19 合法お部屋デート ナギ視点
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noteではこちらの前日譚「0話」も公開中
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今日はみやびはバイトの日ではないし、毎日彼女の家に行くのも彼女の時間を奪うみたいで気が引けていたので、久しぶりに別々に過ごすこととなった。
会えなくて寂しいが、以前シオンに「ずっと一緒というのも息が詰まるでしょうし、適度に会うくらいでいいんですよ」と窘められたしな。
俺は彼女と会うまで恋愛について一切興味がなかったので、こういったシオンのアドバイスは助かる。
みやびに嫌われたくない。
夕食を済ました後、多目的ルームのソファに座りコーヒーを片手に、デートに最適な情報が載っているという宣伝文句の雑誌をぱらぱらとめくる。
女性がどういう場所を好むのかイマイチわからないので参考にしようと思ったが、どこもピンとこない。
まだ付き合って間もないのに、泊りがけのキャンプやサウナデートというのもな・・・。
一番喜ぶのは映画鑑賞だろうが、毎回同じだと呆れられるかもしれない。
食事もこういう所に載っている所は予約必須だと書いているし、彼女はどうやら行列が苦手のようだから好まれないだろう。
こういう時、選択肢が少ない自分のふがいなさに苛まれる。
読んで時間の無駄だったと思い「これ、ここに置いておくから好きに読んでくれ」と言うと「嫌味か。恋人が居ない俺たちに対する嫌味か」と一斉に罵倒された。
そんなつもりはなかったんだが。
というか、みんな気のいいやつらなのに恋人が居ないとか世の中の女たちは見る目が無いな。
以前合コンに行った隊員からは、自己紹介で「護国機関警護隊所属」と言うと「ナギさまを紹介して!!!」と目が血走った女たちに詰め寄られたらしく、後で俺がその隊員になじられた。
理不尽だ。
「あ~やだやだ。モテない男たちの僻みって怖いですよね」とシオンが紅茶片手に俺の隣に座った。
同じように珈琲を持ってきた加賀宮が俺を挟むように座る。
俺が先ほどまで読んでた雑誌を一瞥すると「お前こんなのを読むようになったのか。世も末だな」と吐き捨てるように加賀宮に言われた。
「いいじゃないですか。恋愛初心者って感じで。ビギナーらしく動物園とかどうです?」
なるほど、奇をてらわずにオーソドックスなデートコースというのもアリだな。
「動物園か。・・・猛獣が大目のお勧め動物園はないだろうか」
「なんなんです、そのチョイス。・・・普通小動物とのふれあいコーナー目当てとかじゃないんですか?」
「いや、みやびはB級映画で人が襲われる系が好きだから猛獣を見たいかな、と。だとしたら水族館はどうだ?サメをメインにしてる所はないか?」
「さっきからなんなんですか。ってか彼女そういう趣味を持っているんですか」
「特にサメ映画が好きなようで、この間一緒に温泉からサメが出てきて人を襲う映画を見た」
「温泉?え?温泉からサメ?ちょっと意味が分からないのですが」
俺も意味が分からなかった。
映画館に居たサメ映画ファンからは常に笑いが絶えなかったし、みやびも目を輝かせて食い入るように見ていた。
その後「国産の鮫映画もいいものだね!」と嬉々としてシャツを購入していた。
「隣のお前の部屋からやたら絶叫が聞こえるのはそれ系の映画か」
やはり壁越しに聞こえていたか。
あまり好きではないがヘッドフォンを使った方がいいかもしれない。
「勧められた映画がどれもこれも絶叫しまくるからな。迷惑をかけたのならすまない」と頭を下げる。
「別に騒音って程に音が響いているわけじゃないんだが・・・どういう趣味だ」
加賀宮が怪訝な顔をする。
「そうだな、基本的にスラッシャー映画と呼ばれる物を好んでいるらしく、とにかく人が死ぬ映画を勧められる。中でも気に入ってるジャンルはサメ映画らしい」
俺の話を聞いていても、加賀宮はまるで理解できないという顔をしている。
「・・・まぁそれは置いといて。映画鑑賞が好きなら普通に家でサブスクででも映画見てたらいいじゃないですか」
「しかしそればかりだとマンネリじゃないのか?」
つまらない男だとは思われたくない。
もしみやびに愛想をつかされたら、と思うと胸が痛い。
「自宅で映画鑑賞だなんて合法的におうちデートが出来るじゃないですか」
「そんなものがあるのか、合法という事は違法もあるのか!?」
聞いたことのない言葉だ、合法おうちデート。
隣で加賀宮がコーヒーを噴出した気配がしたが構わずシオンに詳しく話を聞きたい。
「合法じゃないと逮捕されちゃいますからね。気をつけないと」
「そうなのか。俺は男女の営みには疎いからな。シオンが居てくれて助かる」
「おいおい、わかりやすいウソに騙されてんじゃねーぞ。ってか、どうして信じるんだ」
違法と合法をどう見極めるのだろうかと不審に思い少し怪しいと思っていたが、嘘だったのか。
「ではおうちデートというのも、ない・・・のか」
もはやシオンの言葉がどこまでが冗談でどこが真実かわからなくなってきた。
「おうちデートは二人でまったり映画鑑賞とか、ゲームで遊ぶとか、雑談とかですね」
「なるほど。みやびは人込みなど苦手そうだからゲーム機を買ってきて遊ぶとかそういうのはいいかもしれないな」
とはいえ俺もゲームには疎いが、最近は多種多様なジャンルのものがあるというし、2人でソフトを選びながら買うのもいいな。
丁度夏休みも始まるし、勉強漬けの生活の気分転換にはいいかもしれない。
1度見始めたら90分ほど束縛される映画鑑賞とは違って短時間でも気軽に楽しめそうだしな。
いいリフレッシュになりそうだ。
「あとは上級者向けですが、同棲体験というのもあります」
「!!なんだその魅力的過ぎる単語は」
同棲、だと?
「一緒にお風呂入ったり、一緒に寝たりするんですよ」
風呂・・!同衾・・・!!!
「くっ!世の恋人たちはそんなことをしているのか・・・。したいな、同棲体験・・・」
ぽつりと漏らした言葉に「なに食いついてやがんだ」と加賀宮の声が冷たく飛んできた。
3人が会話しているのを遠巻きに見ていた寮住まいの隊員たち。
「最近の御厨隊長には親しみ湧いてくるわ、俺」
「わかる、人間味が増したっていうか、からかいがいがあるっていうか」
「というか今の御厨が隊長で壱番隊大丈夫なのか?」
「仕事はできるんだよな、あいつ」
「おい、今度どこまで嘘を教えて信じるか賭けしようぜ」
そんな話があったとかなかったとか。