85 不器用な二人 みやび視点
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今日も学食で昼食をとることにした。
なんとなくかなっぺたちと一緒に居づらかったし。
昨日も夜遅くまでバイトに入っていたけど、1人で帰る夜道は心細く感じた。
やっぱり、ナギの居ない生活は寂しい。
――逢いたい。
声を聞きたい。
いけない、ずっと引きずっていたらダメだと、食事に集中する。
最近はこんな調子で、テスト勉強も手につかない。
「藤原。お前なんで学食でうどんなんか啜ってるんだ?」
今日は珍しくイツキ達が居ない。
代わりに話しかけてきたのは宗像だった。
「今日は総菜パンではなくうどん食べたい気分だったし、稲荷ずしとの組み合わせも考えたんだけど、炭水化物セットだと糖質が高すぎて午後の授業が眠くて辛いからうどん単品でいいかなって」
正直やはりここのうどんの味は好きになれないが、メニューを選ぶのが億劫だからこれにした。
尚、稲荷ずしではなく炊き込みご飯とのセットも可能だ。
考えれば考える程、炊き込みご飯とのセットもありだったな。
どっちにしても糖質高すぎだけど。
「そういう事じゃなく!なんでいつも弁当持ってきているお前が最近はずっと学食なんだよっていう話だ」
なんで私の行動パターン知ってるんだろうとふと疑問に思った。
というかこの学校内に私の情報知れ渡ってない?
どこから漏れてんの。
「個人の自由じゃん。そういう宗像は弁当持ってきてるんだから学食に来ちゃいけないでしょ」
「お、お茶買ったからいいだろ」
別に弁当持ち込みの人間は学食を利用してはいけないという規則はないのだけど、宗像は律義にお茶を買ったらしい。
そのまま私の対面に座る。
「勝手に正面に座らないで欲しいんだけど」
「どこに座ろうがぼくの勝手だろ」
混雑してる学食内だけど、学内で浮いている私の周りには誰も着席しようとしない。
今も遠巻きにひそひそとこちらの様子を伺ってる。
そんなに他人に興味あんの?と思う。
どうでもいいじゃん。
ナギとの別れもあって、私の冷めた対人癖がまた出てきだした。
お母さんが作ったであろう宗像の弁当をチラ見する。
色合いも良いし栄養バランスも考えられてて、宗像の家の弁当らしいっちゃらしい。
そういえば私はお母さんからお弁当を作ってもらったことが無いな。
学校には通ってなかったし、遠出することもなかったからしょうがないけど。
つくづく、私たち母娘の関係は歪なんだな、と感じた。
子供の時は無条件でお母さんが大好きだった。
それから、私が成長するにしたがって、何故かお母さんはよそよそしくなった。
私が1人暮らしをするようになり、他の家の母娘関係を知って私たちは異常だと知った。
そして月に一度生活費を貰いに行くのも億劫になっていった。
束縛を望む母親とそれに対して従順に従おうとする娘。
どうしてこうなっちゃったんだろうか。
「お前……最近番いの男とうまく行ってないのか?」
宗像は周囲を伺いながら小声で聞いてくる。
そりゃ弁当も持ってない、番いの指輪も外してるのならバレバレか。
「個人情報につきお答えできません」
素っ気なく返す。
やっぱうどんだけだと物足りないな
かと言ってご飯系を今更食べるのもなあ。
……卵サンド食べたいしそれにしようかな
卵サンドもカロリー高めなんだけど、糖質的にはマシだからいいか。
今日も夕方から夜までバイトで、出る前にゼリー飲料を飲むからあまりカロリー取りたくないんだけど。
「どこ行くんだ」
私が食べ終わったトレイを持って立ち上がったのを見て、宗像が慌てて声をかけてきた。
「いや、卵サンド買おうかなって。席キープしといて」
そういうと宗像はほっとしたようだった。
まだ何か話があるらしい。
買ってきた卵サンドを食べながら、スマホを見る。
行儀悪くてこういうの嫌いで普段はしないんだけど、宗像と正面きって食事する気にはなれない。
相変わらずナギからはメッセージが来てるようだ。
全部見ずに無視してるけど。
フェイル名義のSNSも今は見てもいない。
一人暮らしをきっかけにSNSを始める時に「フェイル(fail)」というアカウント名にした。
私には何か欠けているという実感があったから。
好きな俳優と同じ響きだし、公には「好きな俳優の名前からとった」とは言ってるけど。
SNSの方もメッセージが来てるのだろうか。
ここ最近はずっと適当に映画批評サイトを巡回してるだけでSNSは見てないからわからないけど。
批評サイトをざっと見終わった。
今は試験勉強があるから無理だけど、終わったら見たい映画を何本かチェックできた。
とはいっても勉強には全然身が入らないけど。
ナギの居ない時間かあ。
以前のように夜遅くまでバイトに明け暮れて、帰ってベッドに飛び込んで泥のように寝て、朝起きて学校に行くだけの日々を送るのかな。
休日は昼まで寝て、朝昼兼用に軽く何か食べて勉強して気分転換に近所を散歩したり、サブスクの映画を見て勉強に戻って眠くなったら寝るの繰り返し。
問題ない。
前の生活に戻るだけだ。
そして、卒業したらお母さんとの約束の為に私はあの空虚な家に帰る。
そこでなにが私の人生に待ち受けてるのか知らないけど、もうどうだっていい。
「ってか宗像テスト勉強しなくていいの?来週からテストだよ」
「お前のことが気になってこんな状況で集中できるか」
綺麗に巻かれた卵焼きを咀嚼しながら、宗像が聞こえるか聞こえないか微妙な声量でつぶやいた。
高校三年生、秋の中間テスト。
宗像のような受験生にしてみたら大事な時だ。
「宗像には関係ないじゃん」
「――あるよっ!」
スマホを見るために落としていた目線をあげると、宗像と視線がぶつかった。
私と視線を交えたまま、宗像が凛とした声で「……お前があの男と別れるのなら――僕にもお前に交際を申し込む権利くらいあるだろ」と言った。
思ったより宗像の声が食堂に響いたようで、数人がこちらに視線を向ける。
その中には見知った顔が居る。
同学年か。
すぐさま目を逸らすが、なにやらぼそぼそと話し合ってる。
マズイな、早く話を終わらさないと。
「ないよ」
「ぐっ!お前本当に僕には興味が無いな」
宗像は周囲の様子に気づいていない。
「これくらい言い切られる方がすっぱりと断ち切れるからいいでしょ」
これ以上ここに居ても好奇の視線にさらされるだけだな、と席を立つ。
食べ終わったのでさっさと教室に戻ろう。
最近はかなっぺたちも私とナギについて感づいてるようだけど、何も言ってこない。
2人にも気を使わせて申し訳ない。
それにしても、宗像食べるの遅いな。
まだ1/3残ってる。
元々食べるのが遅いのか知らないけど。
宗像の私への好意は何となく気づいていたが、まさかここで告白されるとは思わなかった。
頭はいいが、こういう所は不器用だな。
「お前が幸せなら僕はそれでよかったんだが、そうじゃないのなら僕は――僕は」「私、幸せだよ?じゃあね」
宗像の言葉を断ち切るように、笑顔を向け、食堂を出る。
「なにが幸せだよ。泣きそうな顔して笑ってるくせに……。不器用なやつめ」