも納得できるでは無いのか?

「巫女は育てられないと言ったのか?」

「いや、喜んではいるのだが、男の子をどのように育てれば良いのか悩んでいるのだ。だから私が……一緒に育てようと提案した」

 ああ、そうか。ゴードンは今ダンカン王の補佐をしている。その職を放棄する嵌めに陥ったと言うことか。

「ゴードン、もうダンカンは独り立ちしてもいい頃だ。側近達も育ってきたのだろう? 親離れさせてやれ」

「そうか! そうだな、そうしよう」

 そう言ってゴードンは瞬く間に転移して行ってしまった。


 数日してニルが王の棟へやってきた。

「リックはいますか? このところ会えなくて……」

「え? 僕は、リックはニルと森へ行っていると思っていたが……ここには何日か帰ってきていない」

「ドウシヨウ。困ったな、若しかすると、マーラと一緒かも知れない」

「マーラと? では岸壁に行って見れば良いのでは?」

「……それが、ずっと前にリックはマーラと同じ身体になって海に入ってイタンダ。それからは度々マーラと一緒に居る。だから、洞窟へ行ったのなら、オレにはイケない」

「洞窟? マーラが住んでいる洞窟か……ダンジョンへ行ったと言うことか!」

 もう直ぐ建国祭があるという忙しい時期に差し掛かる。しかし、息子を放っては置けない。サラと二人ダンジョンへ転移した。

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