迷いの中の決意
すばるの告白。二人の交際が始まり、彼の子どもたちとの出会い。そして、自分の心に芽生えた思い――それらがあゆみを引き寄せる一方で、足を踏み出すことへの不安も大きかった。
「……本当に、この道でいいのかな。」
食堂の席に着いたあゆみは、友人たちと談笑しながらも、どこか上の空だった。そんな彼女の様子に、隣の席に座った奈緒が気づく。
「あゆみ、最近なんか変だよね。悩み事でもあるの?」
唐突な問いかけに、あゆみは慌てて顔を上げた。
「えっ、そんなことないよ。」
「絶対嘘。顔に書いてあるってば。」
奈緒の鋭い指摘に、あゆみは苦笑いを浮かべた。彼女の目は逃げ場を与えないほど真剣だった。
「実は……少し迷ってることがあって。」
あゆみは観念して、小さな声で答えた。
「迷ってるって?」
奈緒の問いに、あゆみはしばらく黙り込んだ。そして、意を決したように話し始めた。
「実はね……星宮先生と付き合ってるんだ。」
「ええっ!? 星宮先生って、あの星宮先生?」
奈緒の声が少し高くなる。他の友人たちがこちらに視線を向けるのを感じたあゆみは、慌てて小声で続けた。
「そう……文化祭で偶然再会して、それから話すようになって。気持ちを伝えたら、先生も私を想ってくれてて……。」
奈緒の顔には驚きと興味が交錯していたが、すぐに表情が柔らかくなった。
「そっか……そういうことだったんだ。でも、それで迷ってるの?」
「うん。先生には子どもが二人いて……その子たちと会ったの。すごくいい子たちだったけど、私にあの子たちの“お母さん”になれるのか、分からなくて。」
奈緒はしばらく考え込むように黙った後、ふっと笑顔を浮かべた。
「あゆみ、意外と真面目に考えてるんだね。でも、それってすごく素敵なことだと思う。」
「素敵……?」
「そう。だって、先生と本気で向き合いたいからこそ、そんなに悩んでるんでしょ?それって、すごく素敵なことだと思うよ。」
奈緒の言葉に、あゆみの心は少し軽くなった。自分が悩んでいる理由が、彼と本気で向き合いたいからだということに、初めて気づいたからだった。
「でも、普通じゃない恋だってことは分かってる。だから、私が先生のそばにいることで、周りに迷惑をかけるんじゃないかって……。」
「普通じゃない恋? そんなのどうでもいいよ。あゆみが幸せになれるかどうかが一番大事なんじゃない?」
奈緒の言葉に、あゆみは目を丸くした。
「幸せ……?」
「そう。先生と一緒にいることで、本当に幸せだと思えるなら、それが全てだよ。世間の普通なんて関係ないよ。」
奈緒の強い言葉に、あゆみは少し笑みを浮かべた。
その夜、あゆみはベッドに横たわりながら、自分の気持ちを整理していた。
「私は……先生と、もっと一緒にいたい。」
彼のそばで、彼の子どもたちと一緒に過ごす未来を思い浮かべる。その未来はまだぼんやりとしていたが、どこか温かいものだった。
「もう迷わない……。」
あゆみは布団を強く握りしめ、自分の心にそう言い聞かせた。