131 勘違い、その裏側 ナギ視点
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みやびが家で食事を摂っている間、異能力者の簡易保護施設である宿舎の利用許可を申請した。
俺の記憶通り、今は他に誰も利用してないようですぐさま許可が出た。
そして彼女が準備を終えるとすぐにタクシーにて移動。庁舎の敷地内にある宿舎の一室へと案内する。ホテルのシングルルームのような内装と簡素な設備。さほど使用されていない為、建て替えもされずに建物が古いが1泊する程度なら問題ないだろう。宿泊する為に必要な物は全て揃っているので問題はないはずだ。
到着すると「へえ~。護国機関にはなんでもあるね」とみやびは感心したように言い、テーブルの上に持ってきた鞄を乗せた。
異能力者を保護した後、しばらくここで過ごして考えてもらう。「護国機関に所属するか、それとも元の生活に戻るか」を。俺の仕事としてはここへの案内止まりでそれ以上は別の管轄なので詳しくは知らない。一応、人権に配慮して自由意志を尊重しているとのことだが、査問委員会での出来事を思い返すとそれがどこまで真実かはわからない――。
まぁ、今晩に限ってはみやびを1人家に残しておくよりもここの方が安全だろう。
「疲れただろう?」とみやびに声をかけ、ベッドに座る事を促す。ずっとここに居たいが、俺もまだ仕事が残っている。
「そうだね。あまり時間も無さそうだし」とみやびは気になる事を呟きながらベッドに腰掛けたかと思うと対面に立つ俺を軽く見上る。繋いでいた手を軽く引っ張られ「隣に座って」と促された。
心細くてしばらく一緒に居たいのかなと思い、彼女の願い通りに座る。
すると、とんでもないことを言い出された。
「じゃあ、ナギ、服脱いで? とっととしちゃおう」
とっとと、する? 俺の脳裏にはアレしか思い浮かばない。みやびもその気になった、ということなのか?
「っ!? ここで、する、のか?」
流石にここでするのは躊躇うな。
今この施設は他に誰も使っていないから隣室へ声が漏れる心配はないのだが、それでもここは職場の敷地内でもあるし気が引ける。
「ここじゃ嫌?」
出来ればきちんとした場所で睦あいたい。
それに先ほど受けたダメージがじくじくと痛みを主張しだす。思考盗聴の能力を持つミケネコが居たから弱みを見せまいとあえて考えないようにしていたが、かなりの激痛だ。
この状態では集中してことに及ぶのも難しいだろう。
俺の返事がない事に対してみやびが気落ちしたように呟く。
「私じゃダメ、かな?」
「そんなわけない。むしろみやび以外となんか嫌に決まってるだろ」
むしろ他の女となんて考えたこともないし、興味もない。俺が抱きたいのはみやびだけだ。
「大丈夫だよ、すぐに済むから」
「……すぐ、は男としてはちょっと情けないな。いや俺も初めてだからどれくらい耐えられるかわからないが。しかしまだ職務が残っているし、あまり時間が取れないのは確かなんだが」
今回の報告書をあげないといけないし、ここで行為に及びそれが露見したら隊員たちにも示しがつかない。ただでさえ今晩は加賀宮に「弛んでいる」と叱責を受けた。
隊内に新人、研修生が多いからだというのは理由にならない。今日のように俺が出した指示を守られないのは今後の職務にも影響を及ぼす。
「優しくするよ? それにナギも仕事に戻るのならスッキリしておきたいでしょ?」
「スッキリ……」
俺としてはきちんと愛し合いたいのに、欲望を処理していってみたいな言い方はしてもらいたくない。
とはいえ、彼女の豊かな胸部に視線が行く。初めて触った時はあまりの柔らかさに驚愕したな。正直、また触りたいし、今度はじっくり見てみたい。
――だが。
「いや、ダメだ。こういうのはこんな場所で軽く済ませるものじゃない」
煩悩を振り払う為に、みやびから少しでも離れなければ。このままでは感情の赴くままに流されてしまう。
「もう。さっさと済まそうってば。四の五の言わずにとっとと脱いでよ」
驚くべき言葉と共に彼女のしなやかな腕が俺の胸に伸びる。制服のボタンを外そうと躍起になっているが、中々上手く外せないようだ。
「いいからやらせて!!」
そんなにしたいのか……。色々と耐えきれなくなり、彼女の両肩に手を置き軽く引き寄せ額に唇を落とす。
「求めてくれて嬉しいし正直な所俺もしたいが、性急に事を進めたくない。君が本当に大事だから。後日ちゃんと時間を取ってからにしよう」
こんな場所で簡単に済ましたくない。
「……は?」
「……ん?」
予想に反してみやびが「何言ってるんだかわからない」という顔をした。
「え、ゴメン、何の話?」
「したい、んじゃないのか?」
「したいよ? そりゃ。ナギが好きだから」
「俺もだ、だからこそ……」
「だから早く治療させてよ」
「――治療」
……なんて紛らわしい。いや、俺がやましい考えを抱いていたせいか?
「え? さっきからそう言ってるのに?」
「あ、いや……。みやびも今日は色々あって疲れただろうし、異能を使うのはどうかと思ってな」
咄嗟に言い訳する。彼女の疲労具合も心配なのは確かだ、得体の知れないやつらに襲われたからな。
「自分の時は三途の川が見えてたくらいからの治癒で力尽きたけど、ナギの怪我程度なら大丈夫だと思うけど?」
「見えてたのか、三途の川が」
改めて考えるとぞっとするな。もしあの時少しでも行動が遅かったら、永久に彼女を失っていたのか。
「えっと、じゃ改めて。服脱いで」
「……わかった」
好きな女性と二人密室でベッドに座り、上半身裸になるのは男でも気恥ずかしいな。みやびは何とも思わないのだろうか。
「見た目ではわからないね」
骨にまではダメージはいってないだろうが、とにかく痛みが酷い。ミケネコに悟られないように意識しないようにしていたが、恐らく内出血もしてるだろう。流石に式神の剛腕によって飛ばされた人間一人を受け止めるのは無謀だったな。
真剣に俺の体を見ていたみやびが不意に触れてきた。
「っ!」
「わ、ゴメン痛かった?」
「いや、突然触られたので少し驚いただけでなんでもない。……その辺りに痛みを感じるな」
「胸は?」
何故胸?
「? いや、そこはなんともないが」
「さっき私の胸見てたから。そっちも痛いけど遠慮をして言い出しにくいのかなって」
「……たまたま視線が向いただけじゃないかな」
気付かれていたのか。
だが、やましい考えまでは見抜かれなかったようだ。ふと思うが、みやびは時折鈍感すぎるところがあるな。
「そっか。痛めてないのなら良かった」
心から俺の体を心配してくれていたのに、俺はなんてよこしまなんだ。
みやびの治療が始まる。
治癒能力者の手当てを受けるのは勿論、異能を観るのは初めてだ。
先ほど痛みを訴えた場所に掌をぴたりと当て、目を瞑りだした。そして集中し始めた。彼女の手が置かれた場所から、じわりとなにか暖かいものが流れ込んできた。ぬるま湯につかったような心地よさ。それが次第に広がっていく感覚。
治癒の異能力を受けたのは初めてだが、気持ちも安らぐ。そう考えていたら、すぐに痛みが消え去る。
「凄いな、痛みが消えた」
あれほどの激痛が収まるだなんて、確かに彼女の異能力は強力だ。有している神力も普通の異能力者とは桁違いらしい。人によっては異能力を使用した後には見た目にも疲労を感じてるのが分かるのだが、みやびは平然としている。
かといってあまり彼女には異能力を使ってもらいたくないが。
「良かった」
「ありがとう」と、みやびの頭を軽く撫でる。
毎回思うが彼女の髪の毛はふわりと柔らかく、気持ちがいい。
「こちらこそあの時に身を呈して受け止めてくれてありがとう」
「いや」
「あ」
気が付いたら、みやびにキスしていた。愛おしいという気持ちが抑えきれなかった。
とはいえ、状況が状況だからいつもよりもソフトな、唇を合わせるだけのキス。物足りなかったのか、上目遣いで「ナギ、もう一回、して?」と言われた。
「ああ」
先ほどよりも深いキスをしようと、両手をみやびの背中に回し固定する。受け入れやすいように小さく開いた唇が艶めかしい。
「あの……そういう事する時には部屋に鍵かけた方がいいと思いますけど」
声のした方を見ると、頭を抱えた加賀宮とそれに相反して微笑を浮かべたシオンが立っていた。
加賀宮は、今まで見た事もない、あきれ果てたという渋い表情をしている。
「一応ノックはしたのですが……」
迂闊にも気が付かなかった。
というかこの状態を見越して、ノックも音を抑えたんじゃないかと思う。シオンならやりかねない。
「すぐに部屋を出るつもりだったので鍵はかけなかったな」
古い建物だからか居室はオートロックではない。それに、まさかあんなやり取りをすることになるとは思わなかった。
「ちっ。お前はとっとと服を着ろ。なんで上半身裸なんだ」
如何にも不機嫌といった声色で加賀宮が言う。
「みやびに脱がされた」と言った瞬間、やつが凍り付いた。
「ちょっと! 言い方! 語弊のある言い方! 治療しただけだから!」と慌ててみやびが訂正する。
その言葉を受けても加賀宮の眉間の皺が薄まる事が無かった。
「大体、なんでお前らは俺がドアを開けたら毎回いちゃついてやがんだ」
それは俺もそう思う。これで3度目だったか? わざと加賀宮は邪魔をしているのではないかと時折思う。
「まぁまぁ。そりゃ今が一番楽しい時期だからしょうがないですよ。ナギ、もう夜も遅いしみやびさんを休ませてあげましょう。今日は色々あって疲れたでしょうし」
「そしてお前は今日の内に報告書をあげろ」
「――翌日じゃダメか?」
自分がこの立場だったら「ちっ。めんどくせえな。明日出す、それでいいだろ」というくせに。
「今なんか不躾な事を考えなかったか? 明日朝一であいつらを聴取したいからさっさと寮に帰って書け」
ミケネコとハチワレだったか。やつら2人が単独で暴走しただけならいいが、もし他の仲間がまたみやびを狙っているとしたら厄介だからな。
加賀宮が直々に聴取するというのなら任せて安心だろう。
逆にあいつらが心配だが。
「わかった」
そう言うと、みやびに向かう。
「では、明日朝飯持ってくるから一緒に食べよう。おやすみ」
「うん。ナギも早く休んでね」
「ああ」
キスしたい衝動に駆られるが、加賀宮らの手前出来ない。名残惜しい気持ちを抱きつつ、部屋を出た。




