告白
それから、あゆみとすばるが一緒に過ごす時間は少しずつ増えていった。
週末にはショッピングモールを巡ったり、カフェでコーヒーを飲みながら他愛もない話を交わしたりする。その何気ないひとときが、あゆみにとって特別なものになりつつあった。
ある日の午後、二人は公園のベンチに腰掛けていた。すばるが自販機で買ってきた缶コーヒーを手渡してくれる。
「ありがとう、先生。」
「ほら、まだ先生って呼んでる。」
軽く冗談めかしたすばるの言葉に、あゆみは小さく笑った。
しばらくすると、すばるがふと口を開いた。
「あゆみ。」
突然名前を呼ばれたことで、あゆみは少し驚きながらもすばるを見つめた。
彼の表情は、いつもの穏やかさとは少し違い、真剣だった。
「君に負担をかけるつもりはない。ただ、僕は君といるとほっとするんだ。」
その言葉に、あゆみは一瞬息を飲んだ。胸の中にあった不安や戸惑いが、少しずつ溶けていくようだった。
「あゆみが隣にいてくれると、これまで一人で頑張ってきた気持ちが和らぐんだ。」
「普通の恋愛じゃないことは分かってるけど、僕と付き合ってほしい。」
彼の告白に、あゆみの目には自然と涙が浮かんだ。
その瞬間、あゆみの心に高校時代の記憶がよみがえった。
人生に光が差したのは、高校時代のことだった。
学園祭の実行委員長を任されていたあゆみは、最初こそ自信を持って準備を進めていたが、当日は問題が次々に発生。イベント自体は何とか形になったものの、あゆみの心は沈んでいた。
その日の夕方、教室で一人俯いていると、ドアが開いた。
「下校時刻過ぎてるよ、如月さん。おうちの人、待ってるだろう?待ちすぎてミイラになっちゃうよ?」
星宮すばるが顔を覗かせた。その軽い冗談交じりの言葉に、あゆみは驚きながらも微笑んだ。
「ミイラになるほど待たせていないですよ。」
すばるはそっと隣に腰を下ろし、彼女の沈んだ表情をじっと見つめた後、静かに口を開いた。
「そんなに落ち込まなくても良いんじゃないかな? 行動を起こさなければ失敗は起きない。逆に言えば、行動を起こすことができたっていうこと自体が、如月さんの頑張りだよ。」
その言葉に、あゆみは驚き、そして心が軽くなった。
自分がどう思うかではなく、実際に何かをしたことが大切だということを、すばるは当たり前のように言ってのけた。
「行動できたってだけですごいことだよ。何もせずに後悔するより、何かを試してみる方がよっぽど価値があると思う。」
すばるのその言葉は、あゆみの胸に深く刻まれた。
あの時の記憶が蘇り、あゆみはすばるを見つめた。
「やっぱりこの人はすごい。立場とかもあるのにこんな風に伝えることができるなんて。いつか支えることができるようになりたい。」
そんな思いが短い言葉に変わるのに時間はかからなかった。
「私も、すばるさんと一緒にいたいです。まだ全然自信はないけど……少しずつ頑張ります。」
その言葉を聞いて、すばるは穏やかに微笑んだ。
「急がなくていいよ。あゆみが隣にいてくれるだけで、僕は十分だから。」
帰り道、夕焼けに染まる空を見上げながら、あゆみは静かに思った。
「私も、誰かの力になりたい……すばるさんの力になれる私でありたい。」
胸に温かい想いとわずかな不安を抱きながら、あゆみは未来に向かって歩み始めた。