表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人の国  作者: チャロ吉
11/37

10 リックとニル

 ニルの部落まで、何度も魔獣を倒しながら進んで行った。

 何と、リックはこの数日の間に、光の属性まで獲得することができた。レオンがリックの真剣さに心を打たれ、

『これは、今のうちに協力しなければダメだ』

 と考えたお陰だ。余りにも、家族を放って置いた罪滅ぼしでもあった。

 「一日だけではダメだ」

 一日レベルを上げ、夜になってレオンは転移をして、一旦中央棟へ帰る。問題が無いことを確認し、そしてまた森へ転移でニルとリックをつれてくる。を繰り返し、リックのレベル上げに協力したのだった。ニルは、

「オレの事は森にオイテイッテモ大丈夫だ」

 と言ったが、リックがそれではダメだと言って聞かなかった。

「転移は、一人が増えても問題ない。それよりリックの友達に何かあっては、リックが哀しむだろう」

 レオンはそう言って中央棟と森を何度も往復したのだ。

 夜はリックの部屋でニルと二人、兄弟のように過ごした。二人はそのお陰で益々仲良くなっていった。

 一週間して、やっとニルの部落に着いた。

「リック、街へ行ったらまたアオウナ」

「ああ、ニル。でも、ニルは街に住めばもっと一緒に遊べるのに。街へ来て住まないか?」

「俺が街へ行けば、獣人達は怖がってしまうんだ」

「だったら、僕がここに住む」

「……リックには無理だ。クイモノに毒がアル」

「大丈夫、光魔法が使えるようになったんだ。自分で直せる」

 中々リックは頑固だった。レオンは暫く考えてから、

「では、これを置いていくか。何かあったらこれで連絡してくれ」

 レオンのトカゲのゴーレムを、リックに預けた。リックは今大事な友情を育もうとしている。邪魔をしたくは無かった。

 街へ転移してサラにその事を報告すると、

「リックの猫獣人の友達! 凄い事だと思うわ。何かあったら、私が行く」

 光魔法が使える、サラの方が適任だろう。

「サラのゴーレムも置いてこようか?」

「ええ、お願い」

「でも、サラ。心配では無いのかい? 獣人と言っても大型のトラやライオンや豹が沢山居る部落だぞ」

「レオンが見て大丈夫だと判断したのでしょう。だったら問題ないわ」

 サラは全く気にする様子は無かった。「可愛い子には旅をさせよ」を実践することに決めたようだ。

 翌日、レオンは食物を持って猫獣人の部落へ転移した。

「父上、どうしたのですか?」

「ああ、サラのゴーレムを持ってきた。何かあったらサラが来るそうだ。それと食べ物が必要だろう?」

「それなのですが、僕はここの食べ物を食べて見たいんです。父上のように毒の耐性を付けたいと思って」

 毒の耐性は、付くのだろうか? レオンは途端に心配になった。

「リック、無理をしてはいけない。ゆっくりやるんだ」

「分かっております。死にたくは無いですからね。ヒールを掛けながら少しずつ試します。実は夕べ試しました」

「そうか……」

 後ろ髪を引かれながら、レオンは村を出ることにした。


「リック、昨日のことを内緒にシタンダナ」

「心配掛けたくなかったからね。でも死ななかった。大丈夫さ」

 ニルは、リックが昨日自分と同じ物を食べて苦しんでいた姿を見ていた。ニルにはリックのことが理解できない。

 何故そこまでするのか。美味しい人間の食い物があるのに、態々、苦くて不味い獣人の食い物を食べたいのか。

「さあ、ニル。魔獣を倒しに行こう。レベルをもっと上げないと!」

 二人はそれから数ヶ月の間、森で魔獣を狩って過ごすことになった。

 度々サラが様子を見に来たが、リックは素っ気なく

「何も問題は無いんだ。母上は他にもやることがあるんだろう。何かあったら僕から連絡するから」

 そう言ってサラを追い出すようなマネをする。サラは素直に、

「そう、分かったわ。じゃあね」

 と言って直ぐに引っ込むのだった。

――リックは反抗期に差し掛かっているようだわ。

 サラはそう独り言ちた。

 

 リックは何時も自分には得意とする物が無いと感じていた。

 兄のバスティアンは努力家で、両親に信頼されている。公爵の地位にも早々と就いた。

 ――弟のダルは、魔法の才能がある。それに比べて、自分は何も父上や母上の役に立てない人間だ。自分が出来ることとは何だろう?

 何時もそう考えていたのだ。だが、この獣人の国へ来た時、リックはここには自分の世界があると感じたのだ。

 ここの土地に馴染み、ここの人々と共に生きていくことが自分の使命だと感じたのだ。

 父が国王だからと言うことでは無く、両親がこの土地のために力を尽くしている姿に感銘を受けたのだ。

 何も見返りを求めず、ただ獣人達のために尽くしている父親が誇らしかったし、母親がそんな父親に信頼を寄せているのも好感を持ったのだ。

 リックはここで生涯を過ごしたいと考えている。

 魔法大学には全く興味が沸かない。リックはここに冒険者ギルドを作って、魔獣の素材を北の大陸へ売ればここの国の経済の足しになるのではとも考えている。

 魔獣の肉は何処でも厄介者扱いになっている。素材を獲った後は、燃やすか埋めるしか無い。だが、こんなに大量に採れるのは魔獣が際限なく増え、そして大型だからだ。魔獣の肉を捨ててしまうのは勿体ないでは無いか。

 そう言う考えの基、魔獣の肉の毒を消す方法を模索してもいるのだ。リック自身の身体を使って、実験しているとも言う。

「魔獣の肉は確かに苦いが、毒を取り除けば、普通の肉よりも柔らかくて旨みがある」

 自分の身体で毒の具合を調べているが、この頃は毒に当る事が無くなってきた。

 毒を取り除くには一度干す。乾物になった肉をたっぷりの水で戻す。水を何度も替えなければならないが、手を掛ければ美味しい物が出来上がる。然も、魔獣の肉は毒のお陰で日持ちがすることが分かった。これは保存食に最適では無いだろうか。

 部族のみんなにも試食して貰って居る。以前は干した肉をそのまま囓ったり、生肉をそのまま食べていた部落の獣人達。魔獣の肉は毒のせいで、焼けば燃えてしまうためだ。毒を取り除けば、焼くことも出来るのでは無いだろうか?

 リックは干した肉を焼いてみた。燃えることは、燃えるが、形が残った。毒が少なくなっていると言うことだろう。

 そうやって辿り着いたのが干した肉を水に晒して、更に毒を取り除くことだった。

 今ではリックの作る食事を部落中で取り合いになるほどだった。

「今度は塩漬けにしてみるか」

 塩漬けにするのを、部落中で手伝う事になった。大量の魔獣の肉だ。大変な作業だ。

「そうね、燻製にする方法と、塩付けにする方法もあるわね塩漬けにすると生ハムが出来るし、燻製にすればベーコンになる。ふぐ毒は、米ぬかと塩に漬けると良いって聞いたことがあるわ」

 母がそう教えてくれたが、フグとは何なのかよく分からなかった。燻製の仕方や、塩漬けの仕方は、調べて廻ったが何とか出来そうだった。

 燻製にするには設備が必要なので後回しにして、今回は塩漬けに挑戦している。

 塩はサラに大量に持ってきて貰った。

「海が近いから、錬金術で簡単にできるのよ」

 母はリックのために作ってきてくれたようだ。

 小分にしたブロックの肉にたっぷり塩をすり込み、水分が出たらその水分を捨て、また追い塩をする。それを繰り返して、そのまま保存する。母の話では、数年も持つそうだが、本当だろうか?

 一ヶ月寝かして味見をしてみる。

「しょっぱい!」

 だが、毒には当たらなかった。水分と共に毒が抜けたか、それともリックが毒耐性を獲得したのか、判断が付かない。

 兎に角これを調理して皆に食べさせてあげよう。獣人達には毒があろうが関係ないのだ。塩抜きをして、煮込んだ肉は驚くほど美味しかった。

「リック、これ凄くウマイ。手間が掛かるだけアルナ」

「誰でも出来るはずだ。塩を抜いて煮込むだけだ。日持ちもする。ただ、毒が残っているかどうか分からなくなってしまった。僕に毒耐性が出来ていたら、人体実験の意味がなくなる」

 街へ久し振りに帰ってきた。ニルも一緒だ。

 母親に毒味をして貰うしか無さそうだ。母なら万が一毒に当たっても自分で治せるはずだ。

「リック、これ本当に魔獣の肉なの? ビックリするほど美味しい生ハムだわ。毒も無いようだし。これ売れるわよ!」

 塩漬けした肉を薄切りにして、そのまま食べた母がそう言った。

 母から太鼓判を押して貰って、リックは嬉しくなった。

 母親の指導の下、街にいる獣人が、魔獣の肉の加工をすることにしたようだ。

 ニル達大型獣人は、街に狩った魔獣を頻繁に持ってくるようになった。やりとりにはこの国の通貨であるオロを使う。

 一オロは銅貨一枚。十オロで小銀貨一枚。百オロで銀貨一枚、千オロで小金貨一枚となった。中金貨、大金貨はあるが、滅多に使わないため、お目に掛かったことがない。

 いつの間にか大型獣人達が、小型獣人達と普通に交流するようになっていた。

 中央付近に設けられていた商店街が、賑わいを見せるようになった。

 通貨の表は、母がデザインしたというホルスの目の文様、裏には竜の刻印がされている。獣人達はドラゴン金貨だと言って喜んでいた。

――母上がデザインしたにしては良い出来だ。でも、「ホルスの目」とは、一体何処から得たアイデアなのだろう?


 今日は、ニルと一緒に岸壁に来た。マーラに会うためだ。

 少し前に知り合った美しい獣人だ。彼女の種属は他にはいない。彼女一人しか今のところ居ないそうだ。

 マーラは首の両側に鰓があり、水中でも呼吸が出来ると言う。リックはじっくりとマーラを観察して、変身してみることにした。水中で呼吸が出来るのは凄い。変身して人魚になることが出来たら、自分も水の中を自由に泳ぎ回る事が出来るのでは無いだろうか。

 ニルだけにはこの秘密の力を明かしている。

 森に入って狩りをするときには、人間の姿で無いとレベルが上がらないため、滅多に変身はしないが、ニルと森を走り回るときには変身して彼の後を付いていく。走りは動物の姿だと格段に効率が良いのだ。

「ビックリだよな、人間にはスゴイ能力がアルンダナ」

「全部が出来るわけでは無い。僕の一族に伝わる秘密の魔法だ」

 父に変身を教えて貰ったときは、興奮して眠れなかったほどだ。ダルも一緒に教わっていたが、ダルは狼に変身してものすごく喜んでいた。リックはニルに影響されてトラに変身した。

「なりたいものをよく観察すれば、他の姿にもなれるぞ」

 父にはそう教わったのだ。きっと人魚にもなれるはずだ。

 服を脱ぎ捨て、ニルに持って貰い、挑戦してみた。

 成功だ。見事に人魚になることが出来た。後は水の中で呼吸できるかどうかだ。

 恐る恐る、海に入り、水の中で呼吸をしてみた。

「出来る! 呼吸が出来ている」

「アタイと同じ種属なの? 違う? 一体何の種属……?」

 リックは得意になってマーラに話して聞かせる。

「僕は人間だけど、獣にも変身できる。特別な力が有るんだ」

 マーラはうるうると目に涙をためている。どうしたのだろうか?

「おーい、リックもう海から上がってこい! 誰か来るぞ」

 慌てて海から上がり、服を着た。

 

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ