1 異能との出会い ナギ視点
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noteではこちらの前日譚「0話」も公開中
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この国には超自然的な能力や特殊な力を持つ存在が居る。
かつて鬼や天狗、天女など、ヒトならざる者が人間との交配を重ねた末、その子孫たちは姿かたちは見た目が人間そのものになったが異能力を授かり生まれる、という話だ。
神と魔、そしてヒトが暮らすこの世界。
ヒトは直接的に神や魔と遭遇することは無いが、確かにこの世界には異能力を持つ者がいる。
「異能力者」
俺がこれから会う相手もそれだ。
通称、三つ目の巫女。
祖先が鬼だとか、三つ目の怪異だとか言われる彼女には「視る」ことができるという異能が備わってる。
勿論、すでに見た目は普通の人間と遜色ない、らしい。
ただ、人の死に関わる預言は制限がかかってて視ることはできないらしい。
大事故や災害が視られないイマイチ能力の使いどころが低い彼女がこの国で重宝されてる理由の一つが人との「縁」を見ることができることだ。
所謂運命に紐づけられたという永遠の恋人とやらが彼女には視えるらしい。
それが彼女の持つ「異能力」らしい。
彼女が選んだ相手を「番い」とし、番いに選ばれた二人を引き離すことは許さない、というのがこの国ではまかり通ってる。
番いを求めるのは主に権力者が多いため、自分の番いを守るために世間に周知させたというのが真実らしい。
かつての権力者も俺と同じく権力などで言い寄ってくる異性にうんざりしていたのか、それとも大事な血筋を守るために番いを求めていたのかはわからないが、今なら番いを求める彼らの気持ちがわかる。
生まれてからこれまで女性はおろか人に関心を持たなかったが、あまりにも女性に言い寄られ辟易していた所に後輩からも妹の顔合わせをさせられ決定的に嫌気がさした。
自分の手で「番い」を見つけ、その女を傍に置いたら他の女が寄ってこなくなるだろうという邪心があった。
いや「番い」そのものでなくてもいい。
女避けになるのならもたらされるという「番いの指輪」だけでも十分だ。
番いとは適当に交際をし、機会を見て結婚さえしたらいい。
三つ目の巫女への面通しが認められ、大広間へと案内される。
高座に人影らしきものが見えるが、御簾で覆われ詳細な姿は見えない。
「これはこれは。白の貴公子が番いを求めるとはのう」
愉快そうに笑うその声もくぐもっていて明確な年齢が読めない。
女性ではあるらしいが。
「御厨ナギ。22歳。護国機関の警護隊壱番隊長。宮清高等学校を卒業後、国家試験を経て護国機関入り。壱番隊に入隊後、その器量の良さから白の貴公子との名称で護国の広告塔に起用される。主にエスエヌエスで若い女性らに人気。エスエヌエスとはなんじゃ・・・?まぁよい。後に壱番隊隊長に任命、現在に至る。・・・ほう、確かに眉目秀麗よのう。そんなお前がこの若さで番いの託宣を望むとは」
俺の経歴をすらすらと読み上げる。
こちらからは見えないが、事前に書類でもまとめて渡されていたのか紙をめくる音が聞こえた。
「視える」とはいうが、そういう情報は異能力を使わないのだな。
そして巫女は「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」を知らないのか、この時代に。
白の貴公子。
俺が護国機関の壱番警護隊の隊長に任命された時に普段着用してる制服の色からとって「白の貴公子」と名付けられた。
俺の見栄えの良さを利用して護国機関のイメージアップを図ってるらしい。
体のいい広告塔だ。
正直ネーミングセンスはどうかと思うが。
命じられた時には「俺のような一般人に対して広告塔の役割なんて意味があるのか?」と思っていたが、今ではSNSではかなりのフォロワーが付いている、らしい。
俺は基本的に関与していないが、酔狂なものだ。
「番いのお告げと言っても制約がある事は存じておるかえ?」
制約。
そんなものがあるとは初めて聞いた。
「未成年、現時点で恋人・配偶者が居る場合には依頼人には教えぬことになっておる」
それは周知されてない事実だ。
一般人でも知る人間はいないだろう。
「過去に色々な諍いが起きてのう。まだ子供じゃった番いを幽閉したり、あるいは番いが交際してた恋人を殺害したなどの血なまぐさい出来事があったようじゃ。その制約も出来て30年だったか。護国の中でも知る者はほぼほぼ居ないじゃろう」
「なるほど」
そこまで番いに対して過度な感情を抱くというのは理解できないが。
「そして、番いの託宣を受けた者たちを引き裂いてはならない。これは絶対じゃ。つまり番いとみなされたらお主らは永遠に添い遂げなくてはならない。何者にも引き裂くことは許されぬ。お主にその覚悟があるかえ?」
「話は分かった。それで俺は何をしたらいい?」
覚悟も何も、どうせ誰かと結婚するのなら、その番いでいい。
それくらいの話だ。
「ふぅむ・・・しばし待て。いずれわたくしの方からそなたと番いに便りを出そう」
こちらからは御簾の様子が見えずとも、あちらからは丸見えらしいが短時間に顔を見ただけでもう終わりか?
果たして三つ目の巫女はどれほど「視えて」いるのか。
この面談に意味があったのか、と疑念をも抱く。
「信じるに足るか不信を抱いてるようじゃな。わたくしとしては取り澄ましたお前が番いを溺愛してる様が見えて愉快だというのに」
くくっと笑い声を押し殺している。
俺が?一人の女を溺愛?
思わず眉を顰めるとその様子すら面白かったのか巫女はさらに声をあげて笑った。
「そうじゃ。番いの指輪の準備が出来たらそれを持ってくるのじゃ。祝福を授けようぞ」
「わかった。・・・ではまた」
適当に礼を言い、大広間を後にする。
俺が誰かを溺愛するだなんて馬鹿らしい。
その時はそう信じて疑ってなかったのに。
俺の価値観を根底から覆す少女に、出会った。