106 ナギの役割 ナギ視点
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地元の病院で輸血含めて出来るみやびの処置は全て終わった。そして護国機関庁舎内の医療施設へ搬送された。
異能力者が入院中にせん妄を起こしたら普通の病院では対処できないという事もあり、護国機関に後を託された。
おおやけには公開されていないが、異能力者はこういう形でも保護される。
護国機関の敷地内であれば敬神の会による結界が貼られている為、能力を無効化できるし、俺たち警護隊によって迅速に対応が可能だ。
心電図などの機械に繋がれ、血色もまだ悪く、意識も戻らずにただベッドに寝ているだけの彼女を見ると未だ「生きてくれてる」という実感がわかない。
意識が回復するのもいつになるのかわからないと説明を受けた。
さらに出血が多すぎたので臓器や脳に障害が残る可能性も示唆された。
医者の説明に同席してくれたシオンは俺が言葉を失っているのを見て「彼女の治癒能力は強力だったから心配ないでしょう」と励ましてくれた。確かにあの大怪我が一瞬で治癒されたのは驚愕した。
例えそうなっても、俺の全人生をかけて彼女を守るつもりだが。
そんな話をしていたら、すぐさまシオンに召集がかかった。家宅捜索の為にみやびの実家へと戻っていった。
俺の中にとある疑惑がくすぶっている。
この世には、神に愛されるという存在が居る。「先祖返り」だの「神の愛し子」と呼ばれる者だ。
その特徴は「強大な力を持つ異能力者」かつ「人とは違う見た目を持つ者」らしい。
そんな彼らを害した時に神の怒りを買い村人全員が消失した「神隠し」の話をかつての会議で聞いたことをぼんやりと思いだす。
みやびの髪の色が染めたものではない、地毛だと知った時に「人とは違う見た目を持つ者」が彼女に該当するのではという考えがふと頭をよぎった。
だが、その時には異能力者ではないと思っていたからその考えを封印していた。
実際に彼女からは異能力を一切感じられなかった。まさか幼少の頃の記憶を奪われ、ずっとつけていたピアスが彼女の異能を封じている霊石だったとは。
思えば護国機関を訪れた彼女の母親も同じピアスをつけていた。だから異能が検知されずに、庁舎内まで入ってこられたのだろう。
異能力封じにあんな形状のものがあるだなんて思いもよらなかった。俺たちがノラネコたち、敵対する異能力者を無力化するためには、敬神の会から付与された「神具」を使うがあのピアスのような、小型で強力な霊石は見たことすら無い。
あれはまるで神器級だ。
恐らくは五行計画でみやびの母親の異能力者を封じる為として使われたのではないかと思うが、そうすると五行計画に関わったあいつらはどこであんなものを入手したのか。
――まだ何か隠されている気がする。
そんなことを考えつつも、ただ呆然とベッドに寝ているみやびを見つめて時が経った。今の俺に出来ることは何もないとはわかってはいるが、いつ彼女が目を覚ましてもいいように、ずっと傍に居たかった。
その間、弐番隊の隊員が病室へやってきて、家宅捜索の簡単な報告と共にみやびの鞄を置いていった。
勝手に鞄を見るのは憚られたが、中を確認すると俺が作り置きして定期的に渡している総菜入りの弁当が入っていた。今日、何事も無ければ彼女が食べるはずだったもの。
それが味や栄養のバランスを考えられて、几帳面なみやびらしく彩も良く詰め込まれていた。
以前友達に「あんたより料理上手いんじゃないか?」と冷やかされたという。
俺が「そうなのか?」と笑いながら言うと「や、やれば私だって出来るよ。カレーしか作れないわけじゃないんだから。その内ぎゃふんと言わしてやるんだから」と腹に軽くパンチされた。
「ぎゃふんという人間初めて見た」と言い返したらさらに追撃された。
そうして笑い合っていたのがなんだか遠い過去のようだ。
それからしばらく後、天方が様子を見に来てくれたが相手にする気力も湧かず、弁当を持って帰ってもらった。ここに置いていても腐らせるだけだ。
天方には「お前が食えばいいのに。結局昼飯も食ってなかっただろう」と言われたが、食欲が一切無かった。
何もする気力がわかず、ただ彼女の傍に座っていたらもう夜更け前になっていた。
ノックの音がして振り返ると、加賀宮が入ってきた。食事の乗っているトレイを持っている。
「おい、飯も食ってねえでここにずっと居るらしいじゃねえか」
「……お前には関係ないだろ」
「ちっ。寮母にこれ持たされたんだ。持って行ってやれって。めんどくせえ」
握り飯と漬物、それに晩飯の残りなのか唐揚げやほうれん草の和え物が乗っている皿を空いている椅子に乗せる。
「とっとと食えよ。冷めるぞ」
「……あとで食う」
食うつもりはないが帰ってもらいたくて嘘をついた。
「お前が食うまで帰ってくんなって寮母に言われてんだよ。ご丁寧にインスタントの味噌汁とペットボトルの茶まで持たされた」
「――こんな状態で食欲なんか」
昼飯も食いそびれたので体は食料を欲しているはずだが、食う気が起きない。
埒が明かない俺との会話にしびれを切らしたのか、加賀宮は舌打ちをし、吐き捨てるように「目を覚ますまでなにもせずにここに座ってるだけか? お前にはお前にしかできねーことがあるだろ」と言った。
俺にしかできないこと……? 今この状態で何が出来るというんだ。医者にも「本人の生命力にかけるしかない。もう打てる手は全部尽くした」と言われた。俺に出来るのは願う事だけだ。
「――思いつかない」
というか頭の中がぐちゃぐちゃで考えもまとまらない。とにかく目覚めて欲しいという思いだけが占めてる。そして可能ならばここでずっと付き添いたい。
警護隊の指揮なら天方に任せられるし、こんな状態では白の貴公子としての広告塔の仕事なんてできないし、もう辞めたいくらいだ。
彼女以上に大事なことなんて何ひとつない。
投げやりとも取れる俺の言葉を聴いて、加賀宮はわかりやすく眉をひそめる。
「こいつの学校やバイト先への連絡は誰がするんだ? しばらく入院しなければならないから必要なものもお前が揃えなきゃいけない。……もうこいつを庇護する親は居ねえんだ。番いであるお前が全部やらなきゃいけねえだろうが。ちっ、本当にそいつ絡みだとお前は使いもんにならねえな、それくらい頭を働かせておけ」
意外にもその声音は驚くほど優しい。
――そうだな。
戸籍上は未成年のみやびが唯一の保護者である母親を失った。今後その辺りも考えなければ。
今住んでいるアパートの契約がどうなっているのかわからないが、手を打たなければ目覚めた時に彼女が帰る所がなくなってしまう。
みやびは必ず意識を取り戻す。それを信じて、俺が彼女の戻ってくる場所を守らなければ。
俺が今彼女の代わりにやれること、やらなければならないことをしなければならない。
両手で顔を覆い、大きく息を吐き頭を切り替える。
「すまない、加賀宮。少し冷静になれた」
ペットボトルの茶を飲み、箸を手に取る。
加賀宮は給湯室に行きインスタント味噌汁の為の湯を持ってきてくれた。目つきの悪さから粗暴に見えるが意外にも面倒見がいいところがある。
加賀宮とはきょうだい弟子で、思えば長い付き合いだが別段仲が良かったわけでもないあいつとこれだけ親密になったのも、みやびを介したからだな。
不思議な縁があるものだと思った。




