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伝えること、守ること

 昼休みの職員室は、いつもよりも少しざわついていた。


「ええっ、如月先生結婚するの!?すごい!」


 最初に声を上げたのは、学年主任の女性教師だった。


「えっと……はい」


 あゆみは、少し照れながら頷く。


「おめでとう! それで、お相手は?」


「どこで出会ったの? ずっと前から付き合ってたの?」


 次々と質問が飛び交う。


「実は……高校時代の担任だったんです」


 その言葉に、周囲が一瞬静まり返る。


「え、高校の先生!?」


「ええ……。大学生の時に、高校の文化祭を見に行った時に再会して、そこから……」


「えー! すごいロマンチック!」


 同僚たちは驚きつつも、興味津々な様子だった。


「でも……如月先生にはお子さんがいるって噂になってましたけど?」


 ふと、誰かが言う。


 あゆみは一瞬、どう答えようか迷った。


 けれど、もう隠す必要はない。


「実は彼は一度離婚をしているので、その時の子どもが居るんです」


「そうだったんだ。聞いたら駄目な話かなって思ってたけど、実は気になってて」


「そういう家庭も素敵よね」


 職員室の空気は、和やかだった。


 しかし、そこに——


「如月先生」


 厳しい声が割り込んだ。


 教頭だった。


「高校時代の担任が、婚約者……? しかも、その相手にはお子さんがいると?」


 その声に、一瞬、場の空気が凍りついた。


「いえ、それは……」


 あゆみが説明しようとすると、教頭は眉をひそめ、厳しい口調で言い放つ。


「非常識にもほどがあります。絶対に口外しないでください」


「え……?」


 あまりに強い言葉に、あゆみは驚いてしまった。


「若い新任教師が、元担任の教師と結婚し、しかもその相手には子どもがいる? そんな話が広まったら、学校の品位にも関わります。貴女は“教師”なのですよ」


 その言葉に、職員室の空気が張り詰める。


「いやいや、そんな言い方しなくても……」


「ちょっと、それは言い過ぎじゃ?」


 同僚たちも、驚いた様子で顔を見合わせる。


 だが、教頭はそれを無視し、続けた。


「学校において、教師は清廉であるべきです。如月先生、これは貴女の個人的な問題ではなく、学校全体に影響を及ぼすことなのです。慎重な行動を心掛けてください」


 その言葉に、あゆみは強く拳を握りしめた。


(……どうしてこんな風に言われなきゃいけないの?)


 その時——


「教頭先生、その発言はハラスメントになりかねませんよ」


 落ち着いた、しかし力強い声が響いた。


 職員室の入り口に立っていたのは、校長だった。


「学校全体のことを把握し、教職員に指示や監督を行うのが校長の務めです。そしてその補佐をするのが教頭のはずです」


 校長は冷静に続ける。


「教頭先生、貴方のその発言は、如月先生の個人的な事情に対して、不当な圧力をかけているように思えますが?」


 その言葉に、教頭の顔が引きつる。


「ですが、校長——」


「しかし、小学生からしたら元担任との恋愛は授業に集中できなくなりかねません。生徒たちが先生方を恋愛対象に見ては大変ですからね」


 校長は一息つき、続けた。


「なので、お相手のことだけは伏せておいてください。しかし——お子様のことは、胸を張って子どもだと言っても良いでしょう。お子様だって隠されることは嫌でしょうし」


 その言葉に、あゆみはハッとする。


(……そうだよね。私が隠したくないのは、子どもたちの存在だ)


「ありがとうございます……」


 あゆみは、深く頭を下げた。


「……ふん」


 教頭は不服そうだったが、何も言わずにその場を後にした。


 職員室には、再び穏やかな空気が戻る。


「まあ、いろいろあるけど……如月先生、おめでとう」


「幸せになってね」


 同僚たちの言葉に、あゆみはようやく微笑むことができた。


(私は、私の道を歩いていくんだ)

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