38 会議2 敬神の会からの苦情 ナギ視点
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noteではこちらの前日譚「0話」も公開中
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全ての報告を聞き終えた杠葉長官が時計を一瞥すると「さぁて他に何か意見あるかな?仕事をしやすいような要望とかなんでもいいよ~。なければ解散するよ。みんなお腹減ったでしょ」と皆に声をかけた。
それぞれの部署もトラブルを抱えてるわけでもなく、進捗具合などの連絡だったのでいつもよりも早めに終わりそうだ。
長官は「まだ昼休憩には早い時間だけど、会議は早く終わるのであればそれに越したことがないからね」とも付け加える。
特に挙手もなくこのまま解散かと思っていたら意外な人物が声を上げた。
「では。我々敬神の会から壱番隊隊長に一言申し上げたいことが」
その視線にはいら立ちが含まれていた。
「へぇ、珍しい。敬神の方々が。どうぞ、どうぞ」
長官はおどけたように俺を指し示す。
俺と敬神の会の繋がりと言ったら三つ目の巫女、というか番いの件かと思ったら案の上だった。
「御厨殿が三つ目の巫女さまによる番いのお告げの儀式を利用したと公開したことにより、本来は受付対応外の一般人からの申し込みが多発しているとの事」と広報にちらと視線を送る。
「その通りだ」とばかりに、広報も大きく頷いている。
一般人は番いの託宣を受けることはできないが、この国では学校の授業の一環でも「番い」について学ばされる。
とはいってもどうしたら託宣を受けられるかなどの情報は一切秘匿されているが。
神への信仰を高めるために、唯一「巫女によって託宣が下される」とは知らされている。
「あー、そういえば御厨ちゃんの公式SNSが炎上したの僕も見たよ。『番いを得た』という書き込み一つで罵詈雑言と共に一気にフォロワーが減ったのは怖かったよね~、あれには電子警備隊ちゃんらも火消しが大変だったって報告来たよ」
「あれは酷い炎上でしたね。今後SNSを続けるための条件とはいえ『一生の恋人である番いが見つかりました』と告知するだなんて正直浅慮だったかと。せめて公表する時期を合わせて欲しかったのですがね」
対応に苦慮させられたであろう広報担当が苦い顔をする。
聖地巡礼前にあの投稿はまずかったかもしれないが、かといって広報のいうタイミングをずっと待つわけにもいかなかった。
正直、白の貴公子としての活動をもう辞めてもいい。
そもそもが「参拝のマナーを知らない若者たちに向けてのマナー動画を撮るだけだ」と聞かされていただけなのに。
「それからすぐ後に有名芸能人による複数女性との不倫が露見し『それに比べて1人の女を大事にする御厨は誠実だ』と流れが変わってフォロワーが戻りましたが。さらに付け加えると今までの写真と比べると柔和な雰囲気のものが増えており、フォロワーからの反応もすこぶる良いです。近々動画配信サイトでの生配信を企画しています」
そんな企画が持ち上がってるのか。
やりたくないな。
「いやータイミングが良かったよねー。やっぱり我々には神の御加護がついてるのかなー。日ごろの行いって大事だよね~」
わざとらしく長官が頷く。
なんて白々しい事を、という空気が場を支配する。
「杠葉長官が信仰する”神”はともかく、我らが敬愛する神はそのような小細工はなさいません」
やはりというか敬神の会が異論を唱える。
神を妄信している敬神の会にとっては、杠葉長官のいう「神」など到底認められないものだろう。
「で、敬神さんらは何をどうしたいの?」
「我々としてはこれ以上三つ目さまの負担はかけたくないので不要な番い探知依頼は控えていただけるよう周知してもらえると幸いなのですが」
「みっちゃんはなんて?」
長官は三つ目の巫女をみっちゃん呼ばわりしてるのか。
「……三つ目様は『面白いのが視えるのなら一般人だろうがなんでもオッケー』だと。ただ明らかに悪戯と思われる申し込みもあるので腹立たしいですね」
1度しか会ったことがないし、御簾越しだったが、あの巫女は「オッケー」なんて言うのか。
人によって態度を分けてるのかもしれないが、もしかしたら術か道具かで声色を変えてて実際は遥かに若いのかもしれない。
長官の巫女への態度も含めて考えるとその可能性もあるのかもな。
「本当はそういった申し込みにはふるいにかける為にも金銭を発生させたいんですが、最近では『一般人から金をむしり取る気か』という風潮が強いですから」
一般人との窓口を担ってる広報がため息交じりに呟く。
「権利ってのをはき違えてるよね、困ったもんだ。声高に叫べば道理が引っ込む今の風潮は変えたい所ではあるよね」
杠葉長官は「でもね」と続けていった。
「正直、御厨ちゃんの番いちゃんへの溺愛ぶりは怖い気もするよ。僕は妻を深く愛してるけど、もし僕に番いが現れたらこれまでの感情を一切合切塗り替えられそうでね」
俺は初めての恋だからわからない感覚だが、もし恋人が居る時に番いが現れたらそれまでの恋情が掻き消えてしまうものなのだろうか?
そういえば番いの託宣を受けた時に「相手に恋人が居たら知らされない」と言われたな。
その辺りも危惧しているのだろうか。
「確かにあの溺愛ぶりは私も率直にいって怖いと思います」
「盲愛だろ、アレは。正直見てられん」
「一種の呪いですね」
加賀宮含め、俺の最近の様子を知る人間らが口々に言う。
俺自身もあそこまで一人の人を愛するだなんて考えられなかった。
だが。
「周囲がどう思おうとも俺はもう彼女が居ない人生は考えられないし、巫女に依頼をして良かったと心底思ってる」
「はいはい、ごちそうさま。もう一度その辺りを強調して広報ちゃん宣伝してくれる? 依頼したらもう後戻りはできないってね。番い以外との恋愛は出来ないし、今パートナーが居る人間にはその人への想いが色あせるとかなんとかって。みっちゃんが楽しいのなら一般人相手だろうがなんだろうがどんどん番い見て欲しいんだけど、託宣を頂戴するのにも条件があるんだけどね」
巫女らを擁する敬神の会の代表者が長官を睨みつける。
「三つ目様の探知は番い殿の大まかな場所と姿が見えるものであり、それを探し当てる我々の苦労がどれほどかご存じないようですね。名前と住所などの情報がそのまま見えるわけではないのですよ。御厨殿の番い探しもかなり困難を極めましたよ」
「それに関しては、申し訳なかった」
戸籍などの個人情報が見えるわけではないのか。
どういう風に「視る」のかは知らないが、苦労を掛けてしまったようだ。
後悔はしてないが。
「それに杠葉長官殿。三つ目様は神降ろしが出来る数少ない御仁であり、あの方の託宣は気軽に使っていいものではありませぬ」
「みっちゃんはねー。まさに神に生み出された巫女姫さまだからねー。生まれてからずっと檻の中に入れられてる感じでかわいそうだからなんか楽しみを見つけたら自由にそれをさせてあげたいんだけどね」
「檻だとは不敬な。巫女姫さまを俗世からお守りするのが大事だとわかっておいででしょうが」
「あはは、怒られちゃった。でもさ、みっちゃんもあまり行動を制限されるのも退屈だろうし、近々お茶会でも開こうって言っておいて」
「……伝言は承りました」
巫女姫は、儀式によって生み出されたとは聞いてるが詳しくは知らない。
一族の中で神力が高い男女が神の指定した日時に情交を結ぶらしいが興味もない。
ただ、愛情もない交わりで生み落とされるというのは酷く寂しいな、とは思った。




