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新たな挑戦

 大学の教室には、あゆみが選択した新しい履修科目の教科書やノートが散らばっていた。黒板にはびっしりと板書が書かれ、教授の熱のこもった声が教室に響く。


「これが……小学校教諭への第一歩……。」


 あゆみは小さくため息をつきながら、新たに履修した「初等教育論」の教科書達に目を通した。これまでの「高校教育」を前提とした学びとは全く異なる内容に、頭が追いつかず、焦りの色が隠せない。


「今からでも間に合うかな……。」


 そんな不安が胸をよぎるが、あゆみは机に突っ伏したくなる気持ちを必死に抑えた。


 授業が終わり、あゆみは大学のカフェで奈緒とかずきとランチを取っていた。


「どう?新しい履修科目、慣れた?」

 奈緒が興味津々に尋ねる。


「全然慣れないよ!内容が難しいし、課題も多いし……。でも、なんとかやらなきゃって思ってる。」

 あゆみは苦笑いしながら答えた。


「さすが如月。前向きだね。」

 かずきが感心したように頷いた。


「いやいや、全然そんなことないって。本当は頭がパンクしそうだよ。でも……私、どうしても小学校の教師になりたいんだ。」


 その言葉に、奈緒は微笑みながら肩を叩いた。


「大丈夫だって。あんたならやれるよ。それに、子どもたちがあゆみを待ってるんだからさ。」


 その言葉に少しだけ気持ちが軽くなったあゆみは、小さく頷いた。


 リビングからはれんとりおの楽しそうな声が聞こえてきた。積み木を崩す音、そして「もう一回やろう!」と弾むようなりおの声。あゆみが扉を開けると、二人が元気に駆け寄ってきた。


「あゆみちゃん、おかえりー!」


「あ、ただいま。りおちゃん、れんくん。」


 その瞬間、あゆみは一気に力が抜けるような感覚を覚えた。大学の授業に、増えた履修課題。子ども嫌いを克服しようと努力している自分。すべてが重なり、今すぐ布団に倒れ込みたいほど疲れ切っていた。だが、りおの笑顔と、れんの「今日は保育園でね!」と話し始める興奮した声に、自然と肩の力が抜けていく。


 すばるがキッチンから顔を出し、「おかえり。ご飯はすぐできるよ。」と優しく微笑む。その一言に、あゆみの目頭が少し熱くなった。


「……ありがとう。」


 普段はストレスを感じることも多い生活。それでも、この瞬間だけは、すべてが報われる気がする。家族がいる安心感、そして、無邪気な子どもたちの存在が、彼女の心をそっと支えてくれる。


 夕食を囲むと、りおが楽しそうにスプーンを振り回しながら、「あゆみちゃん、今日は遊ぼうね!」と笑顔を向けてくる。


「ごめんね、りおちゃん。今日はお姉ちゃん、ちょっと勉強があって……。」


 りおが「あゆみちゃん、勉強って大変?」と首をかしげる。


「うん、ちょっとね。でも頑張るよ。」と答えると、りおは小さな手を差し出し、「じゃあ、がんばれ!」と笑顔で声をかけた。その無邪気な応援に、あゆみは思わず笑みをこぼしながらその手をそっと握り返した。



 夜、机に向かって勉強を始めたあゆみは、ふと砂場で遊ぶりおの言葉を思い出した。


「壊れたらまた作ろうね!壊れても、また作ればいいんだから!」


 あの言葉が、まるで自分自身へのエールのように感じられる。


「私も……どれだけ疲れても、また立ち上がればいい。」


 そう呟くと、あゆみはそっとペンを握り直した。家族の存在が、彼女をまた一歩前へと進ませてくれる。



 ある日、大学の事務室からメールが届いた。「小学校での教育実習調整結果の通知」という件名に、あゆみは心臓が跳ねる思いだった。


「ついに……決まったのかな……。」



 メールを開く指が震えた。「もし、希望が叶わなかったら……」そんな不安が頭をよぎる。



「小学校での教育実習調整が完了しました。」


 その一文を目にした瞬間、胸に詰まっていた不安が一気に解き放たれた。目にうっすらと涙が浮かぶ。


 すぐにすばるにその結果を報告した。


「小学校での教育実習、決まりました!」


 すばるは穏やかな笑みを浮かべ、あゆみの頭を軽く撫でた。


「それは良かったね。ここからが本番だ。あゆみらしく、一歩ずつ頑張ればいい。」


 その言葉に、あゆみの胸に新たな決意が芽生えた。



 その夜、あゆみは机に向かいながら、新しい教科書を開いていた。


「まだまだ勉強しなきゃいけないことがたくさんあるけど、私……やれる気がする。」


 そっと目を閉じ、これから始まる実習の日々を思い描いた。教師として、そして一人の人間として成長していく自分を信じながら。

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