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言葉が心を叩く夜

 あゆみは母からの電話を受け、久しぶりに実家へ帰ることにした。姉が帰省しているとのことで、「たまにはみんなでご飯でも行こうか」という母の提案に、最初は気乗りしなかったものの、押し切られる形で了承した。


「どうせまた何か言われるんだろうな……。」

 実家に帰る足取りは重かった。


 実家に着くと、懐かしい香りが漂っていた。居間には母と姉がくつろぎながら話しており、あゆみが顔を出すと姉がすぐに反応した。


「あら、あゆみ。久しぶりじゃないの。なんか、ちょっと痩せた?」

「え?そうかな……。」

「実習で疲れてたんでしょ?お母さんが張り切って予約したから、今日は美味しいものでも食べて元気出しなさいよ。」

 姉の軽口に、あゆみは少し肩の力が抜けた。


 予約した店は、家族でよく行っていた和食屋だった。座敷に通され、久しぶりに4人揃っての食事が始まった。


「れんくんやりおちゃんは元気?」

 母が微笑みながら聞いてきた。

「うん、元気。相変わらずやんちゃだけど。」

「あなたも、少しは遊んであげてるんでしょうね?」

「最近は、前よりは……。」

「ふふ、いいことじゃない。」母は満足そうに笑った。


 食事は穏やかに進んでいき、近況報告や昔話で和やかな時間が流れていた。しかし、父が箸を置き、不機嫌そうに口を開いた。


「で、あの担任とはまだ続いているのか?」


 その一言で、場の空気が凍りついた。あゆみは驚きで一瞬言葉を失ったが、なんとか口を開く。


「……はい、続いています。」

「そうか。」

 父は短く答えただけだったが、その視線には明らかに不満が滲んでいた。


 母が話題を変えようと、「お父さん、せっかくの食事なんだからその話は……。」とたしなめるが、父はそれに構わず続けた。


「教師と生徒の恋愛なんて聞こえはいいが、問題が起きたらどうするつもりだ?お前が教師になれたとして、学校の評判に傷をつけるつもりか?」

「お父さん、それは……。」

 あゆみは反論しようとするが、言葉が詰まる。


「いいじゃない、お父さん。」

 姉が軽く肩をすくめながら口を挟んだ。

「あゆみがうまくやってるならそれで。それに、今は教採の方が大事なんじゃない?恋愛にうつつを抜かして、試験でコケたら困るでしょ?」

 皮肉交じりの言葉だったが、姉の意図は場の空気を和らげることにあった。


「……そうですね。」

 あゆみは小さく頷くが、内心の不安が膨らんでいく。


 食事が終わり、家に帰る途中、あゆみは姉に声をかけられた。

「ちょっと言い過ぎちゃったかもね。」

「あんな言い方、しなくてもいいじゃん。」

「あんたがしっかりしてないからでしょ。」

 姉は少し呆れたようにため息をつく。


帰宅後、姉に部屋に呼び出されたあゆみの足は、ひどく重たいものだった。

「で、実際どうなの?模擬試験の結果とか、そういう成果は?」

「ここにあるけど。」

あゆみはしぶしぶ結果を渡すことになった。

「ねぇ、どうせ無理なら、頑張るのを諦めたら?」

 その言葉にあゆみは怒りを抑えきれず、声を荒げてしまう。

「そんなこと言うなら、最初から何も言わないでよ!」

「違うのよ、あゆみ。何も結婚やその条件の教師になるってことを諦めろって言ってるんじゃないの。頑張るのを諦めろって言ってるの。」

 姉の言葉にあゆみは戸惑う。


「模擬試験の結果、誰が見ても合格は絶望的じゃない。あんたは1人でできるほど頭も良くないでしょ?星宮先生や周りのみんなに教えてもらいながら進めなさい。詰め込んでできるほど、あんたは賢くないわよ。」

 的確な助言に、あゆみは言い返せなくなった。


「……ごめん。」

「あんたが一番頑張ってるのは知ってる。でも、素直になるのも必要だから。」

 姉は小さく笑い、あゆみの肩を叩いた。


 自室に戻り、あゆみは静かに机に向かった。模擬試験の結果を見つめながら、姉の言葉を思い出す。


(頑張るのを諦める、か。星宮先生やみんなに頼るのも悪くないかもしれない……。)


 少しだけ軽くなった気持ちを胸に、あゆみは試験対策の計画を練り直し始めた。

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