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それぞれの歩幅

 実家での滞在を終えたあゆみは、姉の香己(かすみ)と一緒に帰ることになった。駅へ向かう車の運転席には父、助手席には母が座り、後部座席では姉妹が並んで座っていた。しかし、その間には微妙な距離感が漂っていた。


「帰り道、寄りたいところとかあるか?」

 父が無表情で尋ねる。その声はどこか硬く、尋ねているというより確認しているような響きだった。


「特にないです。そのまま駅で大丈夫。」

 あゆみが答えると、父は短く「そうか」とだけ返した。


 車内では母と香己の会話が弾んでいた。


「最近、病院は忙しいの?」

 母が助手席から振り返りながら尋ねる。


「忙しいわよ。看護師不足は変わらないし、新人の指導もあるし。でもまあ、それも仕事だから。」

 香己は肩をすくめながら答える。その言葉には疲労感を漂わせつつも、どこか自信に満ちた響きがあった。


「本当に頼もしいわね。香己ちゃんは昔から人に頼られるのが得意だったものね。」

 母が感心したように笑う。


「まぁ、性分だからね。」

 香己も軽く笑い、いつもの軽快さで応じる。


 そのやり取りを聞いていた父がミラー越しに口を挟む。

「お前みたいな人間がもっと増えれば、医療現場も安定するだろうな。」


「お父さん、それ褒め言葉?ありがたく受け取っておくわ。」

 香己が冗談めかして言うと、母もつられて笑った。


 その一方で、後部座席に座るあゆみは窓の外に目を向けながら、その会話をただ聞いていた。


「お前も、香己みたいに仕事で結果を出せればいいんだけどな。」

 突然、父があゆみの方に向けて言葉を投げかけた。


「実習は終わったんだろう?次は教採だ。ふざけている暇なんてないぞ。」


「……わかってる。」

 あゆみは小さく答えるが、父の厳しい視線が刺さるようだった。


「本当にわかってるのか?お前は昔から詰めが甘い。途中で投げ出すことだってあっただろう。今度こそ最後までやり通せるんだろうな?」


 あゆみは言葉に詰まり、視線を落とした。その様子に、香己が口を挟む。


「お父さん、あゆみだって頑張ってるでしょ。そんなに責めることないじゃない。」


「責めているわけじゃない。ただ、結果が全ての世界で生きていくつもりなら、中途半端な覚悟じゃ通用しないんだ。」

 父の言葉はどこまでも真っ直ぐで、容赦がなかった。


 母が「まあまあ、お父さん」と場を和らげようとするが、その空気は変わらない。


(どうして、私ばっかりこんなに言われるんだろう。)


 心の中でそう呟きながら、あゆみはポケットからスマホを取り出し、すばるにメッセージを送る。


「今、父の車で駅に向かってます。」


 少し迷った後に、もう一言付け加える。


「勉強のことで相談したいことがあるんだけど。」


 すぐに返信が来た。


「了解。今日は部活があって少し遅くなるけど、帰ったら聞くよ。そうだ、保育園のお迎えは手配してるけど、子どもたちも喜ぶし、あゆみが行ってくれたら嬉しい。」


 その短いメッセージに、あゆみの胸が少しだけ軽くなる。


「お迎え、任せて!」


 スマホをしまいながら、隣に座る姉をちらりと見ると、彼女は父と何か会話を交わしている。あゆみにはその内容が耳に入らないまま、車は駅へと向かっていた。


 車内の微妙な空気の中、あゆみはただ、早くその場を離れたい気持ちと、すばるに会って安心したい気持ちを抱えていた。

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