75 モテる彼女 ナギ視点
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電車内で急病人が出て、みやびとの待ち合わせに若干遅れてしまった。
「少々遅れている」とメッセージを即座に送る。
これ以上待たせるわけにはいかない、待たせて申し訳ないと駆け足で改札を出、待ち合わせている場所に向かう。
広場のベンチに座っている彼女はすぐに見つかった、が。
軽薄そうな男に声をかけられていた。
以前から思っていたが、みやびはナンパされやすいな。
あれだけ可愛かったら仕方がないが。
まるで興味なさそうに男に目もくれずにスマホを触る彼女に対して、男は尚も熱心に話しかけてるようだ。
周囲の人間はナンパの行く末が気になるのか時折視線を寄こす。
彼女が見世物になってるようで非常に気分が悪い。
俺との待ち合わせの約束のせいで身動きが取れないので傍から見ていても機嫌が悪いのが分かるが、男はそれに気づいている様子が一切無い。
早足で近づくと「彼氏にすっぽかされちゃったの?可哀そう~」だの「君みたいな可愛い子ふるだなんてそいつ酷いね」などと聞こえてきた。
「待たせたな、すまない」と威圧感を放ち男の背後を取る。
自分よりも体格のいい男が現れると、男は驚きつつも媚びた笑顔を浮かべながら走り去っていった。
俺の姿を確認すると先ほどのぴりぴりした雰囲気から一転、みやびはふわっと笑みを返してくれる。
「ううん、大丈夫。それより急いで来てくれたから息が上がってるみたい。ちょっと座る?」と空いてるベンチの横を指し示す。
「そうだな」
左隣に座り、彼女の手を取る。
「みやびはモテるな」
男が慌てて逃げていった方を睨みながら呟く。
左手に光る番いの指輪が見えているだろうに、それでもナンパするやつらが多すぎないか?
薬指に嵌めている指輪の意味もわからないのか?
「さっきの? あれはただ女にワルイコトをしたいだけのけしからんやつだから私がモテてるとは言い難いよ。女なら誰でもいいんだろうし」
「にしては声かけられすぎだろう」
以前もあったし、花火大会でもナンパされていたらしいし。
「うーん、この格好のせいかな。断ったら、男に『遊んでるように見えるから紛らわしいんだよ。声かけられ待ちみたいな恰好をしやがって』とよく言われるけど、私が身に着けたいものを付けてるだけなんだけどね」
みやびにそんな暴言を吐いたやつらを全員始末してやりたい。
鮮やかな茶色の髪の毛と、華美なイヤーカフが男をそそるのだろうか。
服装は派手過ぎず、化粧もしておらず、誘う格好という程でもないから男たちの言い分が理解できない。
ただ単にナンパに失敗しての悔し紛れの暴言だろうが。
握っていた手を離し、左耳のチェーンタイプのイヤーカフの末端を指で軽く撫でる。
「そうだな。あんなことが度々起きると心配だけど、あいつらのせいでみやびが我慢するのは間違ってるよな」
いいながらも黒髪で、イヤーカフなどを一切外してるみやびの姿を想像するが、それはそれで魅力的だな。
みやびはどんな格好をしても可愛いだろうな。
見てみたいとは思うが、実家にいた時の写真は一切見せてもらえてない。
「高校通う間だけの一人暮らしだからアルバムは持ってきてない」と以前言っていた。
その言葉に若干引っかかりを覚えたが、就職するとしたら実家から通えるところを希望しているのだろうか。
不便な所に家があるらしいので実家からは通勤しづらいだろうに。
「学校でもモテるんじゃないのか?」
ずっと気になっていたことを聞く。
以前言っていたキリヤだとかいう男たちのように俺の知らない親しい男が居るのかもしれないと思うと胸が苦しいが、聞かずにはいられなかった。
腕組みをし、しばし空を見つめ、しばらく後に「うーん? ……いや無いかな」と言われた。
「そうか」
思わず安堵のため息が漏れる。
「モテるとは違うけど、学年一位にはよく絡まれるかな」
「――ほお?」
みやびは優待生制度の為に10位以内に入らなくてはならないという縛りのせいもあり、入学以来成績上位をキープし続けてるらしい。
バイトしながらの初めての一人暮らしもあり、並大抵の苦労ではないだろうに。
「うん。一年の時にたまたま私が1位を奪取した後にやたらと話しかけられるようになって困るよ」
男に話しかけられる?
俺の心の中に嫉妬が渦巻く。
「どういう風に?」
「きっかけとなった成績発表の時の事は寝不足気味だったからあんまり覚えてないけど、一度一位を取ったくらいで調子に乗るなって言われたから『雑魚』と煽ったら顔真っ赤にして黙ったらしいよ。でもそれから絡まれるようになったからかなっぺのいう事を聞かなきゃよかった。対処法間違えたなって思った。やっぱり無視するに限るよね」
顔を真っ赤に?
それからよく絡まれる?
それは――惚れられたんじゃないか?
というかみやびの煽りか……。
興味が湧くな。
「ちょっとやってみてくれるか?」
「え、やだよ。恥ずかしい」
即答された。
「一度だけでいいから」
めげずに懇願する。
いつも俺には優しいみやびがどんな風に男をあしらうのか見てみたい。
「うーん……。じゃあ」と言うと俺に向かって片手でピースサインを差し出し「ざぁこ。ざーこ」と小悪魔のような笑顔で挑発してきた。
「覚えてないけど、こんな感じだったらしいけど……ナギ??」
「ぐふっ……」
思わず額を抑え身をかがめてしまった。
「え? ええ? そんなに腹が立った? ごめん」
慌てふためいたみやびに顔を覗き込まれる。
――いや。
「これは――新しい扉が開きそうだな」
予想以上にくるものがあるな。
その学年一位とやらもきっとこれにやられたんだろう。
すごくその気持ちがわかる。
「そんな扉開かなくていいから永久に閉じてて?」
真顔で止められてしまった。