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獣人の国  作者: チャロ吉
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11 初のギルド

「この分では商業ギルドが即急に必要だな」

 リックの活躍で、大型獣人が街に早々と受入れられるようになった。大型獣人の代表者が街の中心地に住居を構える様になった。

 彼等は、議会にも参加する。中心部には大きな建物が多かったため彼等には丁度良かったのだろう。

「父上、冒険者ギルドは? 必要ではありませんか?」

「何だ、リック。冒険者ギルドに入りたいのか?」

「はい、僕の昔からの夢でした。冒険者になるのは」

「そう言えばそんなことを言っていたな。そうだなこの際作ってしまうか」

 ルーベンス領から付いてきた冒険者をギルド長に据えて冒険者ギルドを設立することになった。

 獣人達にとってはギルドなど初めての物だ。実力は凄い物があるが、ギルドの運営は分からないことだらけだろう。

「おいらがギルド長でやんすか。何だかこそばゆいです」

「君しかいないだろう一級冒険者は。ヤーガイのやり方を踏襲してくれれば良い。そのままで構わないだろう」

「冒険者証はどうしやす? あれは、特別なインクで書かなければダメな奴ですよ」

「ああ、僕が考えた魔道具の腕輪を使う事にしよう」

「魔道具! そんな物、予算が・・・・」

「大丈夫だ。ここには魔宝石がタップリあるから、直ぐに用意出来る。取り敢えず一千個作っておこう」


 試作品の魔道具の腕輪には、本人の血を登録しておけば盗まれても再利用はされないし、倒した魔獣をカウントするシステムが取り付けられ、ある程度貯まれば色が、鈍色から黄、緑、青、紫、赤、金、と自然と変わる方式だ。

「無駄にハイテクノロジーね。これ、買えばものすごい金額になってしまう、レオンやり過ぎよ。貴方がいなくなれば困るのは後世の人達よ。もう少し簡単な物にしたら? せめて小金貨一枚程度で出来る物にして頂戴」

「そ、そうか?」

 カウントは人の手で行うことになった。ギルドに設置した魔道具に通して色が変わるという簡易の魔道具の腕輪にした。これなら一部の魔法使いに作れるだろうし、世の中には知られていない技術だから、不正は出来ない。

 七級が初級の冒険者になるが、ここでは、初級からでも腕輪は与えられることになった。登録料は小金貨一枚。千オロということになる。これくらいなら、紛失しても問題なく買い換える事が出来る。ただし、カウントはゼロからのスタートに戻ってしまうが。

 商業ギルドや冒険者ギルドは中央と街の外縁の中間に置くことになった。ここは中区と名付けられ、まだ、殆ど人がいないこの場所には、食事何処、宿屋やアパートも作る事になっている。

 リックとニルは早速登録した。

「ここに魔獣を持ってくれば解体もしてくれるんだね」

「そうだ、ここには肉処理場も併設されているから」

 貸し出しの魔法鞄も冒険者ギルドには沢山置いてあるが、殆どの冒険者は、自前の物を持っている。レオンが大盤振る舞いで、皆に作ってあげたせいだ。

 獣人達は魔法鞄がどれほど高価な物か、まるで分かっていない。だが、とてつもなく便利な物だとは思っていた。

 冒険者の多くは大型獣人だが中には小型種の獣人もいた。

彼等は身体強化や気配察知などの技能持ちだ。大型種のパーティーに一緒に入って活躍している。

 その姿を見て、竜人のボナンは目を潤ませている。

「小型種が、怖がらないで竜人と一緒に居るようになるとは……」

「ボナン、そろそろ貿易をし始めてもいい頃では無いか?」

「貿易とナルと、人間がこの地に来る事になりますな。即急に細かい法の整備をシマセントな」

「それもそうだが、湾内の廃船の片付けも必要だ。マーラは嫌がるだろうか?」

「この頃は、マーラも寂しくないようで、随分落ち着いてきマシタ。何時もここに人がいて話せるのが嬉しいようですが、彼女の住処がなくなるのは困るデショウナ」

 セントラルベイにアクセスするには今のところ海からしか無い。森が蔓延る前には道があったはずだが、無くなってしまった。普通の人間が森を抜けてセントラルベイに来ようとは考えられないだろう。

 貿易と言っても、殆どがヤーガイとなるのでは無いかとレオンは考えている。

 その為通貨はヤーガイと同じ金の含有量にした。以前立ち寄った街で使用している金貨は、ヤーガイよりも金の含有量が多く、悩みどころだった。ゴードンは、

「他の国と言っても今では国として機能していないでは無いか。このままで良いと私は思う。調べてみたが、この大陸の冶金技術は低い。金貨によって金の含有量がまちまちなのだ。それでは通貨の価値が定まらないでは無いか」

 そう言っていたのだ。どうやらゴードンは知らない間に調べて廻っていたようだ。

 ゴードンのこの言葉で、レオンの心は決まった。

 ヤーガイの金貨は、北の大陸で信用されている。ヤーガイ国は長い間低迷はしていたが、それでもヤーガイの通貨は北では普通に使えていたのだ。百年以上前は、世界一の大国だったのだ。腐っても鯛と言うことなのだろう。

「ただ、ヤーガイの船がここへ来るとなると、海図を公表しなければなるまい。どうする?」

「今のところ東の航路しか使えない。西回りでは他の国へ行くか、大回りになる筈だ。公表して構わないのでは?」

「南の大陸に、海図無しで来るとなれば、最短航路を選ぶはずだ。そうなれば必ず魔女の諸島の海流に掴まって座礁してしまうしな」

「他国に知られるまでは、ヤーガイ国の一部の商船だけと取引することにする。ここまで来てくれればだが」


 マーラに話さなければなるまい。彼女のテリトリーを奪って仕舞うことになるが。

「良いよ、ココに船が来るんだろ。廃船は魚人にカタヅケサセル。アタイが手伝ってやる」

「君はこれからどこに住むのだ? ここに人が来るようになれば、危険では無いのか?」

「リックに聞いたが、ここから少し行けば、良い洞窟があると言っていた。そこに住むことにした」

 ダンジョンの洞窟のことか。リックが教えたと言うが、いつの間にリックはマーラと知り合ったのだろう。

「君はまた一人になってしまう。それでも構わないのか?」

「大丈夫だ、アソコニハ友達が……来てくれるトイッタ。問題ナイ」


 港は魚人達のお陰で大型の船も問題なく入港できるようになった。港の近辺の獣人の集落には、簡易の宿泊所が作られ、酒場のような物まで出来ている。

 獣人が作る酒とはどのような物か?

 南国であるこの森には、糖度の強い植物が繁茂している場所があり、その植物を絞った物が甘い蜜になる。これは獣人の間では隠れた楽しみとなっているようだ。絞りかすを集めて発酵させた物が酒になる。獣人達はジュース代わりに飲んで居る。僅かなアルコールでは、獣人達には効かないのだ。

「この植物には毒が無いようだな」

「サトウキビに似ているわ。砂糖の原料よ! だとすれば、絞りかすで作ったこのお酒を蒸留すればラム酒になる筈」

 サラの知識で蒸留してみると、かなり強い酒になった。

 レオンにとってもアルコールは効かない。サラに試して貰うと少しの量でフラフラになってしまった。

「僕の国の酒とは味わいが違うな。麦で作るアルコールには無い旨みがある。これを求めて商人達が来てくれる筈だ」

 この国の特産品は、砂糖とラム酒、魔獣の素材と魔獣の加工肉になる。金銀の鉱物資源も豊富だ。何せ、河原へ行けば大粒の砂金が直ぐに見付かるのだ。だがそこは深い森の中。竜人で無ければ征く事が出来ない場所だ。

「金のことは秘密にした方がいいわ。金を廻って争いが起こるのよ。土地も荒らされてしまう」

 サラの世界の事だろうが、金に目がくらむのは何処でも同じだ。勿論竜人だけの秘密にして貰っている。

 銀は露天掘りの為、皆に知れ渡るだろうが、それくらいなら仕方が無い。

 レオン達が転移で移動するため、他の人には知られる恐れは無いのだ。ヤーガイから連れて来た鋳造士にも場所は分からないだろう。

 例え分かったとして、たかが人間に竜人とやり合えるはずも無い。金は竜人の大きな力となり、ひいては獣人達の共有財産となる。

 この体制が確立されれば、ひとまずレオンの仕事は終わりとなるだろう。後は獣人達に任せようと考えている。

「ここまで来るのに三年か。後は偶に闇の収斂をしに、ここに来るだけでいいのでは無いだろうか」


 だが、大陸の南方は獣人の奴隷達が反旗を翻し、人間に対抗し始めた。人間と獣人の間で諍いが絶えなくなっていった。獣人のレジスタンスは、人間の町に度々攻撃を仕掛け、奴隷を解放して連れ去っていく。人間が対抗しようとしても森へ逃げ込んでしまう。

 まだ圧倒的に人間の人口の方が多いのだ。獣人に対する感情は、更に悪くなっていく。今まで奴隷だと下に見ていた獣人が、選民意識のある人間に反抗し始めたのだ。そのうち、獣人を見れば、悪魔だ魔獣だと言ってジェノサイドが始まる恐れがある。

「これは余り良くない方へ向かっておりますな」

 鑑定士のデパーズが報告書を読みながら、難しい顔をして居る。

「今、南の諸国にウーノ獣人国の建国を宣言すれば、このセントラルベイは、人間から目の敵にされるな」

「レオン、ここに領地から移住者を入れてみない?」

「サラ、何故そんなことを?」

「ここは人間も住んでいると言うことをアピールするのよ。国王も人間だわ。そうなれば、人間達からの余計な悪感情を防げるのでは?」

「しかし、獣人達が何というか……ボナン、君はどう思う?」

「そうですな。レオパルド王の領民なら、獣人を奴隷扱いはしないデショウ。いいのでは無いですか? 取り敢えず議会に提案してミマショウ」

 議会の承認を得て、ルーベンス領と王都から希望者を募った。主に鍛冶屋や、商人、魔法を使える冒険者や、錬金術師、鑑定士、土地が欲しい農民。木工職人や石工職人、服飾関係の者、船大工、料理人など、多種多様な職業の領民を募集した。

 だが、以前こちらに進出したいと言っていた貴族達の希望は退けた。

「貴族など、ここには必要のないものだ」

 その結果、千五百人ほどが希望者として集まった。彼等は家族で来る者が多いため、さらに人数が膨れ上がるだろう。

「人間の移住者には、街の中区に住んで貰う」

「中区は、職人と商人の区域となるということですか。今までこの街に足りなかった物が漸く出来上がりますな」

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