89 ナギ以外との未来 みやび視点
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テストも何とか終わりいつもの昼休み、3人だけで過ごす平穏な時間。
周囲には他に誰も居ないけど、それでもかなっぺが周囲を気にしながら「そういや噂なんだけどさ、みやちん宗像に告白されたってマジ?」と聞いてきた。
ここは生徒会室前の廊下だから基本人通りが無いけど、それでも誰かが通りかかっても不思議ではない。
たまに生徒会員が生徒会室に来るし。
もう噂が広がっているのか、怖いな。
「……」
つい箸が止まってしまった。
「あ、やっぱマジなんだ」
「あれは色々あって落ち込んでた私を元気づけようとしただけだよ、受験前に変な噂流されたらあいつも困るでしょ。適当に訂正しといて」
やっぱり食堂でのアレはまずかったって、宗像。
「そういうことにしとくけどさー」
「ぶっちゃけ宗像ってどう思ってるの? あいつにはめっちゃ塩対応だけど」
「なんだかんだ言ってずっと学年1位をキープするのって並大抵のことじゃないし。あいつなら菊花大だって楽勝じゃない? 面接が懸念ではあるけど」
「何その先生目線」
「はぐらかさないでよ。じゃなくて男としてどう?」と軽く肩を小突かれた。
「うーん」
話を逸らせなかったので一応真剣に考えてみるけど、想像したことすらなかったな。
「今はほら、番いのお兄さんが居るけどさ、そうでなかったら付き合ってた?」
「異性としてかー。からかいがいはあるしなんだかんだ言って傍に居たら楽しいだろうけど、異性としてかー」
お弁当を脇に置き、腕組みをして天井を睨みつける。
かと言って答えは出ない。
客観的に見たら宗像は顔立ちは悪くない、というか良い部類だ。
眼鏡姿も相まって、インテリ系イケメンというのだろうか。
すらりとした細身の体形で、身長もほどほどに高い。
好みではないけど。
でも見た目はタイプではないと言っても付き合っていくのなら気にならなくなっていくだろうし、一緒に居て楽しいかと言えばそれなりだろうな。
しかし男女として接するのを考えてみろと言われてもねえ。
宗像と私が手を繋いだり、腕を組んだり、キス……?
うーん、まるでイメージできない。
無いな。
というか、私が何か言うたびに叫びながら去っていく姿しか想像できない。
最近ではテストの結果が張り出されてから、宗像が私にちょっかいをかけ言い返されあいつが去っていくのがどれくらいの時間かみんなで推測するという遊び? が流行ってるらしい。
「宗像撃沈RTA」と呼ばれてるらしい。
RTAっていうのは私はよく知らないけど、いかに早くゲームをクリアできるのかというものらしい。
この場合で言うと、私が発言して宗像が走って去るまでどれだけ短い時間を記録できるかってことらしい。
よくわからないな。
最初あいつと会話した事はまるで覚えてないけど、2回目は「あなた誰? 会話したことあった?」と言ったら泣きながら去って行って、3回目は「フルネームで呼ばないでよ、というか私あなたの名前知らない」と言ったら「張り出してるんだから名前くらい覚えろ」とこれまたわめいて去っていった。
尚、まだフルネームは覚えてない。
「あ、これまるで脈ないやつだ」
「宗像もかわいそうに」と、はるっちが残念そうにつぶやく。
「まぁみやちんは元々男嫌いってか人間嫌いだしね」
かなっぺが筑前煮を食べながら愉快そうに笑う。
「え、そう見える?」
別に嫌いではないよ。
かといって積極的に友達を作る程交流好きではないけど。
「だってあんた常に人との距離作ってんじゃん」
「自分では意識してなかったなー」
というかお母さんと家庭教師の先生以外とは接したことなかったから、人付き合いの仕方とか距離が分からなかっただけじゃないかな。
同年代の子供とは遊んだことなかった気がする。
仲間外れにあってたし。
いい思い出が無かったせいかあまり子供の頃は記憶にないけど。
「あんた私たち以外とは積極的に友達になろうともしないじゃない。かなっぺが声かけなかったらぼっちの学生生活送ってたんじゃないの?」
あの時、かなっぺに声をかけられた時にはビックリした。
あのクラスメイトの反応がある意味正しいと思ってたから。
かなっぺらとの交流レベルはなくとも、今のイツキたちと同じくらいの距離の「知り合い」は出来てたんじゃないかな?
今も彼女らのフルネームすら知らないけど。
うん、かなっぺの言うように人間嫌いなのかもね私。
以前、ナギの事を「人に興味が無いのか」と思ってたけど、私の方が酷かったな。
「あ~別にそれでも問題ないかなってのは思ってた。学歴さえ作れればいいかなって思って入学したし」
というか3年経ったらあの家に戻るという約束だから人間関係を構築する気もなかった。
そういやまだナギにお母さんとの約束の事話してないな、言ったらどうなるんだろ、どうするんだろ……。
重い気持ちを抱えたまま、ナギが調理してくれた鮭の照り焼きを口に運んだ。