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試練の始まり

 教育実習を終えたあゆみは、久しぶりに肩の荷が下りたような気持ちでいた。朝から子どもたちと一緒に過ごした濃密な時間が恋しいような、ほっとするような、なんとも言えない感情を抱えながら、あゆみは実習の報告書を仕上げた。


「これで一区切りだね。」


 提出した報告書を抱えて職員室を後にしながら、ふと心が軽くなった気がした。しかしその一方で、次に待ち受けている試練を思うと、足が重くなるのを感じていた。



「教員採用試験の対策講義を受けようかな。」


 教育実習の最終日から数日後、あゆみは意を決して教採対策の予備校に申し込んだ。試験本番まではまだ数カ月あったが、「今の自分では絶対に受からない」という漠然とした不安が、あゆみを急かしていた。


 初回の講義に参加したあゆみは、周囲の真剣な空気に圧倒された。教室に入ると、既にテキストを広げ、目を走らせている受講生たちの姿が目に入る。


「みんな、すごく準備しているんだな……。」


 講師は開口一番にこう言った。


「教員採用試験は競争率が非常に高いです。特に基礎学力と面接力が問われます。ここでしっかり力をつけてください。」


 その一言に、あゆみは背筋が伸びるのを感じた。


 講義の内容は想像以上に専門的だった。教育法規や心理学、教科指導に関する知識が次々と繰り出され、あゆみのノートは文字で埋まっていく。それでも、授業中は理解できた気がしていた。


 しかし、帰宅してから問題集を開くと、頭に入っていなかったことが次々と明らかになる。


「こんなの、どうやって覚えるの……?」


 鉛筆を持つ手が止まり、問題を一つ解くごとにため息が漏れた。



 数週間後、予備校で模擬試験が行われた。試験会場には、たくさんの受験者が緊張した面持ちで座っている。


「大丈夫、これまで頑張ってきたんだから……。」


 自分に言い聞かせて試験用紙を開いたが、そこに並ぶ問題はあゆみにとって未知の言葉の羅列だった。


「この単語、何だっけ……?」


 焦りはどんどんと募り、残り時間が少なくなるほど手が動かなくなった。


 結果は散々なものだった。模擬試験後の講義で講師から「このままでは厳しいですね」と淡々と告げられ、心が折れそうになった。


 試験後、他の受験者たちが「あと10点で合格圏内だ」「この問題、意外と簡単だったよね」と話している声が聞こえる。あゆみはその輪に入る気力すらなく、ただ一人うなだれていた。



「では、自己PRをどうぞ。」


 面接練習では、あゆみの声が震えた。


「えっと……私は、教育実習で……その、子どもたちと向き合うことの大切さを……学びました……。」


 指導者の表情は険しいままだった。


「説得力がありませんね。それでは、教育現場で信頼される先生にはなれません。」


 その言葉は、あゆみの胸に鋭く突き刺さった。他の受講生が淀みなく模範解答を口にしていく様子を見て、ますます自信を失う。


「どうしてこんなにできないんだろう……。」


 練習が終わった後、同じ練習グループの女性が「初めてだから仕方ないよ」と声をかけてくれたが、その優しさにさえ涙が出そうになった。



 その夜、あゆみは机に向かい、模擬試験の結果用紙を見つめていた。そこに書かれた点数はあまりにも低く、現実を突きつけられるようだった。


「やっぱり、私には無理なのかな……。」


 リビングでは、すばるとれん、りおが賑やかに遊んでいた。その声に背を向けるように、あゆみは頭を抱えた。


「何をやっても、上手くいかない……。」


 気づけば目から涙がこぼれていた。そのままベッドに潜り込み、誰にも顔を見られたくないと思った。

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