52 過去話 トモダチ かなえ視点
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noteではこちらの前日譚「0話」も公開中
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高校に入学して初めてのテストの後のとある日。
廊下に順位が貼られた瞬間、騒然となった。
1位 藤原みやび
小学、中学に通ったことがないという子がいきなり1位。
しかもかなりレベルの高い進学校で。
そりゃ場がざわつくはずだ。
うちのクラスの人間は全員青い顔をして黙りこくっている。
途端に「藤原って誰?」と声が広がる。
小中学校に通ってなかったみやちんは私たちクラスメイト以外に顔見知りが居ない。
逆にそれが目立ち、ひそひそとした声と共に同級生の視線を一気に集めてしまった。
みやちんの普段の授業の様子を知らない他のクラスの連中は「不正じゃないのか」とか「先生に色目でも使ったんじゃない?」「あの見た目だもんね」「あのイヤーカフ何?学校に着けてくるなんて信じられない」なんて露骨に言うやつらまで居る。
こういった雰囲気嫌い。
うちは進学校の割に校則緩いし、髪の色や衣服については規定はない。
みやちんより派手な金髪の子だっているし、ピアスつけてる男子だって居る。
ただ単に自分よりも優秀なみやちんが気に喰わないだけじゃん。
怒鳴りつけてやろうかと思った瞬間、みやちんが心底機嫌悪そうな声で「今何か言った? 聞こえなかったんだけど」と射殺す視線で周囲を睨みつけた。
その雰囲気にのまれる一同。
すかさず、みやちんの頭をぐりぐり撫でて「さっすが! みやちん! あたしゃあアンタを信じてたよ、こりゃ今度お祝いしなきゃね。うちの家でめっちゃいいお肉で肉パー開こうぜ、極上のお肉用意するよ」と大げさに騒ぎ立てる。
「え、なんでかなっぺの家でみやちんのお祝いすんの? 意味が分からないんだけど。ってか肉パーってなに?」と隣に立ってるはるっちがツッコミを入れてくる。
「いや、でも――すごいな、みやちんは。ホントに学年首位取るなんて」と、はるっちはぽつりとこぼした。
アタシは現場を見てないけど、みやちんが同級生に啖呵切ったらしい。
「次のテストで首位を取る」と。
それを有言実行するだなんて凄いな。
後でみやちんに聞いたら恥ずかしそうに「初めて出来た友達を馬鹿にされて悔しかったから」と蚊の鳴くような声で呟いた。
自分はどれだけ批判されてもどうでもいいらしいけど、アタシたちが言われるのはガマンならなかっただとか。
かといってクラスメイトを挑発するために首カットのジェスチャーまでするかって感じだけど。
この子、変な映画のファンだからなんか悪い影響受けてない?
「いいじゃんそんな細かいことは。アタシが肉食べたいだけなんだよ!! お肉だよ~めっちゃいいお肉だよ~~」と、みやちんの両手を取り左右に大きく振りながら、顔を覗き込みながら言う。
「おにく、めっちゃいいにく……」
うわごとのように繰り返す。
なんだかんだで肉に釣られてやんの。
まぁこの子、1人暮らしで食生活が乱れてるからね。
聞いたら晩御飯用意するのも面倒くさくてバイト終わって夜に家に帰り着いたらそのまま泥のように眠ることも度々あるとか言ってた。
朝は朝でギリギリまで寝たいからシリアルとヨーグルトを適当に食べるとか。
お昼も基本的に学食に行かずに普段はあらかじめ購買で総菜パンを買って済ますくらいだし。
「栄養足んなくない?」と聞いたら「サプリ飲んでる」と返された。
うん、友達としては心配だなこの子、その内ぶっ倒れそう。
「焼肉でもいいし、霜降りな肉のすき焼きもいいよ。蕩けるよ~」
「とろける……」
まるで暗示にかかったように繰り返す。
ちょろいな、みやちん。
そんな時、男の絶叫が廊下に響いた。
腐れ縁でずっと小学校から同じ学校の秀才、宗像だ。
「なんでぼくが一位じゃないんだ。というか誰なんだ藤原ってのは! キリヤたちならまだしも藤原なんて知らないぞ」って驚愕してる。
そういやそうだな、あいつが1位じゃないのって初めてじゃないかな。
ちょっと挑発してやろうっと。
「へっへん。うちのみやちんは凄いでしょ! うちの秘密兵器だよ~~」とみやちんの肩を抱き煽る。
「ふん! その派手な女が藤原だと?おい、そこの女。何かの間違いで一位を取ったからといっていい気になるなよ」なんて負け惜しみを言う。
みやびは一切興味なさそうに宗像を見てる。
宗像は一瞬ひるんだようで声を失った。
あ、これみやちんは眠いだけだな。
昨日もバイトだって言ってたし、さっきのも不機嫌からくるものではなく純粋に悪口が聞こえなかったんだろうな。
肉には反応したけど。
寝ぼけながらも肉に反応とか、そんなに飢えてるのか。
今度たっぷりとお肉をご馳走してやろうっと。
今ならみやちんを使って高慢ちきな宗像をちょっとからかえるかなと悪戯心が働いた。
宗像には見えないように後ろを向いて小声で「いっちょ煽ってやろうぜ。ポーズはこれね」と指示する。
「ほら、やってみ」とポーズをとるのを手助けする。
「ん」
宗像に向かって片手でピースサインを差し出し「ざぁこ。ざーこ」と挑発する笑顔。
自分で指示しといてあれだけど、すっげームカつくな。
ってか眠さマックスだとこんなちょろく操れるんだ、いい事知った。
挑発された宗像は茹でタコのように顔を真っ赤にして動揺してる。
あれ? この反応ってもしかして……?
「つ、次はぼくが勝つからな!お、覚えてろよ! ぼくはお前の名前と顔をしっかり覚えたからな! 覚えたといっても他意はないからな! そこんとこ勘違いするんじゃないぞ!」とツンデレかつ悪党の下っ端みたいなセリフと共に走り去った。
事の成り行きを黙ってみてたはるっちが「……アンタ宗像の新たな扉開いたじゃない?」とぼそっと呟いた。
「かもねー。あいつみやちんに惚れちゃったかもねー、ヤバいねーあはは」と笑ってごまかす。
ふと隣を見ると、みやちんは「もう限界」とばかりに立ったまま寝てた。