新たな一歩を探して
休日の午後、あゆみはリビングでれんとりおと一緒に座り、カードゲームに興じていた。れんは勝ち誇ったように笑い、りおは小さな手でカードをめくる仕草に夢中だ。
「またれんの勝ちー!」
「もう一回やろ!」
無邪気な声が響く中、あゆみはどこかぎこちない笑顔を浮かべていた。楽しもうと努めているが、どこか自分に馴染まない違和感が心に残る。
「あゆみちゃん、どうしたの?」
れんの純粋な問いかけに、あゆみは慌てて笑顔を作り直す。
「なんでもないよ。もう一回やろうか!」
それでも、心の中で自問自答を繰り返していた。
(私、高校教師を目指していたけど、それが本当に私に合っているんだろうか。すばるさんに憧れて目指した道だけど、今の私にはしっくりきていない気がする。)
その日の夜、キッチンで片付けをしているすばるに声をかけた。
「すばるさん、私……最近、高校の教師になることに少し迷いを感じてるんです。」
すばるは驚いたように振り返った。
「どうして?」
「私、高校の先生になりたいって思ってたのは、すばるさんみたいになりたかったから。でも……最近、自分が本当に高校生と向き合えるのか、不安で。生徒たちと深く関わるイメージが湧かなくて……。」
すばるは少し考え込み、あゆみの言葉を真剣に受け止めたようだった。
「それで、他に興味のあることは?」
「実は、小学校の教師っていう道もいいのかなって……思い始めてるんです。でも、私、まだ子どもたちとうまく接することができないから……教師なんてできるのかな。」
すばるは静かに頷きながら微笑んだ。
「でも、あゆみは子どもたちのことをよく見ているよ。それに、苦手だと感じるのに向き合おうとしてる。それが大事なんじゃないかな。」
「向き合おうとしてる……?」
「そう。苦手だから避けるんじゃなくて、ちゃんと関わろうとしてるよね。それって、子どもたちにも伝わると思うよ。」
その言葉に、あゆみの心は少し軽くなった。
翌日、大学のキャンパス内のカフェで奈緒とかずきと向かい合ったあゆみは、自分の思いを打ち明けた。
「実は、最近小学校の教師になりたいって思うようになったの。」
かずきは頷きながら聞き、奈緒は目を輝かせて微笑んだ。
「あゆみらしいかもね。」
「でも、正直迷ってるの。私、子どもが苦手だし、ちゃんとやれるのかなって……。」
あゆみが苦笑しながら言うと、奈緒は少し真剣な表情で口を開いた。
「それでも、一生懸命向き合おうとしてることが大事なんじゃないかな。子どもって、大人の本気をちゃんと感じ取るからさ。」
「あ……そういうものかな。」
あゆみは半信半疑ながらも、奈緒の言葉に少し安心感を覚えた。
「うん。それにね、私も昔は子どもってただ自由に動き回る存在だと思ってた。でも、高校時代にイギリスの姉妹校に行った時にね、ちょっと考え方が変わったんだ。」
「イギリス!?奈緒、そんな経験があったんだ。」あゆみが驚きの声を上げる。
「うん。そこの学校、自由教育を取り入れてたんだよ。最初は『こんなんで本当に教育になるの?』って思ってたけど……。」
奈緒は少し微笑んで続けた。
「授業に出るかどうかも、子どもたち自身が決めるの。でもね、先生たちはただ放任するんじゃなくて、子どもたちの好奇心を引き出す工夫をしてたんだ。結果的に、ほとんどの子が自分から授業を選んでた。」
「そんな学校があるんだ……。」あゆみは感心したように呟いた。
「そう。子どもたちを信じてあげることの大切さを学んだの。信じてあげると、彼らは自分で考えて動き出す力を持ってるんだって。」
「なんだか不思議だね。私もそんな風に子どもたちと向き合えるようになれるかな……。」
奈緒の話を聞きながら、あゆみの胸に小さな火が灯った。それは、これまでの不安を少しずつ溶かし、彼女を新たな道へと後押しする温かな感情だった。
(私も、そんな風に子どもたちの可能性を引き出せる教師になりたいかも……。)
かずきが腕を組みながら笑った。
「お前ならやれるさ。意外と根性あるしな。」
奈緒も続けて微笑んだ。
「子どもたちのこと、信じてみるのもいいんじゃない?」
その夜、あゆみは子どもたちが眠った後、静かなリビングでノートを開いた。小学校教師という新たな目標が少しずつ具体的な形になってきた。
ふと、寝室から聞こえるれんとりおの寝息が彼女の耳に届く。心の中に小さな安心感が広がり、あゆみはそっと微笑んだ。
「私も、この子たちみたいに素直に未来を信じてみよう。」
その日、あゆみは新たな一歩を踏み出す決意を固めた。




