5言め『旅は道連れ世は情け』
「言葉贄……?」
私・一文安美は、言業紡久の父・勝陽の口から発せられた、
聞きなじみのない言葉を漫然と反復した。
「父上。それは、どういったものなのですか?」
「端的に言えば言霊を無限に生み出せる人間だ。
1番最後に出現したとされているのは平安時代。
『地震』のつらたんたんが都に降り立つ数日前に、
『鍋』のつらたんたんに襲われた貴族の娘が、
突如としてその『言葉贄』になったと伝わっている。」
「………………『地震』?
『地震』につらたんたんっているんスか?」
「お前にしてはいいところに気がついたな、来人。
今の『地震』は飽食期に入っているから、
私たちが会うことはほとんどありえない。
そうなったことにも『言葉贄』の性質が関わっている。」
「あの………。」
ここで一文安美が質問をする。
「どうした。」
「話の腰を折るようで申し訳ないんですけど、
その、『飽食期』って何なのでしょうか?
言業先輩からつらたんたんについて、
軽く教えてはもらいましたが、詳しくは知らなくて…」
「ああ、配慮が足りなかった。すまん。」
てっきりブチギレられるかと思ったけど、
案外すんなり聞いてくれたな。
「オホン。紡久から恐らく聞いただろうが、
『不合格』『仲違い』『花粉症』などといった、
ある観念に対する人間の負の感情が極限まで高まると、
つらたんたんは固有の観念世界へと産み落とされる。
つらたんたんの持つ能力は司る観念に依存し、
また観念世界もそのイメージに合うよう模様替えされる。
そしてここが今回最も重要。
つらたんたんは大きく分けて3段階の変化を遂げる。
1段階目は、『寄食』。
産み落とされたばかりのつらたんたんは、
栄養失調で弱っちいただの雑魚だ。
下手に人間を狩ることもできないから、
独自の観念世界に引きこもったまま、
観念に寄せられる負の感情を貪り成長する。
2段階目は、『暴食』。
充分に成長したつらたんたんは、
本来完全に封鎖された観念世界を解放し、
迷い込んだ人間をなるべく苦しめて殺す。
そうすることによって、より多くの栄養、
すなわち人間の負の感情を得ようとするのだ。
通常は観念世界に迷い込んだ人間を食らうため、
先日の『仲違い』のように現実世界にカチコミするのは、
相当レアなタイプだと考えてもらって構わん。
暴食期のつらたんたんは特に被害が大きく、
唯一私たちが手を出せるつらたんたんだ。
私たち『ことだマスター』は、主に此奴らを狩る。
最後に、3段階目が『飽食』だ。
沢山の負の感情を食らったことで成体になり、
もう人間を狩る必要が無くなったため、
大抵は観念世界を閉じて穏やかに暮らしている。
たまに気まぐれに現実世界に降臨しては、
災害規模の影響を及ぼすタイプもいるが、
本来は会うことはないから知る必要がない。
……が、今回に限っては話が別だ。
『言葉贄』は、飽食期のつらたんたんの中でも、
世界を破滅に追いやるほどのつらたんたんが現れた時、
唯一静めることができる存在だと云う。」
「それは……抱き締めたりとかで、ですか?」
安美が問うと、勝陽は露骨に眉を顰める。
「『不合格』の時のことは忘れろ。
備から報告を受けた時は私も驚いた。
はっきり言ってあれはとびきりのイレギュラーだ。
負の感情の元となった人間が優しかっただけのこと。
普通は惨殺されるだけ。紛うことなき自殺行為だ。
今後、その甘っちょろい考え方をしていれば、
お前の命は無いものと思え。分かったか?」
「で、でも、つらたんたんの元は人間の――」
「負の感情だな。だからどうした。」
「!?」
「お前はその十数年もの年月の間に、
人間の良い面しか見てこなかったのか?
つらたんたんは所詮人間の負の感情の寄せ集め。
人間に害なすことでしか生き残れない化け物だ。
取り逃がしたつらたんたんが人を殺した時、
お前は遺族に顔向けできる程厚い面を持っているのか?」
「………………。」
「何か言いたげな顔だな。まあそれも結構。
信念を貫き無様に死ぬのもまた一興。
だが、お前を大切に思う人間が居ることを忘れるな。
お前が死ぬと悲しむ人間が居ることを忘れるな。
その損失が遺された者たちにどのような影響を及ぼすか。
そのくらい考えてから身の振る舞いをするんだな。
…まあ、そのつらたんたんがもう生まれないように、
心の底から祈ることくらいは、してもいいだろうが。」
「……………!」
この人、最初は倫理度外視の合理性の塊かと思ったけど、
もしかして本当は感情的な人間なのを隠しているだけ?
「…話が脱線したから元に戻すが、
『言葉贄』のこれまでの運用方法は、
……はっきり言えば、酷いとしか言いようがない。」
「その運用方法………とは?」
「文字通り、贄だ。
生きたままつらたんたんに差し出すのだ。」
その瞬間、この空間はより一層凍りついた。
「なぁに、理屈は単純だ。
言霊が強い人間ほど、言葉が『重い』、
つまり影響力が大きく、より感情的だ。
故につらたんたんは人間を襲う際、
より怖がり、より苦しむようにいたぶるのだ。
そうした方が、より多くの負の感情が得られるからな。」
「す、すみません。頭がまだ追いつかないというか、
理解するにもしきれないと言いますか、
今の説明だと、『言葉贄』の安美は――」
「ああ、死ぬ。このままでは間違いなく、な。」
言業勝陽は下手に否定しなかった。
紡久は脳の理解が追いつかず、黙りこくってしまった。
そこで折を見て言業来人が挙手をする。
「何だ。」
「聞き逃してたら申し訳ないッスけどー、
どうして一文安美が『言葉贄』だと言い切れるんスか?
そもそもそれ、曰く平安時代の資料でしょ?
そんな千年くらい前のことを急に持ち出されても、
イマイチ現実味に欠けるっつーか…。」
「聞き逃していないぞ。今の指摘はもっともだ。
私とて絶対にそうだと信じているわけではない。
あくまで、可能性を議論しているだけだ。」
「可能性……」
「現状、『言葉贄』の出現条件は不明だ。
だが分かっていることもいくつかある。
①つらたんたんと接触した少女に後天的に発現すること、
②その少女は無尽蔵に言霊を生み出すことができ、
尚且つその量や質は感情の振れ幅に依存すること、
③生み出した言霊は他者に分け与えられること、
④『言葉贄』出現から1年以内に、
先述の強大なつらたんたんが現実世界に現れること。
⑤『言葉贄』の栄養価は常人の比ではなく、
一度食らえばそのつらたんたんは満足し、
二度と現実世界に現れなくなること、以上5つだ。」
「なるほど。そういうことッスか。
親父の『地震雷火事親父』が到達する直前、
まるで安美の感情に呼応するように言霊が増して、
俺の札のバリアが強化されたのを確認したッス。
安美がこうして言霊が増したのも、
『不合格』に接触してかららしいッスし、
確かに①と②と③を満たしてるッスね。
それで、その『可能性』が何だっていうんスか。」
「『可能性』は万が一にもあってはならんのだ。
もし今強大なつらたんたんが出現して、
ここに『言葉贄』らしき娘がいて、それに加えて、
それを差し出したら助かったという数百もの事例。
ここまでデータが揃っているにもかかわらず、
『言葉贄』を捧げずにいられる人間が、
果たしてこの世界に何人いるというのかね?」
「!」
「仮に私たちが安美を庇ったとしても、
『ことだマスター』は、私たちの言業一族だけではない。
分家の榑依家などは言うまでもなく、
他にも様々な『ことだマスター』が存在する。
それらが全て敵に回ったとしたら、ひとたまりもない。」
今、先程あんなに広く感じていた部屋が、
こんなにも重く、狭く、息苦しく感じる。
私はまるで『蛇に睨まれた蛙』のように、
その場から動けなくなってしまった。
言業先輩は私をどう思っているだろうか。
その様子じゃ、私がそうだったことは知らなかったらしい。
……迷惑だよな。こんな厄介極まりない存在。
部屋が静寂に包まれて、耳鳴りが聞こえる。
あまりに突然で突飛な話に頭が追いつかなくて、
ぐちゃぐちゃになって、上手く前が見えない。
でもその時、声を上げる人間が居た。言業紡久だ。
「それでも私は、一文安美を守りたい。」
声に震えはあれど、迷いはない。
はっきりとした意志が見て取れる声だった。
「……お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?
『世界中が敵に回っても戦う』と言うようなものだぞ。」
「はい。そのつもりです。」
「……少しは言うようになったようだな。
その女の何がお前にそこまでさせるのだ。」
今、紡久の頭には1つの解が浮かんでいる。
それは一文安美がもの珍しい存在だからとか、
不幸な末路を遂げるのが可哀想だからとか、
〝神〟を僭称する超常存在の頼みだからとか、
そういう打算や同情、他人任せな理由ではない。
あるのはもっと純粋で、滑稽な思い。
「私が、一文安美を好いているからです。」
ある者は吹き出し、ある者は捗り、ある者は呆然とした。
紡久がここぞという場面でやらかしたことに気づくのは、
失言から11秒経った後のことだった。
「あ。(私、今何て言った!?)」
私は『人として好いている』ことを伝えようとしたのだが、もしかして、もしかしてだけど、もしかしなくても、私は今告白まがいのとんでもないことをしでかしたのでは!? しかも、公然の場で!! 父やきょうだいが見守る場で!! ご本人の目の前で!!
「あ、あの、言業先輩???」
「ぴゃい!」
「……本気、ですか?」
「! ―――ああ、無論だ。二言はない。
私は安美を人としてとても気に入っている。」
「ア、ハイ(そっちの意味か)。」
特に問題は無いはずなのに少しモヤっとした私に、
彼女は手を差し伸べた。初めて会ったあの日のように。
「私は気づかぬ内に君に相当入れ込んでいたらしい。
今度は君の持つ特別な力ではなく、
君のその優しい内面を見込んで言わせてもらおう。
『私は君のことが欲しくて欲しくてたまらない。』
だから私を選んでほしい。私に守らせてほしい。」
「――――ッ!」
聞いてて恥ずかしくなるような歯に浮く台詞を、
この女は平然と言ってのける。私の気も知らないで。
「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
あぁ、ズルいなぁ、ホント。
私の理想の美少女に、そんなに優しい顔で、
私がずっと欲していた言葉を掛けられたんじゃあ、
断れるわけがないじゃあないか。
安美は手を取った。今度はより強く。より鮮明に。
紡久はそれを見て、満足気にほくそ笑んだ。
「私は『ことだマスター』としてはまだまだ未熟です。
誠兄のような実力も、到華姉のような発想力も、
来人兄のような機転も、謳姉のような想像力も、
照兄のような要領も、連鶴姉のような図太さもないけど」
「おい待て何故今私のことをディスった!?」
ボサボサヘアの連鶴なる女は憤ったが、
そんなことお構いなしに紡久は話を続ける。
「―それでも私は、自分を曲げたくありません。
自分を曲げて唯々諾々と生き続けるくらいなら、
私は自分の意志を最期まで貫いて死にます。」
「――――!」
勝陽は、紡久のその青臭い綺麗事を聞き、
さらに眉を顰め、大きくため息を吐いた。
「私は――」
「あー!あー!何度も言わんでいい!
お前の頑固さは嫌ってほど分かったわ!!
だが私はお前の味方には立たない。
いざって時は容赦なくお前らを見捨てる。
それでもいいってなら好きにしろ!!」
「――!! ありがとうございます!!」
「ケッ」
これが正真正銘、正々堂々真っ向から、
紡久が父親を言い負かした最初で最期の瞬間である。
「か、勝陽様、どちらへ?」
「気分が悪い。私はもう自室に戻る。
死にたくなければしばらく声を掛けるな。」
「は、はいっ」
家の人たちは大変だなあ、と亜美は思った。
「…それで言業先輩。これからどう――」
「紡久ー! ちょっと見ないうちに
随分と大人びたわね!とうとう紡久にも春が来たのね!!」
「!?」
安美が紡久に問いかけようとしたその瞬間、
おっとりお姉さんの到華が紡久に抱きつく。
「姉さん、はしゃぎすぎです離してください!!
そもそも私は安美とはまだ出会ったばかりで――」
「あら、そうなの」
「わぁ 急に離さないでください!!」
「貴女が離せって言うから…」
「慣性の法則を考えてください!!」
ギャーギャーと紡久と到華が言い合っている隙に、
金髪の男・来人が安美に話しかける。
「はじめまして、俺は紡久の兄で、次男の来人。
こっちの白髪が三男の照ッス。
ホント、さっきはウチのバカ親父がすみません…」
「ああっ いえいえ頭を上げてください!!大丈夫ですから!!」
来人さんは見た目こそチャラいが、
想像以上に真面目な人だった。
不真面目を気取っているのは、何か訳があるのかも…。
「ついでに紹介しとくと、
あっちで紡久とじゃれてるのが長女の到華。」
「よろしくね〜、安美ちゃん♡」
「痛い痛い痛い自己紹介するくらいなら
この卍固めを解いてください…!!!」
言業先輩の家族ってクセ強いな…。
「それで、あっちで物怖じせず
ずっと正座している黒髪が次女の謳。」
「……よろしくお願いします。」
「あ、はい。よろしくお願いします…。」
「・・・・・。」
ヒッ。なんか視線が鋭いような…。
でもさっき私が足痺れた時助けてくれたんだよな。
悪い人ではない……はず。
「んで、紡久と到華の横でスケッチしてるのが、
三女の連鶴。マンガを描くのが趣味らしいッス。」
「へぇ!マンガ! よろしくお願いしますね!」
「!? は、ははははい、よ、よろしくお願いします!!」
「・・・・・?」
「連鶴は人見知りが激しいから、
滅多に部屋から出て来ないし、会うことは少ないッス。
まあ名前だけでも覚えてやってほしいッス。」
「は、はい。分かりました。」
えっと…次男が来人さん、三男が照さん。
長女が到華さん、次女が謳さん、三女が連鶴さん…。
「言業先輩は末っ子さんなんですね。」
「そうそう。俺らが手塩にかけて育てたんッスよ。」
「……ん、あれ? そうなると長男の方はどちらに?」
「ああ、誠の兄貴は遠くに任務に出てるッスよ。
兄貴はすっげー強いんスよ。
多分俺ら兄弟全員で掛かっても勝てないッス。」
「へぇ〜。すごいんですね。」
「そうそう。それはそうとして…、
安美ちゃんは正直紡久のこと好き?」
「―――ッ!?!? べ、別に普通です。」
「普通かー。そういえば、
出会ってまだ数日って言ってたッスね。
まあ紡久とはこれから長い付き合いになるだろうし、
ぜひとも仲良くしてやってほしい。
来人お兄さんからのささやかなお願いッス。」
「は、はい。分かりました!」
来人さんは安心したように微笑む。
だがここで襖がバンと開き、白髪の眼鏡少女が現れる。
「Eavesdrop。話は聞かせてもらいました。」
「あら最愛ちゃんじゃない。どうしたの?」
「イテテ…ん、最愛?どうしたんだい急に。」
「私、先日の『仲違い』のつらたんたんとの戦闘で
取れたデータから分かったことがあったんです。」
「ふむ。それはどんな?」
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「Attention、please。これがそのデータです。
一文安美はお嬢様が重傷を負った際に、
『死なないで』と口にし、それと同時に、
彼女の膨大な言霊がお嬢様に流れ出しました。
この言霊がお嬢様の傷に作用したおかげで、
お嬢様は一命を取り留めたものと思われます。」
「そ、そうなんですか!?」
「私は肌感覚でぼんやりと意識はしていたが、
本当にメイド・イン・安美製だったのか。
傷が完治して尚有り余るほどの言霊で、
あれのおかげで『仲違い』を撃破できたし、
本当、今回の戦いは安美に助けられたな。」
「いえいえそんな…私は言業先輩に助けられてばかりで。」
「じゃあ、お互い様だな!」
「!……はいっ」
榑依最愛は「イチャイチャしてるとこすみませんが」と事務的に話を続ける。
「一文安美。あなたは、
この直前には、私たちに追われている際に、
何の詠唱もなしに加速していまひたね
あの時はどのようなことを考えていましたか。」
「あの時は、…捕まりたくないなって。」
「ふむ。つまり安美は強く念じると、
その思いに呼応して言霊が増し、
本人の意思に関係なく具現するタイプなのですね。」
「それって結構リスキーでは?」
「はい。安美の言う通りですね。
思ったことが起こるのはかなり危険です。
感情が昂ぶるのを抑えるのは無理な話ですし…
そうですね。お嬢様に押し付けるのはいかがでしょう。」
「どういうことだ、最愛?」
紡久の質問に、最愛はテキパキ答える。
「いいですか、安美の言霊は譲渡できます。
より正確に言えば、安美とお嬢様、
二人を見えないケーブルのようなもので繋いで、
二人分の言霊を共同管理してる状態です。
なので普段言霊の弱いあなたが受け取れば、
Rainforce。弱点を補いパワーアップできます。
その上、安美の強過ぎる言霊を抑え、
ある程度はつらたんたんに狙われにくくできます。」
「そ、それって言業先輩は大丈夫なんですか!?
確かに私の体質をどうにかできるかもしれないけど、
代わりに言業先輩が勝手な具現化に困ったり、
つらたんたんに襲われたりしちゃうんじゃ…!!」
「それは問題ありません。
お嬢様は言霊の蓄積量もコスパも悪いクソザコなので、
そういったことになる恐れは万に一つもありません。」
「なるほど。」
「なんか今ひどいこと言われたような…」と
紡久は訝しんだが、特に口にしなかった。
「問題はその押し付ける方法ですね。
安美もお嬢様も学生である以上は、
二人が一緒に居られる時間に限りがあります。
逐一会って言霊を共有するのも骨が折れますし、
安美にも何か自衛手段がほしいところです。
お嬢様の到着まで持ちこたえられる程度の最低限の。」
「それならいい案があります。」
言業到華がある提案をする。
「私の“子ども”は使えないかしら?」
「ああ、それはいい案ですね。」
「こ、ここ子ども!?!? 子どもって言いました!?
そんなにお若いのにお子さんがいらっしゃるんですか!?」
安美の反応を見て爆笑する来人の頭を到華が叩く。
そして「誤解させてごめんね」と人形を差し出す。
「うさぎさんの……お人形?」
「そう。召集される前にちょうど作っていたの。
私が“子ども”と呼んでいるのは、この子たちのこと。
まあ、この子はまだ言霊を入れていないけど。
形代っていうものは知ってるかしら。」
「ああ、身代わりに使う人形ですね。」
「そう。そういう感じで言霊を込めると、
独自の意思を持って動き出して、
持ち主の代わりに行動してくれるの。
私は普段偵察や護衛として使っているのだけど、
もし安美ちゃんがこの技術を使いこなせたら、
遠隔で紡久に言霊を分け与えたり、
軽いボディーガードにするくらいはできるかも。
マスターするには、ちょっと難しいんだけど…」
「なるほど、いいですね!」
到華は安美に人形を差し出す。
「じゃあこれを持って、強く念じてごらん。
自分の一部をこの人形に落とし込むイメージで。
初めてなら失敗しても何もおかしくないから、
まずはリラックスして、思うようにやってごらん。」
「は、はい。」
一文安美は強く念じた。
だが強く念じすぎてしまったのだろう。
安美の膨大な言霊は、1つイレギュラーを引き起こした。
「…多分、できました。」
「あらそう。じゃあ人形を地面に置いてみて。
しばらくしたら自立して動き出すはずだから。」
「わ、分かりました!」
安美がそっと地面に人形を置く。
すると人形が小刻みに震え始め、
やがて静かになったかと思うと、独りでに起立する。
「よし、成功ね!
初めてで成功するなんてすごいじゃない!」
「えっへへ……そんなそんな。」
「そうだぜ照れるぞ、到華の姐御。」
「…………ん?」
今、来人さんでも照さんでもない、
男の人の声がしなかったか?気の所為か?
「気の所為じゃァねェよ、ご主人様ァ。」
「!?」
に、人形が喋ってる…!!
その小さい体のどこに声帯が入ってるんだ!?
「歌って踊れる人形界のカリスマ!!
ダミー様、爆誕ッッッッッ!!!!
今日からよろしくなァ、ご主人様!!!」
「す、すごいですね到華さん。
到華さんのお人形さんは喋れるんですね!!」
「いや、喋りません………。」
「え…………。」
「確かにある程度自立的に動いてくれるけど、
基本は持ち主の指示に応じて動くし、
こうやって話すことは今まで一度もないわ。」
「…………わぁ。」
どうやら私は、とんでもないものを生んでしまったらしい。
☆オマケ☆
「一文安美です。」
「言業来人ッスー。」
「このコーナーでは、作中で使われたことわざの
意味や『使われ方』を解説していきます。」
「それじゃあさっそく見て行きますッス!」
①『旅は道連れ世は情け』
「これは今回のサブタイトルですね。」
「『旅には仲間がいると心強いと感じるように、
世の中を渡るには助け合いの精神が重要!』
といった意味のことわざッスねー。
安美ちゃんはどう思うッスか?
『助け合い』って大事だと思うッスか?」
「……そうですねぇ。大事だとは思うけれど、
私はいつも助けられてばっかりだから……。」
「……そっすか。」
②『蛇に睨まれた蛙』
「『恐ろしいものや苦手な相手の前にして、
ひるんで動けなくなる様子』を喩えたことわざッス。
…やっぱりウチの親父怖かったッスよね…。」
「まあ……はい。」
「…俺からキツく言っとくッスよ。」
「いや、お、お気になさらず!」
「そうすか?」
「あの人の言うことは、正しいかどうかはともかく、
筋は通っているので。…少々無配慮とは思いますが。」
「……っすよねー。」
「「はぁ………。」」




