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5言め『旅は道連れ世は情け』

言葉贄(ことのはのにえ)……?」


私・一文(ひとふみ)安美(あみ)は、言業(ことわざ)紡久(つむぐ)の父・勝陽(かつよう)の口から発せられた、

聞きなじみのない言葉を漫然(まんぜん)と反復した。


「父上。それは、どういったものなのですか?」

「端的に言えば言霊(ことだま)を無限に生み出せる人間だ。

 1番最後に出現したとされているのは平安時代。

 『地震』のつらたんたんが(みやこ)に降り立つ数日前に、

 『鍋』のつらたんたんに襲われた貴族の娘が、

 突如としてその『言葉贄(ことのはのにえ)』になったと伝わっている。」

「………………『地震』?

 『地震』につらたんたんっているんスか?」

「お前にしてはいいところに気がついたな、来人(らいと)

 今の『地震』は()()()に入っているから、

 私たちが会うことはほとんどありえない。

 ()()()()()ことにも『言葉贄(ことのはのにえ)』の性質が関わっている。」

「あの………。」


ここで一文(ひとふみ)安美(あみ)が質問をする。


「どうした。」

「話の腰を折るようで申し訳ないんですけど、

 その、『飽食期』って何なのでしょうか?

 言業(ことわざ)先輩からつらたんたんについて、

 軽く教えてはもらいましたが、詳しくは知らなくて…」

「ああ、配慮が足りなかった。すまん。」


てっきりブチギレられるかと思ったけど、

案外すんなり聞いてくれたな。


「オホン。紡久(つむぐ)から恐らく聞いただろうが、

 『不合格』『仲違い』『花粉症』などといった、

 ある観念に対する人間の負の感情が極限まで高まると、

 つらたんたんは固有の観念世界へと産み落とされる。


 つらたんたんの持つ能力は(つかさど)る観念に依存し、

 また観念世界もそのイメージに合うよう模様替えされる。


 そしてここが今回最も重要。

 つらたんたんは大きく分けて3段階の変化を遂げる。


 1段階目は、『寄食』。

 産み落とされたばかりのつらたんたんは、

 栄養失調で弱っちいただの雑魚(ザコ)だ。

 下手に人間を狩ることもできないから、

 独自の観念世界に引きこもったまま、

 観念に寄せられる負の感情を(むさぼ)り成長する。


 2段階目は、『暴食』。

 充分に成長したつらたんたんは、

 本来完全に封鎖された観念世界を解放し、

 迷い込んだ人間をなるべく苦しめて殺す。

 そうすることによって、より多くの栄養、

 すなわち人間の負の感情を得ようとするのだ。

 通常は観念世界に迷い込んだ人間を食らうため、

 先日の『仲違い』のように現実世界にカチコミするのは、

 相当レアなタイプだと考えてもらって構わん。

 暴食期のつらたんたんは特に被害が大きく、

 ()()()()()()()()()()()つらたんたんだ。

 私たち『ことだマスター』は、主に此奴(こやつ)らを狩る。


 最後に、3段階目が『飽食』だ。

 沢山(たくさん)の負の感情を()らったことで成体になり、

 もう人間を狩る必要が無くなったため、

 大抵は観念世界を閉じて穏やかに暮らしている。

 たまに気まぐれに現実世界に降臨しては、

 災害規模の影響を及ぼすタイプもいるが、

 本来は会うことはないから知る必要がない。


 ……が、今回に限っては話が別だ。

 『言葉贄(ことのはのにえ)』は、飽食期のつらたんたんの中でも、

 世界を破滅に追いやるほどのつらたんたんが現れた時、

 唯一(しず)めることができる存在だと()う。」

「それは……抱き締めたりとかで、ですか?」


安美(あみ)が問うと、勝陽(かつよう)は露骨に(まゆ)(しか)める。


「『不合格』の時のことは忘れろ。

 (たすく)から報告を受けた時は私も驚いた。

 はっきり言ってあれはとびきりのイレギュラーだ。

 負の感情の元となった人間が優しかっただけのこと。

 普通は惨殺(ざんさつ)されるだけ。(まご)うことなき自殺行為だ。

 今後、その甘っちょろい考え方をしていれば、

 お前の命は無いものと思え。分かったか?」

「で、でも、つらたんたんの元は人間の――」

「負の感情だな。だからどうした。」

「!?」

「お前はその十数年もの年月の間に、

 人間の良い面しか見てこなかったのか?

 つらたんたんは所詮(しょせん)人間の負の感情の寄せ集め。

 人間に害なすことでしか生き残れない化け物だ。

 取り逃がしたつらたんたんが人を殺した時、

 お前は遺族に顔向けできる(ほど)(あつ)(つら)を持っているのか?」

「………………。」

「何か言いたげな顔だな。まあそれも結構。

 信念を(つらぬ)無様(ぶざま)に死ぬのもまた一興(いっきょう)

 だが、お前を大切に思う人間が居ることを忘れるな。

 お前が死ぬと悲しむ人間が居ることを忘れるな。

 その損失が(のこ)された者たちにどのような影響を及ぼすか。

 そのくらい考えてから()()()いをするんだな。

 …まあ、そのつらたんたんがもう生まれないように、

 心の底から祈ることくらいは、してもいいだろうが。」

「……………!」


この人、最初は倫理度外視(どがいし)の合理性の(かたまり)かと思ったけど、

もしかして本当は感情的な人間なのを隠しているだけ?


「…話が脱線したから元に戻すが、

 『言葉贄(ことのはのにえ)』のこれまでの運用方法は、

 ……はっきり言えば、(ひど)いとしか言いようがない。」

「その運用方法………とは?」

「文字通り、(にえ)だ。

 生きたままつらたんたんに差し出すのだ。」


その瞬間、この空間はより一層(いっそう)(こお)りついた。


「なぁに、理屈は単純だ。

 言霊(ことだま)が強い人間ほど、言葉が『重い』、

 つまり影響力が大きく、より()()()だ。

 (ゆえ)につらたんたんは人間を襲う際、

 より怖がり、より苦しむようにいたぶるのだ。

 そうした方が、より多くの負の感情(栄養)が得られるからな。」

「す、すみません。頭がまだ追いつかないというか、

 理解するにもしきれないと言いますか、

 今の説明だと、『言葉贄(ことのはのにえ)』の安美(あみ)は――」

「ああ、死ぬ。このままでは間違いなく、な。」


言業勝陽(ことわざかつよう)は下手に否定しなかった。

紡久(つむぐ)は脳の理解が追いつかず、(だま)りこくってしまった。

そこで折を見て言業(ことわざ)来人(らいと)が挙手をする。


「何だ。」

「聞き逃してたら申し訳ないッスけどー、

 どうして一文(ひとふみ)安美(あみ)が『言葉贄(ことのはのにえ)』だと言い切れるんスか?

 そもそもそれ、(いわ)く平安時代の資料でしょ?

 そんな千年くらい前のことを急に持ち出されても、

 イマイチ現実味(リアリティ)に欠けるっつーか…。」

「聞き逃していないぞ。今の指摘はもっともだ。

 私とて絶対にそうだと信じているわけではない。

 あくまで、可能性を議論しているだけだ。」

「可能性……」

「現状、『言葉贄(ことのはのにえ)』の出現条件は不明だ。

 だが分かっていることもいくつかある。

 ①つらたんたんと接触した少女に後天的に発現すること、

 ②その少女は無尽蔵(むじんぞう)言霊(ことだま)を生み出すことができ、

 (なお)()つその量や質は感情の()(はば)に依存すること、

 ③生み出した言霊(ことだま)は他者に分け与えられること、

 ④『言葉贄(ことのはのにえ)』出現から1年以内に、

 先述の強大なつらたんたんが現実世界に現れること。

 ⑤『言葉贄(ことのはのにえ)』の栄養価は常人の比ではなく、

 一度食らえばそのつらたんたんは満足し、

 二度と現実世界に現れなくなること、以上5つだ。」

「なるほど。そういうことッスか。

 親父(おやじ)の『地震(じしん)(かみなり)火事(かじ)親父(おやじ)』が到達する直前、

 まるで安美(あみ)の感情に呼応するように言霊(ことだま)が増して、

 俺の()のバリアが強化されたのを確認したッス。

 安美(あみ)がこうして言霊(ことだま)が増したのも、

 『不合格』に接触してかららしいッスし、

 確かに①と②と③を満たしてるッスね。

 それで、その『可能性』が何だっていうんスか。」

「『可能性』は万が一にもあってはならんのだ。

 もし今強大なつらたんたんが出現して、

 ここに『言葉贄(ことのはのにえ)』らしき娘がいて、それに加えて、

 それを差し出したら助かったという数百もの事例。

 ここまでデータが(そろ)っているにもかかわらず、

 『言葉贄(ことのはのにえ)』を(ささ)げずにいられる人間が、

 果たしてこの世界に何人いるというのかね?」

「!」

「仮に私たちが安美(あみ)(かば)ったとしても、

 『ことだマスター』は、私たちの言業(ことわざ)一族だけではない。

 分家の榑依(くれい)()などは言うまでもなく、

 他にも様々な『ことだマスター』が存在する。

 それらが全て敵に回ったとしたら、ひとたまりもない。」


今、先程あんなに広く感じていた部屋が、

こんなにも重く、(せま)く、息苦しく感じる。

私はまるで『(へび)(にら)まれた(かえる)』のように、

その場から動けなくなってしまった。


言業(ことわざ)先輩は私をどう思っているだろうか。

その様子じゃ、私がそうだったことは知らなかったらしい。

……迷惑だよな。こんな厄介極まりない存在。


部屋が静寂に包まれて、耳鳴りが聞こえる。

あまりに突然で突飛(とっぴ)な話に頭が追いつかなくて、

ぐちゃぐちゃになって、上手く前が見えない。


でもその時、声を上げる人間が居た。言業(ことわざ)紡久(つむぐ)だ。


「それでも私は、一文(ひとふみ)安美(あみ)を守りたい。」


声に(ふる)えはあれど、迷いはない。

はっきりとした意志が見て取れる声だった。


「……お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?

 『世界中が敵に回っても戦う』と言うようなものだぞ。」

「はい。そのつもりです。」

「……少しは言うようになったようだな。

 その女の何がお前にそこまでさせるのだ。」


今、紡久(つむぐ)の頭には1つの解が浮かんでいる。

それは一文(ひとふみ)安美(あみ)がもの珍しい存在だからとか、

不幸な末路を()げるのが可哀想だからとか、

〝神〟を僭称(せんしょう)する超常存在の頼みだからとか、

そういう打算や同情、他人任せな理由ではない。

あるのはもっと純粋で、滑稽(こっけい)な思い。



「私が、一文(ひとふみ)安美(あみ)を好いているからです。」



ある者は吹き出し、ある者は(はかど)り、ある者は呆然とした。

紡久(つむぐ)がここぞという場面でやらかしたことに気づくのは、

失言から11秒()った後のことだった。


「あ。(私、今何て言った!?)」

私は『人として好いている』ことを伝えようとしたのだが、もしかして、もしかしてだけど、もしかしなくても、私は今告白まがいのとんでもないことをしでかしたのでは!? しかも、公然の場で!! 父やきょうだいが見守る場で!! ご本人の目の前で!!


「あ、あの、言業(ことわざ)先輩???」

「ぴゃい!」

「……本気、ですか?」

「! ―――ああ、無論だ。二言はない。

 私は安美(あみ)()()()()とても気に入っている。」

「ア、ハイ(そっちの意味か)。」


特に問題は無いはずなのに少しモヤっとした私に、

彼女は手を差し伸べた。初めて会ったあの日のように。


「私は気づかぬ内に君に相当入れ込んでいたらしい。

 今度は君の持つ特別な力ではなく、

 君のその優しい内面を見込んで言わせてもらおう。

 『私は君のことが欲しくて欲しくてたまらない。』

 だから私を選んでほしい。私に守らせてほしい。」

「――――ッ!」


聞いてて恥ずかしくなるような歯に浮く台詞(セリフ)を、

この女は平然と言ってのける。私の気も知らないで。


「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


あぁ、ズルいなぁ、ホント。

私の理想の美少女に、そんなに優しい顔で、

私がずっと欲していた言葉を掛けられたんじゃあ、

断れるわけがないじゃあないか。


安美(あみ)は手を取った。今度はより強く。より鮮明に。

紡久(つむぐ)はそれを見て、満足気にほくそ()んだ。


「私は『ことだマスター』としてはまだまだ未熟です。

 (まこと)(にい)のような実力も、到華(とうか)(ねえ)のような発想力も、

 来人(らいと)(にい)のような機転も、(うたう)(ねえ)のような想像力も、

 (てる)(にい)のような要領も、連鶴(つづる)(ねえ)のような図太さもないけど」

「おい待て何故今私のことをディスった!?」


ボサボサヘアの連鶴(つづる)なる女は(いきどお)ったが、

そんなことお構いなしに紡久(つむぐ)は話を続ける。


「―それでも私は、自分を曲げたくありません。

 自分を曲げて唯々(いい)諾々(だくだく)と生き続けるくらいなら、

 私は自分の意志を最期まで(つらぬ)いて死にます。」

「――――!」


勝陽(かつよう)は、紡久(つむぐ)のその青臭い綺麗事を聞き、

さらに(まゆ)(しか)め、大きくため息を()いた。


「私は――」

「あー!あー!何度も言わんでいい!

 お前の頑固さは嫌ってほど分かったわ!!

 だが私はお前の味方には立たない。

 いざって時は容赦(ようしゃ)なくお前らを見捨てる。

 それでもいいってなら好きにしろ!!」

「――!! ありがとうございます!!」

「ケッ」


これが正真正銘、正々堂々真っ向から、

紡久(つむぐ)が父親を言い負かした最初で最期の瞬間である。


「か、勝陽(かつよう)様、どちらへ?」

「気分が悪い。私はもう自室に戻る。

 死にたくなければしばらく声を掛けるな。」

「は、はいっ」


家の人たちは大変だなあ、と亜美(あみ)は思った。


「…それで言業(ことわざ)先輩。これからどう――」

紡久(つむぐ)ー! ちょっと見ないうちに

 随分(ずいぶん)と大人びたわね!とうとう紡久(つむぐ)にも春が来たのね!!」

「!?」


安美(あみ)紡久(つむぐ)に問いかけようとしたその瞬間、

おっとりお姉さんの到華(とうか)紡久(つむぐ)に抱きつく。


(ねえ)さん、はしゃぎすぎです離してください!!

 そもそも私は安美(あみ)とはまだ出会ったばかりで――」

「あら、そうなの」

「わぁ 急に離さないでください!!」

貴女(あなた)が離せって言うから…」

「慣性の法則を考えてください!!」


ギャーギャーと紡久(つむぐ)到華(とうか)が言い合っている(すき)に、

金髪の男・来人(らいと)安美(あみ)に話しかける。


「はじめまして、俺は紡久(つむぐ)の兄で、次男の来人(らいと)

 こっちの白髪(はくはつ)が三男の(てる)ッス。

 ホント、さっきはウチのバカ親父(おやじ)がすみません…」

「ああっ いえいえ頭を上げてください!!大丈夫ですから!!」


来人(らいと)さんは見た目こそチャラいが、

想像以上に真面目な人だった。

不真面目を気取っているのは、何か訳があるのかも…。


「ついでに紹介しとくと、

 あっちで紡久(つむぐ)とじゃれてるのが長女の到華(とうか)。」

「よろしくね〜、安美(あみ)ちゃん♡」

「痛い痛い痛い自己紹介するくらいなら

 この(まんじ)(がた)めを解いてください…!!!」


言業(ことわざ)先輩の家族ってクセ強いな…。


「それで、あっちで物怖じせず

 ずっと正座している黒髪が次女の(うたう)。」

「……よろしくお願いします。」

「あ、はい。よろしくお願いします…。」

「・・・・・。」


ヒッ。なんか視線が鋭いような…。

でもさっき私が足(しび)れた時助けてくれたんだよな。

悪い人ではない……はず。


「んで、紡久(つむぐ)到華(とうか)の横でスケッチしてるのが、

 三女の連鶴(つづる)。マンガを描くのが趣味らしいッス。」

「へぇ!マンガ! よろしくお願いしますね!」

「!? は、ははははい、よ、よろしくお願いします!!」

「・・・・・?」

連鶴(つづる)は人見知りが激しいから、

 滅多に部屋から出て来ないし、会うことは少ないッス。

 まあ名前だけでも覚えてやってほしいッス。」

「は、はい。分かりました。」


えっと…次男が来人(らいと)さん、三男が(てる)さん。

長女が到華(とうか)さん、次女が(うたう)さん、三女が連鶴(つづる)さん…。


言業(ことわざ)先輩は末っ子さんなんですね。」

「そうそう。俺らが手塩にかけて育てたんッスよ。」

「……ん、あれ? そうなると長男の方はどちらに?」

「ああ、(まこと)の兄貴は遠くに任務に出てるッスよ。

 兄貴はすっげー強いんスよ。

 多分俺ら兄弟全員で掛かっても勝てないッス。」

「へぇ〜。すごいんですね。」

「そうそう。それはそうとして…、

 安美(あみ)ちゃんは正直紡久(つむぐ)のこと好き?」

「―――ッ!?!? べ、別に普通です。」

「普通かー。そういえば、

 出会ってまだ数日って言ってたッスね。

 まあ紡久(つむぐ)とはこれから長い付き合いになるだろうし、

 ぜひとも仲良くしてやってほしい。

 来人(らいと)(にい)さんからのささやかなお願いッス。」

「は、はい。分かりました!」


来人(らいと)さんは安心したように微笑(ほほえ)む。

だがここで(ふすま)がバンと開き、白髪(はくはつ)眼鏡(めがね)少女が現れる。


Eavesdrop(イーブスドロップ)。話は聞かせてもらいました。」

「あら最愛(もあ)ちゃんじゃない。どうしたの?」

「イテテ…ん、最愛(もあ)?どうしたんだい急に。」

「私、先日の『仲違い』のつらたんたんとの戦闘で

 取れたデータから分かったことがあったんです。」

「ふむ。それはどんな?」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


Attention(アテンション)please(プリーズ)。これがそのデータです。

 一文(ひとふみ)安美(あみ)はお嬢様が重傷を負った際に、

 『死なないで』と口にし、それと同時に、

 彼女の膨大な言霊(ことだま)がお嬢様に流れ出しました。

 この言霊(ことだま)がお嬢様の傷に作用したおかげで、

 お嬢様は一命を取り()めたものと思われます。」

「そ、そうなんですか!?」

「私は肌感覚でぼんやりと意識はしていたが、

 本当にメイド・イン・安美(あみ)(せい)だったのか。

 傷が完治して(なお)有り余るほどの言霊(ことだま)で、

 あれのおかげで『仲違い』を撃破できたし、

 本当、今回の戦いは安美(あみ)に助けられたな。」

「いえいえそんな…私は言業(ことわざ)先輩に助けられてばかりで。」

「じゃあ、お互い様だな!」

「!……はいっ」


榑依(くれい)最愛(もあ)は「イチャイチャしてるとこすみませんが」と事務的に話を続ける。


一文(ひとふみ)安美(あみ)。あなたは、

 この直前には、私たちに追われている際に、

 何の詠唱(えいしょう)もなしに加速していまひたね

 あの時はどのようなことを考えていましたか。」

「あの時は、…捕まりたくないなって。」

「ふむ。つまり安美(あみ)は強く念じると、

 その思いに呼応して言霊(ことだま)が増し、

 本人の意思に関係なく具現するタイプなのですね。」

「それって結構リスキーでは?」

「はい。安美(あみ)の言う通りですね。

 思ったことが起こるのはかなり危険です。

 感情が(たか)ぶるのを(おさ)えるのは無理な話ですし…

 そうですね。()()()()()()()()()のはいかがでしょう。」

「どういうことだ、最愛(もあ)?」


紡久(つむぐ)の質問に、最愛(もあ)はテキパキ答える。


「いいですか、安美(あみ)言霊(ことだま)譲渡(じょうと)できます。

 より正確に言えば、安美(あみ)とお嬢様、

 二人を見えないケーブルのようなもので(つな)いで、

 二人分の言霊(ことだま)を共同管理してる状態です。

 なので普段言霊(ことだま)の弱いあなたが受け取れば、

 Rainforce(レインフォース)。弱点を補いパワーアップできます。

 その上、安美(あみ)の強過ぎる言霊(ことだま)(おさ)え、

 ある程度はつらたんたんに(ねら)われにくくできます。」

「そ、それって言業(ことわざ)先輩は大丈夫なんですか!?

 確かに私の体質をどうにかできるかもしれないけど、

 代わりに言業(ことわざ)先輩が勝手な具現化に困ったり、

 つらたんたんに襲われたりしちゃうんじゃ…!!」

「それは問題ありません。

 お嬢様は言霊(ことだま)の蓄積量もコスパも悪いクソザコなので、

 そういったことになる恐れは万に一つもありません。」

「なるほど。」


「なんか今ひどいこと言われたような…」と

紡久(つむぐ)(いぶか)しんだが、特に口にしなかった。


「問題はその押し付ける方法ですね。

 安美(あみ)もお嬢様も学生である以上は、

 二人が一緒に居られる時間に限りがあります。

 逐一(ちくいち)会って言霊(ことだま)を共有するのも骨が折れますし、

 安美(あみ)にも何か自衛手段がほしいところです。

 お嬢様の到着まで持ちこたえられる程度の最低限の。」

「それならいい案があります。」


言業(ことわざ)到華(とうか)がある提案をする。


「私の“子ども”は使えないかしら?」

「ああ、それはいい案ですね。」

「こ、ここ子ども!?!? 子どもって言いました!?

 そんなにお若いのにお子さんがいらっしゃるんですか!?」


安美(あみ)の反応を見て爆笑する来人(らいと)の頭を到華(とうか)が叩く。

そして「誤解させてごめんね」と人形を差し出す。


「うさぎさんの……お人形(にんぎょう)?」

「そう。召集される前にちょうど作っていたの。

 私が“子ども”と呼んでいるのは、この子たちのこと。

 まあ、この子はまだ言霊(ことだま)を入れていないけど。

 形代(かたしろ)っていうものは知ってるかしら。」

「ああ、身代わりに使う人形(ひとがた)ですね。」

「そう。そういう感じで言霊(ことだま)を込めると、

 独自の意思を持って動き出して、

 持ち主の代わりに行動してくれるの。

 私は普段偵察(ていさつ)や護衛として使っているのだけど、

 もし安美(あみ)ちゃんがこの技術を使いこなせたら、

 遠隔で紡久(つむぐ)言霊(ことだま)を分け与えたり、

 軽いボディーガードにするくらいはできるかも。

 マスターするには、ちょっと難しいんだけど…」

「なるほど、いいですね!」


到華(とうか)安美(あみ)人形(にんぎょう)を差し出す。


「じゃあこれを持って、強く念じてごらん。

 自分の一部をこの人形(にんぎょう)に落とし込むイメージで。

 初めてなら失敗しても何もおかしくないから、

 まずはリラックスして、思うようにやってごらん。」

「は、はい。」


一文(ひとふみ)安美(あみ)は強く念じた。

だが強く念じすぎてしまったのだろう。

安美(あみ)の膨大な言霊(ことだま)は、1つイレギュラーを引き起こした。


「…多分、できました。」

「あらそう。じゃあ人形(にんぎょう)を地面に置いてみて。

 しばらくしたら自立して動き出すはずだから。」

「わ、分かりました!」


安美(あみ)がそっと地面に人形(にんぎょう)を置く。

すると人形が小刻みに震え始め、

やがて静かになったかと思うと、独りでに起立する。


「よし、成功ね!

 初めてで成功するなんてすごいじゃない!」

「えっへへ……そんなそんな。」

「そうだぜ照れるぞ、到華(とうか)姐御(あねご)。」

「…………ん?」


今、来人(らいと)さんでも(てる)さんでもない、

男の人の声がしなかったか?気の所為(せい)か?


「気の所為(せい)じゃァねェよ、ご主人様ァ。」

「!?」


に、人形(にんぎょう)(しゃべ)ってる…!!

その小さい体のどこに声帯(せいたい)が入ってるんだ!?


「歌って踊れる人形界(にんぎょうかい)のカリスマ!!

 ダミー様、爆誕(ばくたん)ッッッッッ!!!!

 今日からよろしくなァ、ご主人様!!!」

「す、すごいですね到華(とうか)さん。

 到華(とうか)さんのお人形(にんぎょう)さんは(しゃべ)れるんですね!!」

「いや、(しゃべ)りません………。」

「え…………。」

「確かにある程度自立的に動いてくれるけど、

 基本は持ち主の指示に応じて動くし、

 こうやって話すことは今まで一度もないわ。」

「…………わぁ。」


どうやら私は、とんでもないものを生んでしまったらしい。

☆オマケ☆


一文(ひとふみ)安美(あみ)です。」

言業(ことわざ)来人(らいと)ッスー。」

「このコーナーでは、作中で使われたことわざの

 意味や『使われ方』を解説していきます。」

「それじゃあさっそく見て行きますッス!」


①『旅は道連れ世は情け』

「これは今回のサブタイトルですね。」

「『旅には仲間がいると心強いと感じるように、

 世の中を渡るには助け合いの精神が重要!』

 といった意味のことわざッスねー。

 安美(あみ)ちゃんはどう思うッスか?

 『助け合い』って大事だと思うッスか?」

「……そうですねぇ。大事だとは思うけれど、

 私はいつも助けられてばっかりだから……。」

「……そっすか。」


②『(へび)(にら)まれた(かえる)

「『恐ろしいものや苦手な相手の前にして、

 ひるんで動けなくなる様子』を(たと)えたことわざッス。

 …やっぱりウチの親父(おやじ)怖かったッスよね…。」

「まあ……はい。」

「…俺からキツく言っとくッスよ。」

「いや、お、お気になさらず!」

「そうすか?」

「あの人の言うことは、正しいかどうかはともかく、

 筋は通っているので。…少々無配慮とは思いますが。」

「……っすよねー。」

「「はぁ………。」」

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