表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/89

83 見せかけの優しさなんて要らない みやび視点

noteの方で、裏話、小ネタを掲載していってます

(TOPページ)

https://note.com/kirakiraspino


noteではこちらの前日譚「0話」も公開中

https://note.com/kirakiraspino/n/na36abbadd334

昔の夢を見た。

学校に通いたいと訴えたあの日の事。

お母さんのあげた条件は、少しでも嫌がらせを受けたら即報告すること、並大抵の男には負けない護身術を身に着ける事、1か月に一回実家に戻ってきて近況報告をする事、そして他にも幾つかあるけど・・・恋愛禁止も言われた。

当時は誰かを好きになるなんて思いもしなかったから軽い気持ちで約束した。

だから自分が誰かの番いだと連絡を受けた時には本当は行くべきではなかった。

でも自分の運命の人ってどんな人なんだろうかと好奇心に負けた。

そして今、ナギの番いは本当は私ではないんじゃないか、間違いなんじゃないかと言われ不安を抱えてる。

こんなにも好きなのに。

辛い思いをするのなら会わなきゃよかった。

恋を知らなきゃよかった。

お母さんに抱きしめられるのとは違う、ナギとの抱擁。

頭を撫でられるのも、手を握られるのも、触れるだけのキスも、もっと深くお互いを求めるキスも全部好きだ。

でももうそれは得られない。

望んじゃいけない。

あの時、あの場所で待ち合わせで会った私を「番い」だという先入観だけでナギが私を好きになったんじゃないかという疑念が晴れない。

もし出会いが違っていたら、彼は私を好きになっただろうか。

それとも他の女性と同じように目もくれなかっただろうか。

その答えを知るのが怖いから、もうナギとは会わずにお終いにした方がいいんじゃないかと思う。


目覚まし時計を見るとまだ6時。

まだ体は眠気を訴えてるけど、寝なおす気にはなれない。

低血圧で朝は壊滅的に弱いのだけど、たまにこういう時がある。

主に悪夢を見た時だけど。

悪夢というか昔の出来事。

この生活を送る前は、ずっとお母さんと二人きり。

母娘揃って家に引きこもってどこかに出かけた事なんてほとんど記憶にない。


極まれに、夢の中でとある光景を思い出すこともあるけど。

夕焼け。

高台から見下ろす街の光景。

入ってはいけない所に忍び込んだり。

あれは学校?

私は小学校に通ったことはない。

子供の頃の私と、背の高い男の子、2人で走り回った記憶。

「入っていいの?」と戸惑っていた私に「かまうもんか」と、力強く腕を引かれた。

誰・・・?

その顔立ちにはどこか見覚えがある。

ズキリ。

お腹だけじゃなく頭も痛くなった。

厄日かな。


ごろごろするのもアレだし、朝ごはんを食べることにする。

お腹痛いから薬飲みたいし。

ナギを拒否したくせに、彼が持ってきてくれた総菜でご飯を食べるなんて自分勝手だと思うけど食べ物を捨てるわけにもいかない。

だけどちょうど良かったのか、もうこれで終わりだ。

終わり・・・。

じくりと胸が痛む。


「おはよー。みやちん。うっわひどい顔」

教室で机に伏せてたら、かなっぺの声がしたので顔をあげたら開口一番にそれ言う?

昨日は泣きはらしたし、寝不足も相まって酷いとは自覚してるけど。

「ホント、酷い顔。どうしてここまで放置してたの?手遅れじゃん」

追い打ちをかけるはるっちの声。

言い方、酷い顔って言い方が酷い。

元気づけようとしてるんだろうけど。

この顔は生まれつきだよ、といつもなら笑いながら返すのだけど今日はそんな元気もない。

「酷いって連呼すな。うーん・・・ちょっとね、お腹痛い」

お腹痛いというワードで二人は感づいたようだ。

「あ~、アレね。でも珍しいね。みやちんって軽い方じゃなかった?」

いつもは特に痛みもなく「あ、来たんだ」という感じだ。

それを言うと、かなっぺたちには羨ましがられたっけ。

「薬飲んだ?」

「朝ごはん食べた時にバファリン飲んだけど、今日は体育ダメだ、休む。というか参加する気元からなくて体操着も持ってきてない」

「サボる気満々じゃん、ってかバファリンなんてアレには不向きじゃん。薬飲んだの初めてか」

え、そうなんだ?

検索してみたら鎮痛の作用があるから無駄ではないけど「胃痛の症状が出る」だの「血液をサラサラにする作用がある」と書かれてアレには不向きだと書かれていた。

知らなかった・・・。

「いつもは薬飲むほどひどくないもん。それに私はバファリンの優しさにすがりたかったんだよ。半分は優しさで出来てんだよ」

中途半端な時間に目が覚めて寝不足なことと腹痛が加わり自分でも何を言ってるのかわからない。

こんなことで今日いちにち授業を受けられるのだろうか。

かといってテストも近いから早退はしたくない。

せめてノートは取らなきゃ。

「あとでアタシのバファリン ルナiやるよ」

なにそれ初めて聞いた。

「バファリンの亜種なんてあったの?知らなかった」

「でも時間空けないといけないから次飲めるのは昼くらいかな」

「昼までこの痛みと戦えっていうの?バファリンの見せかけの優しさに騙された~。金輪際バファリンを信用しないよ」

今度薬局行ったらルナiとやら買っておかなきゃ。

そもそもアレの酷さはストレスも起因するらしいから今回が特別っぽいけど。

普段こんなに伏せる程痛くならないのに。

弱くなったなぁ、色々と。


「そんなに辛いのなら、学校も休めばよかったのに」

「家に居てもねー」ナギとの事を色々考えちゃうし「2人に会いたかったんだよ、言わせんなよ恥ずかしいだろ」とごまかす。

「無駄に低音イケボボイス出すな」

「やだなにこの男前、惚れちゃう」

わざとらしく、かなっぺがしなをつくる。

うーん・・・今日はホントにダメだ。

突っ込む気力も沸かない。

「みやちん、そんな調子でバイト行けるの?」

ノリが悪い私に対してかなっぺが心配そうに問いかける。

「行けるかどうかじゃない、行くんだよ・・・ハァ」

基本立ち仕事だから正直辛い。

貧血起きそうなら、接客中以外は座らせてもらうけど。

「休ませてもらえば?」

「店長男性だし言いにくい」

「繊細か」

それにシフト制だから穴を開けるわけにはいかない。

かといって私の代わりに他の子に出勤させるのも嫌だ。

その子に迷惑がかかる。

「あとまぁ普通にお金が欲しいです」

「欲望に忠実か」

稼げる内に稼いでおかなきゃ。

卒業して家に帰るまでに少しでもお金を残しておきたい。

次はいつあの家を出られるかわからないし。

ナギと知り合ってからはお母さんに抗う気もあったけど・・・今はもうどうだっていいや。

「でもバイト行くなんてえらいっ!」

「そうだよ、頑張ってんだよ。・・・褒めてよ」

ナギが頭を撫でてくれるのが好きだった。

恋しい。

「おっどうしたどうした?今日のみやちんは甘えん坊モードか?よーしよしよし」

「なんかすごくぞんざいな撫で方されてる気がする。というか人間扱いすらされてない気がする。髪の毛ぐちゃぐちゃにしないでよ」

髪の毛が乱れる程撫でられた。

以前もペットだとか愛玩動物だとか言われたな。

確か「番い」の話が来て二人に相談した時だったっけ。

懐かしいな・・・。

「要求が多いな」

「そんなわがままだと彼に嫌われちゃうぞ~」

ずきり。

嫌われるもなにも、私は元々彼の番いではなかった。

本来出会う運命じゃなかった。

「・・・うん、そう、だね」

「みやちん?」

「なんでもない。お腹痛いんだよ」と言ってまた机に顔を伏せる。

この、体の奥が引き攣れる痛み、本当に嫌だ。

子供なんて産まないんだから、こんな機能要らない。

ナギと付き合いはじめは彼の子供をいつか産むのかなと思っていた時もあったけど、もうそれもない。

元々子供は苦手だし、彼以外となら子供なんていらない。


昼休みになった瞬間、すぐさま財布を持って立ち上がる私を2人は怪訝な顔で見る。

「あれ?学食?いつもの弁当は?」

「ん~・・・お腹冷やしたくないからなんか温かいの食べてこようかなって」

「・・・そっか」

「お大事に。ちゃんと薬飲めよ」

「ルナiを私は信じてるよ。やっぱりバファリンはダメだな」

ちゃんと持ってるから、と2人に薬を掲げる。

「バファリンが泣くだろ。あんだけ信奉しておいて」

「見事な手のひら返しだな」


やっぱ優しさなんて要らなかったよ。

信じてたのに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ