44 お仕置き確定 ナギ視点
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noteではこちらの前日譚「0話」も公開中
https://note.com/kirakiraspino/n/na36abbadd334
「御厨、飯中にスマンな。ちょっといいか?」
職員食堂で食事中に珍しく参番隊が声をかけてきた。
参番所属だとは記憶にあるが、名前が出てこない。
弐番は仕事の兼ね合いで隊員らもそこそこ名前を憶えているが、参番は隊長が五行ということもあり、疎遠だ。
「ああ、大丈夫だ。――確か」
「参番隊副隊長の水無瀬だ」
参番隊と聞いて、俺の周りに座ってた天方たちが騒然となる。
以前、参番隊長の五行の隊員に対する扱いを何とかしてくれと泣きつかれた事があった。
正確には加賀宮が泣きつかれたが「面倒だ」と言って、俺に「代わりにぶん殴って指導して来い」とまわしてきたんだが。
軽く五行を指導してやったらやけに崇拝されてしまったので「あいつと関わるんじゃなかった」と後悔した。
「自分を負かしたのは御厨、お前が初めてだ」とやたら付きまとわれるようになった。
忌まわしい記憶だ。
水無瀬は色々と問題だらけの五行と違い、質実剛健で人望も厚く、あいつよりも隊長にふさわしいと噂されてる。
「何か用か?」
食う手を止めて横に立つ水無瀬を見上げる。
「ああ、お前の番いに礼を言いたくてな」
参番隊とみやびに何の関係が?
まるで話が見えない。
「……彼女が何か?」
参番の巡回中に彼女と遭遇したのだろうか。
それにしてはみやびからはそういった類の話は一切聞いていない。
彼女の事だからなにかあったら雑談を交えて俺に話しそうだが。
「あの馬鹿、いや……うちの隊長に制裁を加えてくれたようだな。やつに出来た痣を見るとスカッとしたぜ」
「制裁? 痣?」
眉を顰める。
五行は俺の警告を無視してみやびに会いに行ったのか?
そして――彼女が五行を負かした?
隣に座っていた天方がこの話に興味を持ったのか、水無瀬に席を譲った。
「なんだ、知らないのか?」
天方に軽く礼を言いそこに座った水無瀬は持っていたタブレットでとある場所の防犯カメラの映像を見せてきた。
閑静な住宅街がそこには映っていた。
見覚えがある。
みやびの通学路だ。
二人で散策していた時に通った記憶がある。
道端に設置されているカメラの映像だから、画質が悪いが五行とみやびが歩いてる。
そして傍らに五行の護衛らしき屈強な男もいる。
「あいつ、お前の番いのスケジュールを調べててこの日に夏期講習に行くと踏んで張ってたらしいぞ」
ストーカーじゃないか。
夏期講習……俺が仕事で会えなかった日か。
みやびからは五行に会ったとも何も聞いてなく、その日は普通に「仕事終わった、会いに行けないから遅番は嫌いだ」「お疲れさま。そういや友達と遊びに行くことが決まったから、土曜は会えないよ」
などと軽くメッセージでやり取りしただけだ。
今から土曜が憂鬱だ。
「で、狙い通りに家を出てきた彼女に話しかけて何があったのか知らんがこの場所でいきなり五行が殴られさらにローキックまで食らった」
水無瀬が動画を最大限までアップにする。
映りが悪いが、みやびがよどみなく拳と続けて蹴りを叩き込んでる姿が見えた。
タブレットを覗き込んでた他の隊員らが一斉に「すげえ!!」「完全に視覚外から打たれてるな」「このオーバーハンドフック、男だったらぶっ倒れてるレベルで綺麗に入ってるだろ」「何もんなんだよ、この子!」「これ俺も避ける自信ねえぞ」「トドメにローキックとか容赦ねえな」「やべえ、俺より強いかもしれん!」と湧いた。
声が響き、食堂中の視線を集めてしまった。
丁度休憩に入ったであろう弐番隊の隊員までもが、声に誘われ近づいてきた。
みやびが以前「私、強いよ」と言っていたが、これほどのレベルだとは思わなかった。
オーバーハンドフックからのローキックが流れるように決まってる。
しかも的確に「どうしたら相手に一番強くダメージが入るように」が分かっている。
母親に護身術を教わってるらしいが、護身術の域を超えている。
そして何者なんだ、母親……。
「おいおい、ずいぶんと盛り上がってんじゃねえか。何見てやがんだ」
茶化す物言いで加賀宮が俺たちのテーブルに近づく。
「加賀宮弐番隊長! お、お疲れさまです!!」
水無瀬が加賀宮の姿を見てすぐさま立ち上がり、お辞儀と共にやつにタブレットを渡す。
護国機関随一の武闘派である加賀宮は多くの隊員から恐れられている。
理不尽な暴力は振るわないのだが、やつには独特の威圧感がある。
以前、加賀宮に食って掛かったやつが居たが、完膚なきまでに叩きのめされた。
流石の加賀宮も、動画を見た瞬間驚愕の表情を浮かべた。
そして無言のまますぐに傍らのシオンにタブレットをまわす。
「これは」
いつも涼しい顔をしてるシオンですら驚いてる。
「容赦ないですね……」
「そうだな、俺も彼女を怒らせないようにしないと」
「相手が五行だからだと思いますけどね。あいつは人の神経を逆なでする天才ですから」
シオンの言葉に、一同が頷く。
どこまでヘイトを買ってるんだ、あいつは。
気持ちはわからんでもないが。
「素人にやられるなんざ護国の恥さらしだな。足に受けたダメージが消えた頃合いに、俺が直々に五行に稽古つけてやるよ。参番、そう伝えておけ」
加賀宮のその言葉に場が騒然となる。
これまで加賀宮は「面倒くさい」という理由で五行を放置していたのだが、直接”指導”するとは。
加賀宮とは割と長い付き合いの俺も驚いた。
その晩、二人で過ごすつかの間の時。
隣り合って座るみやびに「右手を見せて」と左手を差し出すと不思議そうな表情をしながらも手を乗せてくれた。
「……なに?」
そのしなやかな手をじっくりと見、軽くさする。
事態が呑み込めて無いようだが、痛みなどは感じていないようだ。
「腫れては無いようだな、よかった」
あれほど綺麗に拳が入ったから変に痛めては無いとは思ったが、実際に見ると安心した。
「……もしかして聞いた?」
バツが悪そうに、悪戯を見とがめられた子供のように首をすくめる。
「ああ」
実際は聞いたどころではなく、動画を見たが言わない方がいいな。
監視されてるみたいだと、気分を悪くするかもしれない。
「俺がもっときつく忠告しておけばよかった。すまない」
まさか直接会いに来るとはな。
あいつの事だから傷つけるような暴言も吐いたに違いない。
「ナギのせいじゃないでしょ。あの人、話全然聞かないタイプみたいだし。というか、あんなのが居て護国機関と五行財閥って大丈夫なの?」
なにがあったのか、短い間で五行の本質までも見抜いている。
よほど高圧的にみやびに接したんだろうな、あの馬鹿。
大事な彼女に対して、と怒りを覚える。
「今度、加賀宮がきつくお仕置きするらしい」
「お、おおぅ。それはまた――恐ろしそう」
みやびに対しての行動は看過できない。
俺もあいつを指導しなおさなければな。
もっとも加賀宮のお仕置きの後であいつにまだ余力が残っていたら、だが。