4 色づく世界 ナギ視点
noteの方で、裏話、小ネタを掲載していってます
https://note.com/kirakiraspino/n/n440005f891fe
noteではこちらの前日譚「0話」も公開中
https://note.com/kirakiraspino/n/na36abbadd334
「好きです、付き合ってください」
幾度となく聞かされた言葉。
それに対して思ったのは「この女は誰なんだろう」「ろくに話したこともない俺に対してなんで好感を抱いてるんだ」「そんな気持ちを抱くなんて理解できない」だけだった。
断ったらこちらが悪者。
「人の好意を足蹴にした」「勇気を振り絞って告白した女の子を振るなんて最低」と告白してきた女の友人と思しき、これまたよく知らない女たちから批判されることもしょっちゅうだった。
面倒だな、と思いながらいつもの雑音だと無視する。
よく知らない女から告白されたら受け入れなくてはいけないのか?断ったらこちらが批判されるとか益々意味が分からない。
そして、人を好きになる、という気持ちもわからなかった。
幼少のころから常々祖父に「お前にも唯一無二の相手が現れる」と聞かされていたが、本気にしていなかった。
どんな相手にも心動かされることのない俺が、誰かを愛するだなんて想像もつかなかった。
恋愛というものがわからなかった。
三つ目の巫女の言葉通り、数日後には封書という形で「番いが見つかった」という報せが届いた。
同封された釣書に必要事項を書き、市役所を通してそれを渡し合い事前にお互いの情報を知り、実際に面合わせするらしい。
尚、指のサイズも釣書と一緒に知らされるために依頼した側が会うまでに指輪を作り、当日に渡す流れらしい。
デザインは国指定のものなので考えずに済むのがありがたい。
釣書交換をしておきながら、実際に会うまで相手の顔がわからないというのが不便ではある。
こういうのって顔写真も交換しておくものでは無いのか?
三つ目の巫女の意地の悪さを感じる。
「実際に会って知った方がロマンチストじゃろ?」と笑う巫女が想像できる。
相手が学業とバイトの両立をしてるせいか中々会える日がマッチしない。
こっちとしては指輪を互いに着けて「俺たちを引き離すな、近寄ってくるな」と周りの女たちを牽制さえできればどうでもいいんで早く済ませたいんだが。
女たちを遠ざける事さえできるのなら、それでいい。
番いには一切の期待はしていない。
というか、今手元にある相手の釣書きには名前と住所、そして実家だと思われるもう1つの住所とバイト先、学校名くらいしか記載されていない。
どうやら相手も俺と同じく「番い」に対して期待もなにも抱いてないようだ。
正直助かる。
過度に期待されても困る。
番いというからには将来的にはいつか結婚するだろうが、それまでお互い好きに生きればいいと思っている。
定期的に連絡を取り、お互いのタイミングが合えば結婚。
そんなもので十分だろう。
会う場所には「密室はダメだ」という制限もかかっていた。
何を危惧してるのかわからないが、過去に何かトラブルがあった結果なんだろうか。
場所を考えるのも面倒だったので、互いの交通の便も良い、仕事の打ち合わせでよく利用するとあるホテルのコーヒーラウンジにした。
街中のカフェだと人目があり目立つが、ホテルならある程度こちらのプライバシーも考慮してくれるだろうし。
なにより顔がわからないが、馴染みのコーヒーラウンジなら俺のツレだと言えばそれで通してくれるだろう。
当日。
かなり早くついてしまったので、コーヒーを飲みながら相手を待つ。
ウェイターに待ち合わせだと伝える。
店内の客がこちらを見てなにやら囁いている。
その視線には好奇の色が見て取れる。
「白の貴公子」という単語が聞こえた。
こんなにも枷になるだなんて。
気軽に請け負うのではなかった、うかつだった。
「御厨さま。お連れの方がお見えになりました」
ウェイターの声が俺の思考を遮った。
呼ばれふと目をやると、まだ年若いウェイターの陰に隠れるようにして一人の女が立っている。
「初めまして。えっと、藤原みやび、です」
若干頬を赤らめさせながら、淡い水色のトップスと華美過ぎない白のレーススカートを合わせた清楚に見える、艶やかな茶色の髪の毛の少女。
彼女を見た瞬間。
色の無かった俺の世界がぱっと色づいた気がした。