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6言め『自問自答』

「ほら、もう出てきていいよ。」


カバンを(ひら)くと、うさぎさんの人形(にんぎょう)がひょこっと顔を出す。


「っぷはァー、息苦しかったぜェ。

 …んだここは? 本が沢山(たくさん)あるじゃねェか。」

「そりゃあ図書室だからね。」


あれから2日。あんなことがあったばかりなのに、

私・一文(ひとふみ)安美(あみ)は学校に(しげ)く足を(はこ)ばねばなりません。

悲しいかな、それが学生の性分(しょうぶん)なのです。


「ここにマンガは無いのかい?」

“ダミー様”と名乗るお人形(にんぎょう)さんは、

私の気も知らないで、そう呑気(のんき)に問いかけます。


「歴史系や生物系のマンガだったらあるよー。」

「本当かッ!? それはどこだ!!」

「ダミーの真横にあるでしょ。」

「この(たな)か!! でかした!! 一緒に読もうぜご主人様ァ!!」

「図書室なんだから静かにしてよ…。

 ……あと、私は一緒には読めないからね。」

「何でだ。」

図書委員(としょいいん)の仕事があるから。」

「ちぇー」


結局 あの後コイツのことは何1つ分からなかった。

何故生まれたのか、何故話せるのか、何を考えているのか。

何もかもが分からないまま今に至っている。

到華(とうか)さんもお手上げの完全なるイレギュラー。

それが、このダミーなのであった。


「もぉぉーーー……。」

「牛にでもなったのか?」


カウンターテーブルに倒れ込む私に、

ダミーは辛辣(しんらつ)な言葉を投げかける。


「誰のせいでこんなに悩んでると思ってんの?」

「俺のせいとでも言いたげだなと思ってる。」

「そりゃ人のせいにもしたくなるよ。

 入学する前はこんなことになるなんて、

 夢にも思っていなかったんだからさぁ…。」

「まあまあ、やっと一段落(いちだんらく)ついたんだし。

 それに、俺は今もちゃあんと紡久(つむぐ)(つな)いで、

 ご主人様のデカすぎる言霊(ことだま)(なかだち)してる。

 これで万事解決ってやつじゃあねェのか?」

「それはそうなんだけどねー…」


寝ても()めても、頭にずっとあの三文字がある。

言葉贄(ことのはのにえ)』。つらたんたんに(ささ)げられる存在。

世界を救い得る唯一の存在と言えば聞こえは良いけど、

その本質は生贄(いけにえ)なのだから、憂鬱(ゆううつ)(きわ)まりない。


私は今日まで、いや、入学式のあの日まで、

「自分はいつか死ぬ」だなんて意識したことがなかった。

朝早起きしてお弁当作って、授業を受けて、

友達と談笑(だんしょう)して、そして(あま)()っぱい恋をする。

明日(あした)明後日(あさって)もそんな日常が続くと信じてた。


いざ自分が死ぬかもしれないと突きつけられると、

どうしても考えてしまう。自分のいなくなった世界を。


あの母親は何を思うだろうか。

自業自得(じごうじとく)」とかなんとか言うだろうか。

それとも案外私の死を(いた)んでくれるだろうか。


クラスメイトの皆はどうだろう。

悲しむ?それともあまり何も感じない?


じゃあ言業(ことわざ)先輩は?

あの人は、――まだ何を考えているのか分からない。


先輩は私を「優しい」と言ってくれた。

でも人に優しくするのなんて誰にでもできることだ。

私は、言業(ことわざ)先輩にあそこまで(した)われるほど、

自分に価値があるなんて到底(とうてい)思えない。

ましてこんな私が世界を犠牲にしてまで生きる価値なんて―


「すみませーん、この本借りたいんですけどー」

「あー、はい、すみません、すぐやります」


いかんいかん。図書委員としての責務(せきむ)を果たさなければ。

ええっとなになに…『ジャーナリズムの変遷(へんせん)』?

随分(ずいぶん)とユニークな本をお持ちになったな。


「まったく。ぼぉ〜っとしすぎだよ?…なんてね♪」

「……ん、あれ、(もとむ)ちゃん!!」

「やっと気づいたか。…どう? 学校は慣れた?」

「ああ、うん、まあ……ぼちぼち」

「ぼちぼちかぁー」


聞耳(ききみみ)(もとむ)ちゃん。出席番号8番。

『仲違い』のつらたんたんに遭遇するちょっと前、

教室で私を助けてくれた優しい子だ。

あの時もらった名刺(めいし)は今も神棚(かみだな)(かざ)ってある。


(もとむ)ちゃんはどうなの? 学校。」

「うーん…なんか()()()()()つまんないかなー。

 まあ()謹慎(きんしん)な考えだとは分かってるんだけど、

 やっぱり新聞部期待の新星(しんせい)として、

 きちんと有益な情報をお届けしたいなー、と。」

「そっかー」


平和、か。まあ普通はそうなんだよな。

なんか私の周りだけ妙にバグってるだけで。


「そうそう、言業(ことわざ)先輩とはどうなの?」

「……どうって、どういう?」

「なんか進展した? ちゅーとか。」

「ん゛ゲッホゲッホゲホゲホ!!!

 違うよ、私と先輩はそういう仲じゃないから!!」

「でも前よりは距離感が近くなったっていうか、

 前話した時よりも態度がマイルドになってない?

 土日の間になにかあったんじゃないの?」


安美(あみ)の脳裏を()ぎる、言業(ことわざ)先輩との濃厚な数日間の記憶。

命がけで助けてくれて、自分を守ると言ってくれた人。

その関係を否定するなど、できるはずがなかった。


「……ウソ。あ、あー……。えっと、ごめん。」


何かを察した聞耳(ききみみ)(もとむ)は必死に話を()らそうとする。

そこで、カウンターに置かれた人形(にんぎょう)を見つける。


「ん? えー!?♡ 何このウサギちゃん! カワイイ〜♡」

「!!!」


(もとむ)がダミーに目をつけてしまった!!!


「え、これ安美(あみ)っちの私物? いい趣味してるね。

 マンガ読ませてるんだー。カワイイところあんじゃん。」

「え、えへへ…。」


ま、まずい。非常にまずい!!

これがただの人形(にんぎょう)などではなく、

歌って踊れるダミー様だなんて知られたりしたら、

即スクープまったなし! また私が1段階孤立してしまう!

もう気が気じゃない!! 時間よ早く過ぎ去ってくれ!!


「なんか、安美(あみ)っち汗かきすぎじゃない?

 まるで『私はハラハラしています』って感じの(あせ)(よう)…」

「ギクゥッ!!」

「………ピピーン!! 分かっちゃった!!

 人形(にんぎょう)の持ち込みは校則違反だから落ち着かないのか!!

 チクられるのが怖いんだね。大丈夫だって安美(あみ)っち〜。

 私は()()を売るような安い女じゃないから〜。」

「いや、そういうわけじゃ……ん? トモダチ?」


(もとむ)ちゃんの口から、信じがたい言葉が飛び出す。


「え?うん。友達。私と、安美(あみ)っちが。」

「―――っ」

「え!? え!!? どうして泣いてるの!? 大丈夫!?」

「トモダチ…!! トモダチ…!!」

「え、わ、私たち友達だよね!? 勘違いじゃないよね!?

 そ、そんなに泣くほど嫌だった!? なんかごめん!!」

「ち、違うの、これは、嬉しくてっ。

 私、なんかクラスで浮いてて、友達が、

 ずっと、居ないと思っててぇっ…グスン」

「あーもう涙で顔がぐちゃぐちゃになってるよ…

 ほら、ポケットティッシュあげるから涙()いて。

 あと深呼吸。ほら、大きく吸って()くの。」


(もとむ)ちゃんが私の背中を優しく(さす)る。

その手の温かさを肌に感じながら、私は情けなく泣いた。


「―泣きやんだ?」

「うん、もう大丈夫。」

「そんなに気にしてたなら言ってよ〜。

 VINE(バイン)でも電話でもしてくれて良かったのに。」

「いや…(もとむ)ちゃんが忙しかったら迷惑かなって…」

「いや人間は千里眼もってるわけじゃないんだから、

 相手の事情なんて分かったもんじゃないんだし、

 そんなことお構いなしに連絡してもいいんだよ。

 細かいことは受け取る側が決めるんだからさ。

 すぐに返ってきたら『ありがとう』って伝えて、

 そうじゃなかったら『忙しいんだな』と割り切る。

 相手に遠慮ばかりしてたらいつか押し(つぶ)れちゃうよ。」

「うん……ありがとう…」


やれやれ…といった顔をする聞耳(ききみみ)(もとむ)だったが、

その時何者かがタイミング悪く図書室に入ってくる。


「うわっ(もとむ)が女の子泣かしてる!?」

(ちが)うよ!?」


その男子は安美(あみ)一瞥(いちべつ)すると態度を変える。


「…オホン。我が名はシュニッツェル=アミラーゼ!

 女神フェルゼから世界の命運を任されし堕天(だてん)の―」

「コイツは私の幼馴染の夜羽(よはね)杢四郎(もくしろう)

 まあ同じクラスだから分かるよね。37番の。

 ご覧の通り重度の中二病……いや高二病です。

 女子見るとカッコつけたがる悲しきモンスターだよ。」

「中二病などではない!! そしてその名はもう捨てた!!」

「勝手に捨てんなバカ!! お母さんが泣くよ!!」

「くっ…!! ママの名を出すなどなんて卑劣(ひれつ)な…!!」

「はいはい卑劣(ひれつ)卑劣(ひれつ)。話の邪魔だから用ないなら帰ってー」

「用はあるッ!!!」

「ならそれを先に言えよッ!!!」


そのコントみたいなやり取りを見て、

私は心底(うらや)ましいと思ってしまった。


幼馴染かぁ。恋愛漫画ではベタベタにベターだよなぁ。

私にも美人の幼馴染がいたらなぁ……。


…いや待て。今の流れで何故言業(ことわざ)先輩が脳裏に浮かぶ。

普通は白馬の王子様とかありきたりなイケメンだろ。

私は普通の恋がしたいんだ。こんなの違う。ナシナシ。


「部長が今すぐに(もとむ)を呼んでこいと。

 なんでも『すんごいニュース』があるんだとか。」

「『すんごいニュース』? なぁに、それ?」

「なんでも先週の金曜日、『そらとぶサメ』が

 この学校の付近で目撃されたらしいんだよ。

 我はあまり信じてはいないのだがな……。」


そらとぶ……サメ……? あ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ダイッキライダァァァァァ!!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

仲違い(あいつ)』かぁ〜……。


「そんなB級映画みたいなことがあったの!?

 うわ〜!! 見逃した〜!! 一生の不覚だぁ〜!!

 だってそんなの絶対面白いやつじゃん!!

 ね! 安美(あみ)っちもそう思うでしょ?」

「あー……、うん。思う思うめっちゃ思う。」

「あんま思ってなさそうだな。なにか隠してる?」

「いいいいいや、全然っ!? 隠してませんが!?」

「そ、そう。ならいいけど。

 まあそんなわけだから、もう行くね。

 今日は話せて良かったよ。ありがとう。また明日!!」

「う、うん。またね……」


(もとむ)が大きく手を振り、図書室の戸がパタンと閉まる。


「はぁ〜〜〜〜………。」

「…なんだ、あァ、その、いろいろ苦労してるんだな。」

「してるよー。私話すの下手だもん。

 ……てか、よくさっきボロ出さなかったね。」

「そりゃあご主人様ァ、俺はダミー様だぜ?

 歌って踊れる人形界(にんぎょうかい)のカリスマなんだから、

 普通のお人形(にんぎょう)さん気取るくらいわけないさ。

 てか、あれで合ってたのか? 俺の対応。」

「うん、合ってたよ。ありがとう!」

「……照れくせェや」


ダミーは(ほほ)をポリポリと()く。


「……なんで私から貴方(あなた)が生まれたんだろう。」

「さっぱり知らねェな。

 ご主人様だって自分が生まれる前のことなんて、

 人伝(ひとづて)に聞いたことくらいしか知らないだろ?」

「まあ、それはそうなんだけど、

 一応ダミーは私の言霊(ことだま)から生まれたんだよね?」

到華(とうか)姐御(あねご)の言うことにはそうだな。」

「……そのわりには自己肯定感が高いね。」

「逆にご主人様の自己肯定感が低すぎるんじゃねェか?

 まァ人形(にんぎょう)に持ち主の性格が遺伝するのかは知らねェが。」

「そっかぁー」

「……でもよォ、自分を肯定できないってのは、

 自分の存在意義を否定し続けることだから、

 やっぱりつらいことなんだと思うんだよなァ。

 少しくらい、自分を認めてやってもいいんじゃねェか?」

「無理だよ。」


即答する私の頭を、ダミーはマンガで(なぐ)る。


「痛いよ! 主人に何するの!!」

叱咤(しった)激励(げきれい)だよ、愚かなご主人様ァ。

 アンタはすぐに物事をネガティブに考えるくせがある。

 いっちょまえに夢見る少女かと思いきや、

 ずっと現実ばかり直視して希望を見失っている。

 何でも『無理無理』言って逃げてたら、

 ご主人様には何も残らなくなっちまうんだぞ!!!」

「…でも私、今までずっと周りに助けられて、

 独りで何かやり遂げたことなんて……何も……。」

「……なァに当たり前のこと言ってんだ?」

「!?」

「例えばこのマンガ。これは作者1人の功績か?」

「え、違うの?」

奥付(おくづけ)に書いてあんだろ。

 このマンガは作者1人で作られたわけじゃない。

 編集する人、印刷する人、運搬する人がいて、

 初めてアンタら人間様に渡るようになってんだ。

 さらに言えば運ぶためのインフラ作ったのも人。

 マンガを描くための諸々(もろもろ)を確立したのも人。

 そもそも大前提に文字を作ったのも全部人だ。

 人は無意識の内にたくさんの人間に支えられている。

 支えている。大小問わず迷惑を掛け合っている。」

「で、でも私は『言葉贄(ことのはのにえ)』だし――」

「『桁違(けたちが)いに迷惑を掛けてる』だァ!? このアホンダラァ!!!

 俺の話の本質が見えてねェぜご主人様ァ!!

 迷惑を掛けることが申し訳ないってのは分かる!!

 でも生きてる以上、いやたとえ死んだとしても、

 誰かには迷惑を掛け続けることになっちまう!

 だから今すべきことは、『受け入れる』ことだ。

 自分が他人(ひと)に迷惑を掛けてることを自覚するのはいい。

 だがそれを罪だと思うな、『権利』だと思え!!

 そして他人(ひと)から掛けられる迷惑を受け入れろ!!

 困ってる人を手助けしろ。人のために生きろ。

 それが社会性の生き物の『義務』だ分かったか!!」

「は、はい!!」

「よォし!! これで話は終わりだ!!

 これからは自分を()めすぎるんじゃねェ!!

 事あるごとに()めろ!! ()めちぎれ!!

 『ほめほめちぎりパン』にしてやれ! いいな!?

 ったくお人形(にんぎょう)さんに説教(せっきょう)させんじゃねェよ!!」

「す、すいません…」

「いちいち謝らなくていい!!………ん?」


そんなこんなで話していると、

突然ドラムロールのような音が鳴り始める。


「な、何? 吹奏楽部(すいそうがくぶ)の練習?」

「ドラムロールオンリーの練習があってたまるか。

 俺は天下のダミー様ァ。嫌な予感がビンビンするぜ。

 たった今紡久(つむぐ)姐御(あねご)に救難信号を送った!

 姐御(あねご)の到着まで何が何でも持ちこたえる!!

 ご主人様は危ないから、俺の側から離れんなよ!!」

「う、うん!!」


ドラムロールは段々と強くなり、

最高潮に達したかと思うと一時の静寂が訪れる。

目の前の空間が大きく(ゆが)み、観念世界が展開される。


それはまるでクイズ番組のセットのような空間で、

目の前には巨大な物体が鎮座(ちんざ)していた。


スピーカー、マイク、本、文房具などで構成されたそれは、

ピピピと音を立ててモニター画面に私の顔を(うつ)した。


『問題♪』


所々(ところどころ)音割れした女の人の声と共に、

デデン!と効果音が鳴り、私の目の前に文章が現れる。


『あなたがこれから食らうのは、

 A.電撃(でんげき) B.斬撃(ざんげき) どちらでしょう?』

「「!?」」


『制限時間は15秒!!』

チクタクと時計の音が鳴り始め、それは徐々(じょじょ)に大きくなる。


「えっ えっ 選べってこと!?」

「マジかよ()()()()()()()かよクソが!!

 ご主人様ァ!! 一旦落ち着け!! イメージするんだ!!

 今紡久(つむぐ)に分けてる言霊(ことだま)をご主人様に戻す!!

 攻撃をすべて防ぎきるようなイメージをするんだ!!」

「そ、そんなこと急に言われても――」


――いや、ここで何もしないでいいのか?

言い訳ばっか言い並べて逃げてばかりでいいのか?


そんなの、良いわけがないだろう。

せめて言業(ことわざ)先輩が来るまでの間くらいは、

持ちこたえないと私は私を肯定できなくなる!!

ダミーがせっかく私に言ってくれたんだ。


『思い立ったが吉日(きちじつ)』。

私は今日自分を肯定するため、この恐怖に(あらが)う!!


『3、2、1、ゼロ……。無回答は不正解!!

 (ばつ)として、両方、プレゼントしまーす!!』

「来るぞご主人様ァ!!」


私は強く念じた。

イメージしたそれは、先日の言業(ことわざ)()で見た、

あの言業(ことわざ)来人(らいと)のバリアの展開。


一文(ひとふみ)安美(あみ)とダミーを(おお)うようにバリアが出現し、

襲い来る電撃(でんげき)斬撃(ざんげき)をすんでのところで防ぎきる。


「やった…!! できた!!!」

「よくやったご主人様ァァァ!!

 俺までバリアに入れてくれてありがとう!!

 だがまだだ!! 今のでバリアが壊れちまった!!

 まだまだ問題が飛んでくるぞ!! 気をつけろご主人様!!」


『問題♪

 あなたがこれから失うのは、

 A.右腕 B.左足 どちらでしょう? 制限時間は7秒!!』


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


息を切らして廊下(ろうか)を走る。

放課後の校舎は人気(ひとけ)が少ないため、

(さいわ)い私の校則違反を(とが)める者はいない。

生徒会室と図書室は同じ階にあるが、数十秒掛かる。


私が図書室の扉を開いた時、

その空間は熱風に包まれていた。


「クソォッ なんでよりにもよって現象系攻撃なんだ!!

 物理だったら(なぐ)ってなんとかなったのによォ!!!」

「あ! 言業(ことわざ)先輩!!」

安美(あみ)!!」


良かった…!! 無傷だ!! 間に合った!!


紡久(つむぐ)姐御(あねご)ォ!! ありったけを頼むぜ!!」

「言われなくても!!」


ダミーの(はか)らいで、紡久(つむぐ)に大量の言霊(ことだま)(そそ)がれる。


『問題♪ あなたは……何者?』

安美(あみ)を守る者だ!! 〝(うわさ)をすれば〟」


つらたんたんの影が真っ黒に染まる。


「〝影がさす〟」


影から無数の黒い(やり)が現れ、つらたんたんを(つらぬ)く。

すると壊れた機械のように電気を放ちながら、

大きな音を立てて壊れ崩れていく。


『残……念………。』


そう言い(のこ)し、つらたんたんは(ちり)と化し消失する。

観念世界は崩れ、景色は元の図書室に戻る。


()きつらたんたんに黙祷(もくとう)する安美(あみ)に、

言業(ことわざ)紡久(つむぐ)は折を見て話しかける。


「――待たせてすまなかった。」

「いえ、言業(ことわざ)先輩は十分早かったです。」

「そうだぜ。信号送って1分も掛かってなかったからな。」


言業(ことわざ)先輩は肩で息をしている。

相当急いで来てくれたのだろう。


「助けに来てくれてありがとうございます。」

「ちょっ…やめ……っ 今汗臭いから……っ!」


私は先輩を(ねぎら)うように抱き締めたが、

先輩はどうしたらよいか分からずあたふたしていた。


「駆けつけてくれた先輩、かっこよかったですよ?」

「―――ッ!?!?」

「ねぇ俺は!? 紡久(つむぐ)姐御(あねご)来るまで耐えた俺は!?」

「あー、うん。かっこいい。」

「ちょっとそりゃないぜご主人様ァ!!!」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「……ふぅん、なかなかおもろいやないの。

 あの女…ウチとタメ張れるくらい強いんとちゃう?

 ()してきたばっかりやけど、結構楽しめそうやん。」


二人の様子を観察する黄色い影は、

意味深な言葉を言い残して去っていった。


「……?」

「どうかしたのかい、安美(あみ)?」

「いや、今誰かいたような……。」

「どこだい?」

「あの電柱の上………あれ?」


安美(あみ)は窓の外を指差すが、そこにはもう誰もいない。


「うーん……」

「…きっと疲れているのだろう。

 今日は早めに眠りに()くといい。

 委員会が終わったら言ってくれ。家まで送るよ。」

「心配してくれてありがとうございます。

 …あのつらたんたんは何だったんでしょうか。

 勝陽(かつよう)さんの話によれば、

 現実世界に直接やって来るのは(めずら)しいんじゃ?」

「ああ、そこは少しややこしいところなんだが、

 暴食期のつらたんたんは現実世界のどこかに、

 自らの観念世界への入り口を置いて、

 迷いこんだ人間を食べることが(おも)なんだ。

 でも今回みたいに特定人物を(ねら)()ちすることもできる。

 『仲違い』がイレギュラーと言われていたのは、

 本体が直接的に現実世界へやって来たが(ゆえ)なんだ。

 自分を攻撃されるリスクに(さら)す行為だからね。」

「えー……」


つらたんたんのやり口に「なんかズルいなぁ」と思ってしまう私でした。


「ところで、なんだが。…前に言っただろう?

 『(つぐな)いはまた日を改めてさせてもらう』と。」

「ああ、はい。言ってましたね。」

「それで……その。」


言業(ことわざ)先輩がもじもじと指を(いじ)る。

何かを切り出そうとしているのだろう。

その必死の表情を見ていると、こちらも緊張してくる。


幾秒(いくびょう)の沈黙を()て、紡久(つむぐ)()を決して言う。


「今週末、一緒にお出かけしませんか?」

「!!」


思い返してみればせっかくの高校生活だと言うのに、

誰かと遊びに出かけることは一度も無かった。

週末は特に予定も無いし、いい機会かもしれない。


それに、言業(ことわざ)先輩は多分責任感が強いタイプだ。

ここで申し出を断ればどうなるか………。うん。

一度彼女のいうところの“(つぐな)い”をさせてあげるべきだろう。


「分かりました! 行きましょう!」

「……! うん!」


言業(ことわざ)先輩が本当に嬉しそうに笑う。

(かざ)ったような笑顔でなく、等身大の可愛らしい笑顔。

私はそのガーベラのような(まぶ)しさに、

ほんの少しの間だけ目を奪われてしまうのだった。

☆オマケ


一文(ひとふみ)安美(あみ)です!!」

「天下のダミー様だぜェ!!」

「このコーナーでは、作中で登場したことわざの、

 意味や『使われ方』を解説していきます!!」

「そんじゃァ じゃんじゃん行くぜ!!」


①自問自答

「今回のサブタイトルだなァ。」

「け、結構メタい所も触れるんだね。」

「台本にそう書いてあんだから触れるもクソもねェよ。」

「もう本編との落差で気が変になっちゃうよ…。

 それで、このことわざの意味ですが、

 『自分で自分に問いかけ、答えること』ですね。

 …仏教の禅問答(ぜんもんどう)と何か関係あるんですかね?」

「さァな。所詮(しょせん)人形(にんぎょう)の俺にゃァ分からん。

 検索エンジンに掛けた方がまだマシだと思うぞ。」


②自業自得

「『自らの行いが結果を生み、その報いを自分が受ける』

 ということわざですね。仏教に由来するそうです。

 …必ずしも悪いことを表すわけじゃないんですね。」

「よく悪い意味で使われがちだからな。

 良い意味だけ表したい時のことわざでいうと、

 『(なさ)けは人の為ならず』あたりが近いのか?」


③思い立ったが吉日(きちじつ)

「『決心したタイミングが最良のタイミングだから、

 思い立ったならばすぐに行動せよ』って意味ですね。」

「この手のことわざはごまんとあるからな。

 それだけ先人たちは後悔してきたってことだろ。

 『あの時ああしていれば』『こうしていれば』ってな。」

「私も高校受験の時に思ってたな〜。

 もっと早く受験勉強を始めてれば……って。

 まあ、無事受かったから別にいいんだけどさ…。」

「でもそのマインドは忘れない方がいいぜ。

 早め早めに行動するに越したことは()ェんだから。」


(うわさ)をすれば影がさす

「『人の(うわさ)をしていると、本人が現れることが多い』

 という意味のことわざらしいです。

 人の話をする時はよく考えた方が良いってことですね。」

「どこで誰が聞いてるか分かんねェもんだからな。

 それで、紡久(つむぐ)姐御(あねご)はどう使ったんだ?」

「本来の『影がさす』というのは、

 『刺す』ではなく『差す』なんですよね。

 ここではわざとひらがな表記にすることで、

 『影で攻撃する』ニュアンスに曲解したのかと。」

「…映像化しにくそうな使い方だなァ…。」


「そんなこんなで、以上が今回のことわざですね。」

「今回の戦闘はあっさりしてたが不気味だったなァ。」

「それでは次回予告と行きましょうか。」

「………?そんなコーナーあったか?」

「今回から始めるそうです。」

「まーた作者の気まぐれか。んじゃあ行くか。」


「「次回『魚心あれば水心』!!」」

「ご精読ありがとうございました!!」

「気が向いたらまた読んでくれよな!!」

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