未来を描く日
澄んだ朝の光が教室に差し込む中、あゆみは教卓に立って子どもたちを見渡した。この約1か月間の教育実習は、彼女にとって多くの葛藤と学びの連続だった。失敗して落ち込む日もあったが、それ以上に得たものがあったと今では感じている。
「みんな、ちょっとわたしの話を聞いてほしいの。」
あゆみの声に、子どもたちは話をやめて彼女に注目した。その視線を受け止めるたび、あゆみの胸には緊張と愛しさが入り混じる。
「今日は先生がみんなと過ごす最後の日なんだ。」
教室がざわついた。「最後?」と驚いた顔を見せる子どもたちを見て、あゆみの胸は少し苦しくなった。
「この3週間、みんなと一緒にたくさん遊んだり、勉強したり、本当に楽しかった。先生は、みんなからいっぱい学ばせてもらったよ。」
寂しさと感謝が入り混じった言葉に、教室が静まり返る。その沈黙の中、ひとりの女の子が声を上げた。
「先生、いなくなっちゃうの?もっと一緒にいたい……。」
その言葉に、あゆみは微笑みながら頷く。
「ありがとう。でもね、みんなの頑張る姿を、先生はずっと応援しているよ。だから、これからも元気いっぱいでね!」
子どもたちは一斉に声を上げた。
「先生、ありがとう!」
「また遊びに来てね!」
その声に、あゆみの目に涙が浮かびそうになったが、ぐっとこらえて笑顔を返した。
挨拶を終えた後、あゆみは職員室へ向かい、指導担当の中川先生に最終評価を受けることになった。
「如月さん、合格です。おめでとう。」
その言葉に、あゆみの目が大きく見開かれた。
「本当に……いいんですか?」
「もちろんだよ。君は最初はどうなることかと思ったけど、最後には子どもたちとしっかり向き合って、信頼関係を築いたね。それが何より大切なことなんだ。」
中川先生の穏やかな声が、あゆみの胸にじんわりと広がった。
「ありがとうございます……本当にありがとうございます。」
深々と頭を下げたあゆみの心には、達成感と新たな決意が湧き上がっていた。その時、職員室の奥から賑やかな声が聞こえてきた。
「すごいぞ!満点だ!」
「初めてだよな!頑張ったなぁ!」
職員室全体が歓声に包まれている。あゆみは気になり、立ち止まった。
「何かあったんですか?」
中川先生が微笑みながら、小さなテスト用紙を見せてくれた。
「この子、今まで一度も満点を取ったことがなかったんだ。でも、今回の小テストで初めて満点を取ったんだよ。」
赤い丸で囲まれた「100」の数字が目に飛び込んできた瞬間、あゆみの胸が熱くなった。
(教育現場って、こんなにも成長を実感できる場所なんだ……。)
子どもの努力と成果に喜び合う先生たちの姿が、まぶしく見えた。
(次は、正式な先生としてこの職員室に戻ってこよう。)
静かに決意を胸に刻み、あゆみは職員室をあとにした。
帰り道、ふとあゆみはれんとりおのことを思い浮かべた。
(子どもたちって、元気で手がかかるし大変だけど……楽しいな。)
ふと自分の幼少期を思い返す。両親や姉との記憶は、寂しさが多かったように感じる。だからこそ、れんとりおにはもっと楽しい思い出を作ってあげたいと思った。
(もうすぐれんは小学生だ。この実習みたいに、いっぱい遊べるかな。早く大きくならないかな。)
未来への期待が胸に膨らみ、自然と微笑みがこぼれた。
家に帰ると、あゆみはすばるに実習終了の報告をした。
「すばるさん、無事に合格もらえました!」
「おめでとう。よく頑張ったな。」
すばるは優しく微笑みながら、あゆみをねぎらった。
「子どもたちと楽しく過ごせたみたいだね。」
「うん。最初はどうしていいか分からなかったけど、子どもたちがすごく優しくて。私の方がいろいろ教えてもらった気がする。」
あゆみは照れくさそうに笑いながら、テーブルに座り、お菓子の袋を開けた。その時、れんとりおが興味津々に駆け寄ってくる。
「それ、ちょうだい!」
自然とあゆみは手に取ったお菓子を二人に渡した。
「はい、どうぞ。でも取り合いしないでね。」
れんとりおは何事もないかのように受け取り、嬉しそうに笑いながら食べ始めた。その様子を見守るすばるは、胸の奥で何かがじんわりと広がるのを感じた。
(あゆみが自分のものを自然と分け与えるなんて……。)
それは何気ない行動だったが、あゆみが変わり始めている証拠でもあった。
「本当に、よく頑張ったね。」
すばるの言葉に、あゆみは静かに頷き、微笑み返した。




