重なるページ、繋がる想い
その日から、あゆみは本格的に教員採用試験の勉強を始めた。
机に向かい、何冊もの参考書を開きながら、教育理論や専門科目に目を通す。だが、その集中力は続かず、ふと時計を見ると時間ばかりが過ぎていた。
「……なんでこんなに頭に入らないんだろう。」
テーブルに伏せると、子どもたちの笑い声がリビングから聞こえてきた。あゆみは一度顔を上げ、ため息をつく。
顔を上げると、すばると子どもたちが楽しそうに遊ぶ姿が目に入った。
「あゆみちゃんも一緒にやろ!」
無邪気な声に、あゆみは微笑みながらも首を振った。
「ごめんね、今は勉強しないといけないんだ。」
「がんばってね!」
子どもたちの純粋な声に、あゆみの心が少しだけ軽くなった。支えられている――その感覚が、彼女の中に小さな灯をともした。
数日後、大学の空き教室でかずきと奈緒があゆみを囲み、即席の勉強会が開かれていた。
「ここ、理解できてないんだろ? じゃあ俺が解説するから、ちょっと集中して聞いてみろ。」
かずきが教育理論の難解な部分をホワイトボードに書きながら説明している。
「なんでかずきってこんなに詳しいの?」
奈緒が呆れたように言うと、かずきは少し得意げに笑う。
「俺も昔、ちょっと教師になりたかったからな。」
あゆみはその言葉を聞いて、少し驚いた表情を見せた。
「だから如月が頑張ってるの、応援したいんだよ。」
かずきのその一言に、あゆみは小さく微笑んだ。
「ありがとう。ほんとに助かってる。」
「任せとけ。これが友達の役目ってやつだ。」
奈緒も続けて口を開く。
「疲れたときは甘いものが一番! あゆみ、休憩しよ。はい、これ。」
「あ、そういえば奈緒、インターンはどうなったの?」
奈緒が少し目を輝かせながら答える。
「うん、決まったよ。海外の教育機関でインターンすることになったの! 教育心理学を現場で学びたくてさ。」
「すごいな、それ。」かずきが感心して頷く。「俺も来年から地元の企業に就職するつもり。教育分野とは違うけど、人と関わる仕事だから楽しみだよ。」
「あんたたち、すごいね……。」あゆみは2人の進路を聞いて、少し驚きながらも励まされる気持ちになった。
奈緒が手渡したチョコレートを見て、あゆみは少しだけ涙ぐみそうになる。周りのサポートが、彼女にとってどれほど大きな支えになっているかを実感した瞬間だった。
その夜、あゆみはリビングで勉強を続けていた。隣にはすばるが座り、手元にはあゆみが苦戦している教育理論のテキストが広がっている。
「この部分、ちょっとわからなくて……。」
あゆみが教材の一文を指差すと、すばるは優しく微笑んだ。
「これは子どもの主体性と教師の役割の関係だね。具体的な例を挙げて考えると覚えやすいよ。」
「具体例か……うーん、たとえば?」
「たとえば、授業中に発言する子どもが少ない場合、教師はどう支援するべきか、とか。」
あゆみは頷きながらノートにメモを取る。「なるほど……少しずつ掴めてきた気がする。」
「焦らなくても大丈夫。ゆっくり理解していけばいいからね。」
すばるの穏やかな声と丁寧な説明に、あゆみの表情は少しずつほぐれていく。
「すばるさんと一緒だと、なんだか安心する。」
「僕も、一緒にこうして勉強できるのが嬉しいよ。」
夜の静けさの中、2人の勉強は続いた。子どもたちの寝息が遠くから聞こえ、あゆみの中に少しずつ確かな自信が芽生え始めていた。
「もう少しで今日のノルマ終わる……。」
そこへ、すばるが温かいお茶を持ってきて、あゆみの隣に座る。
「無理しなくていいんだよ。」
「ううん、大丈夫。私、試験に絶対合格したいから。」
「それでも、しんどいときはちゃんと休むんだよ。君には、支えてくれる人がいるんだから。」
その言葉に、あゆみは静かに頷いた。隣の部屋から聞こえる子どもたちの寝息が、彼女の心にそっと寄り添うように響いていた。
「……うん、ありがとう。」
勉強机に向かい直し、あゆみは再びペンを握った。
彼女の中に、小さな光がともっていた。それは、支えてくれる仲間や家族がいるからこそ頑張れる――そんな確かな自信の光だった。




