自信と変化
二次試験当日。
緊張で少し汗ばんだ手を握りしめながら、あゆみは試験会場の入り口に立っていた。
(ここまできた……。)
これまでの努力を振り返ると、決して楽な道のりではなかった。
教育実習、小論文対策、面接練習――そのすべてが、今日のためにあったのだ。
「大丈夫、やるしかない。」
小さく呟き、会場の中へ足を踏み入れる。
「それでは、如月さん。教師になろうと考えた理由を教えてください。」
試験官の静かな声が響く。
一瞬息を止めたあと、あゆみはゆっくりと話し始めた。
「私には、ずっと憧れていた先生がいました。」
試験官の目を見ながら、あゆみは自然と語りだす。
「その先生は、私が失敗したときにこう言ってくれました。
『行動を起こさなければ失敗は起きない。逆に言えば、行動を起こすことができたっていうこと自体が、如月さんの頑張りだよ』と。」
あの言葉が、どれほど自分を支えてくれたか。
教師を志した理由、それが今、この瞬間に自分の口から語られている。
「小学生は、積極性を持ちながらも、失敗を繰り返しながら行動力を失ってしまう世代です。でも、行動力というのは言い換えれば自信です。私は、教師として子どもたちの自信を支え、失敗を恐れずに挑戦できるような存在になりたいと思っています。」
少し間を置くと、試験官の一人が静かに頷いた。
「では、教育実習で学んだことは何ですか?」
一瞬、あゆみの脳裏に当時の自分が浮かぶ。
あの頃の私は、ただ「子どもは苦手」と決めつけていた。
「正直に申し上げますと、私は以前、子どもに苦手意識を持っていました。」
静かに、だが力強く言葉を紡ぐ。
「理解力の未熟さ、それゆえにコントロールのしづらさが原因で、教育実習でも壁にぶつかりました。実習中には、ついには子どもたちからも距離を取られ、嫌がらせのようなことをされたこともありました。」
試験官の表情が少し変わる。
「しかし、ある時気づきました。私が"子ども"というフィルターを通して彼らを見ていたことに。それでは、本当に向き合えているとは言えませんでした。」
「立場の違いはもちろんありますが、"人"が立場を持っているだけであり、立場がその人自身を決めるわけではない。子どもたちも同じです。」
あの経験が、どれほど自分の考え方を変えたか。
「私は、教師としての役割を果たしながらも、一人の人間として子どもたちと向き合いたいと思います。」
試験官の表情は柔らかくなっていた。
続く小論文についても、学んだことや自信の考えを交えていると、ペンが自信を持って走っていた。
「私の伝えたいことだ。たくさん解いたし、できるかも!自信を持って取り組まないと!」
試験中は、何度も自分のことを疑いかけたが、何度も心の中で呟いた。
そうして試験は終了し、試験会場を出た瞬間、あゆみは大きく息を吐いた。
「終わった……。」
力が抜けるような感覚と同時に、次の不安が押し寄せてくる。
(やることはやった。でも、もし落ちたら……。)
そんな不安を抱えたまま帰宅すると、すばるが温かいお茶を用意して待っていた。
「おかえり。お疲れさま。」
その声に、少しだけ気持ちが和らぐ。
「ありがとう……でも、やっぱり不安だよ。」
ぽつりと零すと、すばるは優しく微笑んだ。
「落ちても、また挑戦すればいい。教師になることだけがすべてじゃないよ。」
でも、それでも――
「私は、やっぱり受かりたい。みんなに応援してもらったし……。」
すばるは静かに彼女の手を握った。
「結果がどうであれ、あゆみは十分頑張ったよ。」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。
布団に入っても、試験のことが頭をよぎる。
(もし落ちたら……。)
(でも、あの頃の自分を思えば、今の私はずいぶん変わったよね。)
不安を抱えながらも、ようやく瞼を閉じた。




