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注がれる思い

 昼過ぎの病院。待合室で順番を待ちながら、あゆみは少し疲れた顔をしていた。過労やストレスがたたったのか、ここ数日体調が優れない。すばるも子どもたちも日中はそれぞれ忙しく、誰にも頼れない中で一人病院を訪れていた。


 診察を受けた結果、医師から「点滴を打ちましょう」と告げられ、あゆみは淡々と案内された点滴室の椅子に腰を下ろした。


「では、少々お待ちくださいね。すぐに看護師が参りますから。」


 受付スタッフが立ち去り、あゆみはひとりぼんやりと壁を見つめていた。


「体調管理くらいちゃんとしなきゃなぁ……」


 そんな独り言がこぼれた時、不意に聞き覚えのある声が耳に届いた。


「あれ?あゆみ?」


 驚いて顔を上げると、そこには姉が立っていた。


「お姉ちゃん……?どうしてここに?」


「あんたが通ってる病院、私が勤めてる病院だって知らなかったの?まあいいけど。それより、あんた、どうしてこんなところに?」


 姉は点滴の準備をしながら、少し呆れたようにため息をついた。


「えっと……ちょっと疲れがたまってたみたいで……」


「ちょっとどころじゃないでしょ。この顔色見て。倒れるまで頑張るのがあんたの美徳だって思ってるの?」


 姉の鋭い言葉に、あゆみは苦笑いを浮かべるしかなかった。


 点滴の準備が整い、針を刺して薬液が静かに流れ始めると、姉は隣の椅子に腰掛けた。無言の時間が数分続いた後、姉が口を開いた。


「それにしても、あんたがここに来るなんてね。で、最近どうなの?」


 あゆみはしばらく迷ったが、結局すべてを話すことにした。父に認めてもらうための努力、試験勉強の苦労、そして無意識に吐き出してしまった子どもたちへの言葉。


「もう、どうしたらいいかわからなくて……」


 そう言いながら、あゆみの目から涙がこぼれ落ちた。姉は少し驚いたように彼女を見つめたが、すぐにため息をついて微笑んだ。


「まあ、頑張ることに重きを置いてるあんたらしいわね。でも、ちょっと聞いてよ。」


「……なに?」


「お父さんの条件って、試験合格でしょ?それって結局、あんたがやりたかった教師になることじゃない?結婚認めさせてやるー!って意気込むよりも、目先の目標を意識してほしかったんじゃないの?」


「え……」


「それに、言ったでしょ?現実を見ろって。教師になるんでしょ?じゃあ結婚なんてあやふやな目標の前に、昔から確固たる目標として持っていた教師をまずは目指しなさい。」


 姉の真剣な助言に、あゆみは息を飲んだ。


「まあ、あのお父さんのことだから、非常識だ!!!って一蹴しただけで、何も考えてなかった可能性も高いけどね。」


 その言葉に、あゆみは思わず笑ってしまった。


「お姉ちゃん、それってフォローになってるの?」


「つもりではいるわよ。少なくともあんたに、もっとシンプルに考えてほしいってこと。結婚だとか家族だとか、大きなものを抱え込むのはいいけど、まずは自分のやりたいことに集中しなさいってことよ。」

 姉の言葉には、どこか優しさが滲んでいた。


 姉が話を続ける中、あゆみは点滴を受けながらぼんやりと姉の横顔を見つめた。冷静で的確な言葉。厳しいけれど、その中に確かな優しさがある。


「……やっぱり、お姉ちゃんって優秀だよね。」

 ぽつりと呟いた言葉に、姉が少し驚いたように振り返る。


「どうしたの?急に褒めたりして。」

 姉は苦笑いを浮かべるが、その表情はどこか柔らかい。


「いや……ただ、こうやってちゃんと私の話を聞いてくれて、叱るだけじゃなくて、ちゃんと支えてくれるから……本当に頼りになるなって思っただけ。」


 あゆみの正直な言葉に、姉は一瞬言葉を失い、そして照れくさそうに視線を逸らした。


「ふふ、私だって完璧じゃないけどね。でも、あんたが困ってるなら手を貸すのが姉の役目でしょ。」


 点滴が終わり、針を抜き終わったあゆみに、姉は最後にこんな言葉をかけた。


「とりあえず、無理しないこと。それが第一。あと、星宮先生ってかっこよくてかわいいし、個人的には家族になるのは全然アリだと思うけどね。」


「お姉ちゃん、そんなこと言わないでよ……!」


 照れくさそうに返すあゆみの顔には、少し笑顔が戻っていた。


 病院を出た帰り道、あゆみはふと空を見上げた。少し軽くなった心で、次に進むための力を感じていた。


「もう少し、頑張ってみようかな……」

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