105 家宅捜索 シオン視点
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みやびさんが搬送された病院で、処置を終えた医師から彼女の状態を聞いている間に「異能力者が暴走。弐番隊長加賀宮によって討伐」という知らせが入った。
武器を所持して行ったことからある程度の覚悟はついたが、本当に死人が出るとは思わなかった。
しかも、みやびさんの母親が。
だが、我々が駆けつけなかったら亡くなっていたのはみやびさんだったでしょう。
みやびさんを搬送する時には、母親の九条涼音は茫然自失状態だったので私たちが去った後に加賀宮と涼音、2人にどういうやり取りがあったのかはわからない。
あの後正気を取り戻した母親が加賀宮に害をなそうとして返り討ちにあったのか、それとも自分の娘を手にかけた母親を放置できないと加賀宮が行動を起こしたのか。
あの母親はどちらにしてももう手遅れだったでしょうし、色々と。
元々、ノラネコメンバー「クロネコ」としてここ数年の間、その手を血で染めてきた。捕獲されたとしても法の元裁かれ、二度と陽の目を見る事は無かっただろう。
母親の凶行を知った時に、みやびさんはどう思うのだろう。ナギが彼女の傍に居てくれてよかった。
もっとも今はまだみやびさんの意識も戻らない危険な状態なのだけれど――。
加賀宮から弐番隊に緊急召集がかかり、みやびさんの実家でもあるクロネコの住処の家宅捜索が行われた。
呼び出すメンバーは私に一任され、あの家の広さからいって弐番隊全員ではなく数人で事足りるだろうと適当に指名した。
現場の指揮は加賀宮が取り仕切り、私と加賀宮自身が2階のみやびさんの部屋と彼女の母親の私室を捜索、他のメンバーは1階を担当することになった。
相手が異能力者ということもあり、地元警察を介入させず我々だけで処理することとなった。
表向きは、ガス漏れによる一酸化炭素中毒で母親が死亡、たまたま帰省していた娘も巻き込まれて重体、となっている。
平日の昼間に学生の娘がたまたま帰省というのは無理がありすぎるだろうと思ったが、彼女の学校の教師たちが「確かに、母親の体調は思わしくなかったようだ。主に精神面で」と口添えしてくれた。やけにスムーズに口裏合わせが行われたと思ったら、午前中に突然「娘を退学させてくれ」と母親から連絡が来たらしい。
成程。強制的に彼女の居場所を無くし、ナギと別れさせようとしていたのか。
この一切は異能力者が関わる事から護国機関により緘口令が敷かれて、ネットニュースなどにも情報が流れないように細工をされた。
学校でも当り障りのない説明をされるらしい。
涼音の遺体はすでに地元警察によって運び出されたらしい。今頃は恐らく護国機関へと搬送されているだろう。
そして今、私はみやびさんが3年程過ごしたという”実家”に居る。
そこは予想通りというか、彼女と母親の空虚な暮らしを裏付けるようにがらんとしていた。
「――何もない部屋ですね」
彼女が高校に入る前、とはいっても各地を転々としていたらしいからここにはほとんど住んでなかっただろうし、一人暮らしをするために必要なものを持って家を出てるせいもあるだろうが、それを差し引いても部屋には物が無かった。
恐らく本が入っていたであろう本棚には数冊の参考書と大判の外国製の絵本があるだけ。
引き出しの中身が空っぽな勉強机セット。その机上にも小物などの類は一切乗ってもいない。
母親が処分できなかったのか、クローゼットには今の彼女が着るにはサイズが小さい服。押し入れも寝具が数点残ってるのみ。
どことなく刑務所の室内を思い起こさせる部屋だった。
いつでも彼女が帰ってこられるようにと思ったのか、ベッドにはきちんと寝具が揃えて置かれていた。埃っぽさも一切ない。
「部屋の掃除はきちんとされてますね」
掃除しやすいだろうな、この部屋と思いながら、網戸まできちんと清掃されている窓を一瞥する。
彼女の母親は、娘が帰ってくるのをずっと待っていたのだろうか。
帰ってくるまでどんな思いで掃除していたのだろうか。
「どうします? もう、母親の部屋に行きます? ――加賀宮?」
振り返ると加賀宮はベッドに座り、本棚から抜き取った絵本をめくっていた。
よく見るとその絵本は大分年数が購入して経っているのか、読みこまれていたのか所々破れてる箇所があり、日焼けも目立っていた。
外国語の本だから、彼女が子供の頃それを読んでいたにしても何が書かれてるのかも分からなかっただろうに。
表紙を見ると、たんぽぽ畑の中に佇む1人(?)の綿毛の子供。どういうストーリーなのだろうか。
それを読んでいる加賀宮は沈痛な表情をしている。こんな顔、今まで見たことが無い。
みやびさんの母親の藤原忍こと九条涼音とは因縁があると言っていたが……。
最後まで読み終わった加賀宮は感情を押し殺すようないつもの無表情に戻っていた。
「次、行くか」と、本棚に絵本を戻しさっさと部屋を出て行った。
母親の部屋は流石に生活感があった。
とはいってもあまり物が置かれてないが。
月々の送金はかなりあったので金には不自由してなかったはずだが質素な部屋だ。この母娘はモノには執着を持たないのだろうか。
それとも住まいを転々としていたから荷物が少ないのだろうか。
みやびさんを退学させ、彼女を連れてまた転居を繰り返すつもりだったのだろうか。
クローゼットには普段着として愛用していたのか着物が大半を占めていたが、クロネコとして活動していた時に着用していたと思われる喪服もそこにはあった。顔を隠す真っ黒なレースのベールと共に。
「どうして喪服なんでしょうね、目立ったでしょうに」
最も、ノラネコに所属している他の異能力者のせいか監視カメラなどで彼女の情報はあがってこなかったが。それでも現場に行くときなどには人目を引いたはずだ。
目撃情報が皆無で未だに移動手段すらも追えていないけれど。
向こうの異能力者がどれほどいるのか定かじゃないが、非常に厄介な存在だ。
「……弔いだろ、鳴宮蒼穹への。クロネコが直接関与したと推測される資産家殺人事件の被害者のクソ野郎どもは五行計画に加担していたという噂もある。もしかしたら涼音自体も監禁中にあいつらに会った事があるのかもしれんがな……」
「鳴宮……みやびさんのお父さん、ですか」
「涼音は鳴宮を愛していたからな。そして最愛の夫の生き写しのように育った娘にも異常ともいえる束縛を強いてた。世間から隠すように。あいつが1人暮らしをしていたこのタイミングでナギが三つ目の巫女の託宣を望まなかったら、おそらく2人は出会うことも無かったろう。そう考えると奇跡的だな」
「――ここに住んでいたら母親に託宣の知らせが握りつぶされていた……」
「番いにも拒否権があるからな。通知を寄こした役所へ『会いたくない』と返事を出してりゃそれで終いだ。それが本人からだろうが、代理人であろうが確かめる術はないしな」
「運命の歯車が少しでも違っていたら二人は――」
出会うこともなかった。
そして今回は加賀宮が母親の異常性を見抜いてここに来なければ治癒が間に合わず彼女は亡くなっていただろう。
最愛の女性を失ったら、ナギは恐らく耐えきれなかっただろう。到着が少しでも遅れていたら何もかも手遅れだった……。
ふと疑問を抱いた。
加賀宮が調査していたとはいえ、やたらと九条涼音について彼は詳しい。
――そういえば。
「加賀宮、あなたは車中で――」
九条涼音と因縁があると言っていたが、と聞こうとした私の声は「加賀宮隊長! 1階、ならびに周辺の捜索終了しました」という隊員の声にかき消された。
「何か出たか?」
「和室のテーブルの上にクロネコの物と思われるスマホが残っていたくらいです。指紋認証が必要なので中身はここでは確認できません。あと、これ」とみやびさんの学生鞄を差し出した。
彼女を搬送するのに一刻を争っていたから、彼女の鞄の事は失念していた。
「和久、倉木、お前らはここに残ってシオンの指揮の元捜索続行してろ。ノラネコが感づいてここに来るかもしれんから警戒を怠るな。俺はこいつを持って庁舎へ戻る、残りのメンバーもついてこい」
「了解しました!」
加賀宮は振り返る事もなく、みやびさんの鞄を手に出て行ってしまった。
「……はぁ」
またしても聞きそびれてしまった。
もはやわざとじゃないのかという気すらしてくる。
もっとも聞いたところであの加賀宮が素直に話すかどうか。
「シオン副隊長! ご命令を」
「……私はもう少しここに残り捜索を続けるので、加賀宮の指示通りに行動を。ノラネコの襲来の可能性があるので2人とも周辺への警戒を怠らないようにしてください」
「了解しました!」
ばたばたと階下へと降りていく足音を聞き、ふうとため息を漏らした。
あの時、聞き間違いでなければ、加賀宮は九条涼音を「朔夜」と呼んでいた。
そして「母さん」とも。
そうならば、みやびさんは加賀宮の妹なのだろうか。
しかしその割に彼女からはそんなそぶりは一切感じなかった。さらに2人はまるで似ていない。
どういうことなのだろうか。
そして、もし。
加賀宮がみやびさんの兄だとしたら。
「――加賀宮がナギの義兄になるのか」とつい零してしまった。




