59 初めてのお泊り みやび視点
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noteではこちらの前日譚「0話」も公開中
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ナギのスマホの通知音が鳴ったので何事かと思ったら、どうやら電車が止まってるらしい。
この時間の人身事故か……。
今日はもう電車動かないだろうな。
ナギはどうするつもりなのかと思ったら「しょうがないな」と呟いたので、そうだね、しょうがないね。うちに泊まるしかないよね、と思って「泊まる?」と誘ってみた。
激しく驚いたみたいだけど、私の方から言い出したのがそんなに意外だったのだろうか。
電車止まってるの知ってて追い出す程、鬼じゃないよ。
歩いて帰れる距離じゃないし。
それともなにか他に問題があるのかなと思ったらすぐに思い当たった。
着替えがないなぁ。
夏だから汗もかいてるだろうからシャワー浴びたいだろうけど、下着の替えがないと嫌だろうしね。
「そっか、着替えとかないもんね。近所の24時間開いてるドラッグストアとかなら下着とか売ってそうだけど、行く?」と言ったら微妙な顔をされてしまった。
なんだろう、この反応。
的外れな事を言ってしまったようだけど、思い当たらない。
もしかしたら寝る場所を気にしてるのだろうか。
シングルとさほど値段が変わらないのなら、とセミダブルベッドを借りたから広さ的には2人で寝られないほどではないハズだ。
もっともナギは体格がいいから2人で寝るには狭いと感じるかもしれないと「セミダブルベッドだからナギと一緒だと狭いかもだけど」と正直に伝えたら見たこともない表情になった。
どういう感情?その顔。
驚愕と困惑が混ざったみたいな顔だ。
1人でないと寝られないのかな。
ナギは一人っ子だというし、誰かと一緒に寝た経験があまりないのかもしれない。
私の送迎の為に仕事終わりにほぼ毎日可能な限り会いにきてくれるナギを少しでも労わりたいからと「一人でしか寝られないのなら私が床で寝るけど?」と言ったら頭を抱えられてしまった。
さっきからなんなのかな、このナギの様子は。
少し私たちの中で押し問答があったけど、結局はナギもためらいがちに了承してくれた。
「じゃあ、行こうか?」とドラッグストアに誘う。
「いや……一人で行ってさっさと買い物だけ終わらせてくる」
「そう?場所は分かる?」
「ああ」
何回か二人で行ったこともあるし、それは大丈夫か。
ナギが出かけてる間に、食器でも洗っておくか。
あと、バスタオルとかも用意しておかないと。
タイミングよく先日コインランドリーで洗ったところだからまだタオル系の予備はあるし、未開封の洗身タオルもある。
そういえば明日の朝ごはんどうしよう。
ご飯を炊いて、ナギが持ってきてくれてる総菜と適当に卵でも焼くか。
もしお味噌汁欲しかったら買い置きしているインスタントもあるし。
ナギから「朝飯どうする?」とメッセージが来たから「ご飯炊くよ」と伝える。
なんかこれって同棲してるみたいだ。
嬉しいような恥ずかしいような、色んな気持ちが混じる。
炊飯器の予約をして時計を見たら、結構時間が経過していた。
ナギが戻ってきたら、シャワーを勧めて私もさっさと入って寝ないと。
私自身、朝はかなり弱いから今晩はしっかり寝てちゃんと起きなきゃ。
ゴミも出さないといけないし。
色々と準備をしていたらナギが帰ってきた。
玄関のドアが開いた瞬間、夏独特の熱気が入ってきた。
夜とはいえまだまだ暑い。
短距離歩いただけでも汗かいただろうな、と先にシャワー入るように促す。
予備として買ってあった洗身タオルを渡し、どれがボディソープなのかを説明する。
100均で買った容器にシャンプーなどを詰め替えて使ってるので一見した限り何が何だかわからないからね。
ドラッグストアに行くのなら、ナギがいつも使っているボディソープなども買ってきてもらえばよかったかもしれない。
私はよく知らないけど、男性と女性では肌の違いとかあるだろうし、ナギも自分が普段利用している物の方が良かっただろうな。
それにナギが愛用してるボディソープだろうシトラスハーブの香りが好き。
ナギがシャワーを浴びてる間に自分の枕の隣に手ごろなクッションを並べる。
流石に枕の予備はないからクッションで代用するけど、寝にくそうで申し訳ない。
でもこうして枕とクッションを並べてるのを見ると、軽い気持ちでとんでもないことを言ったんじゃないかと思った。
改めて考えると、男女が1つのベッドで寝るとか。
破廉恥だと思われなかっただろうか。
恥ずかしいことを言ってしまったと、ひとり悶々としていたらナギが出てきたので私もシャワーを浴びる。
軽く汗を流してパジャマに着替えると、以前ナギに初めて自撮り写真を送った時の事を思い出す。
あの時と同じパジャマだ。
添い寝してるような自撮り写真を送りあったけど、まさか本当に一緒のベッドに寝るとか思いもしなかった。
私たちは「番い」だから、その内そういう関係になるのだろうけど。
でも、ナギも疲れてるだろうから今日は無いだろうな、うん。
「お待たせ」
洗面所を出ると、ベッドに座ってスマホを見ていたナギが「……ああ」と顔を上げたけどすぐに目線をそらした。
この家、暇をつぶすものが無いから退屈させてしまったのかもしれない。
ベッドに近づくと、ナギが一瞬身じろぎした。
用意してたナギ用のタオルケットを渡して「じゃ電気消すね。明日ゴミ出さないといけないから早めに起きないとだし」と言うと複雑そうな表情をされた。
そうだよね、休日の朝はゆっくり寝たいよね。
でも、ゴミ出しの時間が厳しいんだよ、ここ。
以前守らなかった人に対して隣のおばさん含め、ご近所の奥さん方が激怒してその人を特定して乗り込んでたくらいだし、夏休みとはいえゴミの日は早起きを強制させられてる。
自分のタオルケットを被り「おやすみ」と笑顔であいさつを交わす。
向かい合って寝る勇気が無かったので私はナギに背中を向ける。
誰かと共に寝るのは初めてなので若干緊張したけど、寝つきはかなり良い方なので、自分でも驚くほど即座に夢の中に落ちていった。