遅すぎた報告
葬儀場に響く僧侶の読経が、静かに胸を締めつける。あゆみは、棺の前に立ちながら、震える手で一輪の白い花を握りしめていた。
目の前には、静かに横たわる母の姿。
こんなにも痩せ細っていたことに、どうして気づかなかったんだろう。
思い返せば、遊園地に行ったあの日もそうだった。母はいつも笑っていたけれど、どこか無理をしているように見えた。子どもたちと遊ぶ姿も、どこか儚げだった。
そして今——もう、返事をしてくれることはない。
喉の奥が詰まる。
「……お母さん」
声が、震えた。
「……合格したよ」
なんとか搾り出した言葉に、自分でも驚くほど涙が込み上げた。
「ちゃんと、小学校の先生になれるよ。だから……だから……もっと早く言いたかったのに……」
棺の中にそっと花を置く。指先が母の手に触れた。それはもう、いつもの温かさを持っていなかった。
「なんで……なんで、隠してたの……?」
誰に向けるでもない問いかけが、震えた声と共に零れ落ちる。父は母の病状を知っていたという。けれど、母は「子どもたちの人生を邪魔したくない」と、最後まで何も言わずにいた。
「そんなの……そんなの、ひどいよ……。私、もっと一緒にいたかった……もっと、お母さんに相談したかった……!」
嗚咽が漏れる。肩が震える。視界が滲んで、棺の中の母が見えなくなる。
その時、すばるがそっと肩に手を置いた。
「あゆみ……」
その優しい声に、涙が一層溢れた。
「ありがとう……」
最後にそう言いながら、あゆみは震える手でそっと棺を撫でた。
棺に花を添える人々の列は、静かに続いていく。
でも、あゆみにとって、どんなに多くの花が添えられても、母がいなくなってしまった現実は変わらなかった。
それでも——最後に伝えられた「ありがとう」が、母に届いていることを願わずにはいられなかった。




