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獣人の国  作者: チャロ吉
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プロローグ

 オレは、ニュール。みんなにはニルと呼ばれている。

 金竜が居る山、竜火山の北、広大な森に住む人間だ。普通の人間の元に生れたが、異形だったために親から捨てられた。この森に子どもを捨てる親は多い。

 森の近くに住む人間に特に異形が生れやすい。五人の子どもの内、少なくとも一人は異形で生れる。

 偶に行商人が来て、異形の子どもを安く買っていくこともある。異形が珍しかった三百年ほど前は高値が付いたそうだが、今では沢山異形が生れ値段も二束三文だという。

 それでも生活が苦しい農民や狩人達は、子を売って生活の足しにする。

 この頃は、異形だけの村が、森の入り口に出来上がり、そこへ子どもを置いていく者が増えた。

 同じ親から生れても異形は様々な形で生れる。オレは猫の見た目だが、オレの妹はウサギの見た目だった。オレ達は双子で生れ、直ぐに森へ捨てられたのだ。

 森の村人がオレ達を育ててくれた。ある程度大きくなると見た目で分けられたので、今は妹とは離ればなれにされたが、名前を付けてもらい、文字を覚えることも出来、良くして貰って居る。

 寿命は生れた獣によって様々だ。竜の見た目に生れた者は長く生きる。最長老は竜の部族長で三百五十歳。まだ矍鑠としている。竜人は火山に一番近い村を住処としている。

 一番寿命が短いのはウサギやネズミの見た目の人間で十年から三十年しか生きられないそうだ。彼等は森の入り口の村に住んでいる。

 だが生れる確率が一番多いのもウサギや、猫、鳥などの小動物に似た人間だった。

 だがここ五十年でその法則も変わりつつあるという。猫の見た目でも、身体が大きくなりトラに似た人間に育つようになり、猫人は六十年は生きることが出来る。

 鳥は、鷲やフクロウなどの見た目に変わり、そう言う獣人は身体が大きく寿命も長くなる。

 オレはトラに育っているようだ。その為森の入り口の村から中央の村へと移り住むことになった。

 獣人が産んだ子どもからは必ず獣人が生れるが、見た目は様々だ。五歳くらいになって身体が大きな獣人になると、親は子どもとは一緒に暮らせない場合がある。

 今はウサギやネズミに似た人間は、反対に生れなく成りつつあリ、森の入り口の村は規模が小さくなってきた。

 最長老の竜の神官は、

「このまま大きな獣人が増え続ければ、棲み分けが難しくなる部族も出てくる。獣人が一緒に住むことを考えなければだめかもしれぬ。見目形が違っても、我らは同じ獣人だと認識しなければな」

 獣人の中で弱い獣人は、竜種や、狼を怖がっていたため、やむを得ず分けて居たが、これからはお互い同じ獣人というカテゴリーとして認識を改めさせるのだろう。


 オレは、妹に会いに偶に森の入り口の村へ行く。その帰りに人間の町の近くまで行って、気配遮断を使い人間の様子を観察するのがこの頃の習慣だ。

 ついでに屋台の食いもんを失敬したりする。人間はうすのろで全く気が付かない。人間の食い物は旨いので、いけないことと知りつつ、中々辞められない。

 獣人は、ある程度育つと技能が芽生える。芽生える時期は獣人それぞれ違うが、必ずと言っても良いほど技能が芽生えるのだ。

 オレの技能は気配察知や、気配遮断だ。

 身体強化が出来たり、速く走れたり、飛び上がったり、飛べたり出来る獣人も居る。一人で何個もの技能を持つ獣人までいる。かくいうオレもその一人だ。そう言う獣人は一目を置かれているのだ。俺達はこの技能は神からの贈り物だと考えるようになった。

 森には神殿が造られて神を祀っている。神殿を管理しているのは竜人だ。彼等の技能は、物の本質を見抜くというものらしい。鑑定眼だと聞いた。

 神殿に祀られているのは、不思議な見た目の神で、目が一つしか無い女神だ。神官様が言うには、女神様は、オレ達をこの様にお作りになったというのだ。

 過去に大災害があり、食べ物が無くなり人間が沢山死んだ。農地は森に飲み込まれ、大きな都市に人は住めなくなってしまった。

 生き残った人間は生きるのに精一杯で、作物が育つ僅かな場所を探し、離れて住むようになった。

 そして、過去に持っていたという優れた力を使えなくなってしまったのだそうだ。文字さえも書けない村人が殆どだ。今では獣人の方が過去の文字を保って居る。竜人達が長い間保って来たお陰だった。

 普通の人間は森の植物を食べる事は出来ないし、毒に当たれば、直ぐに死んでしまうほど弱い。ネズミやウサギよりも弱いのだ。

 オレ達は、森の果物や魔獣を食べ、生き延びることが出来るし、傷も直ぐに治ってしまう。

 女神様は、弱い人間に見切りを付けて、獣人を新たに作り上げ力を与えてくれたのだと、神官様は教えてくれた。

 長老で皆を束ねている竜人の神官は、

「もう少しすれば、総ての人間が我々と同じに生れてくる。ここは獣人の世界になるのだ。人は死に絶えるであろう」

 そう言っているが、人が死んでしまったら、おの美味しい料理は食べられなくなってしまうのだろうか?


 オレは、いつもの習慣通り妹が住む村へ行った。

 妹はもう結婚していて子どもまで居る。ウサギの獣人は成長が早く直ぐに子を産む。そして子は総て違う獣人に生れてしまうため、妹が産んだ子は、もう直ぐこの村から居なくなるだろう。

 妹は十二歳とは思えないほど、年取って見える。寿命が短いウサギ獣人の妹は後何年生きられるだろう?

 それまでオレは、妹に逢いに来ることにしている。森で捕まえた魔獣の肉や希少な薬草を届けてやるのだ。

「お兄、いつもありがとうね。でも……村の皆が怖がるから、余り来ないで欲しい……」

 妹にそう言われてしまった。オレはこの頃、身体が更に大きくなったせいだろう。今回限り、もうここへは来る事が出来なくなってしまった。

「分かった。今日で最後だな、元気で暮らせよ」

 そう言ってオレは淋しさを堪え、人間の町へ行った。この町は人が沢山居る。子どもを連れて買い物をしたり、奴隷を連れている者もいる。

 何時ものように気配を消して物陰に隠れ、人間達を観察していると、鎖に繋がれた獣人達が馬車の檻に入れられて連れて行かれるところだった。殆どが子どもだ。まだ五歳位か?十歳の子も居るかも知れない。

 オレは慌てて森へ走った。竜人の子どもまで居たのだ。早く知らせなければ。気配察知など掛けている余裕は無くなった。

 

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