70 ナギもしたいの?アレを みやび視点
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noteではこちらの前日譚「0話」も公開中
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お皿は明日洗うからいいよ、と言ったんだけど、ナギは折れなかった。
その代わりに今のうちに勉強しておいてと言われた。
ナギと一緒に居るこの時間はとても貴重だからお皿洗いや勉強は後ででもいいのに、と思ったのだけど彼は結構強引だ。
几帳面な性格みたいだから、お皿を水に漬けっぱなしで置いておくのが気になったのだろうか。
バイト終わりの私の食べた食器なんだから自分が洗うのは当然なんだけどなぁ。
とはいえ、申し出は凄く助かるので有難く時間を使わせてもらい、軽く今日の授業の復習をする。
しばらく集中してたんだけど隣の部屋からえっちな声が聞こえだしてきた。
右隣に住んでる独身のお姉さんがたまに彼氏と過ごすんだけど、その時の声が響くんだよね。
窓は閉めてるんだけどここ、壁が薄いから。
1人だとヘッドフォンをしてやり過ごすんだけど、今日はナギが居るのに。
どうしようかなとしばし考えていたら、お皿を洗い終わったのかナギが隣に立っていた。
私の様子と壁を通して聞こえてきた声とに困惑してる様子だったけど、すぐに何の声か思い当たったようだ。
「ダメ!!! ナギはこの声聞いちゃダメ!!」と咄嗟に声が出ていた。
さらに「ダメだよ、私以外のこういう声聞いちゃやだ」とまで叫んでいた。
なにを言ってるんだ、私は。
「ちがくて! いや、違うわけじゃないんだけど」
どんどん墓穴を掘ってる。
ナギもどう反応していいのかわからないようで、口元に手を当ててなにか考え込んでいる。
えっちな声は私たちにお構いなしで段々と声量が大きくなってる。
わざとなの? わざと聞かせてるの? お姉さん声が大きいよ。
気が付いたら「こ、コンビニ行こう!」とナギの手を握り、散歩用のサコッシュを持ち部屋を出ていた。
コンビニに何か用事があるわけじゃないけど、2人であの部屋でずっと隣の人の声を聴いてるわけにも行かない。
ナギだって居心地悪いだろうし。
コンビニ限定のワッフルコーンのチョコ&ミルクを買って近くにある公園のベンチで食べる。
このアイスはたまに無性に食べたくなる。
ナギはコーヒーを飲んでる。
コンビニで淹れるタイプのやつだ。
「結構旨いな」と言ってたので以前一口貰ったけど、やっぱりブラックコーヒーは好きじゃない。
というかコーヒーの良しあしがわからない。
どれを飲んでも「コーヒーだね」くらいしか感想を抱けない。
それにしても、と思う。
さっきはなんか色々ととんでもないことを言った気がする。
私以外の女の喘ぎ声を聞かないでとか、なんてことを言ったんだ。
ナギに「あとどれくらいしたら終わるんだ」という事を聞かれたので「いつも大体20分くらい。一回で終わる」と返したら、すごく微妙な顔をされた。
壁に耳を付けて時間を計ってるとでも思われたのだろうか。
逆だから。
私はその声聞かないようにしてるから。
「左隣のおばさんが言ってた」と弁解したけど、よくよく考えると私の部屋を超えてオバさんの部屋まで聞こえるとかすごいな、隣のお姉さん。
窓開けてシテるのかな。
それともそういう趣味を持っているのだろうか。
わざと大声を出して興奮を煽る、とか?
見た目は真面目そうで眼鏡をかけてて如何にもえっちな事なんてしませんよ? みたいな人なんだけどな。
人は見た目に寄らない。
そして、そんなにも……アレは気持ちいいんだろうか。
私もナギとアレをしたら隣のお姉さんみたいに「アレして、コレして、やめないでもっとして」なんて叫ぶんだろうか。
……私は何を考えてるんだ。
ちらとナギの様子を見ると、空を見上げてる。
今日は月も出てないのに。
何を考えてるんだろうか。
……羨ましい、とか思ってるのかな。
「もういいじゃない。ね、この話は終わり!」
サコッシュ内に入れていたビニール袋にアイスの空容器とナギの飲んでいたカップを入れ立ち上がる。
時間も時間だし、ナギが終電に間に合わなくなっちゃう。
よくよく考えたらあの場でナギは寮に帰っても良かった気がする。
いやでもあの空気感で「じゃあさよなら」というのもなぁ。
するとナギが言いづらそうに「今晩泊っていいか?」と言い出した。
「あわわわわ、ええっと、それはどういうアレなの? アレなの?? ナギもしたいの? アレを」
混乱の極みだ。
アレってなんだ。
アレが多すぎだ。
ナギがしたいっていうのなら私も答えたいけどうちの壁は薄いし、なにより心の準備がまるでできてない。
体は……まあ、もうアレの期間は終わったので可能と言えば可能だけど。
「ち、違う。明日休みだし、帰るのが億劫だから泊まりたいというだけだ」
焦ったようにナギが言う。
そういえばナギは明日公休だったな。
「そ、そっか。ナギも今日は仕事終わりで疲れてるもんね、そうだよね」
私が暴走していただけか。
なにを想像していたのか気づかれなかったようで安堵する。
破廉恥な事を考えてただなんて知られたくない。
あんなことを考えていたと知られて引かれたくない。
ナギに手を差し出し、共に部屋に帰る。
彼の手は温かく、優しい。
握る手の力加減からいっても、私を大事にしてくれてるってのが伝わる。
それからしばらく後――。
ナギに裸を見られることになるだなんてこの時の私は全然想像してなかった。




