不安の兆し
早朝の空気がひんやりと肌に触れる。試験会場へ向かう道中、あゆみは胸の鼓動が少しずつ早くなるのを感じていた。
(ここまで来たんだ……大丈夫、大丈夫。)
自分に言い聞かせるように何度も深呼吸をする。すばるや遥香たちの言葉が頭をよぎる。
「試験って、100点を取る必要なんてないよ。自分のベストを尽くせば、それでいいんだから。」
遥香の言葉を思い出し、あゆみは小さく頷いた。
試験開始の合図が響くと、緊張感が一気に高まる。問題用紙をめくる手が少し震えたが、ペンを握り締めると集中し始めた。
(これは解ける……これも……。)
迷った問題もあったが、以前よりも自信を持って解答できる感覚があった。
試験終了の合図が響くと、あゆみは静かに深呼吸をした。
(手応えはあった……あとは結果を待つだけだね。)
帰り道、少し軽くなった足取りで歩くあゆみの胸には、小さな達成感が広がっていた。
帰宅後、あゆみはスマホを手に取り、ふと実家に報告しようと思い立った。
(やっぱり、お母さんにも伝えたいし……お父さんにはどう報告しようかな。)
軽く息を整え、ダイヤルを押す。数回のコール音の後、母が電話に出た。
「あら、あゆみ。どうしたの?」
「お母さん、今ちょっといい?」
母の柔らかい声に、あゆみは少し安心した。
「実はね、今日1次試験だったんだ。」
「あら、そうだったのね。それで、どうだったの?」
「うん、手応えはあったと思う。」
母の声が少し弾んだ。
「それは良かったわね。本当に頑張ってたものね。お父さんにもちゃんと報告しなさいよ。」
「あ、うん……あとで伝えるつもり。」
少し曖昧に答えながらも、あゆみは母との会話を続けた。
「それより、お母さんの方はどう?元気にしてる?」
あゆみがふと尋ねると、母は少し笑って答えた。
「元気よ。ただ、今日は庭掃除をしてたから、ちょっと疲れちゃって……。」
その言葉に、あゆみは少し違和感を覚えた。
(なんだか、声に力がないような……。)
「大丈夫?無理してない?」
「無理なんてしてないわよ。ただ、張り切りすぎちゃっただけ。」
母は明るく振る舞っているが、その笑い声にどこか無理をしているような響きがあった。
電話を切った後、あゆみの頭の中に姉・香己の言葉が浮かぶ。
「この間話した時、声に力がないって感じたのよね。」
姉の言葉が再び胸に引っかかる。
(気にしすぎだよね……でも……。)
試験の達成感が、母への不安によって少しずつ薄れていく。
その日は、夜になっても母の声と姉の言葉が頭から離れなかった。
(本当に庭掃除だけが原因なのかな……?)
不安を抱えたまま、あゆみはスケジュール帳を広げたが、母の元気のない声が何度も胸を締め付けるように響いていた。




