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獣人の国  作者: チャロ吉
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9 レオパルド国王

 慌ただしく戴冠式も終わり。レオンはここウーノ王国の初代国王になってしまった。

 住まいは相変わらず中央棟だが。国王と言っても体の良い、雑用係だ。

 あれが足りない、これが必要だと言われれば、直ぐに、ヤーガイへ飛んでいって、正確には転移して物資を調達してくるのだ。今までと、何も変わらない。資金はここで取れた魔宝石を使うので全く問題は無いのだ。

 レオンはこの生活を気に入っている。国民は獣人達だが、みんなとの距離は近い。

 側近を連れて街を歩けば、気軽に「国王様」と声を掛けられるのだ。

 その姿を見てサラは、

「国王様では無くて、小遣い様ね」

 と言って笑っている。サラもこの環境が気に入っているようだ。

 冒険者達六人は獣人の女の子と親しくしており、その内に所帯を持つと言っている。だが、彼等にはレオンは忠告をした。

「君らの子どもは獣人で生れるはずだ。それでも良いのか?」

「別に問題は無いっす。獣人の方が、ここで生活しやすいでしょう」

 そういう風に言われれば、確かにそうだ。それ以上レオンは何も言えないのだ。

 サラは、農作業に忙しい獣人達に代わって、彼等の子どもの世話を買って出た。サラにとっては楽園だ、と言うことになる。

 ヘンドリックは、

「母上、何時になったらダンジョンへ連れて行ってくれるのですか!」

 と、獣人達の子どもと遊びながらも、不満を漏らしているが。

 そんな折、ゴードンが一人の老人を連れてやってきた。

「レオン国王様、ご機嫌麗しゅう」

「何を言っているゴードン? 馬鹿にしているのか! 何か用か?」

「そんなに怒るな。大事な要件だ。ほら、連れてきたぞ鋳造のプロだ」

「鋳造? 貨幣の鋳造か! 忘れて居た」

「国王様。ノーブルと申します。以後お見知りおきを」

「貨幣の鋳造は、竜人の部落で行う。これから行こう」

「待て、それは私が請け合おう。造幣の事は私に任せておけ。レオン国王自らが出張る必要は無い。それより、お前の子ども達が寂しがっている。こちらへ連れてきても良いか?」

「丁度これから連れてこようと思っていた。僕が行く。ゴードン、造幣の事は、頼んでも良いか?」

「ああ、任せておけ。刻印は例の物で良いんだな」

「よろしく頼む。竜人達は直ぐに理解するはずだ。一度教えれば大丈夫だと思う」


 レオンの子ども達、十歳の第三子のダルタニアンと五歳の第四子のメグライアが転移して来た。

 皆レオンによく似ている。長男バスティアンだけはサラにそっくりだったが、他は総てレオン似だった。

「ははうえー!」

 メグライアはまだ幼い。母親にへばりついて泣きべそをかいている。

 ダルタニアンは、始めて見る不思議な獣人達に興味津々だ。

「レオン、バスティアンは? 来ていないようだけど」

「バスティアンは、こちらへ来るのはもう暫く待つそうだ。やることが多すぎて時間が取れないと言っている」

「ああ、魔法大学校へ行く準備ね」

「そうだ、バスの昔からの望みだったからな」

 ダルタニアンが、犬獣人の子どもを見付けソワソワし出した。彼等と一緒に走り回りたそうにしている。

「ダル、行ってきて良いわよ」

「はい!」

 レオンの子ども達は昔から、狼に憧れていた。ダンカンの狼の姿を覚えているようだ。彼等は、

「大きくなったらダンカン叔父様のようになりたい!」

 と、何時も言っていたのだ。もうそろそろ変身を教えても良いかもしれない。ここには魔法が使える人間はいない。この力が知られても問題ないはずだ。獣人の姿をしてみせれば、ここの獣人達ともっと仲良くなれるだろう。

 レオンの子の中でダルが一番、魔力器が大きい。一時期魔力硬化症に陥ったほどだ。サラの助言で事なきを得たが、あの時は焦った。幼児に魔法を放って魔力を放出しろと言っても出来ないからだ。

 子ども達には呪いが受け継がれなかった。それは良いことだったが、毒の耐性も無く、治癒力も受け継がなかった。魔力も人間にしては多い位で収まってしまった。

 ゴードンやダンカンのような生まれついての大きな魔力器を持つ者は、この先望めないだろう。

 何時も兄達に揶揄われているダルは自分が一番魔法の素質があるとは思っていないようだ。

 長男であるバスは魔力器がそれほど大きくは無い。それが彼のコンプレックスになっている。彼は人一倍努力家だった。勉強も、魔獣討伐も、積極的にやって魔力器を大きくしてきた。

 次男リックは自由気ままだ。魔法も勉強もそこそこに頑張るだけだ。だが、表面上はそう見せているが、長男と張り合う気持ちがレオンには見えている。

 メグは、まだ幼くてこれからだ。魔力はあるようだが。

「此処にある物は食べても平気だが、獣人達が持ってきた魔獣の肉は食べてはダメだぞ。あれは人間には毒だ。直ぐに死んでしまうぞ」

「何故、彼等は平気なの?」

「彼等には女神の恩恵があって、毒に耐性があるのだ」

 本当は違うが、ここの神殿ではそう教えている。だからレオンも子ども達にはそう話すようにした。

「僕も女神の恩恵、欲しい!」

 ダルがとんでもないことを言っている。獣人の子どもと親しくなったので、一緒に森へ行きたいのだろうが、それは今は許可できない。もっと大きくなってからで無いと危険だ。

「母上のように光魔法が使えるようになればな」

「ダル、頑張る。光魔法が使えるようになる!」

 ダルの生まれ持っての属性は闇と水だ。直ぐに光も使える様になるだろう。

「父上、ダンジョンはいつ行けますか?」

「リック、母上はまだ忙しいのか?」

「母上は、忙しそうにしておりますが、ダルとメグ、獣人の子どもの世話ばかりです。僕の事はすっかり忘れて居る……」

「……そうか。僕が連れて行きたいが、光魔法が使えなければ無理なのだ」

「父上、僕は猫獣人の青年と友達になりました。彼は、森へ行けば魔獣が沢山いると言っています。森でレベルを上げたいのですが」

「それなら、私が行こう。一日くらいなら時間は取れるはずだ」

 リックと共に森へ入ろうとすると、リックの友達だという大きな猫獣人? がやってきた。

「リック、オレも行ってイイカ?」

「ニル! こっちへ来ていたのか。これから森の村に帰るのか?」

「ああ、妹の顔を見たから、もう帰ろうとオモッテ」

 ニルの妹はウサギ獣人だそうだ。同じ親から生れたが種属が違う。獣人達には良くある事だという。

「妹は若返っている。レオパルド王のオカゲダ。ありがとう」

 トラに似た猫獣人はレオンに向かって頭を下げた。

「ニル、君は何歳なのだ?」

「オレは十三歳だ」

「ニルっ!・・・・僕と同い年だったの?」

 ニルは猫獣人の中のトラに進化した種属だと言った。

 大型に進化した種属はセントラルベイへは来ていない。竜人だけが特別だ。小型の獣人達は、大型の獣人達を恐れているようだ。

 大型種は特段凶暴な性格では無いが、小型種属の本能がそうさせるのだという。

 その内、多種族が一緒に居ることに慣れてくれば、大型種も街に住んでも平気になるだろう。

「不思議なのだが、熊獣人は皆と一緒にここへ来ていたが」

「彼等は力を使う仕事があった為、特別に来る事が許されたんだ。ズイブン町から外れにスンデイルだろう?」

 そう言えばそうだ。比較的身体の大きな獣人は他の集落とは随分離れて居を構えていた。

「鳥獣人も進化した種がいる。鷹やフクロウの大型種はココにはキテイナイ」

 飛べる種属は、レオンにとって複雑な感慨がある。レオンにもかつて翼があったのだ。

 変身すれば元の姿になることは可能だが、そうするつもりは全くなかった。呪いから折角解放されたのだ。翼が無くても浮かぼうと思えば浮かべるし、転移だって出来るのだ。

 小型の獣人達に、セントラルベイが人気なのは、結界があるせいだ。魔獣の危険が無く、食べ物にも毒が無いここでの生活は、彼等にとっては楽園なのだ。

 今では森にいる小型種は少なくなった。まだ少しは居るようだが、人間の村から獣人が生れればその村に連れてくる。その受け入れのために残してあるようだった。

 セントラルベイが、この大陸の他の国に周知させるのは、もう少し後だ。国としての体裁が整ってからだ。ボナンは、

「この中央の森の他にも、沢山の森がアル。そこに住む獣人達もその内建国するダロウ」

 そう言っていた。レオンは、国が多くなれば、獣人の国同士で諍いが生れるのでは無いかと、今から危惧している。

「その時はその時よ。今から心配してどうなるの?」

 サラにそう言われてしまった。しかし、南の国では、獣人の奴隷達が反旗を翻していると報告もあったのだ。その時が近づいている気がする。


「父上、何をぼーっと考えているのですか?」

「ああ、済まない。何でも無いんだ。それより、魔獣の気配はあるのか?」

「アリマスが、雑魚です。もう少し奥へ行けば、強いのがイマス」

 さすが、ニルは気配察知の技能持ちだ。狩りの相棒としては持って来いだ。

 人型の魔物が大勢居る場所に来た。人型でも、魔物だ。

「オークの集落! またここに作りヤガッタ」

「さあ、殲滅するぞ。リック用意は良いか!」

「はい! 父上」

 三十個体は居そうだ。レオンが雷魔法を集落に放つ。警戒していたオークどもは動けなくなって慌てているようだ。

「リック、剣で首を狙え!」

「分かっています」

 三十体はいるだろうオークどもは、瞬く間にリックに討伐されてしまった。

「リック、硬化したな。魔法を放て!」

「……はい、や、闇の影」

 リックの生まれ持った属性は水と土だった。リックは闇を新しく手に入れたようだ。

 苦しそうにあえいでいるリックを、ニルが心配そうに見ている。

「失われた力……これがそうなノカ」


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